SNSコラム

社会人の「ズルい」は、褒め言葉。粋な商売人であるために 阿部圭司(アナグラム株式会社)

2023年03月09日
SNSコラム | ザ・プロフェッショナル

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルを招き、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。

今回のゲストは、運用型広告を強みとするマーケティング支援に特化したアナグラム株式会社の代表取締役・阿部圭司さん。テーマは、「粋な商売人」です。

マーケティング支援において、いつの間にか目的が見えなくなり、手段ベースでトガっていった結果お客さんの本当に求めているものとズレてしまう。よくある話です。

日々の業務に忙殺される中でも、「粋な商売人」はどういう意思決定をすべきなのか。話はCPA至上主義へのアンチテーゼから「狂気の沙汰のマーケティング」「商売で徳を積むということ」まで、縦横無尽に展開されました。

僭越ながら、ホットリンクからは編集者・澤山モッツァレラが出演します。いつものように黒子役に徹し、写真に映らない凡ミスを冒しましたがそれ以外は完璧に参ります。

インタビュアー:いいたかゆうた(GiftX代表/元ホットリンクCMO)、澤山モッツァレラ(ホットリンク)
撮影:ヒサノモトヒロ 執筆&編集:澤山モッツァレラ

CPA至上主義、当時から嫌いでした

澤山:
お二人は、10数年の付き合いだそうですね。

阿部:
2011年ぐらいからです。当時仲良くしていたマーケターの方を通じて知り合いました。

いいたか:
転職する際は、毎回阿部さんに真っ先に報告してます。今回の起業もそう。前前職ベーシックでも、前職ホットリンクでも。いつも「いいんじゃない?」って言ってくれるんで。

阿部:
そうとしか言わないのわかってるでしょ(笑)。

澤山:
阿部さんは、いいたかさんのどこを気に入られたんですか?

阿部:
懐の入り方ですね。みんなの懐に入るのがうまい、そして、いろんな人をつなぐ。ホットリンクの桧野CEOを紹介してくれたのも、いいたかくん。相性が合う人を連れてきてくれる、不思議な関係性ですね。

澤山:
当時から、阿部さんに「粋な商売人を輩出する」というテーマはあったのでしょうか。

阿部:
いえ、起業したばかりだったので。稼ぐのに必死でしたから、あまり覚えていないんですね。

ただ、そのころからCPA(顧客獲得単価)至上主義は嫌いでした。会社が軌道に乗って、社内に人が増えると、だんだん思想が受け継がれなくなるフェーズってありますよね。社内で「CPA、CPA」って飛び交っていて、イヤだったんです。

いいたか:
究極は、クライアントさんの目的が達成されればいいわけですよね。

阿部:
そう。CPAを下げるのは、究極目標じゃない。クライアントさんと話すと、意外と「CPAなんてどうでもいい」って人は多いんです。クライアントのフェーズによって全然違いますから。

さまざまなケースがあるのですがひとつ例にあげると、IPO(株式公開)直前になると、CPA度外視でアクセルべた踏みしたいことはある。でも、担当者は「CPA、CPA」って言ってたりする。その時点で、お客さんの本当に必要なものが見えていないわけです。そういうケースが増えたので、「ちゃんとお客さんを見ないとダメだよ」という話をしていましたね。

(「粋な商売人を輩出する」と思った)きっかけは、コロナ禍ですね。2020年4月、緊急事態宣言が初めて出て全国に対象が拡大されたころ「もう二度と家から出ない生活になるかもしれない」みたいな雰囲気があったじゃないですか。

あのとき「このまま終わったら後悔するな」と思って、いろいろ考えたんです。そこで腹落ちする個人のヴィジョンは何か考えたとき、「粋な商売人を輩出する」だったんです。

澤山:
「マーケターを育てる」ではなく。

阿部:
「粋な商売人」の「粋」、とてもいいと思っていて。たった二文字で、いろんなイメージが伝わりますよね。あと、マーケターという言葉は、どうしても市場や顧客心理をハックするようなイメージが先行するので、あえて使ってません。商売人という言葉のほうが僕は好きなんです。

クライアントを騙さない、消費者を騙さない、市場を騙さない。江戸っ子的なイメージ。悪いことはしない、ダメなものはダメ。こういう感覚の商売人が増えるといいなと思って。

