「韓国好き女性からの支持No.1」との呼び声も高い、人気美容師・武者ひなのさん(Instagram)。フォロワー数1.3万人の彼女のもとには、多いときで月60名の新規予約が入るそうです。
そんな武者さんのフォロワー数は、1年前までは1,700人ほど。彼女のSNSは、美容室専売のヘアケアブランド、ミルボン様が主催したセミナー「感覚ではなく理論で実践するSNSセミナー」に参加したことで大きく飛躍を遂げました。
同セミナーはホットリンクがカリキュラム設計や研修資料作成、講師を務めさせていただくなど、ミルボン様とのタッグを通じて実施させていただいたものです。
「伴走型サポート体制」が特徴である同セミナーについて、ミルボン経営戦略部の池田龍正さん、武者さん、研修担当・コンサルタントを務めたホットリンク・ムロヤがお話を伺いました。(執筆:サトートモロー 編集:澤山モッツァレラ)
ミルボンが、公式アカウントで美容師をサポートする理由
ムロヤ:
ミルボンさんは現在、美容師さん・美容室さんに対しソーシャルメディアを活用した様々なサポートを展開されています。こうした施策は、どのような経緯で始まったのでしょう?
池田:
弊社アカウントによって美容師さんアカウントをサポートすることで、エンドユーザーとの接点を増やし、ミルボンブランドの認知拡大につなげる目的がありました。
「見たことがある」「気になっている」シャンプーやトリートメントを美容室で紹介されたら、購入につながりやすくなります。そのハードルをさげる意味で取り組んでいます。
ミルボンは美容室向けの化粧品事業を展開している企業で、一軒一軒異なる美容室の課題やオーナーの想いと向き合う中で、販売スキルを高めるための講習の実施、店内会議への参加、店舗の年間スケジュールや販促計画の立案、さらには美容室の経営計画づくりまで幅広いサポートを行なっています。
20年ほど前は「美容師の黒子であれ」という精神で、表舞台に立つ美容師さんを陰ながら支援することがメインでしたが、10年ほど前からヘアカラーの人気の高まりとともに弊社が「知販」と呼ぶ店頭販売品、サロンで取り扱っているシャンプーやトリートメントなどの需要が一般顧客(C)から高まっていきました。
それに伴い、一般顧客(toC)へ弊社では2016年頃から約5年間かけて、顧客向けホームページや交通広告のキービジュアルの展開、交通広告賞を受賞した2019年の『ガールズパワー』などさまざまな媒体で一般顧客へもブランドの認知を高める施策を実施して参りました。
ムロヤ:
その結果、一般ユーザーからの認知度調査では過去5年で132パーセント増。「約2名に1名が知っている」(※)という結果が得られたそうですね。
※美容室で年3回以上、1回のお支払い4000円以上の女性 n数1000(ミルボン調べ)
池田:
おかげさまで、大変ありがたく思っております。ミルボンの認知経路は、67.3%が美容師さん・スタイリストさん経由です。一方、「インターネットやSNSから」と回答した方も64.9%いらっしゃいます。

池田:
このインターネット・SNSからの認知と、事業ドメインである「美容室で買える」というところをうまく組み合わせたい。そう考え、2020年からSNSに本格的に取り組み始めました。
2022年2月現在、Instagramは6万フォロワー、Twitterは13万フォロワーと業界最大規模にまで成長しています。この成長したSNSアカウントを、美容師さん支援に活用できないかと考えました。
例えば弊社が美容師さんのアカウントをフォローしたり、投稿をリポスト・リツイートすることによって美容師さん自身のフォロワーを増やす。そこで来店したお客様にミルボン製品を使ってスタイリングしてもらえば、美容師さんにもミルボンにもファンが増える。
結果、美容師さん・スタイリストさん経由の認知が70%を超えていく。そういうシナジーが生まれるのではないかと。
ムロヤ:
素晴らしいですね。ミルボンさん自身の1対nの発信力を高めるだけではなく、エンドユーザーとの接点を持つ美容師さん自身の発信力も高めてN対nのメディア活用をすることによって、ミルボンユーザーを増やす構造にしているのですね。
美容師さんの発信が増えることでお客様が増加し、ミルボンさんの商品に接する機会が増え、「ミルボンのヘアケア用品が最高ですよ」というクチコミも増え、ブランドへの信頼も高まる。
さらに公式アカウントが影響力を持ち、美容師さんの投稿をリポスト・リツイートすることでフォロワーを分け与えることもできる。ミルボンさんの製品を取り扱うからこそ得られる、新しい形の経営支援サービスになっているわけですね。
池田:
そうですね。例えばあるPR投稿を3,000フォロワーくらいの美容師さんに投稿をお願いした際、当初は780インプレッションだったんですね。そこで弊社アカウントでリツイートしたところ、合計で約3万インプレッションまで伸ばすことができました。
美容師さんが弊社を宣伝し、弊社もまた美容師さんの投稿を拡散することで、相乗効果を感じられた事例でした。
ムロヤ:
1,000フォロワーのアカウントで発信したとしても、300インプレッション以下ということはザラにあります。ミルボンさんがリツイートすることで、ちゃんと良い投稿であれば数万インプレッションまで拡大できるわけですね。

