SNSコラム

ニューバランス・鈴木健さんに聞くSNSマーケティング。Instagram施策を通じて見えたインフルエンサーとフォロワーの関係とは【前編】

2020年03月10日
アパレル業界向け | ザ・プロフェッショナル

最終更新日:2021年5月13日

各業界のマーケティング分野で活躍する様々なプロフェッショナルたちとホットリンクのCMO・飯髙が、2020年以降のSNSマーケティングのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」

第1回目のゲストは、株式会社ニューバランスジャパンのマーケティング部ディレクター、鈴木健さんです。

前編では、ニューバランスジャパン社が実施したSNSマーケティングの施策事例やそれを通じて鈴木さんが得た気づき、そしてスポーツシューズをはじめとする業界のトレンドサイクルについてご紹介します。

鈴木健。株式会社ニューバランスジャパンマーケティング部 ディレクター。1991年、広告代理店の営業としてキャリアをスタートし、2002年ナイキジャパンでWeb・PR・ブランドマネージャーなどを経験。2009年よりニューバランスジャパン。ブランドマネジメントやPR、広告などマーケティング全般のほか直営店やEC事業責任統括も勤める。

後編はこちら。

「運用疲れ」を覚える人も増えてきた――。やるべきは、SNSを評判の増幅装置と捉えるマーケティング【後編】

ニューバランス社のマーケティングにおける、SNSの立ち位置

飯髙悠太(以下、飯髙):
ニューバランスさんもマーケティング活動でSNSを活用してると思うんですが、会社としてはどのようにSNSを位置づけてますか?

鈴木健(以下、鈴木):
メディア的なアプローチとしての活用が多いです。

SNSって、もともとはコミュニケーションツールという意味合いの方が大きかったとは思うんです。後からメディア的な意味合いも見出す観点が出てきて、コミュニケーションツールとメディアの中間的なものに変化していったと思ってます。

ニューバランス本社の方向性としては、そうしたSNSの特性を踏まえたうえで、コミュニケーションツールというよりメディアバリューとしての観点で捉える方に振り切っていますね。

あえて靴以外の商材を使ったInstagram施策を実施

飯髙:
これまでにニューバランス社としてSNSマーケティングに取り組んだ施策事例ってあります?

鈴木:
スポーツ選手やタレントなどのインフルエンサーではなく、Instagram上で発信を行っている、いわゆる一般人としてのインフルエンサーを起用した施策なら、過去にやったことがありますよ。

アドホックとしての位置づけだったんですが、今思い返すと、一般人のインフルエンサーを活用したマーケティングって僕は時間をかければ面白いことができるかもしれないと考えていて。

飯髙:
どんな感じの施策だったんですかね?

鈴木:
Instagram上でニューバランスのダウンジャケットに関する投稿をしているユーザーをひとり一人ピックアップしてDMを送り、メディア向けのプレスイベントに招待する施策でした。

飯髙:
「ニューバランスといえば靴」というイメージが真っ先に浮かぶと思うんですけど、ダウンジャケットですか? 

鈴木:
はい。仰るとおり、ニューバランスって靴がメイン商材なので、やはり靴好きなお客様が多いんですね。

だからこそ、メインではない商材を使った施策を展開してみたかった。お客様が靴以外の商材をどのように使っているのか、どのようなクラスタの方々がご購入くださっているのか知りたいという動機があって。

あと、せっかく一般人のインフルエンサーを起用するのであれば、顧客にとっても我々にとってもなじみの深い靴を商材に選んでしまうのは面白くないし、新鮮さがないなとも思って。

Instagramのインフルエンサーが注目されているのは、その人独自の視点や文章である

飯髙:
なるほど。施策を実施してみて、鈴木さんが「面白い」と感じたポイントはどこにあったんですか?

