SNSコラム

内房を「千葉の西海岸」にしよう。DE牧野圭太&磯村芳子が挑むローカルプロジェクト

2024年02月15日
SNSコラム | ザ・プロフェッショナル

最終更新日:2024年2月15日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルと、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。モデレーターは、ホットリンクの編集者澤山モッツァレラです。

株式会社DE(ディーイー)共同代表の牧野圭太さん。そして、同社プランナー兼プロジェクトマネージャーの磯村芳子さんです。

2023年11月、牧野さんは渋谷区「富山臨海学園」を再生するプロジェクト発足に合わせ、クラウドファンディングを実施。2024年1月31日時点で430人の支援者により、目標額を大きく上回る約1,056万円の支援が集まりました。

千葉内房・渋谷「富山臨海学園」を再生、都市と地域の循環を生む新たな「臨海公園」へ - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

渋谷を拠点に活動し続けてきた牧野さんは2023年7月、南房総市に「南房企画株式会社」を設立。同社副代表の磯村さんと、千葉の「内房地域」に眠る、知られざる魅力を伝えようと尽力しています。

なぜ牧野さんは、広告業界から新しい挑戦に乗り出したのか。長年抱いていた地元・千葉への想いや今後の目標を、現在進行形で再生が進む富山臨海学園でお聞きしました。

(執筆:サトートモロー 写真:市村円香 編集:澤山モッツァレラ

本拠地・渋谷と故郷・千葉の2つがつながる仕事に出会った

澤山:「富山臨海学園」の再生プロジェクトを始めようと思ったきっかけを教えてください。

牧野:僕は博報堂で6年間働き、7年間渋谷で会社を経営してきました。東京のど真ん中で活動する一方で、「故郷の千葉で仕事をしたい」という想いがずっとあったんです

 2021年、知り合いの経営者の方が「千葉でのプロジェクトに興味がある人いませんか?」とSNSに投稿しました。プロジェクトの内容は、NHKの保養所を取得・再生しようというものです。

 面白そうだと思い、実際に現地へ見に行くことにしました。そして、保養所の目の前にある渋谷区立富山臨海学園を見つけたんです。この学園は、渋谷区の子どもたちの臨海学校先としてにぎわっていましたが、2018年から廃校状態でした。僕はこの学園に、とてつもないポテンシャルがあると感じたんです。

澤山:別のプロジェクトがきっかけで、たまたま発見したのがこの場所だったのですね。牧野さんは、富山臨海学園のどこにポテンシャルを感じたのですか?

牧野:まずは、都心から車で80分ほどの距離にあること。建物自体は築数十年経過していますが、作りはとてもしっかりしていて、2018年の調査で耐震も問題ありません。学校という場の空気を活かしつつ再生させれば、富山臨海学園はまた息を吹き返すと思いました。

 それと、富山臨海学園の目の前に広がる岩井海岸にも、まだまだ発展の余地が残されていると思ったんです。今回の再生プロジェクトは、学校の再生事業でありながら、海岸をいかに活用し発展できるかというプロジェクトでもあります。

 岩井海岸は海水浴のメッカであり、7月後半〜8月は多くの人が訪れます。1カ月半の間、海の家などができて活気づくわけですが、それ以外の11カ月間、海岸はほとんど使われておらず閑散としています。

 海岸というのは、泳がなくてもただ見に来るだけで癒やされるものです。そういう魅力を考慮するなら、俗に言う「オフシーズン」の海岸にも活用の余地があるなと。

 海岸と連携した施設の再生というテーマを思いついたとき、「富山臨海学園は生まれ変われる可能性がある場所ではないか」と感じました。そこから、DE/南房企画が富山臨海学園の貸付け業者として選ばれ、プロジェクトをスタートさせたんです。

澤山:渋谷と千葉という、牧野さんにとって縁の深い地域の両方と関われる事業だったということですか。

牧野:これはもう、僕がやるしかない!と思いました。

澤山:磯村さんはなぜ、再生プロジェクトに参画しようと思ったのですか?

