SNSコラム

ピエール中野は、バズに頼らない。「ピヤホン」開発秘話。#ザ・プロフェッショナル

2021年08月23日
ザ・プロフェッショナル

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルとホットリンクCMO・いいたかが、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」

今回のゲストは、ロックバンド「凛として時雨」のドラマー・ピエール中野さんです。

圧倒的な手数を特徴とする高度なドラムテクニックを持ち、多くのアーティストから敬愛される一方、ドラムチューナーとして数々のレコーディングを支えてきた「裏方」でもあるピエール中野さん。

そんな彼が開発に携わったイヤホン・通称「ピヤホン」は、素人でも一聴して違いがわかるクオリティの高さが注目され、SNSを起点に爆発的な人気を獲得。数々の賞を受賞するほどのヒット商品になりました。

異例のヒットを生んだ背景には、どんな思いがあったのか? 「ピヤホン」開発秘話から、ピエール中野流SNS活用術まで伺いました。なお、今回は澤山モッツァレラとの対談形式でお送りいたします。

(執筆:サトートモロー 撮影:小林一真 編集:澤山モッツァレラ)

※編集部注:被写体はすべてマスクを外していますが、周囲に人がいないことを確認して撮影時のみ外しています。インタビューはすべてマスク着用で行なっています。

ピエール中野/1980年7月18日生まれ。凛として時雨のドラマーであり、手数、足数を駆使した高度なテクニックと表現力で、豪快かつ繊細な圧倒的プレイスタイルを確立。ドラマーの枠を超えた幅広い活動を展開しており、卓越したエゴサ能力、ピエール中野モデルのイヤホン・通称“ピヤホン”が爆発ヒットするなど、各所で話題を呼びまくる。妻は超歌手の大森靖子。

参照:ピエール中野が何をやってる人なのかわからなくなった方へ。


オーディオへの深い知識から生まれた「ピヤホン」

澤山:
そもそも、中野さんはなぜイヤホン開発に携わろうと思ったんですか?

ピエール中野:
経緯を説明する前に、まず前提として。ミュージシャンが音響メーカーとコラボして製品を作るって、本来ありえないことなんですね。

澤山:
ありえないこと。

ピエール中野:
ありえないことです。デザインに関わる程度ならあっても、音質調整など細部に関わらせてもらえることはほとんどないです。

それぐらい、イヤホンの音作りって難しいんですね。ミュージシャンの経験だけでなく、ポータブルオーディオに対する知見がないと偏った調整になってしまいます。

僕は長年、たくさんのポータブルオーディオを聴き続けてきました。言うならば、この領域にはかなり詳しくて。エンジニアさんやメーカーさんから見ても、「スムーズにやり取りできる」と思ってもらえたようです。

澤山:
なるほど、わかりました。改めて、ピヤホン開発の経緯について伺えれば。

ピエール中野:
昔からイヤホンなどのポータブルオーディオが好きで、数十万円する上位機種含めていろんなものを試してきました。

あるとき、SNSが盛り上がってきたタイミングでイヤホンについて発信したんですね。そこから、メディアから取材を受けるようになって。

結果、eイヤホンという専門店の公式アンバサダーになったり、フリーペーパーの表紙になったりして「ポータブルオーディオに詳しいバンドマン」という認知は取れていたんです。

2~3年前かな、そのタイミングでAVIOTというメーカーから「今度出るBluetooth接続のイヤホン『TE-D01d』について、試してくれませんか」というオファーを受けたんです。

澤山:
「TE-D01d」は今でも名機と言われる、クリアな音を持つイヤホンですね。

ピエール中野:
現在ではBluetooth接続のイヤホンは珍しくないですが、当時は有線より情報伝達量が少なくなる課題があって、音質面で不利でした。でも、「TE-D01d」はその弱点を補うチューニングがされていて。

「これはぜひ紹介したい!」と思ってツイートをしたところ、イヤホン関連で初めてバズったんです。「TE-D01d」は知る人ぞ知る機種でしたが、このツイートをきっかけに一般にも浸透するようになって。

AVIOTの担当者さんがすごく喜んでくれて、代表取締役の土山裕和さん(現・プレシードジャパン株式会社代表取締役)から「一緒にイヤホンを作りませんか?」というオファーを受けました。ピヤホンの開発が始まったのは、そこからですね。

物心ついたときから培ってきた、音への感性

澤山:
以前Clubhouseでご一緒した際、中野さんのサウンドチューニングに関する語彙の豊富さに驚いた覚えがあります。エンジニアさんとも対等に話ができるリテラシーは、どうやって身につけられたんですか?

