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この記事の内容
最終更新日:2024年2月28日
手に取りやすくて、「美味しい」「食べたい」などのクチコミも出やすく、人にもオススメしやすい。そのような観点で、食品はSNSマーケティングと相性が良い商材です。
今回は、業界誌という立場から食品業界を見つめてきた、日本食糧新聞社の武藤麻実子さんにインタビューを実施。武藤さんは、食品の新製品情報を紹介する月刊誌「食品 新製品トレンド」に20年以上携わり、現在は編集長として活躍されています。
コロナ禍や原材料の急騰による値上げラッシュなど、食品業界を取り巻くさまざまな課題を、武藤さんはどう捉えているのでしょうか。食品メーカーのSNSコンサルティングを担当するホットリンクのデータアナリスト・辻元気とともに、お話を伺いました。
(執筆:水落絵理香 取材・編集:倉内夏海)
武藤 麻実子様(写真左) 日本食糧新聞社 新製品事業部長 / 月刊「食品 新製品トレンド」編集長
記者として、年間約1万件に及ぶ食品の新製品を20年以上分析。新製品開発にまつわる様々な切り口のセミナー企画も行ない、最新情報を業界に届けている。日本食糧新聞社制定「食品ヒット大賞」の審査にも関わるほか、「フードメッセinにいがた」内の「6次化大賞」審査員長も務める。
辻 元気(写真右) 株式会社ホットリンク ソーシャルメディアコンサルティング本部 / 開発本部
データアナリスト。2018年に入社し、ソーシャルリスニングツールのセールス・カスタマーサクセスに従事。現在はSNSの分析を強みに、大手企業アカウントのコンサルティングを複数社経験。ホットリンク社内の分析スキル向上も推進。分析のなかでも、エンタメ業界のトレンド分析が得意。MarkeZineにて、「ソーシャルリスニング2.0 - TwitterからはじめるSNSのデータ活用」を連載。
ー武藤さんが携わっている「食品 新製品トレンド」は、どのようなメディアか教えていただけますか。
武藤:主軸となる月刊誌では、主にメーカーの商品開発担当者向けて、商品開発のヒントになるようなデータを提供することを目的としています。月刊誌に加えて、日本食糧新聞・電子版、セミナーでも食品業界に向けた発信を行なっています。
「メディア」ではありますが、耳目を集めるようなセンセーショナルな内容を出すというより、1つの事象を深掘りしたり、当社ならではのオリジナル性を追求した内容に寄せていくというのが基本方針です。
私は入社当初から同誌の部署に配属されて、もう20年以上在籍しています。「新製品トレンド」の編集自体は社員3名で運営しており、私は編集長という肩書ではありますが、実際は何でもやっていますね(笑)。新製品のチェック、取材、記事作成、校正作業、セミナー企画・運営までいろいろ担当しています。
ー20年以上業界誌に携わられてきた武藤さんは、現在、食品業界でどのような変化が起きていると感じられていますか。
武藤:コロナ禍以降は、状況が頻繁に変わっていますね。
例えば、コロナ禍の初期では家庭内調理を補助する製品が流行りましたが、やはり面倒だと感じる方も多くて定着には至りませんでした。そして、現在はより簡便に調理できる商品の需要が見直された格好です。
あとは、ここ数年の値上げは多くの食品関連企業にとってネックになっていますね。当社ではPOSデータを定期的に取得して観測しているのですが、特に2022年から2023年にかけて平均売価が急上昇しています。
原材料や流通の関係で値上げせざるを得ないなかで、価格以外の理由で選んでもらえるよう、付加価値を持たせる必要が出てきています。
ー確かに、プレミアム感を訴求する商品をよく見かけます。
辻:「食べて美味しい」だけでなく、機能性を加えた新製品が増えているのも、その流れを受けてのことかもしれませんね。
武藤:各社、本当に試行錯誤し、工夫を凝らしています。
ちなみに、食品業界における新製品は、年間どれだけあると思いますか? スーパーやコンビニで売られている、一般の方が手に取れる食品で。
辻:「たくさんあるだろう」とは思いつつ、難しいですね……。毎日10商品発売されるとして、年間3,500点くらいでしょうか。
武藤:当社で把握しているだけでも、年間で約1万点はあります。
辻:えっ。想像以上です。
武藤:データに上がってこないような、全国各地の食品や、さらにいえば家族経営企業の商品なども含めると5万〜8万とも言われています。把握しきれないほど新製品が登場するのが、日本の食品の大きな特徴なのです。
辻:日頃コンビニなどを利用していて、「商品の入れ替わりが早いな」と感じるんですが、それだけの点数があれば当然ですね。
武藤:そうなんです。日々新製品が出て、日々小売店の陳列棚は変わっていきます。
店舗で見かけた商品が、次に行なったときにはもう他の商品に代わってしまうような業界なんです。ハイペースで新製品を出し続けるこの状況に、疲弊しているメーカーも少なくないと感じています。
直近、弊誌で取材したとあるメーカーの方は、SNSで「バズりたくない」とお話しされていました。新製品がなにかのきっかけで急激に盛り上がると、瞬間的に購入数も増えるのですが、その分一気に熱が冷めてしまう面も。
だから、次の新製品を発売して、どんどんサイクルを回し続けることになってしまうんですよね。
辻:近年、TikTokなどのSNSを見ていても、コンテンツの消費スピードの速さを感じます。急速に話題になって消えていくサイクルも、本当に早くなりました。みんな、去年流行ったものはほとんど覚えていないんじゃないでしょうか。