磯村:私自身は仙台出身なのですが、牧野と同様に地域を盛り上げたいという想いがありました。……とは言いつつ、参画した理由は「楽しそうだったから」です(笑)。普通に会社勤めをしていたら、こんな経験はできない!と思いました。

牧野:磯村はもともと農大出身で、自然と触れ合うのも好きなんです。とはいえ、DEはデザインや企画が中心の会社で、基本はデスクワーク。南房企画の今の仕事は、学園の草刈など真逆の仕事ばかりです。磯村のようなメンバーがいることが割と奇跡だと思います(笑)。そばに味方が1人いるという状況は、すごくありがたかったです。

自然の癒やし・冒険教育は大人にこそ必要だ

澤山:そもそも、富山臨海学園はなぜ廃校同然となってしまったのでしょうか?

磯村:富山臨海学園には、渋谷のコンクリートに囲まれて育った子どもたちが2泊3日で宿泊して、海に触れるような場所だったと聞いています。このように、自然の脅威に触れて危険性を学んだり、チャレンジ精神を養ったりする活動を「冒険教育」と言うそうです。

 しかし、臨海学校や林間学校の文化自体の衰退や少子化の加速などが重なって、2018年度を最後に使用されなくなってしまいました。

澤山:特定の原因があったわけではないのですね。

磯村:ちなみに、臨海学校(林間学校)というのは、見た目はすごく学校と似ていますが、学校としては登録されていません。体育館や食堂は「研修施設」、教室などの場所は「宿泊棟」として登録されています。

 現在、私たち以外にも多くの人々が、廃校の再生事業に取り組んでいます。そこで大きな壁となるのが、学校からの用地変更の難しさなんです

 その点、富山臨海学園は用地変更がほぼ不要で、この点は、再生事業でものすごくプラスに働いていると思います。

澤山:事務手続きの面で、大きなメリットがあったのですね。再生事業では、従来のように子どもたちが使ってくれる場所をつくり直す一方で、大人をどう呼び込むのかも重要だと思います。「富山臨海学園に大人が来る理由」を、牧野さんはどのように作ろうと考えていますか?

牧野:僕はむしろ、「今の大人にこそ自然や冒険教育が必要」だと考えています。僕も渋谷で働いているのでよく分かるんですが、渋谷にはたくさん面白いものがあるけれど、自然と触れ合う機会がありません。

 ずっとコンクリートジャングルにいると、殺伐とした閉塞感に飲み込まれてしまうのではないか。たまには普段の居場所を離れて、海を感じて過ごすことが、ウェルビーイングにつながるのではないか。そう感じる人が、最近増えてきている気がします。

 富山臨海学園で、ターゲットとしているのは実は大人なんです。再生事業では、釣りやSUP(スタンドアップパドルボード)など、マリンアクティビティが体験できる環境を整備します。宿泊施設もあるけれど、夜ご飯は自分やチームが釣った魚だけを食べられるといった、エンターテイメントを交えて学びを深めてもいいですよね。

 富山臨海学園は、海の近くで働いたりゆっくりしたりできる癒やしと、海や自然を学ぶ両方の要素がある場所にしたいです。大人が大きな価値を感じてくれることで、子どもも来てくれると思っています。

再生プロジェクトは自分にとっての第二創業

澤山:今回の再生プロジェクトは、牧野さんにとって今までとまったく異なる領域への挑戦だと思います。これまでの広告やクリエイティブ制作と、どのように違いを感じていますか?

牧野:いろいろありますが、一番大きなポイントは「クライアントがいない」ということです。再生プロジェクトは、渋谷区から委託を受けているわけではありません。自分たちの創造性を最大限発揮できる環境である一方、投資や事業展開はすべて自己責任で取り組みます。

澤山:ある意味、際限なく事業を構築できるのですね。

牧野:そうですね。富山臨海学園の再生プロジェクトでは、ホテル、レストラン、ファクトリー、マリンアクティビティという4つの事業が主な柱となります。これらをすべて、自分たちで考えなければなりませんから。

