SNSコラム

緒方恵が、Minimalを選んだ理由。「人生一度くらい、世界一を目指してみたい」#ザ・プロフェッショナル

2021年10月15日
ザ・プロフェッショナル | 食品業界向け

最終更新日:2022年9月20日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルとホットリンクCMO・いいたかが、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」

今回のゲストは、チョコレートブランド「Minimal - Bean to Bar Chocolate - 」を運営する株式会社βace取締役COOの緒方 恵さんです。

2021年7月に中川政七商店を電撃的に退職され、株式会社βaceへの移籍を決めた緒方さん。その経緯については、こちらの記事で詳しく紹介いたしました。

緒方さんによると、中川政七商店を退職した理由とβaceに加入した理由は「全く別のもの」ということです。よって、この記事も「前後編の後編ではなく」別の記事としてお出しします。

今回は、βaceにジョインした経緯や代表取締役の山下さんとの出会い、そして新天地での仕事について伺いました。(執筆:サトートモロー 撮影:保田太陽 編集:澤山モッツァレラ 撮影地:Minimal富ヶ谷本店)

緒方 恵(おがた・けい、写真左):株式会社βace 取締役COO。2016年8月、中川政七商店の執行役員CDOとして入社し、DXを推進。18年3月には取締役に就任し、販売・コミュニケーション・システム部門を統括。21年7月に取締役CDOを退任し、パートタイムオフィサー(PTO)に就任するとともにMinimal -Bean to Bar Chocolate-を運営する株式会社βaceの取締役に就任した。Twitter

社員が仕えるべきは、ビジョン。

いいたか:
緒方さんはMinimalのCOOとして、どんな業務領域を担当しているんですか?

緒方:
Minimalでは、山下貴嗣と湊谷航介と私の3人が取締役を務めています。役割分担としては山下が調達・製造開発、湊谷がバックオフィスを担当します。私が担当するのは、コミュニケーションです。販売チャネルの店舗・EC、広報PRなどですね。

DXも、私の守備範囲です。データ・物流・システム部分は湊谷と一緒に取り組みながら、サプライチェーン〜オペレーション全体を改革・改善していきます。コミュニケーション側の投げかけから新たな商品開発も始まっていますし、バックオフィスも丸投げではなく話し合いながら改善しています。

組織サイズの特性上、基本的に3人は「明確な垣根を設けず、なんでもやる」というスタンスですが、大枠としては先ほど申し上げた分担です。「作る・伝える・支える」を、3人で割り振っているイメージですね。この構造は、中川政七商店と似ているかもしれません。

いいたか:
「作る・伝える・支える」っていい言葉だなあ。僕も使っていこうと思います(笑)。

緒方:
ありがとうございます。これは、2018年に中川政七商店の組織図を見直した時に標榜したキーワードなんです。

いいたか:
今は組織の規模もあって、特定の分野だけでなく「なんでもやる」状態なんですね。その中でも、特に注力したい領域はありますか?

緒方:
足元はDXですね。コロナ禍以降、Minimalでは4店舗のうち2店舗を閉鎖し、デジタルシフトを図っています。

Minimalはこれまで、良いものを作ることに集中してきました。ここで言うDXには「非連続なグロース」「意識改革」も含まれるので、当然ながら今まで通りでよい部分とそうでない部分が生まれます。

仕組みだけでなく、社内の意識も含めた改革が必要です。「店舗でお客様と直に接して売る」主体から、デジタルMIXに変わる局面での意識変革ですね。

澤山:
ツールを導入したら終わり、とはならないですものね。

緒方:
注力していることは三つあります。一つ目はECの売上向上、二つ目は生産性の向上、そして三つ目がビジョン・ミッションの再策定です。

一つ目(ECの売上向上)と二つ目(生産性の向上)に関しては、気合と根性の歯車効率を上げるために仕組みを変えたりチューニングするイメージです。同じペダルのひと踏みでも、今までより早く遠くへ行けるようにすること。デジタルシフトそのもの。

Minimalはものづくりブランドのスタートアップなので、「価値を練り上げる×それを伝える」ことにリソースの100パーセントを割り振りたい。でも、そこにはどうしてもあまたの間接業務・作業が生まれます。これらを、可能な限り抑制することが重要です。

