SNSコラム

Mr. CHEESECAKE田村浩二が語る、ブランド論。「売り切れて、買えない」を目指したわけじゃない #ザ・プロフェッショナル

2021年09月30日
ザ・プロフェッショナル | 食品業界向け

最終更新日:2022年9月20日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルとホットリンクCMO・いいたかが、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。

今回のゲストは株式会社Mr. CHEESECAKE 代表取締役 田村 浩二さんです。

前回のインタビューから、約1年。その間、世界は大きな変化を経験しました。Mr. CHEESECAKEさんもホットリンクも、例外ではありません。

今回の記事では田村さんの「思想」の部分、ブランドとしての立ち位置の変化、いま発信すべき本質的なメッセージ、といったお話について詳しく伺っています。(インタビュー・編集:澤山モッツァレラ[ホットリンク] 執筆:サトートモロー 撮影:小林一真)

田村浩二(たむら・こうじ) Mr. CHEESECAKE代表/料理人。調理師専門学校を卒業後、都内のフレンチレストランを3店舗経験。その後渡仏し、ミシュラン三ツ星・一ツ星レストランで修行、2016年に帰国。帰国後は、世界最速でミシュランを獲得した都内のフレンチレストランでシェフを務める。2018年には、ミシュランと肩を並べるレストランガイドブック『ゴ・エ・ミヨ ジャポン』が設ける「期待の若手シェフ賞」を32歳で受賞。シェフとして順風満帆なキャリアを歩んでいたが、2018年に方向転換しMr. CHEESECAKEを創業。現在は自らを「Food Expander」と呼び、食に関する事業を複数手がけている。Twitter

※編集部注:被写体がマスクを外している写真では、周囲に人がいないことを確認して撮影時のみ外しています。インタビューは、すべてマスク着用で行なっています。

「買えない」ブランドを作りたいわけじゃない。

澤山:
約1年ぶりのインタビューとなります。この間、本当にいろいろなことがありましたね。

田村:
そうですね。特にこの夏はオリンピックが開催されたこともあり、人のアクションが明確に変わりました。

自粛期間が長かったこともあって、人の意識が明確に「外」に向いていますね。購入アクション見ても、変化を感じます。

澤山:
オンラインでの購買にも、変化が出ているんですね。消費者が、おうち時間に飽きている部分はあるんでしょうか?

田村:
あると思います。「旅行したい」「外で遊びたい」という声は増えましたし、グランピングやキャンプなどのアクションを起こしている人も多いですよね。

今回「Mr. CHEESECAKE YOUR CITY」と題し、全国8カ所でポップアップストアを順次オープンします。これ以外にも、今後どうアクションを積んでいくかは常に検討しています。例えば「冷凍だから持ち運びにくい」という声に対して、持ち運びの負を取り除いた商品を考えたり。

「ケーキは一通り食べたし、家で食べるのはもういいかな」と考える方も増えていると思うんです。そうした状況で発信すべきブランドメッセージとは何か。「おいしい」「話題性がある」ではなく、ケーキと過ごす時間をどれだけ大切に思ってもらえるか。

ブランドとして、本質的なメッセージが重要になるフェーズに入ったと考えています。

いいたか:
ブランドメッセージが重要になる中で、コミュニケーションに気をつけていることはありますか?

田村:
「売り切れて、買えない」ブランドになるのは違うということですね。

少し前まで、Mr. CHEESECAKEは「買えないからすごい」「幻のチーズケーキ」という取り上げられ方をされていました。初期はそれでも良かったと思います。そこで断って、露出しない選択肢はないですから。売り切れることで、購買意欲を高める側面もあったと思います。

ただ、やはり「ぜんぜん買えない」と思われるのはコミュニケーションとして間違ってますよね。

澤山:
売り切れる“から”良いブランド、ではないと。

田村:
お客様にケーキと過ごす時間を大切にしてもらいたい、コミュニケーションの潤滑油としてウチのブランドがあると思っています。

決して、「売り切れて、買えない」ブランドを作りたいわけではなくて。自分たちではそう言いませんし、「生産数を増やしました」という発信もしています。取材を受けるときも、なるべくその点は訂正をお願いするよう気をつけていますね。