澤山:4つの事業すべて、牧野さんにとっては初体験ですね。

牧野:そうです。僕の人生にとって、今回のプロジェクトは第二創業的な意味合いがあるなと感じています

 広告の仕事を15年ほど続けてきて、最近思うことがあります。それは、僕たちは一度始めた仕事をずっと続けなくちゃいけないという、ある種の強迫観念が強すぎるということです。

澤山:すごく共感します。

牧野:澤山さんも感じていらっしゃるんですね。この強迫観念は、新卒採用の文化が大きく影響している気がします。

 さすがに最近は、「新卒で会社に定年まで勤め続ける」という風潮は廃れてきました。それでも、新卒で就いた職業を続けなくちゃいけないという考えが根強く残っている気がします。

 人生100年時代といわれるなか、この文化は変えるべきだと思います。10年20年、特定の仕事で培ってきた能力を活かして、別の仕事をしても全然いいはずです。

 ありがたいことに、僕は広告を通じて企画やアイディアを考えて、デザイナーと一緒にクオリティを追求して価値を生むという経験を積んできました。

 今回の施設再生は、これまでの仕事と別物のように見えますが、実はこれまでの仕事の延長線上にあるものだと僕は考えています

 富山臨海学園を再生するためのアイディア出しや、ロゴデザインの制作。1つ1つアイディアを考えて積み重ねていくという意味では、やることはあまり変わらないなと。

 自分たちが今までやってきたことを活かしつつ、ものすごい勢いで一気にジャンプしようとしているのが、今回のチャレンジだと思っています。今もうまくいくかどうか全然見通しが立っていないので、死ぬ気で頑張らないと(笑)。

澤山:予測不可能な世界に、身を投じようとしているのがすごいです。

牧野:広告の仕事やクライアントワークも、今後も変わらず続けていきます。むしろ、今回のプロジェクトを通じて、事業の全責任を負って仕事をすることで得られる経験が、クライアントワークにも活かされると思っています。

魅力あふれる千葉の資源を、多くの人に伝えたい

牧野:今回の再生プロジェクトに限らず、南房企画ではクライアントワークを通じて、内房のブランドづくりのサポートにも携わりたいと考えています。というのも、僕は千葉を「コミュニケーションが苦手な県」だと思っているんです

澤山:というと?

牧野:千葉の名産品といえば、大半の人々が「落花生」だと答えますが、千葉は農業も漁業もものづくりも、とても盛んです。例えば、漁業漁獲量は全国8位で、イワシ・サバなどたくさんの魚介類が水揚げされています。伊勢海老の漁獲量にいたっては、千葉が日本一らしいです。

 一方で、なぜか「千葉は魚介類がおいしい」というイメージは、あまり浸透していません。

澤山:確かに、銚子漁港が有名ではありますが、千葉県全体にそういったイメージは少ないかもしれません。

牧野:千葉には、東京という巨大な「消費地」があります。東京に近いがゆえ、ブランド化せずともビジネスが成立してきたんだと思います。

 しかし、千葉も人口減少や少子高齢化が加速化しており、多くの自治体が消滅可能性都市に該当しています(2014年発表時点で896自治体。2024年5月再試算を予定)。岩井海岸が一望できるこのエリアは、民宿産業でにぎわっていました。このままでは、そんな産業も衰退の一途をたどってしまいます。

 このように、千葉には面白くて質が高いのに、名前が広まっていないものがたくさん存在します。その1つ1つのブランドづくりに、南房企画は関わりたいんです

澤山:東京で培ってきた力を、千葉のブランドづくりに転用させていくわけですね。

磯村:すでに、いくつかのプロジェクトで千葉のブランドリニューアルは始まっています。例えば千葉県鋸南町のクラフトビール「鋸南ビール」さんと話をさせてもらって、醸造所を作りたいと思っています。

 他にも、千葉県館山市の「須藤牧場」さんとの連携も考えており、モッツァレラチーズを作りたいと話しています。富山臨海学園のすぐそばにある水産加工工場は、衰退の気配があるこの地域にあっても、月商数億を超えている事業を展開しています。