いまのYouTubeって子どもに見せられないんです。コンテンツもそうなんですが、何より間に入る広告がひどくて。ダイエットなどを筆頭として、コンプレックスを過剰に煽ったり、ああいう広告は作りたくない。 

ただ、現在の資本主義だと煽れば儲かる、という構造がどうしてもあります。でもそういう広告は私たちの価値観には合いません。

過剰に煽らなくても、ちゃんとインサイトをつく方法はあるんです。その方法はじっくり脳みそに汗をかくように考えないと出ないけど、それを見つけられるメンバーと仕事をしたい。時間はかかるけど、そういう人が増えたら社会は今よりもっと良くなると思ってます。

「見えない数字」のほうが大事

阿部:
運用型広告の市場がスケールした大きな理由のひとつは、「見える化」です。リアルタイムで数字を追えるから、必然的にCPAを追求することになる。みんな、見える数字に踊らされているんです。

いいたか:
それは思いますね。CPAって「これだけやったら、これだけ取れます」を約束できるので、握りやすいんです。

阿部:
でも僕は、「見えない数字」のほうが大事だと思っています。これは実際にあった話ですが、子どもの友だちのお姉ちゃんの話。中学1年生の素敵な子で、よくウチに遊びに来るんです。

でも、彼女は夕食を用意しても食べない。「太るからいらない」と言って。どう見ても太ってはいないのに。詳しく聞くわけにもいかないので、親御さんに事情を伺ったらどうもYouTubeの影響らしい。

澤山:
うわあ。

阿部:
ここからは私の仮説ですが、その子は、恐らく広告をクリックしていないと思います。ただ、見てはいる。「見えない数字」が発生しているんですね。

YouTube広告は強制的に目に入るので、固定観念を植え付けられるんです。「痩せてないとダメ」みたいなイメージですかね。広告運用ではインプレッション数やクリック数を見るけど、実は数字に現れない悪影響がある。そのときに、ああいう広告は絶対やっちゃいけないな、と思ったんです。

広告って、いい意味でも悪い意味でも人に影響を与えるんです。ただ今のテクノロジーではそこまで可視化することが難しいというだけだと僕は考えているんですね。

「狂気の沙汰ほど、面白い」

澤山:
女の子の話、腑に落ちます。子ども時代を思い返しても、テレビCMの内容ってすごく覚えていて。商品を購入したことはなくても、テーマ曲を口ずさんだり、映像表現を覚えていたりと確実に影響を受けています。

阿部:
そういうサブリミナル効果はあると思います。最近だと、きぬた歯科さん(※)の広告の話をよくしていて。

※きぬた歯科:インプラント治療で有名な歯科医院。看板にでかでかと院長の顔を掲載するなど、インパクトのある交通広告が話題

きぬた歯科の院長さんが以前Twitterで、デジタルサイネージ(平面ディスプレイやプロジェクタなどに映像や文字を表示する情報・広告媒体)についてこんなことを言っていたんですね。

これって真理だと思っていて。人間は、自分が動いているときには動いているものを認識しにくいんですよ。

人間は複雑なようで単純なので、あまり多くの変数を同時に処理できるほど複雑にはできていない。自分自身が動いているときは止まっている広告のほうが認識しやすいというのは確実にあると思います。

きぬた歯科さんの交通広告、首都高を上がると必ず出てくるんです。中央道のあたりから出てくると「きたーーーっ」てなります(笑)。

短期的な成果を出すのは難しいはずですが、広告を長年出し続けた結果、今のように注目を集めて僕の印象にも残っているわけです。「なんで八王子の医院なのに、新宿に看板あるの?」みたいな。

これって、僕にとって「狂気の沙汰」なんですね。麻雀漫画『アカギ』からの引用なんですけど、アカギが銃を口に加えながら「狂気の沙汰ほど面白い……!」ってフレーズを言うシーンがあるんです。

今のマーケティングでは、狂気に賭けたところが勝っていると思います。きぬた歯科さんなら、本来は最寄駅付近の八王子に看板を出すのがセオリー。でも、セオリー外のことをやり続けた結果今がある。最初は、誰にも理解できなかったはずです。