フェーズに合った変化をしていく必要がある。

いいたか:
例えばすごく並んでいる飲食店があるとして、ものすごい行列に並びたいと思うか。

長く待って席について、食べたとして「また来たいな」と思うかどうか。そういう店って、どちらかというとリピーターより新規顧客の割合が大きいのかなって思いますね。

田村:
バランスですよね。例えば2024年まで予約でいっぱいのお寿司屋さんがあるとして、僕はあまり行きたいと思わないんです。

3、4年後に僕が寿司に対してどういうテンションかわからないし、お店にコントロールされすぎている感も好きじゃない。食べたいときに食べたいじゃないですか。だから、Mr. CHEESECAKEが売り切れて買えないことはイヤなんです。

「とらや」さんが、なぜ「とらや」さんとして存在しているか。そこには歴史があって、ひもづく価値があって、ブランドになっているから。買えないから、売り切れているからではないんですよね。

初期には、売り切れる時期も必要だと思います。でも、それだと30年は続かない。続いたとして、積み上がっていかない。そう思います。

澤山:
消費されて、途中で終わってしまうと。

田村:
長く続くブランドになるなら、フェーズに合った変化を考えないと。世界を目指すなら、日本で一定の売上があったうえで海外に先行投資できる状態が必要です。

販売数を絞った結果として売り切れるだけなら、ブランドも企業としての資産も積み上がらない。適切に積み上げられないと、大きな目標は達成できません。

いいたか:
本質的な価値がないと、続かないですよね。特別なタイミングでおいしいものを買いたい人も、定期的に冷蔵庫に入っていてほしい人もいるわけで。

数字のことだけ考えても、数字は作れない。

いいたか:
例えばBtoBのSaaSを見ていると、結局は資金難になって大きなところから借り入れ、アクセルを踏むのが王道になっています。

でも、そうなると思想が消えていくんですよね。Mr. CHEESECAKEのような形で戦っているところって、スタートアップではあまり無いかもしれません。

田村:
事業としての成長速度は大事です。けれど、トレードオフが大きい気がして。

知ってもらうためのアクションをして、いろいろな接点を持つことは必要。でも、ちゃんとブランドに返ってくる座組みを作らないと。3年後に「そういえばMr. CHEESECAKEってあったよね」じゃダメで。

シェフが作るチーズケーキって、たくさんありますよね。でも、レストランというメインの場があって、プラスで販売しているケースが大半です。「このケーキで、何かを成し遂げよう」と考えている方は少数派だと思います。

僕たちは、何かを成し遂げようと思っています。そこに懸ける意志や思いを、明確に持っていないと生き残れない。そう考えています。

澤山:
先日、DE牧野圭太さんをインタビューしましたが、同じような印象を受けました。経済合理ではなく、文化的価値を重んじる方向に行かないと長期的には生き残れない、というお話でした。

田村:
もちろん、難しいんですけどね。会社としては、数字を作る必要がある。でも数字を作ろうとして、数字のことだけ考えても作れないんですよね。

顧客が、どう幸せになるかだと思います。「ブランドを作ろう」で始まっていないからこそ、「おいしさを届けること」「ケーキを分かち合う時間は、忙しい日本ではとても貴重であること」といった価値観の発信を突き詰めたいです。

Mr. CHEESECAKEをいいと思ってくれる人が増え、会社として成長し、数字もついてくる。これが、本質的な流れだと思います。

いいたか:
僕も会社のマーケを見ていて思いますが、例えば「あるジャンルに大量にお客さんがいる、お金も払ってくれる、進出したほうが絶対にいい」という状況があるとして。

そこに参入することが、われわれにとって正しいのかどうか。それは、常に自問自答しています。ホットリンクらしさ、ホットリンクに頼む理由があるという構図を作れればOKだと思うんですけど。

ものづくりを極めるなんて、当たり前ですよね。

澤山:
伺っていて、「競合」という言葉が一度も登場しないことに感銘を受けています。

田村:
やっぱり「ウチのほうが**よりおいしい」は違うと思っていて。

世の中にはいろいろなスイーツがあり、それぞれに良さがある。皆が集まるときは、たくさんフルーツが載っているブランドがいいかもしれない。買いに行けないなら、オンラインでMr. CHEESECAKEを購入すればいいかもしれない。

必要なシーンで、必要なブランドとして選ばれるかだと思います。もちろん「A社の価値はここだから、ウチはここを伸ばそう」といった会話はしてます。でも、僕が言うのもヘンですが「ただおいしいから」で買う人はいませんよね。