ミルボン公式アカウントは、美容師さん・美容室さんのアカウントを積極的に拡散する
セミナー単発で終わらない、手厚いフォロー体制
ムロヤ:
ソーシャルメディアを通じたサポートの一環として、ミルボンさんは2021年3月に「感覚ではなく理論で実践するSNSセミナー」を開催されました。参加された武者さんは、大きな学びを得たそうですね。特に印象に残っているのは、どういう点ですか?

武者:
Instagramでのブランディング方法を知ったことですね。セミナーに参加する以前はいろいろな投稿を試していましたが、フォロワーがなかなか増えなくて。投稿は毎日していたんですが、「何で伸びないんだろう、何が悪いんだろう」って。
セミナーを通じて、「投稿内容をひとつのカテゴリーに絞る」というコツを学んだことが大きかったですね。忠実に実行したことで、一気にフォロワーを伸ばすことができました。
ムロヤ:
ブランディングの設計やセミナー後のフォローについて、ミルボンさんはどのように行なわれたんですか?
池田:
ブランディング設計では、もともと武者さんが得意としていた「ハイトーンロング」「韓国ヘア」をかけ算した投稿を提案しました。
武者さんのアレンジ系投稿は2、3回の投稿で一気に伸びたんですよ。ご自身もやり方をつかんだようなのでひたすら続けていただき、弊社では継続できるようフォローしました。

