奈良県に、たったひとつのツイートをきっかけに、お客さまが次々と訪れるようになったとんかつ店があります。
きっかけはこのツイートでした。
「平成30年豪雪」としてWikipediaにも記録されたこの災害は、とくに2月上旬には北陸地方で記録的な大雪となりました。北陸豪雪、福井豪雪とも呼ばれています。このツイートでは、豪雪の被害にあわれた福井県民を対象に、お店のメニューを割引して提供する旨の告知をしていたものです。
このツイートは深夜2時の投稿にも関わらず、多くの共感をよび、瞬く間に奈良県を飛び越えて広がり、話題になりました。

まるかつさんが起こしたバズは、これだけではありません。以下の無料食堂(事情があって食事を満足に取ることができない方に対する食事の無償提供。「子ども食堂」に近いコンセプトです)に関するツイートは、現時点(2020.4.27)でリツイート数が3.2万を越える反響です。
全国にチェーン展開するわけではない、奈良県のとんかつ店が、なぜここまでのファンを増やすことができたのでしょうか。
今回、ホットリンク取材班は、まるかつさんにメールでのインタビューを行いました。
ーーーまるかつさんはユニークな取り組みをされていると思います。無料食堂や、店内のみつを風張り紙、背中の張り紙、賄賂封筒など、そのアイデアの源はなんですか?
お客さまがまるかつのお店に入られてからお店を出られるまで、できるだけ多く楽しんでもらうにはどうしたらいいか、いつも考えています。
お店がつぶれかけたときに先輩経営者に相談したことをきっかけに、「お客さまに楽しんでいただけるようにできることをやって、それでダメならお店をたたもう」と腹をくくりました。
来店された瞬間からお代金をいただいてからお店を出られるときまで、お客さまに喜んでいただけるチャンスはたくさんあるので、そのチャンスを活かしたいと思っています。
たとえば、料理を待つ間、暇になってスマホを触っていらっしゃる方も多いですが、おせっかいかもしれませんが、せっかく家族でご来店になったら、何か店内にあるものでご家族で楽しんでいただけたりするとうれしいです。
また、人生いろんなことがありますので、「まるかつに来たら元気になれる」と思ってもらえたら、と思い、壁には私なりに考えたり、集めた言葉を書いて貼っています。
数多くある飲食店の中で当店を選んでいただいたということは、ほかのおいしいものを食べられなかったと言うことです。また、大切なお金をつかっていただく以上、プロとしてできることをしたいと考えています。
具体的には食材の原価は高めに設定して、食材の力を借りるようにしています。また、時間がかかってもしっかりと出汁をとって、味についても追求しているつもりです。
また、当店ではフードロス対策にも積極的に取り組むようにしています。今回の新型コロナウイルスの影響で卸先が休業したために行き場をなくした川波農園さんの有機野菜や山菜を詰め込んだ「野菜・山菜福袋」を発売しました。
企画については、次の点をチェックしているつもりです。
衛生面、安全面は大丈夫か?
従業員の負担は問題ないか?
他のだれかを傷つけないか?
違法性はないか?
お客さまが納得してくれるか?
お客さまが喜んでくれるか?
独りよがりではないか?
コスト的に問題ないか?
ですので、実際に思いついた企画のうち、8割は実行できていません。
ーーー飲食店がすぐに取り組める、SNSを活用した集客ノウハウがあれば少しだけシェアいただけないでしょうか。

まず、SNSで発信するときに気をつけているポイントがいくつかあります。
だれかを傷つけないか?
自分で美味しいと直接表現していないか?
だけをとりあえず注意しています。
また、伝え方としては、たとえば、「当店のロースかつは美味しい」ではなく、「当店のロースかつは美味しいと言ってくださるお客さまが多いです」というようにしています。
ツイートする中身はほとんど思いつきですが、整理してみますと次のようなものが多いと思いました。
1.料理、素材、調理法の説明
2.お召し上がり方の説明
3.キャンペーンのお知らせ
4.営業できることの感謝
5.地域の人、お店やイベントのお知らせ
美味しいかどうか、はお客さまが決められることですので、自分からは直接発信しないようにしています。
ですが、ありがたいことに当店の味を気に入ってくださったお客さまがSNSで盛んにツイートしてくださるので、リツイートさせてもらっています。
また、今はネット通販を始めようと準備をしています。そのために心掛けていることはホームページへの集客をどうするかを考えるよりも、お客さまに喜んでいただけるような中身にするように集中したいです。
「まるかつの通販、楽しい!」と思っていただければ、それこそSNSなどで感想を発信してくださると思います。
そのための中身作りに集中したいです。
ーーーちなみに、Instagramは2018年8月以降更新がされていないようですが、Twitterに力を入れている背景はなんでしょうか
ツイッターを見たりつぶやいたりするだけでも忙しいので、手が回っていません。
ちなみにLINE@は4,000名ほどのお友達がいてくださいますが、ときどき優待企画などをやっています。
もし、これからInstagramをもっと活用していくとするならば、お客さまがご来店記念につぶやいてくださるアルバムのようなイメージで、お店側があまり何もしなくていいようにしておきたいです。
もし本格的にやらせていただくとしたら、ツイッターと同じく、料理、素材、調理法の説明、お召し上がり方の説明、キャンペーンのお知らせなどをがんばると思います。
ーーーSNS活用はどうしても属人的になりがちです。そこで、今後、もし多店舗展開をされるのでしたら、店を任せる店長には、SNSについて何をどう教えますか?
その地域のお客さまを大切に、お店のテーマである「お客さまの元気と笑顔のきっかけに」してもらえるようなつぶやきをしてほしいです。
面白いことをつぶやこうと頑張るのではなくて、実直に、料理のこと、食材のこと、調理法のことをきちんとウソがないようにお客さまに伝えていくだけで十分だと思います。
ーーーありがとうございます。後継者のみならず、全ての店舗に共通して言えることですよね。
編集後記
マーケティングという業界には「刈り取り」だったり「仕掛け」「顧客育成」「囲い込み」などの言葉があります。
まるかつ店長の金子さんの口からは、そのような言葉は決して出てきません。
バズは共感の輪が広がって起きるものです。拡散はチェーンのようにつながって起きています。
まるかつさんの場合、起爆剤は商品・サービスへの想いから生まれています。企業視点の言葉でなく、顧客視点でどう喜んでいただけるかをひたすらに考え、実行しています。我々は、これこそが真っ当なUGCの源泉だと思うのです。
人への想いが先にあって、価値を提供して、その対価をいただける。
UGCという対価もいただけ、またそれがお客さまを連れてきてくださる。
店舗のSNS活用のみならず、お客さまを喜ばせたいというひたむきな姿勢や、そこからのあらゆる取り組みが、心を掴んで離さない理由なのだなと強く感じました。
本質的な価値提供であったり、人の心の動き方について、改めて考える機会をいただけたインタビューでした。
大変お忙しいなか、お時間を割いてメールインタビューのご協力をくださった金子店長、本当にありがとうございました。
本当は直接店舗にお伺いしたかったのですが、このご時世で実現できませんでした。落ち着いたら、とんかつを食べに伺います。
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