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この記事の内容
各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルたちとホットリンクCMO・いいたかゆうたが、2020年以降のSNSマーケティングのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。
今回のゲストは、SNSでの発信をきっかけに圧倒的な人気を獲得した「Mr. CHEESECAKE」代表の田村浩二さんです。
販売はD2C形式で、公式オンラインショップから毎週日曜と月曜の2日間のみ発売しています。
参考:Mr. CHEESECAKE
販売開始の10時になった瞬間には注文が殺到し、毎回5分も経たずに売り切れてしまうとのこと。
チーズケーキ有名店は多数あるにも関わらず、なぜMr. CHEESECAKEはこれほどまでのファンを獲得できたのでしょうか。その核心に迫るべく、Mr. CHEESECAKE創業のきっかけやブランドに込める思い、そしてコロナ禍における飲食業界の新しい可能性について聞いてきました。
後編はこちらから。
【後編】Mr. CHEESECAKEが提供しているのは「時間」だ。本物のブランドであるために田村さんが考えること
いいたか: もともとTwitterではお互いに繋がっていたので、「いつか会えるだろうな」と思っていました(笑)。料理人の方ってあんまりSNS発信が盛んな印象はないんですけど、田村さんはすごく積極的にTwitterで情報発信されてますよね。SNSでの発信に意識が向き始めたのはなぜですか?
田村: 2016年にフランスから帰ってきて、都内のレストランのシェフに就任したときがきっかけですね。僕が3人目のシェフだったんですけど、一般的には、レストランのシェフが変わってもそんなに注目されないんですよ。僕がシェフになってからも、前のシェフが作っていると思われていた。
僕は有名になりたかったので、なんとか僕が作っていることを知って欲しくて。「取材に来てくれないなら自分で発信するしかない」と、FacebookやInstagramで発信を始めてみました。
そしたら知人に「文章書くの好きならTwitterもやりなよ」と言われ、Mr. CHEESECAKEを始める少し前にTwitterを開設して。そのタイミングでnoteも始めましたね。当時はnoteが今ほどメジャーではなかったし、料理人でnoteをやってる人は僕以外いなかったので、新規登録者のレコメンドに選んでもらうこともありました。
参考:田村浩二(タム3)Food Expander「note」
Twitterは、最初は何を呟けばいいかわからなかったけど、一般の方が知ったら嬉しいだろうなという料理のコツや情報発信から始めましたね。
思い返すと、Mr. CHEESECAKEを知ってもらえたのも結構Twitterが大きかったと思っていて。僕はしおたん(塩谷舞)を「Twitterの救いの神」と呼んでるんですけど、もともと僕のレストランに食べに来てくれてたんですね。Twitter始めてすぐしおたんとも繋がったんですが、あるときニンニクオイルの作り方をツイートしたら、しおたんが引用リツイートしてくれたんです。
しおたんってフォロワー数がすごく多いので、引用リツイートしてもらったら僕のアカウントも知られてフォロワーが1,000人ぐらいに増えました。それぐらいの時期にMr. CHESSECAKEがスタートしたんです。
その後「ヨーグルトに一晩ドライマンゴーを浸したら美味しいよ」というツイートをしたら16万いいねがつき、一気にフォロワーも1万人になりまして。そこでMr. CHEESECAKEも一緒に知ってもらえたこともありました。
いいたか: 田村さんがやってることって、知らない人に情報を届けることですよね。今の話でいうと、ニンニクオイルとかヨーグルトマンゴーのレシピが認知のきっかけになってる。
いいたか: ユーザーの購入意欲って、例えばSEO検索で調べて検索するより、ユーザーが喜ぶコンテンツ経由で認知した方が、圧倒的に上がるんですよ。なので、田村さんがコンテンツの発信をやられてるのはめちゃくちゃ正しいと思います。
田村: ただ、フォロワーの話でいえば、僕はやみくもに数を増やせばいいとは全く思ってなくて。本当は、レシピや料理に関するテクニックのことだけツイートした方が伸びるんですよね。
だからあえて料理以外のことやくだらない内容も呟くんです。そうすると僕個人に興味を持ってくれる人だけが残って、何かあったときにも応援してくれたり、新商品を出したときに情報を見てくれたりする。そういう本質的なフォロワーがいてくれる方が僕は好きですし、そこの繋がりからまた面白いことが生まれると思っています。
いいたか: 超共感します。僕も単純にフォロワー数を増やすというよりも、ちゃんと「意味のある数」にしないとダメだなあと思ってて。自分が発信する内容の受け手が「誰」なのかを考えることは、重要だなと思います。
いいたか: Mr. CHEESECAKE創業はInstagramの投稿がきっかけと聞いてるんですけど、そこまでの経緯を改めて聞きたいです。
田村: 仰る通りで、最初は事業として始めたわけではないんですよ。
約13年間フレンチレストランの業界で料理人として働いてきて、2018年に名誉ある賞も頂いてすごく嬉しかったのですが、その結果何が起きたか。業界の方や食通のお客様の来店頻度がかなり増えたのですが、半数ぐらいは料理を楽しむというより、品定めに来られていたんです。
その様子を見ていると、誰のために、なんのために料理を作っているのか? わからなくなってきました。そこからなぜ料理の道に進もうと決めたのかを、思い返してみたんです。
田村: 高校時代、親友の誕生日に何かプレゼントをしたかったのですが、僕は野球に打ち込んでいたのでバイトをする暇がなくお金がなかった。
