メンタルアベイラビリティとは
メンタルアベイラビリティとは、心理的可用性のことで、ひとことで言うと「購買の瞬間に、そのブランドが思い出される状態」のことです。
バイロン・シャープの著書『ブランディングの科学(How Brands Grow)』でも重要な考え方として紹介されており、ブランド成長を説明するうえで欠かせないキーワードとして知られています。
単に名前を知っている、聞いたことがあるといった「認知」とは異なり、特定の状況で候補として想起されることが本質です。
たとえば「金曜の夜に一週間がんばった自分にご褒美をあげたい」 「通勤の運転中に小腹を満たしたい」といったように、人が何かを購入する場面には多くの場合“状況”があります。消費者は各状況において商品カテゴリーを選択し、カテゴリーの中で購入の選択肢となるブランドを想起します。消費者の脳内で候補として浮かぶブランドはメンタルアベイラビリティが高い状態と言えます。
認知度・好意度との違い
メンタルアベイラビリティは、「認知度」や「好意度」と混同されやすい概念です。しかし、似ているようで役割が異なります。
認知:そのブランドを「知っている」状態
好意:そのブランドに「良い印象がある」状態
メンタルアベイラビリティ:購買の場面で「思い出される」状態で
ここで重要なのは、認知や好意があっても、思い出されなければ選ばれないという点です。
一方で、好意が非常に高くなくても、購買シーンで“最初に思い出される”だけで選択肢の土俵に上がれます。メンタルアベイラビリティは、この「候補に入る力」を指しているのです。
状況との結びつきが強いほど、メンタルアベイラビリティは高まります。「この場面ならこのブランド」と連想される状態を、意図して設計していくことがブランド戦略のポイントです。
フィジカルアベイラビリティとの違い
メンタルアベイラビリティとセットで押さえておきたいのが、フィジカルアベイラビリティです。フィジカルアベイラビリティは、「購入できる状態」を指します。
メンタルアベイラビリティは「消費者の脳内で思い出される」ことで、フィジカルアベイラビリティは「すぐ買える/手に入る/迷わず辿り着ける」という状態です。
▼店舗のフィジカルアベイラビリティの例
- 近所の店で取り扱いがあること
- 棚で見つけやすいこと
- 在庫があること
▼ECサイトのフィジカルアベイラビリティの例
- 検索してすぐ見つかること
- ページが分かりやすいこと
- 購入までの導線が短くたどり着けること
- 決済や配送がスムーズであること
現場でよく起きるのは、次のような片方だけが強い状態です。
メンタルアベイラビリティは高いが、フィジカルアベイラビリティが弱い状態 → 候補に入っても、購入にたどりつけない
フィジカルアベイラビリティは強いが、メンタルアベイラビリティが弱い状態 → そもそも候補に上がらず、検討されない
このため、ブランドの成長には、メンタルアベイラビリティ(想起のされやすさ)とフィジカルアベイラビリティ(購入のしやすさ)をセットで強化することが重要です。まず「思い出される」状態をつくり、同時に「買いやすさ」の障壁を取り除いていくことが、ブランドの成長に欠かせない要素なのです。
メンタルアベイラビリティが重要な理由
中長期的な資産として積層される
メンタルアベイラビリティは、キャンペーンのように一度で完結するものではなく、接触の積み重ねによって“思い出されやすさ”が育つ性質があります。
ブランドアセットとCEPが紐づく情報に触れるほど、消費者の頭の中の連想の回路が太くなり、購買の瞬間に自然と候補に上がりやすくなります。
このため、施策が終わると効果がゼロに戻る短期施策とは異なり、「想起される確率」そのものが資産として残る点が大きな価値です。売上を“その場の獲得”だけで作るのではなく、時間をかけて「選ばれやすい土台」を作ることができます。
ダイレクトレスポンス広告への依存度が下がる
メンタルアベイラビリティが高まると、ユーザーは購入検討のタイミングで最初からブランドを思い出し、指名検索や直接流入でブランドの情報にアクセスするようになります。
その結果、比較検討の入口をすべて広告で買い続ける必要が減り、獲得の仕組みがより安定します。