澤山:
仕組みの提供だけでなく、無駄を削る・意識を変えるのも大事になるということなんですね。

緒方:
三つ目(ビジョン・ミッションの再策定)に関して。これは先ほどの「意識を変える」にも繋がり、かつ中長期の取り組みになります。

非連続的なグロースのためには、足元で取り組んでいる効率向上と作業減だけでは難しい。パーセプションの見直し=アップデートが必要だと感じています。Minimalが社会にできる貢献、顧客に提供できる価値、そしてそれらをどう伝えるのか。これらを、改めて議論しています。

従来の体制では、すべての意思決定が山下を中心とした役員陣に委ねられる状態でした。しかし、彼らと私が使える時間には限界があります。このままでは、私たちがボトルネックになるリスクがある。

私は、「社員が仕えるべきは、経営層や上司でなくビジョンであるべき」と強く思っています。意思決定や判断基準は、ビジョンに持たせたい。それがボトルネックの解消にもなるはずです。

ECの売上向上と生産性の向上という直近の課題、ブランドの最上位概念を作り直すという長期的な課題。いずれも、非常に重要だと思っています。

中川政七商店は、ビジョン経営が機能している会社でした。私はその重要性を、ある意味誰よりも骨身にしみて理解している人間だと思います。逆に言えば、いいビジョンを作って浸透し機能したら、あとはYouTubeでも見ていればいいとすら思ってます(笑)。

大事なことを見失わず、スピードは音速に。

いいたか:
伺っていると、「大人のスタートアップ」という印象を受けますね。

僕も、スタートアップ界隈寄りの人間としてずっと生きてきました。ただ20代半ば~後半ぐらいは、行動方針の主軸が「気合と根性」だったんですよね。仕組みづくりが大事という風潮は当時もありましたが、若いから多少の無理は利いてしまった。

緒方さんたちが目指す姿は、そうしたスタートアップとは違いますね。多くの企業が「とりあえずビジョンを作って、また走る」というやり方になりがちですが、Minimalさんは「大切なことだからこそ、ちゃんと整備しよう」という感覚が強いのかなと思いました。

緒方:
そうですね。大事なことは見失わず、スピードは音速にする。この両立は、スタートアップにおいてとても大事だと思います。

いいたか:
緒方さんが急に新しい役員として加入したことで、社内にハレーションは起きなかったですか?

緒方:
戸惑っている人はいると思いますが、現時点でハレーションというほどのものは起きてないかなと思います。

ある意味、中川政七商店に入ったときも同じでした。社内で目標が定まり「自分たちの課題はここ」が明確化され、私は「その課題を何とかしてくれる人、らしい」という共有がなされていれば。あとは、私自身がわかりやすいパフォーマンスを出すのみです。

いいたか:
山下さん自身、仕組みを作って論理的思考でビジネスを展開する方ですよね。緒方さんとは考え方も噛み合いそうですね。

緒方:
そうですね。山下はそもそも友人なので、メチャクチャやりやすいです。毎日なにかしら議論が衝突してますが(笑)。それが楽しいですし、それこそがMinimalに入った大きな理由の1つです。

これは「仕えるべきはビジョン」の周知の下地作りとしてもいいことかなと。 

Minimalのブランド価値を練り上げたのは、紛れもなく山下が中心となった創業者メンバーです。それ自体は、もちろん素晴らしい。ただ、それによって彼は不必要に神格化されやすいとも思います。彼は類を見ないほど良いキャラクターで、社員からも気軽に話しかけられてますし、あまり心配はないと思いますが。

私が友達としてグダグダ絡むことや、役員として真正面からぶつかることで「山下の人間化」、もう少し言うと「上下のレイヤーを気にしないで。あなたの上司はビジョンだよ」ということが文化として進むといいなと。そのためにも、早くビジョンを再策定しなければと焦ってもいます。

「自分はもっと、挑戦しなくていいのか?」

いいたか:
山下さんとは、いつ知り合って関係を築いていったんですか? 