澤山:
確かに。

田村:
僕は、おいしさのチカラを信じています。でも、それ以外のことも過信せずに考えるのが大事で。

作り手として、ものづくりを極めるなんて当たり前ですよね。もちろん、僕が海外で働いていたシェフだとか、そういう経歴は「効く」かもしれない。でも、それだけで買われることもない。当たり前に価値を高め、積み上げることが大事で。

いいたか:
近い話として、尊敬する経営者の方が言っていたことを思い出しました。「日本人って、すぐポジションマップを作りたがるよね」と。

僕らも、ポジショニングを作るときは8~10の軸を作ってそこに置いたりします。でも、その方は投資家に対し、自分たちが強い2軸だけを作り、そこに自社を置いて「弊社だけです、以上」というプレゼンをすると。

「これは、われわれにしかできない世界です。競合はいません」と。今のお話は、それに近いと思いました。横を見る必要はあるけど、見すぎると「ここに勝ちたい」というポジションを取りがちなんですよね。

田村:
比較していくと、わからなくなるんですよね。あと、マップって平面じゃないですか。でも実際は平面なわけがない。

いいたか:
奥行きも高さもありますから。

田村:
例えば、いま「高い/安い」の二項対立って存在しないんです。限りなく非日常に近い日常、日常的な日常、その合間の「ちょっとした非日常」がある。グラデーションがあって、そこに値段がある。これらは、一体で構成されています。

これを平面に当てはめると、意味不明なポジショニングができあがります。目指すも何もない、消費者にまったく関係ないものになる。

いいたか:
自分たちに都合のいいマップを作っちゃいますよね。「うまい/うまくない」とか。それって誰が決めたんだ、みたいな(笑)。

田村:
「マップのここにいる私たちは素晴らしい」ってなると、結果的に他社を落としちゃう。それは違いますよね。

まだ、送料に負けている。

いいたか:
Mr. CHEESECAKEとして描く理想が実現したら100点として、今どこまで来ていますか?

田村:
どうですかね……15点くらいですかね。

当たり前ですけど、歴史がないので。商品としては3年経ち、会社は10月で3期目が終わります。まだ何も成し遂げてないよなと。

話題になってるかでいうと、それなりに話題にしてもらえたとは思います。ただ、他のブランドさんからすると「生まれたばかりの小僧が何言ってるんだ」ですよね。

エルメスとか、そういうブランドになっていきたいと思うと、今の時点で何がどうとかあまり思わないですね。

澤山:
なるほど。

田村:
一つ思うのは、「まだ、送料に負けている」ということですね。

今回のポップアップのニュースでも、「送料かからないから買いに行く」という声がたくさんあるんです。単純に商品としての魅力と、送料無料サービスが多い環境への戦略で負けているのと、両方あると思います。

おいしさで突き抜けられていないのは、完全に僕のせいです。「めちゃくちゃうまい」という声があったら、絶対買うと思うんですよね。そこを打破できてないのは、単純に人の心が動くほどおいしいものが作れていないから。

もちろんコミュニケーションの問題、魅力が伝わっていないこと、いろいろあるとは思いますが。 

いいたか:
難しいなあ。

田村:
難しいですね、そこは。

いいたか:
それこそ、「Mr. CHEESECAKEを食べている時間が好き」という方向に振っていけばいいのかなと。ベースとなる「おいしい」という価値はあるわけなので。

エルメスやルイ・ヴィトンって、店内に入るときに何らかの価値や感情が生まれるじゃないですか。「やばい、奥さんの誕生日だ」とか「給料多めに入ったから、自分へのご褒美にしよう」とか。 

言うなれば、あのロゴやラベルを買いたいわけですよね。そこに「高い」という概念はない。「これを持ってる自分になりたい」というのは、最高の価値提供ですよね。

田村:
価格の影響は大きいと思うんですよ。数字のあるものを買いたい、身につけたい欲求はあると思うので。

そこと同じ作り方は、現実的にはできないと思うんです。例えば、Mr. CHEESECAKEを5,000円や6,000円にしたとして。

いいたか:
手が届く価格帯ですからね。

田村:
そうなんです。そこに手を動かしていない人がいること自体が、ブランドとしてはまだまだ足りないってことですね。

ハイブランドを買う人はたくさんいて、売上はめちゃくちゃ大きい。5,000円もしないものが買われてないのは、自分たちの力不足以外の何ものでもない。

そこを乗り越えてもらうコミュニケーションや、ブランドの価値をもっと僕たち自身が高めないと。まだまだダメだなって思います。

<10月にも、田村さんのインタビューを掲載します>

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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