SNSコラム

個人レストランが大手企業と対等に戦える世界を目指す。キッチンベース山口さんが語る飲食業界の未来

2020年11月26日
ザ・プロフェッショナル | 外食業界向け

最終更新日:2021年6月7日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルたちとホットリンクCMO・いいたかが、2020年以降のSNSマーケティングのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」

今回のゲストは、「キッチンベース」を運営する株式会社SENTOEN代表の山口大介さんです。キッチンベースは、デリバリー特化型レストラン向けの「シェア型クラウドキッチン」を展開しており、現在神楽坂と中目黒に施設を構えています。

キッチンベースでは、単にキッチンを提供するだけでなく、入居店舗へのマーケティング支援も行っています。イグニスでアプリマーケティングに従事していた山口さんだからこそできる施策を実践しているそうです。

飲食店の新形態・クラウドキッチンはどのように生まれたのか、入居店舗のマーケティング支援はどのように行っているのか。いいたかが深掘りしました。

山口大介。株式会社イグニスにてSNSアプリの企画運営、ディレクション等に従事。その後、銭湯を軸としたコミュニティを作るべく株式会社SENTOENを起業。しかしその後、もともと興味のあった飲食の領域に事業をシフトチェンジ。シェア型クラウドキッチンサービスとして、KitchenBASE(キッチンベース)を開発する。

個人経営の飲食店は、同業者間のコミュニティ形成が命綱に

いいたか:
キッチンべースさんのプレスリリースによると、デリバリー市場は2018年時点で4,084億円と、年々上がっているらしいですね。

デリバリー専用のシェア型クラウドキッチン「KitchenBASE(キッチンベース)」全21キッチン、ビル1棟の超大型2号店を神楽坂に今夏オープン!

山口:
そうなんです。今、国内のデリバリー市場は4500~5000億はあるだろうと推測されていますが、海外を見ているとこれから約10倍伸びていくことがわかります。これは世の中の必然的な流れですね。

全体の食事のうち、デリバリー率は現状3%です。中国や韓国も7~8年前は同じ程度でしたが、今は15~20%まで膨れ上がっています。日本はどうかというと、僕自身は同程度まで伸びるのではないかと思ってます。むしろ、伸びた方が世の中が健全に回ると思いますね。

いいたか:
今後のデリバリー市場に可能性を感じて、現在のビジネスモデルのアイディアが浮かんだんですか?

山口:
いえ、実は全然そうではなくて。最初からデリバリー市場への参入とかクラウドキッチンのサービスとかを構想していたわけではないんですよ。僕たちの会社は「SENTOEN」という名前なのですが、その名の通り、最初は銭湯ビジネスから始めました。

「SENTOEN」という社名には「線から円」という意味合いも込められています。もともと交わらなかったような方達が集まってコミュニティを形成することで、新たな化学反応が生まれるような場を作ることを目的としていました。

その場としてまずは銭湯を選んだんですが、そもそも銭湯に来る人ってコミュニティを求めていないことに気づきまして。
「コミュニティを形成することで価値が出せる場所ってどこだろう」と模索していたんです。


山口:
その中で、ふと飲食店に目を向けたタイミングがありました。実は、飲食店の75%が1~2名で運営されている個人店で、廃業してしまうのは繁盛するための情報が分断されている部分が大きいのかなと。

それなら、うまくいっているノウハウをシェアできるコミュニティを作れば、飲食業界に価値を提供できるのではないかと思ったんです。
ちょうど自粛期間中でデリバリー業界が伸びていたのもあって、「飲食経営者のコミュニティ」×「デリバリー」を組み合わせて、キッチンベースをスタートしました。

いいたか:
なぜ飲食に注目されたんでしょうか? 過去に従事された経験があるとか。

山口:
いいえ、飲食は全く経験がなかったんですよね。ただ、食が好きなので飲食に興味はありました。なので自然に飲食業界に思考を巡らせたんですけど、そういえば全然変化がない業界だ……と気づいて。

以前IT企業にいた時は、短期間で業界が大きく変化していくのを体感していました。IT業界って、ここ10数年の間で爆発的に伸びましたよね。サーバーがクラウド化されて劇的にコストが下がった結果、参入障壁が低くなり、さまざまなプレイヤーが雪崩れ込んできた。

このような変革って、飲食業界でも起こせるのではないかと思ったんです。

いいたか:
なるほど。

山口:
現在、自分で飲食店を開店しようとなると、まず場所を借りて、数千万円かけて店舗を作って、店内のデザインをして……と、かなりの費用と工数がかかってしまう。
そうやって費用をかけてキッチンを作っても、3年以内に7割が廃業してしまうんですよ。これは大きな課題だと気づきました。

