SNSコラム

企業はレコメンドメディアにどう向き合うべきか? ホットリンク 室谷良平×石渡広一郎 #ザ・プロフェッョナル

2023年03月06日
SNSコラム | ザ・プロフェッショナル

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルと、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。

今回は、ホットリンクのマーケティング本部長・室谷良平とCEO特別補佐・石渡広一郎による、特別対談をお届けします。

元来、オンライン上で人と人とをつなぎ合わせ、仲間内のコミュニケーションを生み出していたソーシャルメディア。そこに、TikTokなどに代表される「レコメンドメディア」が急速に発展してきました。

レコメンドメディアとはどんな存在なのか、ソーシャルメディアは飲み込まれてしまうのか。SNSの最新状況とこの先の未来、そして企業が取るべき選択を語りました。

(執筆:サトートモロー 取材・編集:澤山モッツァレラ)

安心を満たすソーシャルメディア、快楽を満たすレコメンドメディア

――そもそも「レコメンドメディア」と「ソーシャルメディア」は、どんな違いがあるんでしょうか?

石渡:
2つのメディアの違いについて説明します。まずTwitterやFacebook、Instagramといったソーシャルメディアの大きなテーマは、「人とつながること」です

友人とつながる、会社の人とつながる、知人とつながる。リアルをベースとしたつながりの中で、井戸端会議のようにコミュニケーションできる。それが、ソーシャルメディアの存在意義だと言えます。

一方でTikTokやYouTubeのようなレコメンドメディアは、一部クリエイターのコンテンツが大半を占め、大多数のユーザーは受動的に楽しむ場所です

TikTok内でも友人同士で相互フォローしたり、DMしたりというアクションが見られます。クリエイターのコンテンツ上にコメントして、交流を楽しむこともできます。

しかしソーシャルメディアのように、人のつながりで情報が広がるわけではありません。クリエイターの発信は、アルゴリズムを介して多くのユーザーへと届けられる構造になっています。

――メディア特性がまったく違うのですね。いちユーザーの感覚から見ても、今の定義には納得感があります。

ムロヤ:
ふたつのメディアは、完全に分裂しているわけではありません。レコメンドメディアは「レコメンド系コンテンツ接触が強い」という感じで、グラデーションがあると表現する方が正しいでしょう

代表例が、石渡さんも触れたTikTokのDM機能です。YouTubeもチャンネル登録者へのメンション機能やライブ配信の投げ銭機能など、クリエイターとの関係を楽しめるソーシャル的要素があります。

――YouTubeのメンション機能は、クリエイター同士の交流も活発化させた気がします。藤井風さんの「優しさ」「帰ろう」のカバーが流行った時期、カバー動画のコメント欄に本人がお礼を残していました。カバーした本人もすごく喜んで、カバー投稿がさらに増えていったように思います。

石渡:
面白いですね。ムロヤさんの「グラデーション」という表現は、まさにその通りだと思います。

TwitterやFacebookは基本的にソーシャルメディアで、友人同士のつながりが中心です。それに対してNetflixはレコメンドメディアです。TikTokはレコメンドメディアですが、ソーシャルメディア的要素を多少持ち合わせている、ハイブリッドと言えるかもしれません

ムロヤ:
元来、人間は社会的動物であり、古来より集団で形成された集落で生活してきました。人とつながりたい、おしゃべりしたい、あの人の動向が気になる、といった感情を常に抱えて生きてきたんです。

社会的動物である僕たちは、常にコミュニティを形成してきました。今のコミュニティが自分に合わないと思えば、居心地のいい場所を求めて移動することもあります。

近年、InstagramやFacebookといった巨大SNSが君臨する一方で、BeRealやDispoといった新興SNSにも注目が集まっています。メジャーなSNSだと居心地の悪さを感じていた人が、よりよい居場所や体験を求めた結果なのかなと

石渡:
同感です。同時に、古今東西人類は「快楽を満たしたい」という欲求を抱えて生きてきました。

レコメンドメディアは、大半のユーザーにとっては受動的にコンテンツを受け取り「さくっとドーパミン(快感ホルモン)が分泌される場所」として、人気を集めているんだと思います。

一方で、ソーシャルメディアは投稿で称賛を得ることによるドーパミン放出に加え、人とのつながりによって得られる安心感・孤独からの解放に導かれる「オキシトシン(愛情ホルモン)も分泌される場所」というイメージがあります。