鈴木:
プレスイベントに招待したインフルエンサーには投稿内容の指示などは出さなかったんですが、イベントに関連する投稿をしてくれた人のポストを見にいくと、興味深いことが発見できて。

鈴木:
インフルエンサーとフォロワーの関係構築やコミュニケーションの基本って、TwitterだとRT(拡散)やいいね!を押すことだと思うんですが、Instagramはそれがコメントだと思ったんですね。インフルエンサーとフォロワーとの関係値をコメントから推測できる。それがすごく面白くて。

2018年10月27日から9日間限定で原宿にオープンした「New Balance DOWN JACKET COLLECTION POPUP STORE」に伴った施策

鈴木:
アップされている写真自体はハイクオリティというわけでもないんですけど、写真やキャプションの文章などからその人らしさは漂っているんですね。

そこで気づいたんですが、フォロワーが重視しているのは写真のクオリティや美しさよりもその人がどういう視点で見ているのか・書いているのか、なんじゃないかと。

そのインフルエンサー独自の視点や文章に細かく反応して、エンゲージしている。僕はそこがとても面白いと思いました。

飯髙:
なるほど。その気づきを通じて、InstagramとTwitterのユーザーの違いが垣間見えたような印象ってありました?

鈴木:
そうですね。Twitterはどうしても拡散性が高いので、自分の投稿が全く知らない不特定多数の人たちにも見られるじゃないですか。

一方で、リポスト機能があるとはいえTwitterほどの拡散性はないInstagramには、不特定多数に自分の投稿が見られることに抵抗がある人が集っている印象は受けましたね。

「好きな人や見てほしい人たち以外には見られたくない」心理がよりはっきりしているのは、Instagramユーザーの方かなと。
ある程度きちんとしたコミュニケーションを築き、関係値を高くしないとリーチやエンゲージを獲得するのは難しい面もあるとは思いました。

印象に残ったTwitter担当者の「初めて顧客と直接喋っていると思った」の一言

飯髙:
Twitterはどうですか? 何か過去に取り組んだ施策などありました?

鈴木:
Twitterが世の中に登場し始めたころの事例ですが、あります。

現在は撤退してしまったブランドプロモーションの話なんですが、Twitterアカウントの持ち主だけが見られる限定コンテンツを配信しまして。

当時、毎回パターンの異なるTVCMを1日に1回だけ放送していたんです。ある特定の時間帯にTwitterからURLにアクセスすると、そのCMのメイキング映像を視聴できるというキャンペーンだったんですが、CMが放送されていた当時は東日本大震災前後の時期で、まだプロモーションにTwitterを使うことが一般的ではない時代で。

正直「反応してくれる人いるのかな?」とは思いましたけど、「でもまあ面白いからやってみよう」ということで、GOを出したんですね。
それが、ふたを開けたらものすごい勢いでアクセスが集中してしまい、サーバーがダウンしてしちゃって(笑)。

飯髙:
(笑)予想外にすごい数の反応をもらったんですね。

鈴木:
そのうち、公式アカウントに不満の声が寄せられてきて。アカウントの運用担当者は僕の部下で、それまでは特にリプライなども返していなかったんですが、この時は流石に「今サーバーを増強しております」など状況を逐一報告するツイートを投稿してました。

すると段々「頑張って対応してくれているんですから、まあまあ」などの同情の声も届き始めて(笑)。

飯髙:
炎上回避策としては、その初動の速さや丁寧な対応はお見事ですね!

鈴木:
炎上騒ぎには至らなかったんですけど、運用担当者が言った一言が印象深かったです。

彼いわく「初めてお客様と直接喋っていると思いました」、と。

そのキャンペーンを実施するまでは企業アカウントとして一方通行的に情報を発信するのみだったんですが、彼の発言を聞いて「確かにSNSってそういうものだよなあ」とは思いましたね。

飯髙:
思いがけずSNSの原点的なことを体験するようなキャンペーンになったんですね。

鈴木:
はい。弊社のSNSアカウントはお客様とのコミュニケーションツールではなくメディア的アプローチとして使っていると言いましたけど、お客様とのコミュニケーション設計という点に関しては、SNSはやはり活用の余地があると思います。

さっきのダウンジャケットの訴求をテーマにしたInstagram施策ですが、時間に余裕がない中で実行したので「もう少し早めに着手していれば、施策展開から得られた調査結果やデータ、仮説をもっと活用できたかもしれない」とは思ったんですよね。

