SNSコラム

どれだけ小さくても、「そこにしかないもの」を。DE牧野圭太さん #ザ・プロフェッショナル

2021年09月28日
SNSコラム | ザ・プロフェッショナル

最終更新日:2022年9月20日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルとホットリンクCMO・いいたかが、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。

今回のゲストは、株式会社DE(ディーイー)共同代表の牧野 圭太さんです。

2021年1月に設立した企業名には、DECONSTRUCTION(脱構築)/ DERAILMENT(脱線)/ DETACHMENT(取り外す)などに代表される「DEの『脱』という意味を重要に考える組織でありたい」という思いが込められています。

「脱」という観点は、これまでのフィールドである広告業界にも及んでいるようです。牧野さんがどのような思いを抱えているのか、9/13にオープンしたKARASU COFFEE STANDにてお話を伺いました。(インタビュー・編集:澤山モッツァレラ 撮影:小林一真)

牧野圭太(まきの・けいた)/株式会社DE共同代表。1984年生まれ。博報堂に入社後、2015年に独立し文鳥社、株式会社カラスなどを設立。2021年1月より、株式会社DEをデザイナー柴田賢蔵と共同創業。話題性のある広告やプロモーションを手掛ける。21年3月に『広告がなくなる日』を上梓。

※編集部注:被写体はすべてマスクを外していますが、周囲に人がいないことを確認して撮影時のみ外しています。インタビューはすべてマスク着用で行なっています。

「経済合理から遠くなってきた」感覚がある

澤山:
株式会社DEを設立されてから、9カ月以上が経ちました。最近の活動は、どんなテーマがメインになっていますか?

牧野:
それでいうと経済合理の考えから遠くなってきた、「遠ざかっていきたい」という欲求が強くなってきた感覚があります。

澤山:
経済合理。

牧野:
漠然とした言い方ですが、経済的価値より文化的価値を創造する会社を作りたい。そこにチャレンジしていきたいです。

会社なので、社員の給料もきちんと稼がなくてはいけません。売上や利益の追求は大切です。でも、それに終始することに意味を感じなくなりました。

今はまだ、「文化的価値の創造」と「経済的な価値」がうまくリンクしていないと思います。例えば「60年経過した建築物」って、それだけで大きな価値があります。ですが、経済的な価値ではほとんど値段がつかない。だから壊されてしまう。文化的には、本当に大切なものなのに。

DEはいろんなことをやる場にしたいですが、一つはそういうことを追求する場にしたいです。例えばこのKARASU COFFEE STANDもそう(編集部注:インタビュー時はオープン前)。

シンプルに「仕事場の近くに、美味しいコーヒーが飲める場所があったらいいな」と思ったんです。それが桜ヶ丘の文化的価値を、少しでも高めることに寄与するのではないか。そういうイメージがあって。
 
ここは DEとしてスタートしていて、共同代表の柴田と一緒に考え始め、そこに風間夏実が店長として参加してくれて、日々試行錯誤しながら一緒にお店をつくっています。ほんとうに手探りですこしずつ。

一杯ずつ人が丁寧に淹れるコーヒーって、シンプルにいいものだなと思うんです。思いません?(笑)

僕も、コンビニのコーヒーを飲むことはあります。どんどんおいしくなっているし、「ものすごい企業努力だ」と敬意すら抱きます。でも「文化的価値」はあまりないのかもしれない、と思うこともあります。

目の前のコンビニに行けば、150円ですぐにおいしいコーヒーが飲める。KARASU COFFEE STANDはドリップコーヒーが500円して、5分くらい待ちます。でも、そこに文化的な豊かさのようなものがあるんじゃないか。そう考えています。ここに理屈はないんですけど。

文化的というか人間的というか。そういう価値を追求したい。それをソリッドに表現するために、僕たちは仕事をしていると思います。

人間が、より人間らしくなれる物事を

牧野:
僕が言う「文化的なこと」は、「人間が、より人間らしくなれる物事」と定義しています。

どこに行っても同じものがあると、便利ですよね。でもその土地の空気、その土地じゃないとできないこと、そういうものも大事だと思うんです。

この場所も、スケルトンのままにしていて。例えば床のデザインは、ここにしか存在しないものなんですよ。

澤山:
確かに、ボコボコしていますね。濡れているようにも見える、独特なデザインです。

牧野:
店のオーナーとしての話になるんですが(笑)この場所、前に入っていた店はイタリアンなんですよ。それで、昔貼ったタイルのあとが未だに残っているんです。

この味って、後から出そうと思っても絶対に出ないものですよね。それを活かそうと思って、デザイナー柴田(DE共同代表)と設計のDAIKEI MILLS 中村さんのアイデアで残すことになりました。

新しくお店をやろうと思ったら、ふつう床は張り替えると思います。でも、それだと「どこにでもあるもの」になる。時間が経って生まれた、その場所ならではのもの。それを大切にすることも、文化的な価値なんじゃないかと思うんです。

