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この記事の内容
最終更新日:2024年6月20日
「知識循環型社会のインフラを担い、世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界の実現に貢献する」。この存在意義のもと、2000年にホットリンクを創業した内山幸樹さん。 大学時代に知ったITの世界、日本最初期の検索エンジン立ち上げに携わった彼は、世界の広さと壁を知り、そこに挑戦し続けてきました。 前編・中編に続く後編となる今回は、「データ分析サービスから、ソーシャルメディアマーケティング支援会社への転換」などについて伺っています。
―アメリカのEffyis社買収に踏み切った背景には、「AI・ロボット時代において、石油に相当するエネルギー源はデータである」という判断があったのですね。
内山:
そうです。もっとも、当時僕たちにはアメリカの企業を統治するだけの力がありませんでした。ここから約5年、Effyisはたくさんの苦労と危機を迎えます。その間、僕たちは中国市場に対して、新たな成長の道筋を模索していました。
当時の日本では中国人による「爆買い」需要があり、日本企業はそれをチャンスとして捉えていました。しかし中国市場は、従来のマーケティングリサーチの手法で捉えるには、範囲が広すぎる。しかも、中国人のトレンドはものすごいスピードで変化します。
従来の手法では捉えきれない中国のトレンドに対して、僕たちは「中国のソーシャルメディア・ビッグデータの収集・分析を元に、マーケティングリサーチしたらどうか」と考えました。このときに中国向け事業を「トレンドExpress」という社名にし、中国のソーシャルメディア分析とレポーティングサービスを始めたんです。
しかしクチコミ@係長と同様に、分析サービスだけでは事業スケールしないとわかりました。これまでは、アメリカ・Effyisではデータを「収集」するビジネス、日本ではクチコミ@係長をツールとして提供するという、データを「収集」して「分析」するビジネス。そして中国では、データの「収集」から「分析」、さらには分析結果を「活用」したプロモーション提案まで、広告代理店の部分まですべて請け負うビジネスに拡張しました。
分析サービスでは、どの企業も高くても月額100万までしか発注してくれませんでした。しかしプロモーションも含めると、予算が調査費ではなく宣伝広告費から出るため、予算枠が数千万〜数億になったんです。
トレンドExpressで、ビッグデータに関する「収集」・「分析」・「活用(プロモーション)」までを垂直統合することに成功しました。日本でもクチコミ@係長のツールを売るだけでなく、活用まで支援できたらどうかということで、広告代理店事業を始めました。
そして、2019年の下半期に大決断をし、SaaSツールビジネスからソーシャルメディアのマーケティング支援ビジネスへ会社を大きく方針転換させました。
―中国市場での経験が、事業活動全体を見直すことにつながったんですね。この期間には桧野安弘さん(ホットリンク執行役員CEO)、濱野智成さん(トレンドExpress代表取締役社長)との出会いがあったと聞きました。どのように出会ったんですか?
桧野さんとの出会いは、震災のときです。桧野さんと僕は、EO(Entrepreneurs' Organization、起業家機構)という創業社長や起業家の団体に所属していました。
震災時、桧野さんは仙台で会社を経営していて、大きな被害を受けていました。直接面識はなかったんですが、EOメンバーによる桧野さんを励ます会に参加したんです。このとき、彼から「ベンチャー経営者として、絶対に震災の惨状は見ておくべきだ」と言われて。その会をした週末、物資を買って一緒に仙台へ行きました。
仙台までの道中は約8時間あったんですけど、その間ずっとソーシャルメディアのことを話していました。
当時の僕は、クチコミ@係長が事業の中心で、ソーシャルメディア業界の真っ只中にいました。桧野さんは仙台で、上場直前まで行ってたASP(SAAS)の会社の社長でしたが、彼はなぜかTwitterにめちゃくちゃ詳しくて。びっくりしたのを覚えています。