「北欧、暮らしの道具店」のクラシコムさんも同じですね。だって、Eコマースでありメディアの会社が、その世界観を描いた映画作っちゃうんですよ?(笑)外から見たら意味がわからない。でも、映画をやったことで絶対にうまくいってると思いますね。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000024748.html

クラシコムさんの中では、戦略として絶対につながっているはず。外から見たら驚くことも、ちゃんとロジックがある。それをやりきれているところが、勝っていると思います。

いいたか:
おもしろいですね。

澤山:
わかります……僕はきぬた歯科さんと同じ八王子のマキシマム ザ ホルモンというバンドが好きなんですが、彼らの戦略も狂気じみていて。

2015年の『Deka Vs Deka 〜デカ対デカ〜』という映像作品には、「スタートアップディスク」というものが入ってて。内容は『亮君の超挑戦状』という『たけしの挑戦状』をパロったゲームになっていて、動画を見るにはゲームをクリアしないといけない。

ゲーム好きの間で『たけしの挑戦状』はめちゃくちゃ難しいゲームとして知られていますが、そのパロディだけに難しすぎて全然解けないんです(笑)。なので、最初は全く映像を見られない。DVDなのに。完全に狂気の沙汰です。

中心メンバーのマキシマムザ亮君が自費で1,000万円を投じて、それでも赤を掘ったとか。DVD単体では、回収できてないと思います。でもファンは熱狂するし、UGCを出しまくるし、ライブチケットはプラチナ化する。伝説になっているんです。

阿部:
音楽だとグレイトフル・デッドが、音源を全部タダで配りましたよね。「ライブに来てくれたらいい」って。当時は理解できなかったけど、彼らはそれで実際に稼いでいた。これも狂気ですよね、外からはわからないけど、ロジックとしてつながっている。

今、みんな見える数字に踊らされて、弊害が出てると思います。狂気にぶっこむのは、ヘンに頭がいいとできないんです。知りすぎていると、狂気の沙汰には至れない。でも、そのほうが面白いんですよね。

アナグラムがナッツを配る理由

いいたか:
狂気とはちょっと違うかもですけど、アナグラムさんが配っているナッツも絶妙ですよね。

家でナッツを食べるとき、阿部さんを思い出しますから(笑)。同じノベルティであっても、マグカップやTシャツじゃないんですよね。マグカップってあまりに日常すぎて意識しづらいし、Tシャツは着ているときに意識しないし。

澤山:
なるほど、残るもの=思い出しやすい わけではないと。

阿部:
ナッツ以上にいいノベルティって、意外と浮かばなくて。賞味期限がある程度あって、そこまで高くなくて、もらってちょっぴり嬉しい。それがナッツなんです。

発注先は、アメ横の「小島屋」さんです。出会いは仕事の依頼でして、それは断ったんですけど(笑)「かわりにウチのナッツ作らないですか?」「おう、できるよ!」という流れで作ってもらいました。

かれこれ、4年ぐらい出してます。毎回、味を変えてるんですよ。全部、ウチのオリジナルです。

澤山:
アレンジもされてるんですね!

阿部:
いつも相談してます。小島屋さんは職人なので、主張も強いですけどね、「今回は乾燥コンニャクやりたいんだよ!」とか(笑)。

阿部:
もともとは、ノベルティを何か作りたいという話だったんです。ただ、僕は正直ずっと思ってたんですよね、「申し訳ないけど、Tシャツもボールペンもいらない」って。

いいたか:
わかります。

阿部:
寝間着にするにしても寝心地のいいものは他にあるし、自分の会社があるのに人の会社のTシャツは着られない。本当に申し訳ないんだけど、もらうたびに「うーん、いらないんだよね」って(笑)。

でも、いらないっていうのも失礼じゃないですか。ノベルティ文化自体はとてもいいものだし、何かアイデアがないかなと思って。 

そのタイミングで、小島屋さんから連絡が来たんです。仕事をお願いしたいです、って言うのでわざわざ弊社に呼んで、お断りしたんですけど。

いいたか:
断るのかよ、という(笑)。

阿部:
ナッツって、本当に絶妙で。もらってイヤという人はそんなにいないし、美味しい割にカロリーが高くない。万一誰ももらってくれなくても、自分で食べればいい(笑)。で、配り始めたら反響がよくて。「ノベルティとして最適だな」と思ったんです。

