SNSコラム

【前編】周囲10kmの商圏からSNSへ。ブランディングの第2フェーズに進むMinimalの挑戦

2020年09月08日
ザ・プロフェッショナル | 食品業界向け

最終更新日:2021年5月20日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルたちとホットリンクCMO・いいたかゆうたが、2020年以降のSNSマーケティングのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」

今回のゲストは、チョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」代表の山下貴嗣さん。カカオ豆の焙煎からチョコレートの製造までを一環して行う手法、「Bean to Bar(ビーントゥバー)」を使ったチョコレートを開発しています。こだわり抜いた原材料やものづくりの姿勢に魅了されるファンも多数。

MinimalがSNSマーケティングに力を入れ始めた理由や、オフラインでのマーケティングにどのように取り組んできたかを聞きました。

山下貴嗣。コンサルティング業から未経験であるチョコレート業界へ転身し、株式会社βaceを立ち上げ3名の創業メンバーとともにD2Cブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」をローンチする「2100年までにチョコレートの新しい文化をつくりたい」という思いで造られる商品は高く評価され、多数の品評会を受賞。自身も年間4ヶ月をカカオ農園で過ごす。

ブランディングの第2フェーズに入ったMinimal

いいたか:
本日は、MinimalのブランディングやSNSに関する戦略をうかがえればと思います。

山下:
いやあ、僕で大丈夫なのかな? ようやくTwitterやnoteを本腰入れて始めたくらいで、それまでは個人のアカウントすら持っていませんでしたから(笑)。

いいたか:
全く問題ないです(笑)。noteの記事などを拝見すると、めちゃくちゃいい記事書いてますし。

参考:山下貴嗣_Minimalチョコレート|note

山下さんが、SNSに力を入れ始めたきっかけを教えてください。

山下:
以前からSNSについては、外部拡散性のある大事なメディアであると認識していました。しかしMinimalは、2014年に創業してからの約3年間、SNSを積極的には活用していなかったんです。店舗の周囲10kmの商圏のお客様に、商品のよさが伝わること。お客様がお客様を呼んでくれるブランディングを目指していました。

僕たちにとって、一番に考えるべきはプロダクトです
「チョコが美味しい」という大前提がベースにないと、長年愛される文化にはならず、ブームに終わってしまいます。だからこそ僕たちは、原材料にも製法にもこだわります。MinimalはD2Cブランドで注目されますが、どちらかというと成り立ちはメーカーという意識のほうが強いです。

Minimalはひとりの天才が率いるのではなく、総合力の高いメンバーがチームワークを発揮して成果を出す組織を目指しました。しかし、Minimalというブランドの大きな幹ができつつある今、これからはメンバー個人のSNS発信に力を入れることにしたんです。ある意味、ブランディングが第2フェーズに入ったといえるでしょう。

まずは、社長である僕が情報を発信していくことにしました。社外取締役でInsightforce代表取締役の山口義宏さんから、「Twitterやnoteを本気でやれ」と口酸っぱく言われ続けたのも理由のひとつです(笑)。

山下:
SNSをはじめネットによる情報革命のすごさは、「情報の非対称性」がなくなることにあると思うんです。たとえば僕の母にとって、外の社会を知るのに大きな影響力をもつメディアがTVでした。そんな彼女にとって、高級チョコといえば「ゴディバ」という強烈なイメージがあります。

マスメディアという強烈な権威から、「高級チョコ=ゴディバ」という情報がもたらされる。それが母の時代では当然の情報収集でした。しかし現在、僕たちは誰でも一次情報にアクセスできる時代を生きています。だからこそ、僕たちのように資本のないブランドも、思いを伝えることが可能となりました。

現代のSNSは、企業・ブランドにとって水や空気と一緒のような存在です。使う・使わないという議論すら意味をなさない。B2B・B2Cを問わず、呼吸と同じくらい真剣に向き合うべきものだと思います

いいたか:
山下さんのnoteは個人としてのブランディングの話が多かったので、チームでブランディングするというお話は新鮮でした。

山下:
そう感じたのは、noteでは僕個人の考えを書くと決めているからだと思います。経営者・山下がこのブランドをどう捉えているのか。根っこにあるブランドイメージはありつつも、商品が好きな人もいれば、僕個人の考えに共感してくれる人もいる。
そうやって多面的にファンが生まれることで、ブランドとしての表面積を広げていくのが今のフェーズと考えています。

Minimalの代名詞ともいえる板チョコレート
画像提供元:Minimal

山下:
今は、僕が経営者の視点でMinimalのブランド活動や根幹にある思想に絞って記事を書いています。でも今後は、商品のことをマニアックに伝える職人が出たり、CMOがインタビューを受けたりしてもいい。

僕はよく、ブランドの表面積(ブランドの顧客との接点)を最大化するためにブランド経営を「遠心力」と表現しています。
共通のゴールやミッション・ビジョンへの共感をお互いに根っこに持つ、多様性のあるメンバーの発信によってメディアが増えていくことが、非常に望ましいと思っています。

情報爆発時代の中、影響力を持つのは「友達の発言」

いいたか:
そのブランドの商品が良いものでないと、広げることはできない。山下さんのこの話は、とても本質的なものだと思います。この5年で時代は劇的に変化して、人々がスマホを手に取り、膨大な情報を見られるようになりました。

これは僕が昨年出版した書籍にも書いたんですが、2020年にはデジタルデータ量は35ZB(ゼタバイト)に到達するという予想データもあることから、情報の99%は届かないと考えた方がいいと僕は思っていて。

参考:「Study Projects Nearly 45 Fold Annual Data Growth by 2020」Dell Technologies US