そんな桧野さんは、会社も社員も被災して、自分の会社がどうなるかわからない状況なのに必死で被災地支援をしていたんです。「こんなことができる人がいるんだ」という思いでした。
それとは別のところで、某ネット広告大手企業さんから、「ホットリンクを完全子会社化して、ソーシャルメディア事業の立ち上げを担わないか?」とか、「CTOになってみるとかは考えられないか?」というお話がありました。当時はTwitterも日本で普及が加速していて、ソーシャルメディアに対応することは急務でした。
そのときふと「ソーシャルに詳しい桧野さんが適任ではないか」と思ったんですよね。
結局、桧野さんはその会社のソーシャルメディア本部長になり、Twitter広告でデジタル広告代理店1位になるまで成長させました。
ある程度恩返しができたので、桧野さんが次はどうしようかと考えていたとき、僕が声をかけました。「上場から次のステージへ進むため、ソーシャルで世界を目指すため、その営業力やソーシャルメディアの知識を貸してくれませんか」と。幸い、快くジョインしてくれました。
濱野さんとは上場前から、ホットリンクの人事コンサルをお願いしていました。中間層の経営力向上と人事制度のリニューアルで支援してもらい、ずっと「この人は本当に優秀だな」と思っていて。
会社にとって、人事や企業文化づくりは成長の土台です。人事のプロフェッショナルがほしい。そう思って、濱野さんを口説きまくってたんです。
当時、濱野さんはトーマツイノベーション株式会社(現・株式会社ラーニングエージェンシー)で、多くのベンチャー企業の経営者に接していました。ゆくゆくは会社の経営を担い、次の社長とも言われていた逸材です。
そんな彼を、「日本のベンチャーを元気づけるだけでいいんですか。それよりも、世界に影響力を与えませんか」と口説きました。そして、ホットリンクにジョインしてもらうことができました。
―ホットリンクを経営する上で、「次世代の検索エンジン」という言葉が大きなキーワードになっているように思います。創業当初から今に至るまで、ネット社会の未来予想図に変化はありましたか?
実は、創業当初からその予想は一切変わっていません。情報が溢れている時代では、情報フィルタリングがすごく重要だと思っています。具体的には、欲しい情報にたどり着けるための、検索エンジンやリコメンデーションエンジンの存在です。
これを解決するには、人工知能です。そして人工知能が完成するためには、人間の知とかけ合わせないといけない。そう思いで、ホットリンクの構想を立ち上げました。
構想を立ち上げた初期に存在した「ホームページ」は、限られた人にしか作れないものでした。しかし人間の頭の中には、ホームページになっていない情報がたくさんある。人間の知識をどうやって、ネット上に吐き出させるか。
知識循環型社会が成熟し、人々が「“HOTTO(ほっと)”できる」世界ができる。その実現に不可欠な知識循環型社会のインフラを、どう整えるか。それを実現するための道をずっと歩んで20年経って、現在はソーシャルメディアのマーケティング支援の事業でマネタイズしているという感じですね。ずっと一貫していると思います。
同時に僕は、「人類の進化に貢献したい」という個人のミッションも掲げています。ある意味で僕は、ホットリンクを通じて人生のミッションを実現したいと思っているんです。
―チャネルが変わっているだけで、内山さんの構想の軸はブレていないんですね。
中高生のとき、僕は「平和な世界に生まれてつまらない」とさえ思っていました。しかしネットに出会って、僕は「ものすごくラッキーな時代に生まれたんだ」と気づいたんです。
300年後の教科書には、「1990年代からの情報革命は、18世紀の産業革命に匹敵する大きな革命の時代だった」と書かれるでしょう。そんな時代に生まれ、インターネット革命を牽引できることは、本当にラッキーだと思います。
―内山さんは、未来のネット社会はどうなると予想しますか? また「人類の進化」をどう捉えていますか?
