プレファレンスとは?定義と基本概念
プレファレンス(Preference)とは、消費者がある商品カテゴリーで購買する際に、特定のブランドを選ぶ確率を決めるブランドへの好意度のことです。日本語では「選好性」「ブランド選好」とも訳されます。
たとえば、ある消費者がビールを買う場面で10回中7回A社の商品を選ぶ傾向があるなら、「A社に対して高いプレファレンスを持っている」といえます。プレファレンスはマーケティング戦略の根幹に位置する概念であり、P&Gやユニリーバなどのグローバル消費財メーカーが長年重視してきた考え方でもあります。
この概念が日本のマーケティング業界で広く知られるようになったのは、元USJのCMO・森岡毅氏と今西聖貴氏の共著『確率思考の戦略論』がきっかけです。同書ではプレファレンスを「消費者の購買行動を支配する最も重要なドライバー」と位置づけています。
プレファレンスとパーセプションの違い
プレファレンスと混同されやすい概念に「パーセプション(知覚・認識)」があります。パーセプションとは消費者がブランドに対して抱いているイメージや認識のことです。一方、プレファレンスは認識の結果として生じる「選好」、つまり実際に選ぶかどうかの確率を指します。
パーセプションを変えることがプレファレンスを高める手段の一つですが、パーセプションが良くても価格や流通の問題で選ばれない場合もあります。プレファレンスはより購買に直結した指標といえます。
プレファレンスがマーケティングで重要な理由
プレファレンスが重要視される理由は、企業がコントロールできる要因の中で、売上への影響が最も大きいからです。
売上は以下の5つの要素に分解できます。
売上 = 市場規模 × 認知率 × 配荷率 × プレファレンス × 平均購入単価
市場規模は外部環境に左右され、認知率や配荷率は一定水準を超えると伸びしろが限られます。平均購入単価も大幅な変更は難しいケースが多いでしょう。つまり、中長期的に売上を伸ばし続けるために企業が注力すべき最大のレバーがプレファレンスなのです。
実際に、認知率や配荷率が高い水準にあるにもかかわらず売上が伸び悩むブランドは少なくありません。その多くはプレファレンスの問題を抱えています。「知っているけれど選ばない」状態を打破するには、消費者のプレファレンスそのものを高める必要があります。
プレファレンスを構成する3つの要素
プレファレンスは次の3つの要素で構成されています。それぞれの要素を理解し、バランスよく強化することが重要です。
ブランドエクイティ(Brand Equity)
ブランドエクイティとは、ブランドに紐づく消費者の知覚価値の総体です。信頼感、品質イメージ、ブランドストーリーへの共感などが含まれます。
たとえば、同じ成分のスキンケア製品でも、有名ブランドの製品と無名ブランドの製品では消費者の選好が大きく異なります。これはブランドエクイティの差によるものです。ブランドエクイティは広告やSNSでのクチコミなどを通じて長期的に蓄積されるため、一朝一夕には構築できませんが、一度確立すると強力な競争優位になります。
関連:ブランドエクイティとは?意味や構成要素・測定方法を解説
製品パフォーマンス(Product Performance)
製品パフォーマンスとは、製品そのものの品質や機能が消費者の期待をどの程度満たしているかを示す要素です。味、使い心地、耐久性、デザインなど、カテゴリーによって重視されるポイントは異なります。
どれほどブランドイメージが良くても、製品の品質が期待を下回れば消費者のプレファレンスは低下します。逆に、ブランド認知が低くても製品パフォーマンスが突出していれば、クチコミを通じてプレファレンスが高まることもあります。
価格(Price)
価格は消費者の購買判断に直結する要素です。ここでいう価格とは、単に安いか高いかではなく、消費者が感じる価値と価格のバランス(知覚価値)を意味します。
同じ品質なら安い方が選ばれますが、価格が高くてもそれに見合う価値を感じれば消費者は選びます。プレファレンスの文脈では、価格戦略は「いかに値下げするか」ではなく、「いかに知覚価値を高めるか」が重要です。
プレファレンスの測定・可視化手法
プレファレンスは目に見えない概念ですが、いくつかの方法で測定・可視化することができます。定量的な把握なくしてプレファレンスを高める施策は立てられません。ここでは代表的な手法を紹介します。