緒方:
出会いは「2017年グッドデザイン賞」の授賞式でしたね。

私が中川政七商店の新規事業で、彼がMinimalで、それぞれものづくり部門の特別賞を受賞しまして。授賞式で偶然、隣同士の席になったんです。私は豪華な場所と空気が苦手で、借りてきた猫のようになってました。隣を見ると山下も同じ様子で(笑)、共感を覚えて話しかけました。

工芸雑貨とチョコレート、商材としては全く別のジャンル。ですが、話してみるとお互いにやろうとしていることは同じ「クラフトマンシップの価値向上と、グロースアップ」だったんです。

お互いの持ってる課題に、すごく共感しあえて。そのまま話が盛り上がって、定期的に情報交換する仲になりました。彼が中川政七商店に遊びに来たり、飲みに行ったり、一緒に奈良旅行したこともあります。山下は話し出すと止まらない性格ですし、私は聞いているのが楽しい。そういう部分もウマが合いましたね。

いいたか:
確かに、山下さんを取材した記事は過去一番長くなりました(笑)。すごくパワフルで、「これも喋っていいですか? あれはどうですか?」って。結果、記事を前後編に分けて出すことになったんですよね(前編後編)。

中川政七商店を離れた経緯については伺いましたが、新天地をMinimalさんに決めた理由はどのあたりだったんですか?

緒方:
改めてお伝えすると、両者はまったく別の話です。中川政七商店を離れるのと、Minimalに加入するのは別の理由と動機。

元々、山下と出会って以降何回か、入社についてお声がけはしてもらっていたんです。ただ私は当時、中川政七商店を離れるつもりは一切なかったので、申し訳ないのですがお断りしてました。とはいえ大事な友人でもあるので、山下や当時のCMOから定期的に相談を受けたり、人材紹介などはしていました。

その後、とあるキッカケがあって一転「入りたい」って山下に伝えたんです。「一度、面接してよ」って(笑)。

いいたか:
とあるキッカケというのは、なんだったんですか?

緒方:
中川政七商店を離れることを決めて、申し出てからしばらく経ったある日、山下とご飯を食べる機会があったんです。その時、彼がふと「Minimalを世界一のブランドにしたいんだよね」って漏らしたんです。

人生の中で、世界一を純粋に目指している・目指せている人ってほとんどいないと思っています。親友と呼べるほど身近な存在の山下が、純粋な目をして世界一を目指すと言っている。それを聞いた時に、「自分は人生の中で、一度も世界一に挑戦しなくていいのか?」と思ったんです。

成功するかどうかは当然わかりませんが、私も世界一を目指す世界線にいたい、その過程に身を置きたい、と。何をもって世界一とするかはまだ定義できてませんが(笑)、これが最大の理由で、入社を決めたキッカケです。

緒方:
はたから見ても、Minimalには世界を狙える素地が十分にあると思います。素晴らしい素材があり、素晴らしい技術を持った職人がおり、確固たるブランドもでき始めている。

実は、私はもともとは間食は一切しない人間なんです(笑)。チョコやスイーツについては、ほとんど何も知らなかった。それでも入りたいと思ったのは、山下を通じてMinimalを知り、Minimalのチョコレートを体験し、良いチョコレートがある暮らしの素敵さを心から満喫できているから。

Minimalのチョコレートがあると、自分でコントロール可能な「幸せになる」スイッチが人生に加わり、QOLがとても上がっています。これが理由のふたつめですね。

Minimalも山下も、ミケランジェロみたいだった。

緒方:
Minimal及び山下についての第一印象は、「ミケランジェロみたいだ」ってことです。

澤山:
ミケランジェロ!

緒方:
創作活動以外には、何も頓着がない人物だったようなんですね。食事にまるで無関心、着の身着のまま、靴を履いたまま眠り込むことすらあった。

ものづくりに対して狂気のようなこだわりがある半面、他の部分には気を回さない。ミケランジェロは一人で素晴らしく価値の高いものをたくさん生み出しましたが、彼の作品を広めてくれる人やパトロンもまた必要です。

Minimalにも、そういう部分がありました。クラフトマンシップ・ものづくりはとても高いレベルにいるけれど、それをグロースさせる部分、伝える部分については課題がある。

僕に求められているのは、Minimalがピカピカに磨き上げた「1」を「10」や「100」にグロースさせること。そのためにはなんでもやる。デジタルシフトは重要ですが、手段の一つでしかありません。新サービスの仕込みも、すでにいくつか行なっています。