ピエール中野:
子どもの頃から、自宅のオーディオでグラフィックイコライザーと呼ばれる音質調整装置をいじっていたんですよ。「ここを触ったら、こう音が変わるんだ」という感覚は、自然に身につけていたんですね。

iTunesやSpotifyでもイコライザーを調整できるので、「iTunesならどうかな」「Spotifyはこう変わるのか」って調整をしながら自分好みの音に近づけています。他にも、「KaizerTone」という高音質アプリを使ったり。音質への試行錯誤は、物心ついた頃からずっと続けていますね。

澤山:
ミュージシャンになるはるか以前から、オーディオマニアなんですね。

ピエール中野:
はるか以前から。僕はギターから楽器を始めて、音作りでハイ・ミドル・ローそれぞれの成分をどう調整すればどんな音になるのか、感覚的に身につけていきました。

ドラムを始めてからはもう20年以上ですが、ドラムの音作りも実はすごく難しくて。

澤山:
確かに、「叩くだけだから、簡単だろう」というイメージはあるかもしれません。

ピエール中野:
ドラムはバスドラム、スネア、タム、シンバルなど、様々なパーツの音程とサスティーン(音の長さ)を扱う楽器です。ねじの調整、ヘッド(皮部分)の材質など、選択肢は無限に近いほどあります。

どの組み合わせで、どう調整し、どう演奏するとどんな音が出るか……それを20年以上組み合わせた結果、音に対する感覚が身についた気がします。

澤山:
2007年にmixi経由でお会いしたとき、すでに「ドラムチューナー」のお仕事をされていましたね。

ピエール中野:
していましたね。凛として時雨に入ってすぐ始めたから、もう15,6年続けていることになりますね。

ドラムの音色を調整する仕事で、裏方としてもプロからオファーが来るレベルまで持っていきました。「この楽曲に対して、どういうドラムの音色が求められるか」を調整して、楽器の選定からチューニングまでできます。

こうした経験が、ポータブルオーディオのチューニングにも生きていると思います。

澤山:
ミュージシャンの方は職人のイメージがありますが、中野さんの場合は技術者に近い素養もあるんですね。

届けるべきものでなければ、届ける必要はない

澤山:
無線ピヤホン初号機の反応は、いかがでしたか? 

ピエール中野:
ありがたいことに、発表後すぐ問い合わせが殺到して。予約開始10秒で、初回受付を締め切りました。その後も入荷したらすぐ無くなる、を繰り返しています。

澤山:
初回から、それだけ期待感が大きかったんですね。当時「ピエール中野さんプロデュースのイヤホン」ということで、僕のTwitterのタイムライン上でも話題になっていた記憶があります。

ピエール中野:
ありがたいことに(笑)。もちろん、機能面はこだわりました。

例えば無線ピヤホン初号機には、トリプルドライバーが搭載されています。ドライバーとは、音を鳴らすスピーカー部分のこと。有名なイヤホンでも1基だけなんですが、それが3基ついているんです。

ウーファー(低音域を担当するスピーカーユニット)と中高域、高音域とそれぞれが別の音域を担当します。それらがミックスされるので、音質的に有利なんですね。かなり珍しいイヤホンだと思います。

澤山:
確かに、トリプルドライバーのイヤホンはあまり聞いたことないですね。

ピエール中野:
加えて、アナウンスボイスには花澤香菜さんに協力いただきました。当時、凛として時雨がアニメ『PSYCHO-PASS』とタイアップしていた関係もあり、声優を担当していた花澤さんにオファーしたんです。

そのことも相まって、かなり話題になりましたね。イヤホンでの試聴コーナーでも、試聴機に長蛇の列ができてお店のスタッフさんもかなり困っていたみたいです(苦笑)。

澤山:
クオリティと話題性が両立できると、これだけの反響を呼ぶんですね……ちなみに、マーケティングの予算はどれぐらいあったんですか?

ピエール中野:
額はわかりませんが、そんなに掛かっていないと思いますね。僕のTwitterが主軸だったかと(編集部注:ピエール中野さんのTwitterアカウントは28.5万、Instagramアカウントは5.4万フォロワー)。

それ以外では、信頼するミュージシャンやアイドルの方など、「この人に使ってほしいな」と思う方にピヤホンをお渡ししました。結果、みなさんが商品を手にとって次々と発信してくれました。とても感謝しています。

澤山:
素晴らしいですね。どうしてもマーケティング手法が注目されがちですが、クオリティの高いプロダクトが大前提になっていることが、成功の要因と言えるでしょうね。

ピエール中野:
届けるべきものでなければ、届ける必要はないと思うんですよね。

無意識に、ULSSASを回していたのでは?