澤山:早速、千葉の資源の発掘とブランディングが始まっているのですね。

牧野:南房企画での活動を始めてから、千葉にもたくさんの仕事と可能性があることを肌で感じています。

 東京にはたくさんのものがあって、そこに関わるプレイヤーも非常に多いです。仮にブランドを支援する会社が30あるとしたら、千葉は10あるかないか。下手をすると、1人もそういう仕事に取り組む人がいないという地域もあるかもしれません。

 だから僕たちにとって「千葉にたくさん仕事がある」という状態です。東京に固執する必要は、まったくなかったんだと痛感しました。今後は、学園のそばの空き家を借りてそこで暮らす予定です。そこを拠点にして、千葉に根ざしながら活動の幅を広げていきます。

千葉の内房を「西海岸」として発信したい

澤山:牧野さんはコーヒースタンド「烏」や酒屋「花」など、千葉でのプロジェクト以前から「場」に対していい波及効果をもたらそうという姿勢が見られます。こうした活動も、地域への想いに近いのかなと感じました。

https://twitter.com/MAKINO1121/status/1701464879465660577

牧野:広告代理店のビジネスだけだと、BtoBtoCという形で消費者と直接つながることができません。それでも、自分たちの仕事の先に消費者がいるということを、忘れないことは大事だとよく考えています。社外の人々と接することができる場所をつくるということも、オフィス入り口をお店にした意図の一つです。

澤山:なるほど。

牧野:その一方で、澤山さんがおっしゃるように渋谷という地域への想いもありました。コンビニやカフェなど、チェーン店にすぐアクセスできるのは大きな安心感につながります。

 でも僕は、個人商店や小商いも好きなんです。渋谷の再開発が進む一方で、個人が営む個性あふれるお店もある方が、渋谷という場所がもっとよくなると思ったんですよね

 地域に対しても、そこにある場所やもののポテンシャルが失われていくのが、すごくもったいないという気持ちがあります。そこに僕が混ざることで、何かできることはあるんじゃないかという期待や希望があります。

澤山:今後、牧野さんが千葉でどのように活躍されるのか楽しみです。最後に、富山臨海学園の展開について、現時点で予定していることを教えてください。

牧野:2024年夏にプレオープンを予定していますが、内装の工事などに1年半はかかると思うので、グランドオープンは2025年7月を目指しています。とはいえ、そこで本当に完成とはいかず、ガウディのサグラダ・ファミリア的に作り続けることになる気がします(笑)。できるだけ多くの人たちと、DIY的に取り組みつつ、富山臨海学園をよりよいものにしていきたいですね。

澤山:プレオープン、グランドオープン、その後とどう変わっていくのかが楽しみです。集客という観点では、どのような施策を考えていますか?

牧野:これはものすごく甘い発言なんですが、とにかく素敵な場所を作れれば、それが1つの集客施策になると考えています。その上で、渋谷を中心にして東京で働く人々にとっての、オフサイトミーティングの聖地になるというのが、1つのビジネスモデルになると思います。

 広告業界で多くの企業・人々と接点があるので、まずはそこにアプローチして来ていただきたいですね。BtoB的なところから、まずはビジネスとして成立させていきます。ぜひホットリンクの皆さんも会員になってください。100人収容可能な体育館で、プレゼン大会を開催することもできます。

澤山:役員に伝えておきます(笑)。

牧野:今後、この地域を南房・内房ではなく「千葉の西海岸」と認識されていったらいいなと思っています(笑)。

澤山:西海岸。響きがいいですね。

牧野:西海岸と言うと、急に陽気で垢抜けたイメージがわいてくるじゃないですか。アメリカの西海岸にはサンフランシスコやシリコンバレーがあり、ヒッピーさやベンチャーを育てる雰囲気を感じ取れます。

 僕は千葉の西海岸も、ゆくゆくはベンチャーの人たちが合宿して、アイディアをひらめいて帰る場所にしたいんですよね。シリコンバレーとはいかずとも、ビジネス的な聖地として千葉の西海岸を開発したいという、裏テーマがあります。

澤山:素晴らしい場所になること、期待しております!

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