このような状況下で、トレンドを意識した新製品を作り続ける――疲弊してしまうのは、よく分かる気がします。
ー確かに食品は、手に取りやすい分、クチコミも出やすいです。SNSへの投稿をきっかけに爆発的に売れた食品も、珍しくありません。
辻:そうですね。日々のご支援の中でも、食品業界とSNS活用の相性の良さは感じています。ただ、僕たちが重視しているのはクチコミの積層です。
一過性のバズを狙うのではなく、企業アカウントを通じてユーザーと継続的にコミュニケーションして、ブランドとの接触回数を増やし、親近感を持ってもらう。そこから、スーパーやコンビニで商品を見たときに、ふと思い出して手にとってもらえるような状態を目指しています。
強烈な1回のバズよりも、クチコミと認知の積層を目指して地道にコミュニケーションする方針は、特に食品業界とは相性が良いと感じています。
武藤:そうですね。バズる商品を生み出し続けるのは、体力のある大手であれば対応できると思いますが、そうではない会社では実際には難しいです。
食品業界は、一部の大手を除いて中小規模の企業も多く、バズの恩恵を受けられるところはそう多くないと思います。
ー実際に、食品業界においてSNS活用は進んでいるのでしょうか。
武藤:まだまだ悩まれている企業が多い印象です。
専任者が居らず、兼任で運営しているケースが大半で、予算もそれほど割けない。広告代理店に依頼しているのは本当に限られた大手ぐらいで、ほとんどはどう進めるべきか方針も定まっていない状態かなと。
そのような課題を持たれている会員企業に対して、これからの広報宣伝の方法についてセミナーを開催したこともありました。参加された企業も多く、関心はあるものの実態が追いついていない……という印象を受けましたね。
ーちなみに、御社がSNSの力を実感したタイミングはありますか?
武藤:ちょうど昨日(1月23日)、こちらの投稿が話題になりました。
武藤:この投稿は2.7万回リポストされ、大きな反響をいただきました。突然の「バズ」だったので、驚くとともに、SNSの拡散力を実感しました。
ただ、「日本食糧新聞」は、あくまで食品業界関係者向けのメディアで、一般の方はメインターゲットではありません。「またバズらせよう」という狙いはなく、発信する内容やメディアの方向性がブレるようなことはないように気をつけたいですね。
辻:武藤さんがこれまで見てきたなかで、新製品として世に出て、定着した商品はどれくらいありますか?
武藤:数多く発売されている割に、定番化するのはほんの一握りだと感じています。
弊社では毎年「食品ヒット大賞」を発表しているのですが、過去受賞商品群を見ると、現在でも発売している商品は多くはないです。
辻:どうしたら定番になる確率を高められるんでしょう。定番商品の共通点など、あるのでしょうか。
武藤:共通しているのは、まずは新製品として出て特定のターゲットに受け入れられること。その次に、次世代にどう伝えていくかを考え、世代を超えて愛されるための動きができているか、ですね。
どの食品メーカーも、基本的に定番化を目指して開発されていると思います。ただ、購入してもらうためには、トレンドも無視できないんですよね。
「今、何が求められているのか」をいち早く察知して商品開発に落とし込んでいく動きは、重要だと思います。ただ、そのニーズやトレンドがいつまで続くかはわからないのも難しいところです。
私たちとしても、一概に「こうすれば良い」とはお伝えできず、心苦しさもあります。それでも「今、何が求められているのか」をスピーディに掴んでいただけるような情報を「食品 新製品トレンド」では発信し続けていきます。
ー食品業界を取り巻く環境は今後も大きく変わっていくと思いますが、武藤さんは、どのような展望を持たれていますか。
武藤:これからの話でいくと、食品業界もイノベーションが求められています。主要なところでは、フードテックの進化とSDGsへの対応ですね。
特に後者は各企業で、どう対応していくのか熟慮されていますが、取り組みがすぐに収益につながるわけではないので、できることは限られますし、慎重に方向性を検討しなければなりません。
「食品 新製品トレンド」としては、日本の食品業界がどのような方向でイノベーションを起こしていくか、私たちがしっかり観測したうえで全体像を伝えていく役割を担えればと思います。
辻:SDGsへの各社への対応がわかりやすく表現されるのは、新製品ですよね。
武藤:そうですね。
既存商品の改善も含まれますが、イノベーションは新製品あってこそだと思います。各社がどのような意図で新製品を出しているのかは追いかけていきたいですね。データをわかりやすく整理して、食品業界に広く届けていきたいです。
武藤:あとは、日本が抱える大きな問題の一つに人口減少があります。どんどん消費者が減る中、どうやって利益を向上するのかも、食品業界全体で考えなければいけない課題です。国内での販売数を増やすのか、海外展開していくのかなど選択肢はいろいろ考えられます。
その上で、生活者に商品を知ってもらう、好きになってもらうための情報発信も重要度が増していくと思います。食品業界に携わる方々が最適な選択肢を選べるよう、業界誌として支援していきたいですね。
ー武藤さん、興味深いお話をありがとうございました!
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