鈴木:
というのも、ダウンジャケットには季節商材という特性がある以上、クラスタごとに反応や言及をするタイミングが異なることがわかって。

ダウンジャケットの発表時期ってだいたい夏ごろなんですが、夏に反応するクラスタと、寒くなってから反応するクラスタに色分けすることができたんです。

「であれば、この時期にはこちらのクラスタにアプローチを仕掛けた方が良いのではないか?」という提案や話し合いまで丁寧に出来ればよかったんですけど、あいにく時間の都合上そこまではカバーできず。

とはいえ、同じ商材でもそれを求めるクラスタによって色分け可能なんだと分かったことで、「ライフスタイルや興味関心の対象は個々人によって違う」と改めて認識できました。

ブランドにとって「お客様の生活の中にどう入り込んでいくべきか。どのようなコミュニケーションが一番適しているのか」を考えることは、非常に重要です。

時間に余裕がなかったという課題はありましたが、お客様との最適なコミュニケーション設計を考える機会に活用できたと思ってます。

靴業界のトレンドは毎年一定のサイクルに準じて回っている

BuzzSpreader powered by クチコミ@係長を操作する飯髙と画面を確認する鈴木さん

飯髙:
今10%のサンプリングデータで「ニューバランス」のワードでクチコミ件数を確認しているんですけど、年間で16,722件もクチコミ出てますね。

対象メディア:Twitter10%サンプリング
検索ワード:ニューバランス
分析期間:2019/02/27〜2020/02/27

飯髙:
オーガニックツイートは全体の50%の割合を占めています。数でいうと、8,493件ですね。

対象メディア:Twitter10%サンプリング
検索ワード:ニューバランス
分析期間:2019/02/27〜2020/02/27

鈴木:
人気に火がついて、いわゆる「流行っている」と言われていたのは2013年~2015年ぐらいですね。
今は少し落ち着いてはいますが、業績自体は上がっており、流行が終わったとされた後も落ちませんでした。

飯髙:
今年はニューバランス、次の年はアディダス、その次はコンバースなど、スポーツシューズって数年おきにトレンドが変わっている印象があるんですが、スポーツシューズのトレンドサイクルってどんな感じで回ってるんですか?

鈴木:
実は、スポーツシューズメーカーって競合がそれほど多くないんです。

それ以前に、靴業界全体のトレンドサイクルって毎年割と一定なので、時期によって売れるブランドや商材がはっきり分かれている部分があるんですね。

飯髙:
トレンドが一定しているというと、時期要因とか季節性が関わってるんですかね?

鈴木:
そうですね。例えばスニーカーが最も売れる時期って春なんですが、ブーツは秋冬です。ランニングシューズの場合は、ランニングって秋冬に始める人が多いので春夏はあまり売れない。あとは、入学式シーズンは学生向けの商品が売れるなど、日本特有の行事に準じて購買層や売れる商品も変わります。

こういった要因が重なって、売れるブランドが毎年変わるといった激しい変化は実はあまり生じないんですね。もちろん「流行」というものはありますけど、イメージほどには変わらないんです。

飯髙:
なるほど。ある程度一定を保ったトレンドのパターンに応じて、マーケティング施策を打ち出している感じなんですね。

鈴木:
はい。やっぱり、シーズナリティなどの部分に関しては靴業界よりもアパレル業界の方がもっと細かいです。対して靴のトレンドは毎年ある程度の一定を保っていることもあり、年間を通して比較するとアパレル商品よりも靴の方が安定して売れる傾向もある。

また、アパレルはトレンドの移り変わりが激しい分、どうしても在庫の消化期間も短くなっちゃいますけど、靴は在庫の消化期間に関してもアパレルほど厳しくない。そういった意味でも、あまり靴業界って乱高下しないんですね。

飯髙:
ブランドの規模が拡大して展開する商品が多くなれば、商品ごとの季節要因も違う分、マーケティング施策の打ち数やコントロールの方法も増えてくることはありますか?

