2026年8月25日、ホットリンクはオフラインイベント「【#ノミナー】お酒片手にマーケティングを学ぶ会 〜ミツカンはなぜUGCを重視するのか〜」を開催しました。
ゲストに株式会社Mizkanの小玉理代氏を迎え、大手食品メーカーがなぜUGC(ユーザーによるクチコミ)をブランド横断で重要視するのか、その背景と実務について語り合いました。
ホットリンクは2025年4月から、ミツカン様の「味ぽん」や「カンタン酢」などに関するX活用を支援しています。支援開始時には、ミツカン様の社内で、UGCやホットリンクが提唱する購買行動モデル「ULSSAS」の考え方を共有する勉強会を実施しました。その上で、既存UGCや関連コミュニティの分析を起点に、UGCを指名検索や購買につなげる戦略設計、投稿・広告施策などに両社で取り組んできました。
「UGCが大事」と言われる一方で、売上への寄与をどう捉え、KPIをどこに置くのか。この問いに答えを出せている企業は、まだ多くありません。
本記事では、ミツカンが中間指標として位置づけるNPI(次回購買意向)の考え方をはじめ、「良いUGC」の定義、ブランドのフェーズに応じたKPI設計など、同イベントで語られた内容をレポートします。
(執筆:成神佳彰 編集:倉内夏海 撮影:市村円香)
ミツカンがUGCを「共感を超えた証」と捉える理由
北山(司会): 今回のテーマは「ミツカンはなぜUGCを重視するのか」です。まず、ミツカン様のコミュニケーションの考え方から伺えますか。
小玉:私たちは多くの生活者と接点をもっており、「お客様に好きになっていただくこと」と「多くの方に知ってもらうこと」を大切にしています。
そのなかで課題に感じていたのが、テレビを中心とした「企業からの一方通行の情報発信」です。こちらが良いと思うものを一方的に、やや強制的に届ける形になるため、生活者が商品について検索する、店頭で手に取る、自分の言葉で誰かに伝えるといった行動には、なかなか結びつきません。
私がコミュニケーション領域に異動した2014〜2015年頃は、宣伝費の多くをテレビCMに投じていました。いまは生活者の多様化に合わせ、PESOモデル(ペイド/アーンド/シェアード/オウンド)をどう組み合わせれば最適なメディアプランになるかを常に意識しています。
ターゲットについても、年齢や性別などのデモグラフィック属性だけでは語りきれないので、どんなインサイトを持っているのか、そのインサイトに私たちがどう応えられるのかを追求しながら戦略を立てています。

北山:企業から情報を届けるだけでなく、その先の生活者の行動まで見ているということですね。そのなかで、UGCはどのように位置づけているのでしょうか。
小玉:最近とくに重視しているのが、生活者の共感を超えていくことです。そして、その「共感を超えた証」のひとつがUGCだと思っています。
私たちの発信に触れて、「これ、面白いな」と感じてくださった方がUGCを投稿してくださる。UGCが生まれるということは、私たちのコミュニケーションをきっかけに、生活者が実際に行動を起こしてくださったということです。
そうした生活者の行動にかなり着目していますし、SNSはUGCが生まれる場所として最も重要だと考えています。
増岡:ミツカン様のなかで、UGCの創出・活用を強化するきっかけは何だったのでしょうか。取り組みたいと思っていても、なかなか踏み切れていない企業やブランドも多いと思うのですが。
小玉:UGCを強化しようと決めたのは2025年で、当時私たちの組織で本部長をしていた林 太郎(現・株式会社Mizkan Holdings 執行役員)が「UGCに挑戦していくぞ」と旗を振りました。組織のトップが旗を振ったことで、会社としてUGCを大事にしていこうという流れが一気にできました。
UGCはSNSだけのものではなく、ECサイトなどのクチコミも含まれます。指名検索だけでなく、カテゴリー検索が起きたときにも、そこから指名につながる構造をきちんと作っておかなければいけません。
生活者がどこで情報に触れるかは分かりませんから、可能性のある接点すべてに情報を置いておくことが非常に重要なのではないか。そう考えて、いまはコミュニケーション本部全体でUGCを重要視しています。