もうひとつ打算的な話もあるのですが、それはまた別の機会に^^

阿部:
ひとつ言えることは、施策を打つときは、いつも一石五鳥ぐらいを狙ってます。

澤山:
五鳥。

阿部:
そう。例えば新作のナッツのカバーパッケージのデザインは、社内のクリエイティブチームからコンペをして選んでいます。今回は、新人のデザインが選ばれました。中堅やベテランでなく、新人が選ばれるのってイベントとして面白いじゃないですか。

一個一個の出来事を、イベント化するのが大事だと思うんです。みんな一石一鳥ばかり考えるんですけど、せっかくなら五鳥を狙いたくて。

例えばあるところに寄付をすると、寄付される側は喜んでくれるし、話が広まったら「なんていい会社なんだ」となるので一石二鳥。節税対策になって三鳥。採用に効く可能性もあるから四鳥、クライアントさんもそれを見て「いい会社だな」と思ってくれると五鳥です。

一石一鳥だと、ただ忙しくなるだけです。その辺り、基本的に思考がズルいんですよ(笑)、常に一石五鳥を考えているので。福利厚生でも、どうせならメディアに取り上げられるものがいいですよね。みんなWin-Winになるから。

いいたか:
そういうの、すごくわかります。

澤山:
確かに「カイジ全巻買いもOK」は衝撃でした(笑)。

いやあこの話を聞けてよかったです。阿部さんが「粋な商売人」を実践されていることがよくわかるので。一言でいうと「ズルい」ですね、もちろんいい意味で。

社会人の「ズルい」は褒め言葉

阿部:
「ズルい」って、社会人には褒め言葉ですよね。

いいたか:
わかります。

阿部:
仕事って、カンニングOKじゃないですか。例えば以前、新卒の子がコンペ案件を取ってきたんです。ウチはあまりコンペ案件を受けないんですが、どうしても受けたいというので。

一社一社呼ばれて受注要件を説明されるんですけど、その時点では腹落ちしなかったそうです。どうしたのかというと、コンペ前にクライアントさんに出向いて「何が一番大事なのか聞かせてほしい」と聞きにいったんですね。自発的に。

いいたか:
素晴らしいですね。

阿部:
案の定、その提案は質が高くて受注できました。完全に彼女の成果なんですけど、ある方向から見たら「ズルい」ように見えるかもしれない。

でも、ビジネスにズルいってないんです。「ダサい」はあるけど。コンペのクライアントに、直接聞きに行っちゃいけないルールはないし、これはまったくダサくもない。むしろその逆で格好いい。

いいたか:
わかります、私そういうことばっかりしてますから(笑)。

阿部:
でもこれって、単に「相手を好きになった」だけですからね。両方とも相手を思っているから、裏切らない。

いいたか:
中途半端なことはできないですしね。僕は起業してコンサル案件受けていて、「飯髙さんだけができることってなんですか?」って聞かれたことがあって。

「めっちゃ人を知ってます。必要であればおつなぎすることできます」と答えたんです。相性はもちろん見ますけどね。

そうすると、私のお客さん同士でたくさん案件が飛び交うようになるんです。もちろん信頼できる人同士をつなげてるので、引き続き私を必要としてくれるわけですね。

いいたか:
例えば、WEBサイトのリニューアルで「**さんにお願いしたいんだけど、予算が合わなくて」と言われたら「予算の中ってことはそうなんですが、ありたい姿から逆算して最良の会社を知っています」と伝えたり。紹介で一銭ももらってないです。でも、めちゃくちゃお客さんが喜んでくれるんですよね。

阿部:
徳を積んでるよね。徳って見えないし、すぐに儲かるわけではない。でも、絶対に存在すると思ってます。

澤山:
僕も入社する前からつながっている会社があって、確かに無償で人を紹介したり、コンサルの真似事をしたりしています。直接的に利益にならなくても、その会社の子が大企業に転職して、こちらに発注してくれたことはありましたね。

いいたか:
そういうことありますよね。だから、ギブ・アンド・テイクという言葉が好きじゃなくて。 

阿部:
ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブなんですよ。

いいたか:
求めた瞬間に破綻しますよね。

結局は、本当に相手を考えているか

澤山:
これまでのお話を踏まえ、「粋な商売人であること」がだいぶ見えてきたと思います。

現場で支援に携わっていると、どうしても視野が狭まってしまう部分はあると思います。恩送りの視点を現場にいながら持つには、どうしたらいいとお考えですか?