そこで非常に重要なのが、どうやってユーザーに覚えてもらうかを考えることです。甘いものが好きな芸能人がそのお店のことをつぶやいても、数日で情報としては忘れられてしまいます。再現性もありません。

いいたか:
僕たちが考えるインフルエンサーとは、「友達の発言」と表現しています
弊社が担当したお菓子屋さんのシャトレーゼは、アレルギーの人でも食べられるクリスマスケーキを毎年作るんです。しかもケーキを作るとき、ほかのケーキの製造工程を3日間止めないといけないんですよ。当時は誰も、そんなことは知りませんでした。

しかし2018年に、あるママアカウントがこのことをつぶやいてくれたんです。すると周りの友人が「シャトレーゼすごいじゃん。息子もアレルギーだからこれを食べさせてあげよう」となった。

そのユーザーさんは約80人しかフォロワーがいませんでしたが、拡散の輪がどんどん広がって、「子供のときにこのケーキがあれば絶対頼んでいた」など、Twitter上にクチコミがたくさん生まれました。企業側は一切お願いしていませんが、個々のユーザーがカスタマーサクセスをしてくれていたんです

ホットリンクでは、SNS上で50人以下でつながっている関係をプライベートグラフ、300人以下をソーシャルグラフと定義しています。Twitterは、プライベートグラフかソーシャルグラフで利用しているユーザーが90%を締めるんです。僕たちは、フォロワー数300人以下で、かつつぶやきが多い人を「影響力の高い人」と定義しています。

そのため、僕たちはSNS運用において「商品に対する言及数」をKPIに設定します。社長のフォロワーが何人いるのかも重要ですが、本質ではありません。

山下:
なるほど、フォロワーの量ではなくクチコミの質やユーザーに届く深さを重視しているんですね。

スタッフが自社商品を買わなくなったときは赤信号

山下:
お話を聞いていて、店舗運営ではそうしたファンづくりができていたなと思いました。Minimalでは、お客様が家族や友人にこの商品をどうクチコミするか、常に気をつけています。一般的に、小売では「どの商品を売るか」を決め、社員にその商品の販促を指示します。

しかし僕たちは、あえてそれをやめました。スタッフひとり一人が、自分で食べて美味しいと思ったものを、自分の言葉で話すことを徹底したんです。商品に対して高い感度を持つことや、自分の好みとお客様の「美味しい」と思う感覚のバランシングもめちゃくちゃ大切にしているので、全社員で徹底的に味覚を鍛えるテイスティングのトレーニングを毎週行っています。

山下:
また、Minimalではスタッフがうちのチョコを買える社内販売を行っています。僕はそこで何が売れ筋なのか、ものすごく細かくチェックしているんです。逆に社販の売れ行きが落ちているときは、会社全体の熱量が下がっている、あるいはスタッフが自社製品を美味しいと感じていない証拠だと。

いいたか:
僕たちが支援している某アパレル企業も、多くのブランドが20%OFFで社販を実施しているなか、原価でスタッフに販売しています。「スタッフが店舗で、自社製品を喜んで着てる世界をつくるのが重要なんだ」と話していました。

山下:
納得です。僕はスタッフが「お金を払って買う」ことが重要だと思っています。スタッフが買うのを渋ってしまうのなら、お客様が買うに値するものを作っていないということですよね。創業メンバーの間でも、「自分たちでお金を払いたくないと思ったら辞めよう」と話しています。

フォロワー◯万人よりも、1人1人との濃いつながりを

山下:
SNSの話に戻りますが、僕SNS上で目立つのが本当に苦手で、僕個人のTwitterはまだ試行錯誤しています。たまにインプレッションやフォロワー数を見ても、3人フォロワー増えたら2人減ってたなんてことも多くて、結構凹んでいます(笑)。

いいたか:
実は僕、Twitterのアナリティクスをほぼ見たことがないんです。外部のメディアに取り上げてもらうと一気に1,000フォロワーとか増えることもありますが、1週間後には800人くらい減っている。こういうのを見ると、フォロワーを増やすことそのものには、大して意味がないと考えています。

いいたか:
昨年書籍を出しましたが、当時のフォロワーは8,000人程度でした。それでもSNSを語る以上、本気で販売すると決めたんです。

参考:『僕らはSNSでモノを買う』飯髙悠太

そうして書籍のことを発信をし続けた結果、初版が発売される前に増刷が入り、発売後3ヶ月で5刷まで伸びました。これは僕がフォロワーさんとの関係性を、非常に濃いものにできていたからかなと思います。これがTwitterにおける、影響力の正しい発揮の仕方じゃないでしょうか。

山下:
実はTwitter運用に関しては、すでに2回くらい心が折れています(笑)。Minimalの公式アカウントは2万フォロワーくらいですが、現場のメンバーがかなり頑張って運用しているんですね。

それを見てて「これじゃダメだ」と思い、1年以内に10,000フォロワー達成と決めて、可能性やがんばりを見せるのがリーダーの責任だと思いました。

でも僕にとってのゴールは「山下貴嗣のファンを作って影響力を持つこと」じゃない。
フォロワーの数も大事だけど、それよりもフォロワーと濃い繋がりをつくって、Minimalのよさを伝えること。それが僕のテーマですね。お話を聞いて、少しホッとしました(笑)。

後編では、MinimalがチャレンジしているEC事業の実態について聞きました。山下さんが下した決断やチャレンジには、洋菓子ならではのEC化の難しさが垣間見えました。

後編はこちらから。

【後編】「コロナを理由にしてはいけない」激動のなかでMinimalが選んだEC化の道

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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