特にダイレクトレスポンス広告は、競合の参入や入札単価の上昇、クリエイティブ摩耗などで成果がぶれやすいです。一方、メンタルアベイラビリティが育つと、広告が多少弱い時期でも自然流入や指名での購入が下支えになり、全体の集客コストが抑えやすくなります。
つまり、短期の獲得効率を上げるだけでなく、長期で見たときに広告依存から脱して、成長の再現性を高めることにつながります。
メンタルアベイラビリティをつくる鍵「CEP」
メンタルアベイラビリティを高めるうえで、特に重要になるのがCEP(カテゴリーエントリーポイント)です。
CEPとは、消費者が商品やサービスの購入を検討し始める「きっかけとなる文脈」を指します。たとえば「一人暮らしを始める」「安く揃えたい」「新婚生活」「冬でも温かい部屋にしたい」など、“誰が”ではなく“どんな状況か”に着目する考え方です。
メンタルアベイラビリティは「購買の瞬間に思い出される状態」でしたが、CEPは“思い出されるきっかけとなる文脈”のことを指しています。
ブランドにひもづくCEPが増えるほど、消費者の頭の中でブランドが想起される入口が増え、結果として購入の選択肢に入る機会が増えます。さらに、CEPとブランドの結びつきが強いほど「その文脈ならこのブランド」と思い出されやすくなり、選ばれる確率が高まります。
CEPの詳細は、下記記事をご覧ください。
関連:CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは?顧客に想起される文脈の重要性を解説
メンタルアベイラビリティを高めて売上増加につなげるステップ
ここからはメンタルアベイラビリティを高めて売上増加につなげるステップを解説します。
ステップ1:狙うCEPを決める
最初にやるべきは、「誰に売るか」ではなくどんな状況で思い出されたいか、重点CEPを決めることです。ここを曖昧にすると、後工程のブランドアセットやコミュニケーションの設計を定めづらくなります。
重点CEPの選び方の観点
- その状況はどれくらい頻繁に起きるか(母数)
- その状況で本当に検討が始まるか(購入の起点)
- 自社が勝てる理由を言語化できるか(想起される必然性)
- すでに競合の“定番”になっていないか(奪える余地)
ステップ2:ブランドアセットを定義する
CEPが決まったら、消費者がブランドを思い出す手がかりとなる、「ブランドアセット」を定義します。
ブランドアセットとは、消費者がブランド名やブランドに関する記憶を呼び起こすことができる、独自の資産のことを指します。
継続的なブランドコミュニケーションを通じて、ブランドアセットの露出を増やし、記憶してもらうことで、CEPにおけるブランド想起を強化します。
ブランドアセットの例としては下記が挙げられます。
- ブランド名
- ロゴ
- 製品パッケージ
- ブランドコピー・タグライン
- ブランドカラー
- フォント
- サウンド
- キャラクター
- タレント
上記に挙げたブランドアセットをすべて定義する必要はありません。ブランドの状況に応じて必要なブランドアセットを定義しましょう。
ステップ3:CEPに紐付くブランドコミュニケーション
CEPとブランドアセットが策定できたら、実際の運用フェーズです。
「重点CEPの強化につながるか?」の観点で広告やプロモーション、SNS運用などのコミュニケーション施策を行います。
例えば食品メーカーで、「ビールに合うがっつり食べられる食品といえば」という重点CEPがある場合、ビールと一緒に写っているキービジュアルを制作したり、SNSでビールと商品を一緒に撮って投稿する企画を立案する、といったことが考えられます。
ステップ4:フィジカルも一緒に整える
メンタルアベイラビリティが高まり「思い出される」ようになっても、買える状態(フィジカルアベイラビリティ)が弱いと売上に結びつきません。フィジカルとは、単に“置いてある”だけではなく、見つけやすい・選びやすい・買いやすいまで含む概念です。ECでも小売店でも、想起から購入までの摩擦を減らすことが重要です。