「ファンの声」をテレビCMに取り入れた、味ぽんの事例
北山:UGCを重視するなかで、実際にどのような取り組みを行ったのか教えてください。
小玉:味ぽんの取り組みをご紹介しますね。味ぽんは、60年以上のロングセラーブランドで、熱量の高いファンの方も多くいらっしゃいます。
そこで、このファンの方たちの声をもっとブーストしたいという思いから、「ファンの声をテレビCMにしてみる」という取り組みを行いました。まず味ぽんのXで、「味ぽんのテレビCMに出られるかもしれません。皆さんの味ぽん愛を教えてください」という企画で投稿を募ったのです。

出典:https://x.com/ajipon_mizkan/status/1948662003381182843
小玉:これまでは「味ぽんと豚肉で炒め物ができます」といったメニュー提案を軸に、テレビCMなどの広告と店頭の売り場づくりを一気通貫でつなぐコミュニケーションに集中してきました。
そこから一歩踏み出し、「味ぽんでこんな楽しみ方をしているんだ」ということを、生活者の熱量とともに伝えることにチャレンジしました。味ぽんのようにすでに認知が高いブランドで、これまでとは異なるアプローチを取るのは、私たちにとって勇気のいる判断でした。
結果として、売上や検索数、UGCにも良い変化が見られました。クリエイティブ自体への「面白い」「いいね」という反応がUGCに現れ、生活者のコメントだけでなく、ニュースサイトでも取り上げていただきました。実際にお客様がついてきてくださっていることが分かったのは、私たちにとって大きな気づきでしたね。

出典:https://x.com/ajipon_mizkan/status/1964056125873238123
UGCと売上の間に、どのようなKPIを置くのか
北山:会場の皆さまへの事前アンケートで、最も関心が高かったのが「UGCと売上の関係性」でした。UGCは増えたけれど、売上は増えているのか。それをどう効果検証するのか。ミツカン様では、どのように考えていますか。
小玉:私たちの商品は、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどの店頭で購入されるものが多いため、ECのようにコンバージョンを直接追うことが非常に難しいと考えています。
これらの商品は広告だけでなく、特売や売り場、営業活動など、さまざまな要因が購買に影響します。たとえば、影響力の大きいタレントを起用してテレビCMを放映し、そのタイミングでPOSが上がったとしても、同時期に行われた特売や店頭展開の影響も考えられます。
そのため、売上だけを基準にコミュニケーションのKPIを設計すると、施策を適切に評価することが難しくなってしまいます。
そこで、弊社が重視しているのがNPI、いわゆる「次に購入したいですか」という指標です。テレビやWeb動画、UGCへの接触とNPIの関係を継続的に確認しています。そのなかで、NPIを安定的に把握できる複数のブランドでは、UGCへの接触とNPIに一定の関係が見えてきています。
テレビやWeb動画は、どうしても企業からの一方通行のメッセージになりがちです。それよりも、第三者の推奨に近いUGCのほうが、人を行動させる力があるのではないか。売上そのものを指標にするのは難しいため、売上に近い中間指標としてNPIを置いています。

北山:NPIは、すべてのブランドで中間指標として使えるのでしょうか。
小玉:いえ、NPIが絶対ということではなく、各ブランドのステータスに応じてKPIを立てるべきで、認知を中間指標に置くこともあります。
たとえば、2024年に発売したFibeeは、味ぽんなどと比べると、まだ認知度が十分ではないブランドです。そもそも商品を知っている方が少ないため、調査をしても回答者数を確保しにくく、NPIを安定的に把握することが難しい場合があります。
UGCとNPIの関係を見るブランドもあれば、認知を中間指標として置くブランドもあります。既存事業である調味料は、新商品よりも既存商品が多いこともあり、NPIを中間指標として用いる傾向があります。
増岡:ミツカン様の商品のように、コンビニやスーパーなど身近な店舗ですぐ手に取れる商品と、D2Cのようにネットでしか買えず、検索しなければ購入できない商品とでは、UGCの位置づけがかなり違います。
店舗ですぐ買える商品は、SNSで見た後、店頭で商品を見つけて「そういえば、これを見たな」と思い出し、そのまま購入することがあります。強い動機がなくても、小さな接触が薄く長く効き、購買につながることがあるんです。そのため、まずUGCの量を増やし、商品を目にする機会を広げていくという考え方があります。
こうした接触の積み重ねに広告を活用するのが、ホットリンクの「ULSSAS AD」です。データ分析に基づいて商品への関心が高いコミュニティを定め、公式アカウントの投稿をさまざまな切り口で継続的に広告配信します。これにより生活者の想起を育て、広告の成果をUGCや指名検索として積み上げていきます。