市場シェアからの推定
最もシンプルな測定法は、市場シェアをプレファレンスの代理指標として活用する方法です。認知率と配荷率がほぼ均一な市場では、シェアの差はプレファレンスの差とほぼ一致します。自社と競合のシェア推移を追うことで、プレファレンスの相対的な変化を把握できます。
ブランド選好調査(アンケート)
消費者に対して「次にこのカテゴリーで購入するなら、どのブランドを選びますか」と直接尋ねる方法です。購入意向やブランド選好順位を調査することで、プレファレンスを数値化することができます。
ただし、アンケートには「回答と実際の行動が一致しない」というバイアスがあるため、他の指標と組み合わせて判断することが重要です。
Evoked Set(想起集合)分析
消費者が購買時に想起するブランドの集合を「Evoked Set(想起集合)」と呼びます。あるカテゴリーで3つのブランドしか思い浮かばない消費者にとって、その3ブランドが選択肢のすべてです。Evoked Setに入ること自体がプレファレンスの前提条件であり、純粋想起率(何も手がかりなしにブランドを思い出せる率)はプレファレンスの先行指標として有効です。
SNSデータによるプレファレンスの可視化
近年注目されているのが、SNS上のクチコミデータを活用した可視化手法です。消費者がSNSで自発的に言及するブランドは、プレファレンスが高い傾向にあります。具体的には以下のような指標が活用されます。
- UGC(SNS上のクチコミ)数:ブランドに関する自発的な投稿の量
- ポジティブ・ネガティブ比率:感情分析によるブランド評価の傾向
- クチコミの文脈分析:どのような場面でブランドが言及されるか
SNSデータには、アンケートのようなバイアスが少なく、消費者のリアルな声を大量に収集できる利点があります。
プレファレンスを高めるために抑えておきたいポイント
プレファレンスを高めるために抑えておきたいポイントを紹介します。
消費者インサイトの深掘り
プレファレンスを高めるための出発点は、消費者が本当に求めているものを理解することです。表面的なニーズだけでなく、潜在的な欲求や不満を発見することが重要です。
具体的には、SNS上のクチコミ分析やデプスインタビュー、行動データの分析などを通じて、消費者が「なぜそのブランドを選ぶのか(または選ばないのか)」を明らかにします。インサイトの精度がプレファレンス向上施策の成否を分けます。
ブランド体験の設計
消費者がブランドに触れるすべてのタッチポイントで、一貫したポジティブな体験を提供することがプレファレンスの向上につながります。製品の品質はもちろん、パッケージデザイン、店頭での陳列、ECサイトの使いやすさ、カスタマーサポートの対応品質まで、あらゆる接点が影響します。
ポジショニングの明確化
競合ブランドとの差別化ポイントを明確にし、消費者の記憶に残る独自のポジションを築くことも有効です。「どのカテゴリーで、誰にとって、どんな価値を提供するブランドか」を一言で説明できるほどシャープなポジショニングが理想です。
ポジショニングが曖昧なブランドは、消費者の記憶に残りにくく、購買時に想起されません。逆に、明確なポジショニングを持つブランドはEvoked Set(想起集合)に入りやすくなり、プレファレンスの向上につながります。
SNS・UGCを活用したプレファレンス向上策
デジタル時代において、SNS上のUGCはプレファレンスを高めるための強力な手段です。企業発信の広告よりも、消費者同士のクチコミの方が購買意思決定に大きな影響を与えることが多くの調査で明らかになっています。
関連:インターネット上のクチコミを参考に8割超が商品を購入。購入商品のTOP3は、食品・化粧品・日用雑貨
UGCがプレファレンスに与える影響
UGCとは、消費者が自発的に発信するブランドに関するSNS上のクチコミ投稿、レビューなどのコンテンツです。UGCは第三者の推奨として機能するため、広告よりも信頼性が高く、消費者のプレファレンスに直接影響を与えます。
ホットリンクの提唱するULSSAS(ウルサス)モデルでは、UGC → Like → Search → Search → Action → Spread という購買行動サイクルが示されています。このサイクルが回ることで、クチコミが新たなクチコミを生み、プレファレンスが持続的に高まる好循環が生まれます。