飲食業界がないがしろにしていたリピーター獲得施策に注力

いいたか:
キッチンベースでは、参画しているレストランに向けてマーケティング支援もやられていると拝見しました。

山口:
はい。まずは商品開発から携わります。この商圏だとどのようなメニューが受けるのかから始まって、デリバリーアプリに登録するためのヒーロー写真、ネーミング、メニューを一緒に作り上げてローンチします。そこから商品改善していくところまで支援します。

いいたか:
そのようなマーケティング支援までできるのは、やはりイグニス時代の経験が活きているのでしょうか。

山口:
それは大きいですね。イグニスでアプリマーケティングに従事していた時、主に見ていた指標は、新規ユーザー数とリテンション数です。

リテンションというのは、二日目にアプリを開いてもらえる数のこと。つまりリピーターですね。この、リピーター向けの施策をやっていた経験が今活きています。


山口:
飲食店って、新規集客は頑張るけど、リピーターを取るための施策はほとんどやっていないんですよ。なぜなら顧客データを取れなくて、リピーターかどうかわからないから。
その点、僕らの場合はアプリ経由で注文をとるデリバリー形式だから、誰が何回、何を注文したのか、全てがデータとして残るんです。
デリバリーって商圏が決まっているので、いかにリピーターを増やしていくかが成功を左右します。

いいたか:
顧客管理がデジタルで行えるのは利点がありますね。注文回数や頻度に応じて次のアプローチの仕方も変わりますし。リピーターを増やすために、具体的にどのような施策をやられているのでしょうか。

山口:
レストランをご利用いただいたお客様からのフィードバックをもとに商品を改善していくんです。アプリの話になるんですけど、アプリってApp Storeのユーザーレビューをもとに機能改善していくのが普通ですよね。でも飲食業界にはなかった。

そこで、アプリのアップデートのプロセスを、そのまま飲食業界でも応用すればいいと考えたんです。
たとえばキッチンべース直営店の「チキンオーバーライス」という店舗では、デリバリーしたお弁当と一緒に、アンケート用のQRコードを届けて、回答されたら全てSlackに飛んでくるように設定する施策を行っています。SNSアカウントへのリプライが来た際も、Slackに飛ばして、随時コメントを確認するようにしています。

画像提供元:キッチンベース

そうやってお客様の声をしっかり拾って、メニューを改善していく。そうすることで、よりお客様の要望に応えられるんです。

SNSの活用は、従来の業界常識を破る経営に繋がる?

いいたか:
素晴らしい取り組みだと思います。キッチンベースさんはTwitterもInstagramも公式アカウントを持ってらっしゃいますよね。

山口:
はい。Twitterでは、キッチンベースに関わるさまざまな方たち、例えばキッチンベースのビジネスモデルに共感してくれる人、将来参画してくれそうなレストラン運営者、キッチンベースで注文していただいたお客様などに向けて発信してます。

発信内容は料理に関する情報や、レストラン運営者様向けにキッチンベースのコミュニティに入ることによるメリットをレストラン経営者様向けに伝えていますね。立ち位置としては、「あらゆるステークホルダーに対応できる、マルチに動いてくれる営業マン的」といった感じでしょうか。

Instagramも運用していますが、そちらはビジュアルベースで、料理の写真がメインです。今お話ししたようなデータ分析やビジネスモデルなどの話はInstagramでは伝えにくいし、Instagram上のユーザーにも求められていない。しかしTwitterならそのような情報を求めている人がいるので、発信する意義があります。

いいたか:
なるほど、面白いですね。

とはいえ、SNSってそもそもユーザー同士がコミュニケーションをする場であって、企業はそこに入れないんですよね。それを考えると、こちらかの発信も大事かもしれませんが、いかに注文してくれたユーザーが発信してくれるのかということに着眼点を置く必要はあると思います。
シンプルな話をすると企業アカウントの発信なのか、 フォローしている人の発信なのかによって受け手の感情は全く違いますよね。情報爆発の時代において、「誰が言っているか」がとても重要になっていますし。


いいたか:
山口さんは、飲食店は今後どのようにSNSを活用していけばいいと感じていますか。

山口:
個人的には、今後は受動的にお客様にご来店いただくのを待っているのではなく、SNSで能動的に発信して、来て欲しい人に来ていただく流れが増えていくと思います。

いいたか:
同感です。先日sioの鳥羽シェフにも取材したんですが、レストラン経営をしていらっしゃる立場としても、飲食店側が積極的に情報発信していく必要性は仰っていました。

愛の想像力を持てているか?誰に向けて事業を動かしているか?――sio鳥羽シェフの情熱的仕事論

山口:
人通りが多い立地にお店を建ててセレンディピティを期待する時代ではなくなりつつあるかなと。SNSで自分のレストランに関する情報を発信して、自分でお客さんを選べる時代になっていく気がします。SNSを活用すれば、飲食店さんと、その飲食店を本当に求めているお客様とがマッチングしやすくなりますよね。