今のネット社会、特にソーシャルメディアのおかげで、僕たちは一人ひとりの「人間」から「人類」というより大きな生命体になろうとしていると考えています。
人間の脳は、脳細胞とシナプスで形成されています。人類をひとつの脳と考えた場合、僕たち一人ひとりはひとつの脳細胞であり、ソーシャルメディアというシナプスで結ばれています。誰かがいいね・シェアをすると、電気信号を通して別の人=脳細胞へと繋がる。そして、その人がまたいいねをして次につながるという連鎖が生まれます。
しかし人類=脳という構造で見ると、現在のソーシャルメディアはまだ未発達、いわば原始的な脳の状態です。例えば「原発」という問題が起きた場合、誰もが賛成、反対の意見を表明します。ですが、僕たちは原発政策に対する意思決定ができません。脳内で例えると、あらゆる場所が発火して(電気信号を発して)、結果、信号が混乱し、どうすればいいか判断がつかない状態です。
ここに判断を下す前頭葉が生まれたら、どうでしょう? 脳内のあちこち発火した信号に対して、「感情的にはこうだけど、理論的にはこう」「過去に照らし合わせるとこう」というように情報を全部統合した上で、意思決定ができるじゃないですか。そういう意味で、現在のソーシャルメディアは、人類という生命体の脳の進化の過程にあるんです。
ここ最近、ソーシャルメディア上で「人間は二極化している」と言われます。米国大統領選挙でのトランプ派・バイデン派のように、お互いに憎み合っている構図です。
こうした二極化をソーシャルメディアが生んでいる。だからソーシャルメディアはダメだという意見がある。しかし僕は、脳でいうところの右脳と左脳が形成されている状態であって、人類としての進化の過程で必要な段階ではないかと思っています。
もしも今後、意思決定のための神経細胞としての機能が備わったソーシャルメディアが生まれたら。人類はもっと効率的に、意思決定ができるようになると思います。それこそ、人類にとっての進化だと思いますね。
―内山さんがホットリンクを通じて行なっている社会貢献活動についても、活動を続ける理由を教えてください。
僕は子どもの頃から、世の中に対して何か良い影響を残したいと思っていました。人類の進化に貢献したいという思いが常にあって。ホットリンクの事業を通じて、僕は世界を変えられると思っている。だから、上場するまで僕は全精力をホットリンクに注ぎ込んできました。
僕は妻と、子どもを産まない選択をしたんです。自分の人生の時間を、ホットリンクと妻に集中して使いたかった。それくらい、ホットリンクに賭けてきた。
上場をついに叶えたとき、軽井沢にある「UWC ISAK Japan」という日本初の全寮制のインターナショナルスクールにふるさと納税を通じて設立資金を出し、ファウンダーの1人となりました。
インターナショナルスクールは、基本的に富裕層が通うイメージです。しかしISAKには「ダイバーシティな環境で育つことが、Change Makerになるには必要だ」というコンセプトを掲げ、7割の学生に奨学金を支援しています。
実際に生徒を見ると、東南アジアのある国の元首相の息子とアフガニスタンの難民の子どもが、高校生活の3年間同じ部屋で一緒に生活することもあるんです。宗教も、イスラムからキリスト教、仏教、儒教とバラバラです。
それまで僕は、子どもの教育に対して全く興味がありませんでした。しかしISAKの授業を見学させてもらったとき、ここにいる子どもたちが、10~20年後に世界のリーダーになって、自分の国を変えていく姿がありありと見えたんですね。
ホットリンクを通じて世界を良くすることに必死になっていたけど、ほんの少し自分が支払う税金を振り向けるだけで「教育を通じて、世界を良い方向に変えられるんだ」ということに気づかされました。
だから、もっと自分の視野を広げるべきだと感じたんです。僕が約20年かけて培ってきた、経営のノウハウや人脈、そして財産。それらをもっと多くのところに振り分けて、世の中に貢献できるんじゃないか。僕の器も多少なりとも大きくなっていますから、ホットリンクへの力を抜くことなく、それができると気づけたんです。
日本のインターネット黎明期から、ネットの未来を描いてきた内山さん。彼はホットリンクを通じて、多くの仲間達とAIと人の集合知が織りなすことで初めて生まれる「世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界」の実現に挑んできました。
そして20年。内山さんは多くのチャレンジと失敗を経て、少しずつその夢へと前進しています。その道中は平坦ではなく、経営者として多くの苦渋の決断が求められました。しかし、彼は「より後悔の少ない道を選ぶ」信念を貫いたことで、図らずも夢へと近づく道を見つけ出したのです。
さながらスティーブ・ジョブズの語った「Connecting the Dots」のように、点と点がつながった瞬間と言えるでしょう。ホットリンクは、ソーシャル・ビッグデータの提供から、データを活用したマーケティング支援という大きな事業転換を果たしました。
内山さんの生き方からは、人生の軸を持って社会に意思表明することの重要性を強く感じます。その姿勢を貫くことで、人生の荒波と向き合い、順応できるのかもしれません。
内山さんは取材中、「やっと時代が僕に追いついてきたかな(笑)」と、冗談交じりに語っていました。彼の頭の中では、「知識循環型社会」のインフラを担うための次なる一手が、すでに構築され始めているのかもしれません。
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