関連:SNS時代のマーケティングフレームワーク、「ULSSAS(ウルサス)」とは
SNSを活用してプレファレンスを高めるには、UGCが生まれやすいアカウント基盤の構築や、継続的なアテンション獲得、自然とSNSにシェアしたくなる商品やサービス体験設計、クチコミのきっかけとなる文脈を提供するプロモーション企画などが有効です。
UGCでプレファレンスを高める具体施策
プレファレンス向上目的でUGCを増加させるためには、以下の4つのアプローチが有効です。
1つ目は、UGCが生まれやすいアカウント基盤の構築です。フォロワー数の多さよりも、クチコミが自然に生まれる良質なアカウント基盤があるかどうかが重要です。そのためには自社ブランドと相性がよく、UGCを投稿してくれる確率が高いSNSユーザーを分析し、フォロワー獲得にもつながるターゲティング広告が有効です。また、公式アカウントが日常的に消費者のクチコミをリポストしたり、引用リポストでリアクションしたりすることで、「このブランドはクチコミを見てくれている」という認知が広がります。すると消費者側の投稿ハードルが下がり、UGCの総量が増えていきます。
2つ目は、SNS広告や公式アカウント運用による継続的なアテンション獲得です。UGCは一度仕組みをつくれば自動的に増え続けるものではありません。公式アカウントからの定期的な発信やSNS広告によって、ブランドが消費者の目に触れる機会を継続的に確保することが必要です。アテンションが途切れるとクチコミも減少するため、UGCの好循環を維持するエンジンとして広告・公式アカウント運用を位置づけることが大切です。
3つ目は、SNSにシェアしたくなる商品やサービスの体験設計です。商品の使用体験そのものに「思わず誰かに伝えたくなる」要素を組み込むアプローチです。パッケージの開封体験改善、商品自体の写真映え、動画を撮りたくなるプロセスをサービス提供に含めるなど、消費者が自然に発信したくなるポイントを商品・サービス設計の段階から意識することで、UGCの投稿量を底上げすることができます。
4つ目は、クチコミのきっかけとなる文脈を提供するプロモーション企画です。消費者がブランドについて投稿する「きっかけ」を企業側から提供する施策です。投稿キャンペーン、オフラインイベントとの連動企画、インフルエンサーやコンテンツを起点とした話題化施策などが具体例として挙げられます。重要なのは「企業が言わせる」のではなく、「消費者が言いたくなる文脈」を設計することです。
SNS・UGCでプレファレンス向上に成功した事例
1945年に創業された、アメリカの老舗ソーセージブランドのジョンソンヴィル様は、プレファレンスの向上を目的にSNSのUGC活用に取り組みました。
特に注力したのは、CEP(カテゴリーエントリーポイント)における想起の強化です。CEPとは「バーベキューの飲み物といえば」のように、消費者が商品やサービス購入の検討に至るきっかけとなる文脈のことを指します。選ばれる確率を高めるためには、まず各CEPにおいてブランドが想起集合に入ることが前提条件となるため、UGCを活用してCEPとブランドの想起を強化する必要があったのです。
消費者調査を元に、「BBQ食材といえば」「パーティー食材といえば」「休日のぜいたくなランチといえば」「ビールのお供といえば」「キャンプといえば」などのブランド戦略上注力するCEPを決めました。
Xにおいて、UGCが投稿されやすいフォロワー基盤構築に注力しました。インフルエンサーやタレントを起用し、「バーベキュー」「ビールと一緒に」といった、特定のシーンをイメージさせる訴求企画も実施。
発生したUGCのリポスト運用も実施し、1年でクチコミ数が9倍まで増加しました。

事例詳細:商品の「自分ごと化」を促し、1年でクチコミ数が9倍に! 売上アップも実現した老舗ソーセージブランド、ジョンソンヴィルのSNS活用
InstagramではCEPごとに、ジョンソンヴィルのソーセージを利用した写真素材やレシピ動画を制作。
モーメントやCEPに合わせた投稿や、UGC投稿企画を継続しました。
特に注力したのが、クリスマスやハロウィンなどの季節のイベントです。
「クリスマス」「クリスマスディナー」など、シーズン中にInstagramユーザーが検索するキーワードを狙ってレシピ動画を投稿し、広告配信も実施。