その辺りは、Mr.CHEESECAKEの田村さんがめちゃくちゃうまくやってると思います。

※Mr.CHEESECAKE田村さんの取材記事はこちらから。

【前編】始まりはInstagramの投稿から―大人気店「Mr. CHEESECAKE」代表・田村さんとSNSの付き合い方

【後編】Mr. CHEESECAKEが提供しているのは「時間」だ。本物のブランドであるために田村さんが考えること

いいたか:
そうですよね。この連載で田村さんや鳥羽さんとお話しさせていただいて感じたのは、お二人ともこれまでの飲食業界とは明らかに違う思考を持っていること。

飲食の人って、良いものを作って、決まったキャパの中でどれだけ回せるかを考える。でも、それだと売り上げの上限は決まっているじゃないですか。

鳥羽さんや田村さんはそうじゃないよと。鳥羽さんはレシピを無料で公開して結果的に店舗の集客を強化しているし、田村さんは店舗を取り払って生産体制を強化し、どんどんキャパを広げようとしている。
限られたキャパを埋めて、満席になれば満足という考え方ではないんですよね。今後は従来の業界常識にとらわれない思考で経営していく流れの方が、大きくなっていく可能性はあるかもしれません。

個人店が、大手飲食店と平等に戦える環境を整備したい

いいたか:
2店舗目も出していて好調だと思いますが、事業として手応えは感じているでしょうか。

山口:
問い合わせ自体は、それほど多くなっているわけではないです。ただ、「ゴーストレストラン」や「クラウドキッチン」という概念が少しずつ認識されつつあると感じています。以前は、レストラン運営を希望されている方との商談時にしっかり説明しなければいけませんでした。最近は理解されている方がほとんどになってきましたね。

いいたか:
競合もいくつか出てきていると思いますが、クラウドキッチンとしての優位性は?

山口:
さまざまな企業と連携して、個人店でも大手のようなリソースを使える状態を目指している点ですね。
例えば、ある飲料メーカーさんの自動販売機をキッチン内に置いて、テナントさんはボタンを押すだけでドリンクを仕入れられるような状態にするイメージです。

個人の飲食店がどんどん潰れてしまう現状は悲しい。でも、コミュニティを形成し、しかも業態がデリバリーであれば、勝ち筋はあると感じています。

いいたか:
個人店でも大手飲食店と平等に戦えるようになるためには、他にどのような要素が必要でしょうか。

山口:
分業体制の確立ですね。大手の場合だと、店舗開発する部門と、商品開発する部門とってきっちり分けられてるじゃないですか。でも個人店ではオーナーが全部やらなければいけない。

そこに僕らが入ることで、オーナーは本来集中するべきメニュー開発や調理に集中できる。個人店でも分業できる状態になるわけです。

いいたか:
サポートに回ることで、より本質的な業務に集中できる体制を間接的に提供しているということですね。

あとはSNSやTVを見ていても思いますが、SNSきっかけで行列店になるっていう事例もありますよね。
今年NHKの「逆転人生」にSNS専門家として出演したのですが、その時に取り上げられていたのが、奈良県に1店舗だけあるとんかつ屋の「まるかつ」でした。スマートフォンとSNSが登場したことで、こういった事例が出てきています。大手飲食店でなくても、色々とやり方はあると感じますね。

※まるかつさんの取材記事はこちらから。

たったひとつのツイートから始まった軌跡-奈良のとんかつ店「まるかつ」さん

最後に、現在コロナ禍によって飲食業界が変革を迫られています。飲食業界のマーケターが、時代の変化に対応する上で意識していくべきことを教えてください。

山口:
今の僕たちって食事を原価で決めている気がするんですよね。

家でご飯を食べるか、それとも外で食べるか? となったときに、瞬間的に「家で食べるなら幾ら、外で食べるなら幾ら」という思考が働いているんじゃないでしょうか。

で、最終的に消費者は安い方を選択するんですよ。「原価至上主義」みたいな言い方が合っているかは分かりませんが、その思考を飲食店は一旦なくした方がいいと思います。そうしないと、飲食店自身に未来がないというか。

山口:
要するに、付加価値をどうやってつけるか? という話です。僕たちの場合は、それがデリバリーという形でした。
店舗形態を中心に展開している企業からすれば、「これから付加価値をどうやってつけていけばいいのか?」という点は、課題になるでしょうね。

Mr.CHEESECAKEの田村さんはキッチンベースのアドバイザーなんですが、彼も「安さだけで売上を出さない方法を考えていかないと難しい」ということは仰っていて。
例えば高価格なメニューであえて売る、ということも思い切ってやらないと、日本の飲食はしんどいだろうと思います。

これからの時代は、飲食店を単純に「食べる場所」「飲む場所」というふうに考えなくてもいいんじゃないでしょうか。飲食店を人が集まる場、つまり「コミュニティ」として捉えて事業展開していく方法もあると思います。

どれだけ色んなビジネスチャネルを作れるか。そういった視点で考えてみるといいんじゃないかなと、僕は思います。

――山口大介さん、本日はお忙しいところありがとうございました。

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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