澤山:
中野さんはUGC(クチコミ)を見つけたら、すぐにリツイートしておられますよね。これは意識的にやっていることですか?

ピエール中野:

そうですね、初号機の発売時からずっとやっています。単純に、「自分がされたらうれしいだろうな」と思うことをやっている感じですね。

澤山:
伺っていて、中野さんの手法はホットリンクのULSSASというモデルに近いなと思いました。

ULSSASとはUGC(クチコミ)を起点に考えるモデルで、LIKE(いいね)やリツイートでUGCが拡散され、それを見た人がソーシャルメディアやグーグル検索で商品を探し、購入し、再びUGCを出す……という流れを表しています。

ピエール中野:
(ULSSAS概念図を見ながら)初めて知りました。まさに、僕がやっていることそのものですね。マーケティングの勉強も一応していますが、「これ、自分でやってることだな」と思うことも多いですね。

ピヤホンは、ミュージシャンやアイドルの垣根を超えて届いている感覚があります。例えば凛として時雨だけだとファンにしか届かないし、ロックフェスに出てもフェスに行く層にしか届かない。でも、ピヤホンは音楽に関係ないジャンルの方も使ってくれていて。

ツイートを検索すると、どんどん越境しているんですね。例えば映画やゲーム、イベント配信でピヤホンを使ってくれた人が「相性いいわあ」「耳元でささやいてくれてるみたい」って書いてくれたり。その投稿を見て、別の人が興味を持ってくれて、という流れはできていますね。

澤山:
まさに、ULSSASモデルですね。

ピエール中野:
そのうち目立っている投稿に僕がリツイートしたり、コメントしたり、ときに解説を加えたりするとまたみんなが気にしてくれて。

「ピヤホンって何?」「ピエール中野がプロデュースしてるイヤホンだよ」みたいなやり取りが新たに発生して、そこに僕がファボしたり、フォローしたりする。すると「ファボされた! フォローされた!」とまだ話題にしてくれて、買ってくれる。こういうことも起こってますね。

澤山:
UGCの発生から積み上げ、勢いを増加させることまで全部お一人でやっていると。

ピエール中野:
ピヤホンについて質問されたら、そこにもアクションします。カスタマーサポートも営業も開発も、全てに深く関わってる感じですね。

メリットは、すごく大きいですよ。日常的にユーザーと接しているので、開発へのフィードバックが分厚くやれるんです。「ユーザーはこう捉えるのか」「ここの使い勝手はもっと改善できるな」って、そこから次のピヤホンの方向性も決められるので。

澤山:
ケタ外れですね。勉強になりますが、マネはできない(笑)。

自分が受けた衝撃を、他の人とも共有したい

ピエール中野:
僕がいま身につけているイヤホンは、セミワイヤレスと呼ばれるものです。今はトゥルーワイヤレス(完全ワイヤレス)が流行っていますが、実はセミワイヤレスって使い勝手がいいんですよ。

トゥルーワイヤレスはイヤホン同士が独立してるので紛失リスクがあり、ケースに入れたりポケットにしまう必要があります。比べると、セミワイヤレスは外したら首にかけておくだけ。ある程度サイズがあり、紛失リスクは小さいです。

通話品質でも、セミワイヤレスのほうがいいんですよ。トゥルーワイヤレスだと筐体にマイクを入れる必要があり、必然的に口から遠くなります。セミワイヤレスはマイクが口に近いので、声が通りやすいんですよね。

澤山:
面白いですね、言われてみれば全然違いますね。

ピエール中野:
イヤーピースという耳に直接入る部分は、種類・サイズとも豊富に用意しています。通常のシリコンに加え、ウレタンフォームという低反発で遮音性の高いものもそろえました。これを使うと、ローの出方が変わってくるんですよね。

逆に、低遮音といって穴が空いているタイプもあり、外音がよく聞こえるようシーンで使い分けられます。イヤーピース一つとっても、かなりこだわってるんですね。

澤山:
オーディオマニアしかわからない世界に、手軽に触れられるんですね。

ピエール中野:
本物のオーディオって、体験したら「うわ、全然違う!」「音が変わった!」という感動があります。できるだけ多くの人に、そういう感動を届けたいと思っています。