武者さんに関しては「こうしたほうがいい」とアドバイスしたことよりも、セミナー後にグループLINEに入っていただき、進捗のフォローアップをさせていただいたことがポジティブに作用した気がします。
ムロヤ:
セミナー後には、参加者の方をグループLINEに入れてフォローされていたんですね。
池田:
そうです。グループのなかで武者さんがひとり突き抜けていったタイミングで、より個別に伴走できる体制へと移行しました。
武者:
本当に、私1人だったらインサイトもちゃんと見ていなかったと思います(笑)。
参加した当時の私は、他の美容師さんと比べてもフォロワー数が多くありませんでした。「フォロワーが少ないのに行動しないのはやばい! できることをやろう」というマインドになったんです。
ミルボンさんはしっかり投稿を見て、伸びたタイミングでフォローしてくれます。ちゃんとした動画を上げれば伸びるし、評価されます。この環境が、私にはすごく合っていたのかなと思います。
ムロヤ:
SNS施策を行なう上で、実行力というのは本当に重要ですよね。
池田:
そうですね。それに加えて毎週フォロワー数と、ベスト投稿の報告もしてもらう設計にしていました。
ムロヤ:
投稿をサボっていると、SNS上での存在感はどんどん薄れてしまいます。私もアパレル販売員さま向けのSNS研修をやっていますが、SNSではやはり「ちゃんと発信する人」「投稿する人」が伸びるんですよね。
武者さんの「フォロワーが少ないのに行動しないのはやばい」というのは健全な危機感で、そのハートがあったからこそ学びも吸収するし投稿もガンガンする。そこにミルボンさんの手厚いフォローがうまく噛み合い、よいPDCAサイクルが生まれたんだなと感じました。
武者:
店舗のスタッフ同士でも、私のフォロワーが増えたことでコンテンツの話が増え、議論が活発になりました。お互いに「この投稿いいよね」「あのアレンジかわいい」という話が増えたんです。
Instagramを見ていると、どんどん新しい投稿が出てきますよね。それを見て「私も新しい投稿をしなきゃ!」と刺激を受けたり、かわいい投稿があれば自分でも試してみたり。そういう試行錯誤も、Instagramを継続するモチベーションになりました。
武者さんのフィード投稿。4桁いいねを獲得することも珍しくない
デジタルの接点と、リアルの売上をリンクさせるために
ムロヤ:
こうしたセミナーは、講義だけ行なって終わりというパターンが多いですよね。今回のような手厚いフォローを、サービスに組み込んで提供しようと思われたのはどういう理由がありますか?
池田:
SNSというデジタルの接点と、リアルの売上をうまくリンクさせるためですね。
ミルボンは、「MILBON エデュケーションiD」という学習ツールを提供しています。美容師さんをリアルの接点であるスタジオだけでなく、デジタルの接点でもサポートするためのツールです。
このツールを開発する時、「リアル接点とデジタル接点の両方で成果を出しているサービスはなにか」を考えました。そこで思い浮かんだのが、ライザップさんです。実際にライザップさんにユーザーとして契約してみて、リアル接点とアプリ上でお客様と伴走するやり方など、大きなヒントをもらいました。おかげで私自身も体質改善ができました。
SNS経由の認知獲得という点でも、美容師さんをサポートできれば双方にメリットが大きいです。そこから、ちゃんと成果が出るサービスを提供するために「デジタルとリアルを組み合わせた伴走型のセミナー」を実施することにしました。
ムロヤ:
伴走することによって美容師さん、美容室さんの売上がしっかりついてくる、と見えたので伴走サポートを提供されているんですね。こうした施策を行なう中で、弊社ホットリンクに今回のセミナーを依頼してくださった背景を教えてください。
池田:
ホットリンクさんは、ソフトの質がとにかく高いですね。
研修の質、担当されている会社さんの数もさることながら、対応スピードも非常に早く、網羅的な仕事をしてくれる。今回のセミナーだけではなくコンサルティングもしていただいていますが、とにかく「再現性の高いサービスを提供している」というのが率直な印象です。
働いている方々の人柄も、すごくいいですよね。2020年からinstagramライブなどでもご一緒していて、人のよさもわかっていたことは大きいです。サービス提供側からすると、一緒に仕事をしていくうえで非常に心強い存在ですね。
アンケートで証明された、フォロー体制への高い信頼
池田:
武者さんの事例の後にもセミナーを実施して、これまで約140名の美容師さんをサポートしました。その結果、セミナー後10週目までで合計11,582フォロワーが増加しています。

池田:
個々で見ると、フォロワー増加の約30%は5%の美容師さんによって生み出されており、最もフォロワーを獲得できた美容師さんは、10週間で1142名の方に追加でフォローして頂く成果につながりました。(セミナー参加時と比較して2倍)「1人1人にフォーカスした伴走・フォローをしていけば、より大きな伸びが期待できるのでは?」という仮説を現時点では考えています。
ムロヤ:
セミナーを受講した、美容師さんからの反響はいかがですか?
池田:
アンケートでは、ミルボンのフォローについて「進捗を追いかけてくれることが良い」という回答が、64%と非常に高かったです。