だから家でケーキを焼いて、学校に持って行って親友にプレゼントしました。親友もほかのクラスメイトもみんな「おいしい」と喜んでくれて。その瞬間に、料理人になろうと決めたんですね。
もともと野球でプロを目指そうと思っていたのですが、大学の野球入試に落ちて野球を諦めました。だから、料理の世界ではトップになりたかった。
シェフかパティシエかで迷ったのですが、フレンチならデザートも含めて料理をひととおり学べるので、シェフを選択しました。 必死に修行を積んでましたが、いつの間にか評価を得ることが目的になってましたね。僕の原点や幸せは、自分が作った料理で人に喜んでもらえることだったと、その時期に思い出したんです。
いいたか: シェフを目指した原体験を掘り返るとケーキが関わっていたと。
田村: はい。僕の母は誕生日に毎年チーズケーキを焼いてくれていたんですが、自分の料理で人を喜ばせたいと思ったとき、誰よりも自分が美味しく作れて、多くの人が好きなケーキってなんだろうと考えたらチーズケーキしか浮かばなかった。
田村: 本格的に作っているうちに納得のいくチーズケーキができたので、「これは知ってもらおう」とInstagramのストーリーズに載せてみたんです。そしたら6人から「買いたい」と連絡があり。
そのうちの1人がいわゆるインフルエンサーで、チーズケーキをInstagramとブログに載せてくれたんですが、急に若い女性のフォロワーが増え、問い合わせのDMが大量に来ました。そこから本格的に販売を始めることにしたんです。それが2018年の4月5日ですね。
いいたか: いってみれば、Instagramのクチコミから事業が始まった感じですね。
田村: そうですね。でも3週間ぐらいできつくなったので、ブランドコミュニケーションの設計などをやられている市川渚さんに「BASE」をオススメしてもらい、そこで売ることに。
事業を始めて1か月ほど経ったときエルメスさんという美容系インフルエンサーの方が商品をツイートしてくださったところ、急に150本ぐらい注文がきまして。1日16本しか作ってなかったんですが、10日分売れてしまったので一旦止めました。
いいたか: 事業開始のきっかけがInstagramだったり、しおたんさんに引用リツイートされたり、レシピ投稿でバズって認知を得たり、エルメスさんがUGCを出してくれたりと、随所随所でSNSとの相乗効果みたいなことが起きてたんですね。
田村: 確かにタイミング、タイミングでSNSのインフルエンサーの方々に取り上げて頂いたってところはありますね。
いいたか: それも、良い商品だということが大前提にあるからだと思います。
田村: ありがとうございます。エルメスさんの拡散で一気に在庫が消えてからも、問い合わせは多数ありました。でも、即生産体制を増強するのは無理だなと。
そこで「週に1回買えるチャンスはあるけど、買えるかどうかはわからない」もしくは、「必ず買えるけどいつ届くかはわからない」の2択を用意して、ユーザーにどちらが良いか聞いてみたら、前者が多かった。そのときのユーザーの声が、今の週2日販売に繋がっていますね。
いいたか: 生産が追いつかない状態でもユーザーのリクエストに応えるための手段として生まれたんですか。チーズケーキ1本に絞ろうと決断したのは、どういう経緯で?
田村: レストラン自体はすごくうまくいっていました。ただ、レストランって客席が決まっているので、1日あたりの来店数には限界があるんですよ。客席が決まっている以上、売上には超えられない壁があります。10年も続ければ自分の腕は絶対上がるのに、売上と比例しないと考えたら、これは自分にとって本当に幸せな働き方なのかと考えたんです。
田村: 一方で、オンライン販売しているチーズケーキは客席の概念がないので、売れた分だけ売り上げが伸びていきます。
レストランの勤務は週6日で、8時から23時まで働き通し。Mr. CHEESECAKEは、1日8時間ほど働けば収益的には問題ありませんでした。 もし、これから自分で店を持つ場合は5000万円ほど借りなければいけない。でもチーズケーキ用の小さなキッチンなら1000万円ほどで十分。
レストランという職場には慣れ親しんでいたのですが、自分の未来を見たとき「失敗するかもしれないけど、オンライン販売に賭けたい」と思ったんです。 それで2018年7月でレストランを辞め、Mr. CHEESECAKEを本格生産するために一旦販売を停止している間にキッチンを準備して、2018年12月から再開しました。
いいたか: 現在は、スタッフさんも結構増やして生産体制を強化しているんですよね。
田村: はい。でも、まだ需要が上回っている状態です。僕はあえて販売数を絞って需要が上回っているように見せる品薄商法は大嫌いですし、今は販売開始5分ほどで売り切れてしまうので、今の状態は早く脱したいと思ってます。
でもすべて手作業で作ってますし、スタッフの健康維持のためにも、急に数は増やせません。飲食業界は長時間労働で残業代ナシが常識ですが、Mr. CHEESECAKEは一般企業と同じく、平日5日勤務の1日8時間労働にしてます。整備された労働環境のうえで、真っ当に作れる生産を維持したいので。
いいたか: 素晴らしいですね。顧客視点を重視しながら、従業員も大事にしている。実践できている企業は貴重だと思います。
後編では、Mr. CHEESECAKEの顧客体験やブランドに対する思想を深堀りします。また、コロナ禍によってD2C販売も注目されているなか、飲食業界はどのように変化していくのか? 飲食×SNSの可能性についても語っていただきました。
今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。
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