SNSコラム

【後編】「コロナを理由にしてはいけない」激動のなかでMinimalが選んだEC化の道

2020年09月09日
SNSコラム

前編では、Minimal -Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)代表の山下貴嗣さんが取り組んできたブランディング戦略と、本格的にスタートしたSNSマーケティングの背景を聞きました。

【前編】周囲10kmの商圏からSNSへ。ブランディングの第2フェーズに進むMinimalの挑戦

後編では、激動の時代にEC販売を決断した理由とその難しさ、店舗を持つことの意味について語っていただきました。

洋菓子のEC化にたちはだかる壁

いいたか:
新型コロナウイルス感染症を契機に、苦境に立たされている同業者は多いと思います。デジタル化やEC販売を始めるブランドも増えていますが、Minimalはいつ頃からECをスタートしましたか?

山下:
ECを本格的に始めたのは2019年10月です。しかし約1年続けて気づいたのは、「店舗で売れるもの・ECで売れるものはまるで違うな」ということでした。それは店舗とECで、情報の種類と質が違うからなんですね。

店舗は雰囲気やチョコの香り、お客様の声、試食による食べ比べと、五感全部で意思決定ができます。だから食ベ比べて違いに驚き、シンプルな見た目ですが産地の話など奥が深い板チョコに、高い価値を感じてくださるんです。

一方で、ECは極端に言うと視覚情報だけ。板チョコはなかなかシズル感を覚えづらいですし、見た目だけだと「スーパーではあんなに安いのに、1,500円もするの?」と、低価格バイアスも強い商品です。そのため、ECではチーズケーキやガトーショコラといった、スイーツの売上の方が伸びています。

山下:
またECでは、商品情報に加えて賞味期限・保存方法といった必要な時報を、できる限りワンスクロールで見せることが重要です。こうした情報の質・種類の違いを見誤ってはいけません。店頭で売れてるものがECで売れるとは限りませんから。逆も同じです。

実は洋菓子屋って、EC化率がすごく低いんです。ちょっと調べてみましたが、業界大手のトップで見ても、数%ほどに留まっているようです。

理由は、「ケーキなどの洋菓子は店頭で買うもの」という文化が根強いからです。街なかのアクセスがいいところにチェーン店があり、これから誰かの家へ向かうから、途中で手土産を買うという需要が大多数を占めます。行列のできるお店のように、並んで買うという限定性がブランディングになっているお店もありますよね。

またECで買おうとすると、送料が非常に高くなるのも問題です。温度帯が冷凍・冷蔵・常温と3温度帯あり、かつ割れ物でとても繊細な商品なので、どうしても送料が発生して高くなってしまいます。

いいたか:
確かに、ケーキが必要な瞬間は「いまこのとき」が一番多いですね。「友達の家に行こう、ご自宅にはお子さんもいるから、ケーキを買って行こう」ってなる。目的地に行くことが先なんですよね

「野球からサッカーへ」ECでゲームルールは一変した

山下:
洋菓子屋がECへシフトするには、もうひとつ重大な課題があります。やってみてわかりましたが、Minimalのケースでいうと板チョコとスイーツでは、オペレーションが全く別物だったんです。

製造ラインというのは、オペレーション効率の塊のような場所です。Minimalの場合、板チョコを作るのに最適化された工房レイアウト・機材・人の動線になっています。

ここにスイーツも追加されることで、劇的にオペレーションが変わる。さらに発送業務も追加され、カスタマーサービスをしながらSNSに取り組むとなると、もはや事業内容を変更するのと同じくらいドラスティックな決断なんです

Minimalのスイーツ商品、チョコレートレアチーズケーキ
画像提供元:Minimal

これを理解したうえで、店頭販売しながらどんな優先順位でパズルを組むかは、相当難しい。客観視できるPM(プロジェクトマネージャー)がリーダーシップを持って動かないと、いたるところに問題が生まれます。

僕は責任者として、3月半ばにECのスイーツ販売を選択しました。「コロナが長期戦になる以上、ECで売上を確保しないとダメだ」と考えたんです。
4月半ばで工房の拡張を決めて、レイアウト変更や機材に数百万投資し、チーム編成を変えて、倉庫を借り、配送オペレーションをできるようにした。Minimalはこれまで店頭販売で完売してきたブランドですが、成功体験を捨てる覚悟でした。また、あの時期に投資をするという決断は本当に迷ったし、怖い決断でした。

いいたか:
ECへの転換がそこまでドラスティックなことだったとは。大変でしたね。


山下:
はい。例えていうなら、コロナをきっかけに競技種目がガラリと変わってしまった感じです。

コロナ前までは野球。1番・2番が打線をつないで、4番でホームランを狙うといった、ある程度役割固定で専門性を発揮するものでした。そうやって個々の能力を発揮して、最高のものを作ろうとしていたんです。

それがコロナを境に、サッカーのルールで戦わざるをえなくなった。フォワードだろうがディフェンダーだろうが、シュートを狙えるなら打っていく。「流動性の高い環境で、全体の役割を果たしつつチームを勝ちに導くことが大事」だと、4月にチームへ伝えていきました。

おかげで5月の売上は昨年対比を越えましたが、チームにはかなり無理を強いてしまったと思います。リアルの店舗を持つ身として、攻めと守りを両方やらなければならない。ゆっくりやっては間に合わない危機感がありました。

そういう意味で、Mr. CHEESECAKEの田村さんから学ぶことは非常に多いです。単品商品でSNSを駆使してソーシャルで売ることを踏まえた上で、商品設計しているので。