増岡:一方、ネットで調べなければ買えない商品は、購入までにより強い動機が必要です。UGCに限らず、生活者を動かす、より強い情報接触が求められます。そのため、商品の特性やブランドのフェーズによって、追うべきKPIも変わってくると考えています。
そもそも、NPIを継続して取られているというのが、本当にすごいことだと思います。私たちも、UGCとNPIの関係を確認させていただく機会は初めてでした。具体的には、どのように調査されているのでしょうか。
小玉:いろいろな会社さんとお話しすると、「ミツカンさんは珍しいですね」と言われます。私たちは毎週、健康診断的に定期調査を行っています。その調査のなかでNPIをモニタリングしています。
まず「広告にどこで接触しましたか」と伺い、たとえばカンタン酢であればテレビ、Web、SNS、UGCといった選択肢を用意して、どれを見たかを答えてもらいます。その上でNPIを1〜10段階で答えてもらい、どの媒体との結びつきが強いのかを見ています。
毎週データが取れているので、広告を大きく投下したタイミングの前後を比べ、数値が上がっていれば「今回の施策が効いたのだな」と判断する。そのような見方をしています。
「効いたのはテレビなのか、店頭なのか」と要因を切り分けようとしていた時代もありましたが、それは不毛だと思っています。いまは、その時期に実施した施策のなかで何が効いたのかを見る形です。広告を打った後の事後調査はあまりやっていません。年間を通して週次で数値を追い、変化があったかどうか、その差分で評価しています。

テレビではPOSが動くのに、SNSでは動かない?
北山:参加者の方から、「テレビスポットを打つとPOSが目に見えて動きますが、SNSではなかなかPOSに変化が出ません。瞬間的な売上ではなく、日々の売上を底上げしていると考えればよいのでしょうか」と質問をいただきました。
小玉:おっしゃるとおりで、テレビCMを打ったから売上が上がるというよりも、我々のようなメーカーの場合は、店頭までを一気通貫でつなぐIMC(統合型マーケティングコミュニケーション)を組んでいることが、結局は売上につながっているのだと思っています。
テレビCMが決まっていたことで、営業がお得意先様に熱心に案内をしてくれた。その結果、通常の定番棚ではなくエンド(売り場の端にある特設スペース)での展開が取れ、特売価格も設定された。それによってPOSが上がった、ということは実際に起きています。
最近では、あるインフルエンサーを起用した広告を実施したところ、特定商品の販売個数が2倍になったこともあります。
このときも、「売上を作ってくれそうなインフルエンサーとコラボする」と前々から営業に共有していたので、営業も「これなら売れるだろう」と思って交渉しに行った。その結果、露出が取れ、特売も入り、スポット採用にもつながった、という流れが見えています。
こういうケースを積み上げて、お得意先様に「テレビだけではなくSNSでも動くんだ」という話をしていかなければいけないと思っています。