澤山:
足の裏に感じる感触も、他の場所にはないものですね。

牧野:
デコボコして掃除しづらいな、とか不便さはあるんですが(苦笑)。固有の価値だと思います。うまく言語化できていない部分ですが、追求したいですね。

言葉にしないで伝わることを、追求したい

牧野:
取材を受けといてなんですが(笑)、「言語化」ってそんなに重きを置いてないんですよね。

澤山:
まあ、ばっちり言語化させていただきますけど(笑)。

牧野:
基本的に言語化は左脳的な行為、ロジックの世界だと思います。詩や文学はまた別だと思うので、あくまでビジネス的に使われる「言語化」に絞って話します。

人が受ける感情や感覚には、すごい情報量があると思います。しかも、めちゃくちゃ流動的。それを言葉にする行為は、どこかで「固定化」すること。言葉はいつも「足りない」「少ない」「間違っている」のどれかで、正しく言語化するのは不可能だと考えています。

本当は、必ずしも言語化しないで伝えられたらと思っています。まあ、そういう思いをいま言語化しているんですけど(笑)。

澤山:
オンラインでは言語化が大切ですが、それ「だけ」だと必須栄養素を削ぎ落としている気がします。

いいたか:
伺っていて、牧野さんらしいなと思いました。

実際、上場企業では無理じゃないですか。追わなきゃいけない指標もあるし。ニワトリと卵な側面もあるけど、牧野さんは「社会を良くする」ところが志向性として強いですよね。「お金はあとからもらえばいい」というか。

やりたいことが先にあって、賛同してくれる企業と組む。普通の企業だと、なかなか難しいですよね。ただ実際、お金は良い仕事をすれば戻ってくるものだと思います。

牧野:
確かに、お金はそうですよね。戻ってきたらいいな(笑)。 

いいたか:
ホットリンクも、そういう志向性ではあるんですよ。でも、どうしてもお金が先にないとできないこともあるので。

自分たち自身も、ものづくりに取り組みたい

牧野:
いま、文化的な価値の創造と経済合理性は乖離(かいり)しているところがあると思っていて。

一杯ずつ販売するおいしいコーヒー屋をやっても、そんなに儲からないですよね。コロナ禍でそういうところがダメージを受ける一方、経済合理性を追求しているところが儲かったりもしている。

ただ僕はこの先、社会全体がもう少し文化的価値のほうに戻っていくんじゃないかと思っていて。例えば最近、ローカルな動きが活発化していますよね。地域のものづくりであるとか、そういう人たちのほうがオリジナリティあるものを作っています。

経済合理性って、「モノを安価に大量生産」が基本じゃないですか。でも、それだけでは「同じモノ」が溢れることになります。

インフラとしてそういうものがあるおかげで、どこでも水が飲めたりするわけなので、一概に悪いことではありません。でも、全てが均一化した社会はやはり面白みがない。極端な意見ですけど、物事が均一化・均質化していくと、人間そのものも均一化してしまうんじゃないか。

どれだけ小さくても、「そこにしかないもの」を大切にすること。それが文化に繋がっていくとイメージしています。そういうものがもっと受け入れられるよう後押ししつつ、自分たちもものづくりに取り組みたいですね。

この場所(KARASU/HANA)を起点に、いろんな地域と組んでプロダクトをつくる場所にしようと思っていて。いろいろな人とコラボして、並べて、広げていく。そういう発信地にしたいですね。

澤山:
伺っていると、渋谷という場所にも意味がありますね。他の地域に移転してもよかったわけで。

牧野:
まあ、たまたまではあるんですが(笑)。渋谷というより桜ヶ丘に興味があって。

桜ヶ丘って一つのローカルで、渋谷駅に近いのに古い町並みが残っている。DEのオフィス自体はこの裏側のマンションの一室(7F)にあって、僕の家もすぐ近くにあります。

渋谷を選んだことに、明確な理由があったわけじゃないんです。けど、やっぱり多様な何かが生まれるエネルギーのようなものを感じていました。

渋谷という「ローカル」は、世界でも注目される場所です。ただ、どんどん都市開発が進んで、ある意味「グローバル化」してしまっています。個人的には、その流れに抗いたいです。桜ヶ丘の上のほうは、まだ「ローカル」が強く残っています。それを、さらに後押ししていきたいですね。

いいたか:
飲み屋でも、めっちゃ古い立ち飲み屋がありましたよね。地下にある、おじいさんしか居ないような場所。常連の席が決まっていて、空いてるように見えても立っちゃいけないんです。「ここ、いるから」って(笑)。

常連だけが立てる場所なんです。すごくローカル感あるんですよね。飲み物もやすいし。ここだけ、開発されていない場所ですよね。

牧野:
今のところ、そうですよね。桜ヶ丘の下のほうはめっちゃ開発されてるんだけど、この界隈はすごく好きで。

渋谷ってやっぱり、世界でトップレベルに面白い街だと思っているんです。ここを拠点にしつつ、いろんなローカルと繋がれるといいなと思っています。

コーヒースタンド「烏」と酒屋「花」が同じ場所に入っている。酒屋「花」は、国産のお酒を集める酒屋になる予定

「自分は、広告というジャンルから出る必要があるのでは?」

澤山:
いま、どんなお仕事を手がけておられるんですか?