※Mr. CHEESECAKEの田村さん取材記事はこちらから。

【前編】始まりはInstagramの投稿から―大人気店「Mr. CHEESECAKE」代表・田村さんとSNSの付き合い方

【後編】Mr. CHEESECAKEが提供しているのは「時間」だ。本物のブランドであるために田村さんが考えること

ダークソーシャルからオープンソーシャルのキャズムを越える

いいたか:
一方で、洋菓子屋さんでそこまで店舗の売上が落ちていないところもありますよね。シャトレーゼさんのここ数ヶ月の売上も、前年比で伸びていると聞いています。家庭によっては、ケーキ屋にいく回数が増えたという話もあるほどです。

山下:
立地による差が明確ですね。都市部は落ち込みが激しく、住宅街は逆に伸びていたりします。そして、まさにその点で、僕たちも試行錯誤していることがあるんです。Minimalへいらっしゃるお客様は、口々に「店舗体験が素晴らしい」とコメントを寄せてくれます。一方でSNSを見ると、チョコのクチコミは多いけれど店舗へのクチコミが多くありません

Minimalも昨年比で、ECのボリュームが350~500%ほど増えました。購買者の内訳は、新規が4割でリピートが6割です。InstagramやFacebookで初めてターゲティング広告も展開しましたが、新規以上に既存のお客様のリピートが増えていることに驚きました。

これは嬉しい一方で、怖いところでもあるんです。やはりECでは、新規のお客様を増やしていきたい。まだ店舗に訪れたことがない方に、ECを第一の体験として触れていただく。そのうえで、店舗体験のクチコミをSNSで見てもらい、来店の足がかりにする。店舗体験のクチコミをどう増やすべきか、考えています。

いいたか:
「チョコが好き」という文脈のクチコミと、「店舗体験が素晴らしい」という文脈のクチコミは、縦軸の関係にあると思うんですね。2つのファンは、実はSNSでつながっていないんじゃないかな。

いいたか:
店舗体験が好きな人って、さまざまなお店を練り歩いてMinimalにたどり着いたみたいな、グルメ系のクチコミサイトを信用していない人です。お店のことは好きなんだけど、自分だけの特別にしておきたい。友達や家族を連れてくるのはいいけれど、不特定多数には言いたくない、みたいなお店を大切にしたい層なんだろうと。

とすれば、そういう人たちはオープンソーシャルではなくダークソーシャルでクチコミを出してくれている可能性があります。そう考えると、チョコが好きというクチコミはオープンソーシャルの方で最大限伸ばしたほうがいいけれど、店舗自体のSNSのクチコミは、そこまで必要じゃないかもともいえますよね。

※ダークソーシャルとは……
「オープンではないソーシャル」のこと。FacebookやTwitterのタイムラインなど誰でもアクセスできるのがオープンソーシャル、DMやLINEなど当事者でのみやりとりされるのがダークソーシャル。

山下:
なるほど。Minimalは創業から3年間は特に、まさにいいたかさんが言う「お店のことが大好きなお客様」で支えられ、彼ら彼女らのクチコミで広がっていきました。今でもそうですが、来店のたびにお友達を連れてきてくださり、スタッフ以上にお店のことを詳しく語ってくださる。

いいたかさんのおっしゃるとおり、スモールコミュニティで周りの親しい人を巻き込む、まさにダークソーシャルな空間でブランドが育っていきましたね

そういう意味では、ECはキャズムを越えて、ライト層にもリーチできるようにする取り組みなんだと改めて思います。

コロナを理由にせず、変化することが当たり前と捉える

いいたか:
お話を聞いていると、オンラインだけでなく店舗のあり方も、根底から変化を余儀なくされていると感じます。

山下:
変化の流れがものすごく加速した感じですね。とくにMinimalは、単なる「売り場」としての店舗から、より世界観を体験させる場所に変化させる必要があると思います。残酷ではありますが、こうした変化が遅くなるほど、脱落するお店は増えていくんじゃないでしょうか。

山下:
今年はよくも悪くも、多くの人にとって記憶に残る年ですよね。そこで大事なのは、変化を恐れないこと。頭で考えていると間に合わない可能性があるから、まずは動く。そしてフィードバックして、PDCAを回していくべきだと思います。

Mr. CHEESECAKEのように、ECでスイーツを売ることの成功事例もすでに生まれています。レストランsioのオーナーシェフ鳥羽周作さんも、いちはやく行動した一人ですよね。

いいたか:
鳥羽さんはコロナで自粛要請が出てすぐ、お店のレシピをTwitterでアップしていましたね。自宅で作っても美味しかったけど、これをお弁当で食べたいなと思っていたら、エリア別の配送も始めた。僕の住んでいる区が対象になったら、すぐに注文しました(笑)。

山下:
シェフにとってレシピは表に出せない知的財産ですよね。でも「今、大事なことってそういうことじゃないよね」と社会を捉える賢さと、行動の早さが素晴らしいと思います。

鳥羽さんや田村さんのように、具体的に動いてやり方を変えることが、如実に求められる時代が来ているなと感じます。彼らのような行動が注目されシェアされていけばいいなと。

僕も良いお店がなくなるのはイヤなので、僕自身のブランド経営の経験が何か少しでもお役に立てばいいなと、有料課金はせずにすべてオープンに閲覧出来る形でnoteを書いています。

これからはむしろ、コロナを理由にしてはいけない。変化する理由としても、なにもできない言い訳としても成立しますから。
残念ながら、アフターコロナという世界はなく、コロナ前の社会には戻らないと僕は考えていて。コロナが起こらなくても、DXや働き方の変化は起こっていたと思います。コロナにより、それの変化のスピードが劇的に速まっただけなのではないでしょうか。
だからこそ、変化を当たり前にして、行動していくことが重要だと思います。

――山下貴嗣さん、本日はお忙しいところありがとうございました。

前編はこちらから。

【前編】周囲10kmの商圏からSNSへ。ブランディングの第2フェーズに進むMinimalの挑戦

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