ブランドのフェーズから「良いUGC」とKPIを考える
北山:「ミツカンさんが定義する良いUGCとは何か」という質問も、参加者のみなさんから複数届いています。
小玉:とても良い質問で、私もまさに考えているところです。
SNSにおけるUGCは、量的なものと質的なものの2つに分かれると思っています。そして、量が必要なのか質が重要なのかは、各ブランドのステータスによると考えています。
たとえばFibeeのように認知がまだ十分でないブランドは、まず知ってもらうことが大事なので、量的なUGCが必要です。一方、味ぽんやカンタン酢のように一定の露出や認知があるものは、「どう使うといいのか」という推奨に近いもの、ハウツーに近い質的なUGCがあるほうが、そのブランドが成し遂げたいものに近づくと考えています。
弊社では戦略を立てるときに、ターゲットを考えるタイミングで「9segs®」を使っています。
【9segs®(ナインセグズ)】
顧客を認知・購買経験・購買頻度などの「行動」と、次回購買意向(NPI)の有無という「心理」の2つの観点から、9つのセグメントに分類する顧客分析のフレームワークです。
どの顧客層をどの状態へ動かすかを考え、マーケティング戦略の立案や効果測定に活用します。9segs®は、M-Force株式会社が商標を保有する独自サービスです。
小玉:9segs®のどのセルをどう動かしたいかによって、「これは認知を取らなければいけないから量的にUGCを取っていくほうが大事だね」「これは消極から積極に上げたいのだから、質的なUGCを伴わせたほうがいいよね」といった議論をブランド担当のマーケターと重ねながら、コミュニケーションプランを組み立てていきます。UGCひとつとっても、そのブランドにおいて選定していくことが大事だと思っています。
増岡:加えて最近は、AIの発達によってUGCの高度な分析ができるようになりました。昔は品詞レベルまでしか分析できなかったものが、いまは文脈まで分析できます。どういう文脈・背景のクチコミが増えているのか、話題分類がどうなっているのかを明確にできるようになりました。

増岡:そこから、「こういう文脈のクチコミが増えるとうちの事業にとって良いよね」というところまで導ければベストだと思います。画像付きかどうかも、UGCを見るうえで大きな違いですね。
北山:では、UGCそのものをKPIに置くことはないのでしょうか。
小玉:置くときもあるんですよ。ただ、それは達成すべき目標というより、状況を把握するために計測している項目のひとつ、という位置づけです。
UGCは遅行指標だと思っていて、NPIが上がると売上が上がるという順序ではなく、買っていただいて、使っていただいてUGCが生まれる、という面もあります。UGCを先行指標に置いてしまうとおかしくなってしまう。中間指標は先行指標であるべきだと考えると、NPIが役に立つ。このパターンが、弊社で言うと調味料に最近多いと思っています。
増岡:UGCを出しましょうとなったとき、UGCはピラミッドで言えば頂点にある、最もハードルの高い行動なんですよね。商品を使ったうえで、その体験を自分の言葉で発信してくださる方は、決して多くありません。

増岡:Xで言えば、その手前に引用ポストがあり、もうひとつ手前にコメント、その手前にリポスト、いいね、インプレッションがある。この階段のどの段にいるのか、次はどこを狙うのか。そのなかでKPI設定を変えるのが正しいと思っています。
一足飛びに「クチコミを出してくれ」と言って出てくるクチコミは、人を動かすクチコミではなかったりします。この階段をKPIに設定するという考え方が重要です。
北山:UGCを重視するに至った背景から、NPIという中間指標の置き方、量と質の使い分け、KPIの階段設計まで、どのトピックも実務に直結する内容でした。
UGCと売上を短絡的に結びつけるのではなく、ブランドのフェーズや販路を見極め、その間に適切な指標を置くこと。そして、UGCを生活者が実際に行動を起こした証として捉えることが、今回の議論から見えてきました。
ご登壇・ご参加くださったみなさま、ありがとうございました!

登壇者紹介
小玉 理代様
株式会社Mizkan コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 マネージャー
ミツカンに入社以来、主にマーケティング領域に関わり、現在は国内事業商品の広告宣伝領域を管掌する組織のマネージャーとし、企画・制作・出稿・総括まで一気通貫で担当。過去は新規事業としてFibee(発酵性食物繊維を含む健康食品ブランド)の立ち上げも担当。
増岡 宏紀
株式会社ホットリンク 執行役員COO
SNSコンサルタントやプロモーションプランナーとして、企業のSNS戦略の立案や運用支援、プロモーション設計に携わる。食品・外食・消費財・コスメ・エンタメなど、幅広い業界でSNSを起点としたブランドコミュニケーションを支援。現在は執行役員COOとして、新規顧客の戦略設計から実行支援までを統括。「日経クロストレンド」「MarkeZine」「ITmedia」などの専門メディアへの寄稿・取材実績も多数あり。著書:『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ 〜UGCと指名検索が増え続けるSNS活用の新常識〜』(日経BP社)。