ブランドコミュニケーションで利用し、消費者の脳内に記憶されているブランドアセットを商品のパッケージやECサイトのアイコンなどに利用することで、迷わずにブランドを発見してもらうことが可能になります。
ステップ5:効果を計測する
定期的に消費者調査を実施します。
ブランディング施策の効果は短期的に見えづらいですが、継続的なブランドコミュニケーションによる中長期的な変化を捉えるために定期モニタリングのポイントを設けておきましょう。
ブランドの認知度や純粋想起、助成想起などを確認します。
最近では、セルフサーブで消費者調査を実施できる安価なサービスも多数ありますので、調べてみるといいでしょう。
メンタルアベイラビリティの計測方法・KPI
メンタルアベイラビリティが構築できているかを計測する代表的な指標をご紹介します。
指名検索
指名検索とは、ユーザーが「ブランド名」「サービス名」「商品名」など、固有名詞を入れて検索する行動を指します。指名検索が増えることは、消費者の頭の中でそのブランドが想起され、自ら探しに行く状態が生まれているサインです。特にWeb上の購買では、想起がそのまま検索行動に現れやすいため、メンタルアベイラビリティの変化を追いやすい指標になります。
実務では、Google TrendやGoogle Search Console(サーチコンソール)などで指名検索数、あるいは指名検索における自社サイトのインプレッション数の推移を確認することができます。
ブランド名単体だけでなく、「ブランド名+カテゴリ(例:ブランド名 ギフト)」「ブランド名+用途(例:ブランド名 送別)」などの組み合わせが増えていくと、想起の幅(どの状況で思い出されているか)も広がっている可能性が高いです。
第一想起・想起集合
第一想起とは、特定のカテゴリや状況を提示したときに、最初に思い浮かべるブランドのことです。メンタルアベイラビリティの定義に最も近い指標であり、「思い出されるか」をストレートに計測できます。
計測はサーベイ(調査)で行います。ポイントは、好意度や認知を聞く前に、想起を先に聞くことです。質問はシンプルで構いません。
「(カテゴリA)といえば、最初に思い浮かぶブランドは何ですか」
「(CEP:状況)で選ぶなら、最初に思い浮かぶサービスは何ですか」
選択肢を提示するよりも、自由回答(純粋想起式)で取るほうが、メンタルアベイラビリティの変化を捉えやすいです。あわせて、第一想起だけでなく「思い浮かんだものを複数挙げてください(例:最大3つ)」とすると、想起集合(候補に入る状態)まで見られるため、より実務に使いやすくなります。
メンタルアベイラビリティ構築におけるよくある失敗
CEPが抽象的すぎて“場面”に刺さらない
CEPを「お腹が減ったとき」「疲れたとき」など抽象的すぎると、より具体的なCEPにおける連想を獲得しているブランドに第一想起を奪われる可能性があります。一方で具体に落とし込みすぎてもCEPの母数が少なくなるため、規模がありつつ、実際の購買につながるCEPを抑える必要があります。
認知施策だけで満足する
露出が増えて認知は取れていても、「買う瞬間に思い出される」状態ができていなければ売上には直結しません。リーチや再生数だけで判断せず、指名検索や第一想起など“想起”の指標で効果を確認する必要があります。
クリエイティブが毎回バラバラで記憶に残らない
チャネルや施策ごとに見た目・言い回し・訴求が変わると、接触回数が増えても消費者の脳内で購買につながる記憶が積み上がりません。ロゴ・色・トーン・定番コピーなどのブランド資産を固定し、同じ型で反復して「同じブランドだ」と瞬時に分かる状態をつくるべきです。
フィジカルが弱くて、思い出しても買えない
想起されても、店頭で見つからない/ECで迷う/在庫がない/導線が長いと購入に至りません。メンタル施策と同時に、見つけやすさ・分かりやすさ・買いやすさを整え、想起から購入までの摩擦を減らすことが重要です。
メンタルアベイラビリティを構築するための施策例
ブランディング広告
テレビやオンライン広告、オフライン媒体などを用いて、ブランディング広告を配信する手法です。
広告費次第で、多くの消費者に長期間に渡ってブランド露出を獲得することができます。