鈴木:
というよりも、知名度が高いなどの理由からブランドが力をつけていく影響の方が大きいと思います。

力のあるブランドってどんどん拡張できるので、中長期的には拡張すればするほど安定していく傾向もあります。
例えば、サンダルを出してる某有名ブランドって実は拡張が難しいんです。スニーカーも発売してはいるんですが、どうしてもサンダルのイメージが強すぎて市場に浸透しない。

飯髙:
ブランドのポジションが強すぎると、それはそれで市場の規模を拡大したり既存のイメージから脱却するのが、ある意味難しくなる一例ですね。

鈴木:
そう。なので、スポーツシューズって靴の中でも最もお客様とのタッチポイントが多いから一番マーケティングやブランディングがやりやすいんです。ターゲットも老若男女問いませんし。

スポーツ用品業界のマーケティング課題は、商品購入後のデータ収集

飯髙:
スポーツ用品業界のマーケティングって、何か特徴ありますか?

鈴木:
特徴というか、これは課題なんですが、スポーツ用品ってお客様に「どう使い続けて頂いているか?」という部分が実は重要なんです。でも、肝心のその部分を知れるデータの収集が難しいんですよ。

例えば、アフィリエイターなどは購入直後の商品レビューは書いてくれるんですけど、購入直後からある程度時間が経ってからの感想や、実際にどのような使い方をしているのかという情報に関しては、なかなかレビューが書き込まれない。

そもそもレビューを書きたくない方もいらっしゃいますし、購入直後はレビューを書いてくださっていても、使い続けているうちに商品に不満が出てきて書かなくなってしまったという方もいらっしゃる。参考になるデータを定量的に収集するのが困難なんです。

飯髙:
それはスポーツシューズも同じですか?

鈴木:
同じです。とくにランニングシューズは履き潰されちゃうんで、その分買い替えも頻繁に起こるから、スポーツ用品の中でも一番マーケットが大きい。

買い替えに伴うデータや参考となる情報は絶対にあるはずなんですが、その情報を公表するお客様の母数が少ないので、収集に苦労しています。

飯髙:
僕はスポーツが趣味で、サッカーやランニングの習慣もあるんですが、そう言われてみると、自分が履いている靴のことはSNSで言わないですね……。

「走ってきた」などの言及をする時には、シューズの画像つき投稿をしたとしても、どのブランドのシューズを使っているかまでは言わないです。

鈴木:
それは何でですかね?

飯髙:
恐らく「この店は人に教えたくない」という心理に近いっていうのもあるけど、結局はわかっている人が見ればわかるってこともあると思います。
心理のとこで言うと、自分が履いているものを人に教えた結果、その人が僕より早く走れるようになっちゃったらイヤじゃないですか(笑)。

鈴木:
(笑)なるほど。

飯髙:
そういう心理って、多分スポーツ用品ユーザーにはあると思いますよ。何のブランドを使っているのか言うことによって、なんとなく価値が下がってしまうような感覚というか。

ただ、スポーツ用品に関して言及するきっかけがあるとすれば「誰々モデル」は言いやすいと思います。例えば本田圭佑モデルが発売されたとすれば、「一回履いてみようかな」という気持ちは喚起される。

でも僕自身に関して言えば購入後の「良かった/悪かった」などの感想は言わないですね。購入頻度が落ちていなければ、ニューバランスさんへのブランド愛が大きいという捉え方になってくるかと思いますけど、確かにデータ収集に関してはアプローチが難しいところではあるんでしょうね。

鈴木:
はい。だから、この見えないデータや情報が可視化される仕組みが出来上がるといいなあと。スポーツ用品業界のマーケティング上の課題というと、やはりここがネックかと思うので。

 

――後編では、鈴木さんと飯髙が「ブランディング」についてディープに語ります。SNSマーケティングについて世間が誤解しがちなことに関しても意見を交わして頂きました。

後編はこちら。

「運用疲れ」を覚える人も増えてきた――。やるべきは、SNSを評判の増幅装置と捉えるマーケティング【後編】

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍する様々なプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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