ビジョンなどの最上位概念を筋よく再策定できたら、Minimalというブランドの価値の抽象度はもっと上がるかもしれません。Minimalにおけるチョコレートは、おいしいという事のみならず、農家の貧困を救う、職人の給与・就労環境を改善する、サステナブルなものづくり……などなど、現時点でも多くの文脈を保持しています。

緒方:
他方、チョコレートの価値についての抽象度を上げれば、僕らはチョコレートを通じて「幸せを提供している」とも考えられると思います。

チョコレートの生み出すシンプルな便益は、「口いっぱいに甘さが広がる」「ホッとする」といったものです。しかしフォーカスポイントを「幸せの提供」とするなら、もしかしたら私たちはチョコレートに囚われなくてもいいかもしれない。こうした切り口を集めて、皆で改めて議論しています。

こういう時間が、何よりの報酬なんです。

澤山:
そもそもMinimalさんが創業したきっかけも、カカオに対する新鮮な体験にあったそうですね。

緒方:
そうです。カカオは採れる場所、作り手によって味がまったく変わります。カカオの魅力をどう伝えるか、Minimalはそこに強烈な関心を持って、技術を磨き続けてきました。よってものづくりに関する情報量は大量にあり、コミュニケーションにも乗っています。

一方、それ以外の情報や提案があまりできていない。ではどこまでやるのが今後のブランドのために良いのか? 各論から入ると、ブランドマネジメント観点から逸脱することもままあります。これをいいキッカケと捉え、もう一度最上位から思考し直しています。

抽象度を上げて、チョコレートという概念からすら離れた視点でも議論をする。その過程そのものにも、意味があります。「自分たちは何者か」「何を、どうしたいのか」を最上位概念から問い直すわけですね。

社外取締役の山口義宏さんをファシリテーターに、全員で好き勝手にしゃべる場もあります。現時点ではまだまだまとまってなくて、議論が何周もして、カオスなままその日の議論が終わることも多々あります(笑)。

入社2日目ぐらいにも、山下と「ブランドとは」について延々5時間議論しました。お互い噛み合わず、一歩も譲らないまま帰宅しましたが(笑)。こういうことを100回繰り返すうちに、何かが見えてくるんじゃないかと思います。

僕の働くモチベーションは、「誰軸」です。こういう時間が、何よりの報酬なんです。議論中はイラッと来ることもありますが(笑)。結果として、Minimalを通じて世の中に貢献したいです。

いいたか:
抽象度を上げる話は、本当に重要ですね。D2Cはたくさん出てきていますが、「一つのことに囚われすぎているのでは」と感じることもあって。

チョコレートを提供するのではなく「幸せを提供している」と考えた瞬間、スタートはカカオであっても、違うものでも人を幸せにできるかもしれない。もしかしたら、プロダクトの形も大きく変化するかも。

グロースを考える上で、こうした議論はすごく大事ですよね。こだわりすぎると、「ここでしか戦えない」になりがち。視点をずらすだけで、マーケットは大きく変えられると改めて認識しました。

緒方:
ブランドの抽象度の高さとクリエイティブの画角って、連動していることが多いんです。

例えばチョコレートブランドが写真を撮るとき、画角はほぼ決まっています。チョコレートが並んでいるテーブルの上です。でも抽象度を高めれば、チョコにフォーカスせず引いた画角も考えられます。

テーブルの上で食べているシーン、ソファで夫婦が腰掛けているシーン、誰かと談笑しているシーン。抽象度を高めれば、チョコと絡めた生活の提案ができる。もっと画角を引けば、地球環境まで話を広げられるかも。

もちろん、いったん画角を引いた上でグッとフォーカスを戻すのもあり。最上位概念が定まれば、必然的に「画角をどこまで引くか」は決まりますが、これはなかなか時間がかかるもの。ですから、私の仕事はその議論に決着をつけるということと並行して、「いったん画角を引くこと」及び「そこから見えた課題を議論に戻し、より骨太なものにすること」もひとつだと思っています。

 

Minimal - Bean to Bar Chocolate -からの大事なお知らせ 
Minimalの新しいサブスクリプション・サービスが今日10月15日から始まります!
その名も「CHOCOLATE ADDICT CLUB」です。詳細はこちら

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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