関連:認知広告とは?獲得広告との違いや種類・媒体、効果測定指標を解説
SNSマーケティング
SNSを活用して、メンタルアベイラビリティを構築する手法です。
近年SNSはユーザー数が増え続け、多くの消費者が日常的に利用しているため、SNSにおけるブランドコミュニケーションの重要性が高まっているのです。
SNSにおけるブランディング活動の大きなメリットは、ブランディングに必要なブランド露出量(アテンション量)を、ユーザーが補ってくれる点です。
ブランディングを成功させて売上にインパクトを与えるためには、多くのブランド露出を獲得し、ブランド認知を形成する必要があります。多くの消費者のメンタルアベイラビリティを形成するためには多額の広告費が必須と言えるでしょう。
しかしSNSにおいては、一般ユーザーがUGC(クチコミ投稿)をすることで、自律的にブランド認知が形成される可能性があります。UGCが拡散されて認知が広がり、購買数が増え、購買者がまたUGCを投稿する「ULSSAS」の循環ができると、ブランドが広告を配信しなくても自律的にメンタルアベイラビリティを構築することができるようになり、広告費の削減につながります。

これはSNSにおけるブランディング活動の大きなメリットと言えるでしょう。
また、無数に存在するCEPとの結びつきを強化するのは企業の広告だけでは拾いきれず不十分です。
SNSのUGCを増やすことによって、消費者ごとに異なる多様な文脈におけるブランド露出が発生し、さまざまなCEPにおけるメンタルアベイラビリティを強化することが可能になります。
関連:SNSブランディングとは?企業の成功事例やよくある失敗も解説
メンタルアベイラビリティ構築に成功した事例
ソーセージブランド「ジョンソンヴィル」様
1945年に創業された、アメリカの老舗ソーセージブランドのジョンソンヴィル様。Xにおいて、シェアされやすいフォロワー基盤を構築。インフルエンサーやタレントを起用し、「バーベキュー」「お酒と一緒に」といった、特定のシーンをイメージさせる訴求企画も実施。
発生したUGCのリポスト運用も実施し、1年でクチコミ数が9倍まで増加しました。

事例詳細:商品の「自分ごと化」を促し、1年でクチコミ数が9倍に! 売上アップも実現した老舗ソーセージブランド、ジョンソンヴィルのSNS活用
Instagramでは運用目的を「認知拡大」と「注力CEPにおけるメンタルアベイラビリティの強化」の2点に設定。
消費者調査を元に、「BBQ食材といえば」「パーティー食材といえば」「休日のぜいたくなランチといえば」「ビールのお供といえば」「キャンプといえば」などのブランド戦略上注力するCEPを決めました。
CEPごとに、ジョンソンヴィルのソーセージを利用した写真素材やレシピ動画を制作。
モーメントやCEPに合わせた投稿や、UGC投稿企画を継続しました。

特に注力したのが、クリスマスやハロウィンなどの季節のイベントです。
「#クリスマス」「#クリスマスディナー」など、シーズン中にInstagramユーザーが検索するハッシュタグを狙ってレシピ動画を投稿し、広告配信も実施。
ターゲットとしていたクリスマス関連のハッシュタグで軒並み上位表示に成功し、多くの「保存」アクションを獲得。結果として公式のレシピを真似した、狙ったCEPにおけるUGCも数多く投稿されました。
事例詳細:【成功事例】食品ブランド向けInstagram施策 カギはブランド戦略に紐づいたUGCの活用
SNSでブランディングを加速するならホットリンクにご相談ください
SNSブランディングの大きなメリットは、ユーザーのUGCがブランド露出を補ってくれることです。UGCが拡散されて認知が広がり、費用対効果の良い形でブランディングを実現できます。
ホットリンクはこれまで多くの企業様に伴走して、UGCを活用したSNSブランディングのご支援を行ってきました。独自の購買行動モデル「ULSSAS」を活用し、自律的にブランド認知・メンタルアベイラビリティが形成される仕組みづくりをサポートしています。
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