牧野:
そうですね、何があるんだっけな(笑)。いろいろやってると思うんですが。大企業のCM制作から、ある牧場でビーフジャーキーのブランドをゼロから立ち上げたり。ここのつまみで出そうかなと思ってるんですよ。

僕はあまり関わってないんですけど、DEという会社では、Komons(コモンズ)というハンドソープなどのハウスケアブランドを出しています。このKomonsはすべて国産原料、天然のものだけを使っています。

ゼロイチの仕事をやりつつ、大企業の仕事をやりつつ、ブランドの立ち上げをやりつつ、リニューアルをやりつつ。そういう仕事が多いですね。

澤山:
仕事を受ける基準は、やはり文化的価値に寄っていますか?

牧野:
Twitterでこれだけ発信していることもあり、僕個人としては「社会的に意味のあるコミュニケーションをしたい」ときにお声がけいただくことがすごく増えています。

ただ難しいなと思うのは、広告でやれることには限界があるということ。もっと中に入って、自分の立ち位置を変えなきゃいけないと思います広告コミュニケーションだけでやるのは無理だなと。

澤山:
どういう観点で「無理」なのですか?

牧野:
結局、広告ってメッセージが基本なんです。でも社会的に意味があることは、メッセージだけではダメだと思っていて。

広告の役割として、世の中に問題提起して伝えることはできます。でも、そこにコストをかけるより実態を変えることのほうが求められてきています。そして、実態が話題になることのほうが圧倒的に意味がある。

「広告」で見せ方を変えるのではなく、そのコストを1円でも多く「実態」に使うべきなんじゃないかと。

例えば「男女平等は大事」って発信するより、1人でも多く女性役員を増やしたほうが話は早いですよね。「変えました」とリリースするほうが、よほど「会社も変わった、社会も変えられる」というメッセージになる。そこまで踏み込めないと、この立場からやれることは少ないなと痛感することが多くあります。

だから、最近すごく悩んでいますね。自分はもう、広告というジャンルから出なきゃいけないのではと。

いいたか:
弊社の思想も、そういう意味ではかなり近いと思っています。広告が悪いってことではなく、できることとできないことがあって。

スマートフォンとSNSを手にしたことで、情報が一気に広がるようになった。こうした変化の中で最も大きいのは、「お客さんが発信する情報の価値が高くなった」ということです。

誰がやっているかを、より信用する時代になりましたよね。こうした中では、広告の役割がより明確になってきている。広告だけは刺さらない、ブランドから入るところもあるなと思います。

一つのコーヒーにしても、やった意義は1ブランド1店舗ごとにすべて違うはず。そういうところはあるのかなと思いますね。

広告が炎上する「本質」とは?

澤山:
広告の話でいうと、炎上事例は今でもたびたび起こっています。ただ、牧野さんの書籍を拝見するとこれは「表象」ということなんですね。

牧野:
そうですね。「ちゃんと真摯に向き合っていれば炎上しないだろう」ということですね。実態のないメッセージではなく、企業活動に立脚している発信なら炎上しないよう作れるはず。

別の角度で言えば、社会課題とひもづかない事業なんて本来存在しないはずで。そこに、立脚できるポイントがあると思うんです。

あとは「ぜんぜん想定していなかった」というパターンですね。社会課題に踏み込んだつもりがないのに炎上してしまうケースはたくさんあって、単純にリテラシーが追いついていない問題だと思います。

作り手にとって、難しい世の中になってはいると思うんですね。ただし、これは追いつかなきゃいけないリテラシー。できない人は、この世界でやっていくのは厳しくなると思います。

社会のアップデートに合わせて、自分自身をアップデートする努力は100パーセント必要です。でも、それはなかなか追いつかないですよね。

例えば広告代理店なんて、働き方やハラスメントの価値観をかなり変えなくてはいけません。若いときからずっとその風習で育った人が、いきなり価値観を変えられるかというと難しいと思うんです。だからこそ努力が必要だと思いますし、教育システムを作ったほうがいいんだろうなと思います。

澤山:
実際、「社会が厳しくなった」「言いたいことが言えなくなった」ということを言う人は結構いますね。

牧野:
いますよね……でもこの変化は僕は正しいものだと思っていて、「今までたくさんの人を傷つけて成り立ってきたんだ」と自覚するところから始めるしかありません。それができない人は、広告というマス性の高い表現づくりからは、退場せざるを得ないと思います。

今までも傷ついている人はいたけど、声が上がる場所がなかっただけで。SNSによって個人の声が届くようになって、同じように感じている人たちがたくさんいて、拡散するようになった。

僕はこれを、とてもポジティブな流れだと捉えています。いろいろな人のことを考えながらクリエイションを追求することは、この仕事の醍醐味です。その人たちの声に寄り添った広告が増えていけば、この業界も社会全体もよくなっていくんじゃないかなと思うんです。

その流れに、少しでも貢献する仕事をしていけたらと思います。

澤山:
今回は、お忙しい中ありがとうございました!  

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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