池田:
また「来季セミナーを実施した場合、サロンメンバーを参加させたい?」という項目では、100%の方々が「はい」と回答してくださいました。

ムロヤ:
100%はすごいですね。アンケート結果を見て、成果の一歩手前に必要な行動をフォローすることの重要性を痛感します。
年間売上144%アップの集客のコツ、SNSのコツ
ムロヤ:
セミナーを経て、武者さんの売上は変わりましたか?
武者:
大きく変わりました。2020年12月の個人売上は約70万円でしたが、2021年12月には約170万円まで伸びたんです。
新規のお客様は、2020年12月時点は約20名でした。インスタ経由のお客様は半数もおらず、ホットペッパーやHPを見てのお問い合わせがほとんどでした。それが、2021年夏には約60名まで伸び、その後も毎月平均で40名のお客様に新規ご来店いただいています。
店舗での年間売上は私が1位で、昨年比で144%アップです。Instagramのフォロワー数も、1,700フォロワーから1.3万フォロワーまで増えています。
ムロヤ:
伸び幅がすごいですね!
武者:
ありがとうございます。お客様がたくさん来てくださるようになって強く感じたのは、「メディアがひとつだけだと、見られる頻度が少ない」ということでした。
Instagramを頑張ったおかげで、集客サイトでヘアアレンジをたくさんアップしたり、ブログを頻繁にアップしたりしていたときよりも、新規のお客様がすごく増えました。
集客サイトだけ、Instagramだけ頑張るのではなく、両方を組み合わせたことでいい結果が得られたんだと思います。
ムロヤ:
SNSで「この美容師さん、すてきだな」と見かけて、実際にどんなスタイリングをしているか知る受け皿を集客サイトが担っていたんですね。
武者:
そうですね。加えて、「自分の得意なジャンルを見せる」のも、すごく重要だと思います。
私はフォロワーさんに「韓国風のヘアスタイルにしてくれる人」として認知されています。「この人はどんな美容師さんか」がパッと分かるコンテンツを発信する方が、見られる回数は多いのかなと思います。
池田:
美容師さんの大半は、Instagramにしっかり取り組んだ方がいいことには気づいているんです。でも、次第にご自身が発信するコンテンツに飽きちゃって、いろんなものに手を出そうとしてしまう。それでは集客につながりません。
一定層のフォロワーを獲得するまでは、ひとつもしくはふたつのコンテンツに注力し、継続的にアップしていく必要があります。
ムロヤ:
自分の得意なことには、自分では気づけないときもありますよね。ミルボンさんがセミナーを通じて、客観的な目で判断してくれるからこそ、ブランディングの軸を見つけやすくなっているのかもしれません。
毎朝10分の頑張りで、1.3万フォロワーに。
ムロヤ:
セミナーに参加したことで、武者さん自身が「よかった」と思うことはなんでしょうか?
武者:
たくさんあります。アカウントを分析できるようになったこと、トレンドを先読みする癖がついたこと、自分でブランディングができるようになったこと。

SNSを習慣化したおかげで毎朝10分の投稿を続けられるようになり、1.3万フォロワーまで伸ばすことができるようになりました。
私は1日3、4個コンテンツを貯めるようにして、週2日で1週間分のコンテンツを作っています。それを10分で編集して、一番インプレッションが伸びる朝に絞って投稿するようにしました。
ムロヤ:
「毎朝10分で1.3万フォロワー」、すてきなフレーズですね。
池田:
現時点で、武者さんは新規のお客様も年間売上も大きく伸びています。客単価も、平均的な美容師さんの単価と比べれば高い方です。
しかし、ここはまだリアルの接点とデジタルの接点を組み合わせた「最初の段階」だと考えています。武者さんには、まだまだ伸びしろがあると思っているんです。
そのカギを握るのが物販です。例えば、もし武者さんのお客様の30%がミルボンのヘアケア用品を買ってくだされば、月間売上は220〜230万まで伸びると思います。
あるいは武者さんがSNSでシャンプーやトリートメントの使い方などミルボンの商品の情報を発信し、「milbon:iD」を通じてフォロワーさんが商品を購入したとしたら。
武者さんがサロンに立っていない時間帯も、ミルボンが武者さんの売上に貢献できるわけです。2022年は、このサイクルが生まれるように取り組んでいきたいと考えています。
こうした美容師さんの事例は、まだ全国でひとりもいません。武者さんには、ぜひその「最初のひとり」になってほしいです。
武者:
はい(笑)。こうやって言われると、「また頑張ろう」って気分になりますね。
池田:
デジタルとリアルそれぞれの接点の組み合わせたビジネスは、アパレルや飲食などあらゆる業種に再現性があると思います。この事例が成功したら、ぜひ業界外にも広げていきたいですね。
ムロヤ:
さらに欲張ると、武者さんのコンテンツ表現はどんどん磨かれていて、Instagram以外にもTikTokやYouTubeショートにも動画を出すとまた新しい客層との出会いがありそうですね。
運用の手間は増えるかもしれませんが、本当にいいポジションにいてコンテンツも豊富なので。まだまだ伸びていくと思います。
今あるポジションで突き抜けられますし、日本ナンバーワンを取るポテンシャルや実力は十分にあると思います。1~2年後、もっと雲の上の存在になってるんだろうなと思いますね。
池田:
いいですね、世界行きましょう。
ムロヤ:
武者さんの動画は、国境を越えて楽しめるコンテンツです。コロナが落ち着けば、武者さんにやってほしいというお客様が海外からいらっしゃることだってあり得ると思います。ぜひ近い将来、「アジアの武者」「世界の武者」として名を馳せていただければと思います(笑)。
武者:
頑張ります(笑)。