阿部:
時間軸の取り方ですよね。例えば「お腹が空いた」って相手がいたとして、元気を出したいからコテコテのものを食べたいのか。実際には「寝不足だから、サッパリしたものが食べたい」ってコンテキストが隠れている可能性がある。そのあたりを考えて提案できれば、「わかってるな!」ってなりますよね。

相手の言語化が、必ずしも正しいとは限らないんです。言語化の裏に必ずコンテキストが隠されていますから。

広告運用の仕事でいうと、スタートアップ企業から依頼が結構来るんです。でも、僕らのスタンスではスグに受けることはない。「シードフェーズで広告を外注するのは、本当に正しいんですか?」ってところから入ります。

澤山:
まさに、先方の言語化が正しいとは限らない事例ですね。

阿部:
短期的な利益を取るなら、広告運用を受けたほうがいい。成果が出る出ないに関わらず。でも、それは正しいのか? ジャンルによりますが、大抵のシード系スタートアップは広告を出すことでバーンレート(1ヶ月あたりに消費するコスト)を上げることになってしまいます。

そこまで考えれば、正しい提案は「広告を出さずに売れる仕組みを整える」もしくは「自社で広告を回す」だったりします。仕込みや覚えることは大変かもしれないし、最初は質も伴わないかもしれない。けど、シードフェーズでは多くの場合はバーンレートを上げないことが重要である場合があります。

時間軸なんですよ。「長い時間軸で見たとき、相手はこう困る」が見えないといけないんです。

澤山:
めちゃくちゃ腑に落ちました。

阿部:
こうした考えに至ったのは、きっかけがあるんです。まだスタートアップ自体が珍しかった時代まで遡りますが、以前、ウチが支援していたスタートアップがありました。あることが引き金になって、社長ひとり残して社員が辞めてしまったんです。残っていたのはインターンだけでした。

あるとき、打ち合わせの日に社長さんがやたらと仕事以外の話をしたがることがあって。仕事以外の話を否定はしないですが、経営者が相談相手に仕事以外の話をしだすのは会社が傾いているひとつのサインです。自暴自棄になっており、社内で満たされないものを、外に求めだしている証拠です。

それで、腹を割って話したらこんなことを言われたんです。

「今のままの広告費で走ったら、持って1年。でも、ダラダラやっても仕方ない。社員もいないし、一か八かで3ヶ月で広告費を何倍にもしてぶっ放しましょう!」

澤山:
先方、かなり追い詰められた状態だったんですね。

阿部:
そう。全く得策じゃないと思ったので、提案して広告をすぐ止めてもらいました。止めれば、ひとまず会社の命はつながりますから。

そして、その場で可能な限りお金を使わずに我々だけでスケール出来る手段をひたすら考えました。結果、その事業に関わる記事を社長さんに定期的に書いてもらうことにしたんです。

「**さん、この事業に誰よりも詳しいんだからこういう記事書こうよ!」って提案しました。先方も半信半疑だったんですが、最初の記事がいきなり1,500近くのブクマがつき、バズりにバズりました。会員数も爆伸びです。

澤山:
すごすぎますね。 

阿部:
その事業の記事を書くだけなら、社長ひとりでもできます。「これを定期的にやろう!」って言って続けてもらい、結果的にスケールして大手にバイアウトされたんです。

僕らは、この件で一銭ももらっていません。本当に、徳を積んだだけ。でも、「あれはやってよかったよね」って心から思える仕事でした。

先方からもすごく喜ばれて、彼は僕がピンチになったらきっと助けてくれる。多分、葬式にも来てくれるはずです(笑)。

澤山:
まさに、長い時間軸で考えた結果ですね。

阿部:
短期的な利益を考えれば、3ヶ月限定で手数料が入るほうを選んでよかったわけです。こうしたことを、どこまで考えられるか。それが商売人の資質だと思いますし、何が大切なのか見極めることが大事だと思います。

澤山:
「粋な商売人」とは何か、最後までよく理解できる対談でした。お忙しい中、本当にありがとうございました!

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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