ターゲットとしていたクリスマス関連のキーワードで軒並み上位表示に成功し、多くの「保存」を獲得。結果として公式のレシピを真似した、狙ったCEPにおけるUGCも数多く投稿されました。
事例詳細:【成功事例】食品ブランド向けInstagram施策 カギはブランド戦略に紐づいたUGCの活用
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クチコミデータを活用した消費者インサイトの抽出から、UGCを起点としたマーケティング戦略の立案・実行まで、一気通貫でサポートいたします。
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【補足】プレファレンスの理論的背景
ここからは、プレファレンスをより深く理解するための理論的背景や関連概念を解説します。プレファレンスについて理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。
MとKの理論(NBDモデル)
『確率思考の戦略論』で紹介されているMとKの理論は、消費者の購買行動が負の二項分布(NBD:Negative Binomial Distribution)に従うことを示した数理モデルです。
M(平均購買回数)は、一定期間にカテゴリー内でそのブランドが購買される平均回数を表します。Mはプレファレンスそのものを反映する指標であり、Mが大きいほどそのブランドのプレファレンスが高いことを意味します。
K(分布の形状パラメータ)は、購買頻度のばらつき具合を表します。Kの値が小さいほど「少数のヘビーユーザーが購買の大部分を占める」偏った分布になり、Kが大きいほど均等な分布になります。
重要なのは、KはMに従属するパラメータであり、企業が直接コントロールするのはMである点です。
このモデルが示す重要な示唆は、売上を伸ばすにはヘビーユーザーを増やすよりも、ライトユーザー層を広げる(=Mを高める)方が効果的だということです。ヘビーユーザーの購買頻度をさらに高めるよりも、まだ買っていない・たまにしか買わない消費者のプレファレンスを高めることが成長の鍵となります。
ブランドプレファレンスと製品プレファレンスの違い
プレファレンスには「ブランドプレファレンス」と「製品プレファレンス」の2つの側面があります。
ブランドプレファレンス
ブランドプレファレンスはブランドにひもづくプレファレンスのことです。「とりあえずこのブランドなら安心」「このブランドが好き」という感覚がこれにあたります。ブランドプレファレンスはカテゴリーを横断して機能することがあり、あるブランドのスキンケア製品を好む消費者がヘアケア製品でも同じブランドを選ぶ現象はその一例です。
製品プレファレンス
製品プレファレンスは、特定の製品の機能や特性にひもづくプレファレンスです。「この洗剤は汚れ落ちが良い」「このアプリは操作が簡単」といった具体的な製品評価に基づきます。製品プレファレンスの場合、プレファレンスの影響は当該製品カテゴリーに限定されます。
この2つのプレファレンスは独立しているわけではなく、相互に影響し合います。優れた製品パフォーマンスがブランドエクイティを高め、強いブランドエクイティが新製品への信頼を生むという好循環をつくることが理想です。
プレファレンスとロイヤルティの違い
プレファレンスと混同されやすい概念に「ブランドロイヤルティ」があります。両者は関連しますが、異なる概念です。
プレファレンスは購買時点での選ばれる確率の高さを表します。市場全体の消費者に対して使われる概念であり、まだ購入したことがない消費者にもプレファレンスは存在します。
ロイヤルティは「既存顧客の継続的な購買・愛着」を指し、過去に購入経験のある顧客が対象です。リピート率や顧客生涯価値(LTV)で測定されます。
NBDモデルの観点からは、ロイヤルティの高いヘビーユーザーに過度に依存するマーケティングには限界があります。ダブルジョパディの法則からも、ブランドの持続的な成長には、ライトユーザーや非購買者のプレファレンスを高めて市場浸透率を高める戦略が重要であることがわかります。ダブルジョパディの法則については下記記事で詳しく解説しています。
関連:ダブルジョパディの法則とは?意味や市場浸透率とロイヤルティの関係性、SNS時代に有効な施策について解説
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