澤山:
マーケティングにおいても、「感動」に勝る体験はないですよね。

ピエール中野:
自分が受けた衝撃や感動を、他の人とも共有したい。ピヤホン開発には、そういう思いがありました。

イヤホンは日常的に使われるものなのに、その世界の奥深さは知られていません。オーディオメーカーも、情報を届けられてないと感じています。そこを、僕が踏み込んで届けている形になりますね。

澤山:
実際、ピヤホンだけでなくいろんなオーディオメーカーの動画にも出演されておられますね。

ピエール中野:
eイヤホンのアンバサダーとして、いろんな動画に出演しています。ピヤホン開発者として参加するなら、ある程度信頼感もあると思いますし。紹介されたイヤホンに興味を持ってもらえ、オーディオメーカー全体が盛り上がったら最高ですよね。

バズにとらわれず、地道に発信したほうがいい

澤山:
実はこの取材に参加しているフォトグラファー小林一真さんも、音楽をガチでやっておられる方なんです。せっかくの機会なので、ご質問あればぜひ。

小林:
ありがとうございます。実は、ソーシャルメディアでどこまで見え方を意識すべきか悩んでます。アー写の世界観を保ったほうがいいのか、素顔を見せていくほうがいいのか。

ピエール中野:
アーティストイメージを作るか作らないか、ですよね。

それでいうと、最近はイメージを作っている人のほうが伸びている気がします。少し前までは素を出したほうが良かったんですけど、ギャップを見せるのはメディア露出とか、然るべきタイミングで出すほうが得策だと思いますね。

僕に関しては正直特殊なので、あまり参考にならないです(笑)。

小林:
再現性はないと。

ピエール中野:
ないですね。もちろん、周囲の状況を把握した上で今の活動をしていますけどね。

あと、ソーシャルメディアでいうとバズに目が行きがちですよね。でも、バズってあまり意味がないと思っていて。

澤山:
バズりまくってる中野さんが言うと、説得力が違いますね。 

ピエール中野:
瞬間風速は確かにすごいけど、それだけだとあまり意味がない。積み重なっていくことが大事で、そうでないと残っていかない。

バズに頼ると、徐々に焦っていくと思うんです。「またバズを起こさなきゃ」って。でも、長く残っているミュージシャンは地道にコツコツ発信を続けて、時折バズが起きて、それでも地道に続けるような人たちが多いと思います。

澤山:
この話は、ホットリンクのメソッドとも通じる部分がありますね。バズを作ってスパイクを起こすこともありますが、基本は地道にクチコミを出し、積層させていき、評判形成を行なうという。

ピエール中野:
そうそう、そのほうがいいですよ。

夢は叶えた。これからの世代を大切にしたい

澤山:
最後に、中野さんの今後のキャリアについて伺えれば幸いです。

ピエール中野:
基本は、凛として時雨の活動を守っていくことですね。オーディオ周りでいえば、まだまだやれることがあります。いま届いていない人たちにも、優れたオーディオの魅力を届けたいですね。

プライベートでは、子どもの教育について考えています。いま5歳なんですが、現在の世界情勢を見ると、どう教育していけばいいかなって。グローバルな世界を見据えているつもりですが、親としてどうサポートできるか。

子どもが大きくなって「海外に行きたい」と言われたら、ついていくかは別として「行っておいで」って言えるようにしたいですね。

澤山:
僕も4歳のムスメがいるので、とても共感します。

ピエール中野:
正直、僕自身の夢は結構叶えたな、ある程度やりきったなという思いがあるんです。これからの世代や周りの人たちを大切にしたい、という気持ちは強いですね。

あとは、人の役に立つことをしていきたいです。自分が楽しむことは大前提で、恩返しを続けていくというか。

澤山:
「将来、地球に住めるのか」という疑問も、もはや荒唐無稽ではないですしね。これだけ気候変動が続いている状況を見れば。

ピエール中野:
そうですね。下の世代へ引き継ぐ地球は、住める地域が小さくなったり、宇宙移住の話だってあるかもしれない。これまでとは全く違う世界になっているはずで。

そこで生き抜けるフットワークの軽さだったり、必要な能力の開発は育児の段階で取り組むべきじゃないかなと。まあ、僕が動けなくなったら助けてもらいたいし(笑)。

澤山:
この話題については、またテーマを改めて取材したいくらいです(笑)。今日はお忙しい中、ありがとうございました!

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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