レコメンド技術の驚異的な進歩

――ふたつのメディアは、解消している欲求が大きく異なるわけですね。

石渡:
TikTokは他のSNSというより、映画やマンガ、ゲームといったコンテンツ消費の欲求を置換していると思います

SNSは、ある意味で「暇つぶしツール」です。どのメディアも、ユーザーの可処分時間のシェアを奪い合っています。この争いにおいて、ソーシャルメディアが「友だちの近況情報より、知らない人からのエンタメコンテンツの方が、可処分時間獲得に有利なのでは」と考え始めている状況なのかと思います。

ムロヤ:
現在のテクノロジーにおいて特筆すべきなのが、レコメンド機能の進歩です。大量の情報を整理して、ユーザーへ届ける仕組みがあります。この代表例が「検索(サーチ)と推薦(レコメンデーション)」です。

検索機能の代表例は、言わずと知れたGoogleの検索エンジンですね。レコメンデーション機能の最初のイノベーションは、「検索連動型広告」だと思います。検索結果に最適化された広告が瞬時に表示されるというのは、すごく付加価値の高い技術だったのではないでしょうか。

次のイノベーションは、Facebookのフィードです。Web2.0初期において、フィードは大不評でした。今や、フィードは当たり前の機能として定着しています。フィードという一本道を進む過程で、必ず広告に接触します。フィードの登場は、広告収益の価値を大きく向上させたと思いますね。

――次にやってきたのが、TikTokのショートムービーというわけですね。

ムロヤ:
TikTokでは、興味のある動画が出るまでスワイプを繰り返します。あの単純な操作で、ユーザーの嗜好をすぐに判別でき、そのアクションが学習データとして蓄積されていくんです。

全面動画再生×ショートムービー×スワイプによるビッグデータ蓄積。TikTokのこうした仕組みによって、クリエイターはフォロワー数に依存せず、コンテンツを届けやすくしました。

また、レコメンド技術の進化によって、広告のターゲティング精度も向上しました。広告主は、いい訴求ができるので予算を多く投じることができます。広告費=利益が多く集まれば、コンテンツ発信者にも還元しやすくなるでしょう。

こうした循環によって、レコメンドメディアの存在感がどんどん増しています。

石渡:
もちろん、人とのつながりを求めるという、社会的動物である人間の本能がある以上、ソーシャルメディアの存在価値がなくなることはないでしょう。2020年に湧き上がったClubhouseの熱狂は、人とのつながりを渇望した結果だと思います。

――両方のメディアは、グラデーションを持ちつつ共存していくんですね。

ふたつのメディアに対して企業が取るべき戦略

――企業は、ふたつのメディアとどのように関わるべきだと思いますか?

ムロヤ:
レコメンドメディアに対して「これ」という正解はまだ提示できませんが、まずは、それぞれのメディアのアルゴリズムを理解することだと思います

例えばTikTokのテスト配信で渾身のコンテンツを発信したのに、200再生どまりになってしまったとします。その場合、「即スワイプ」が当たり前の環境で、エンゲージメントを高めるアクションを考えるべきです。

「最初の1秒にとにかくこだわる」とか「『衝撃の結末!』などの文言で完全視聴を促す」とか、「おすすめ本TOP5!第1位はコメント欄で紹介」とか。各メディアのアルゴリズムを把握することが、必須と言えるでしょう。

――なるほど。アルゴリズムを把握するには、どうすればいいですか?

ムロヤ:
一番いいのは、「TikTok algorithm(アルゴリズム)」で英語検索することですね

一同:(笑)

石渡:
ソーシャルメディアの場合、ユーザーは「質の高いコンテンツ」「面白いコンテンツ」を見に来ているわけではないことを理解すべきだと思います

ユーザーは、友人など「知っている人」のコンテンツを見たいんです。

例えば、先日ホットリンクのめんおうさんが「びぜん亭に行った」とツイートしました。他人目線だと、至極どうでもいいツイートですよね。しかしこれは、ホットリンクの社員にとって、仲間の日常を見られる「嬉しいツイート」なんです。

https://twitter.com/mennousan/status/1580040121516113921

※びぜん亭

ホットリンク本社の近所にあり、社員にもファンが多い老舗ラーメン屋。あっさりとした素朴な味がクセになる。映画のロケに使われたり、雑誌やテレビでたびたび紹介されたり、長年愛され続けている名店。2023年3月31日閉店。

――確かに(笑)。

石渡:
ソーシャルメディアにおいて最も重要なことは、コンテンツの面白さではなく「誰からの発信なのか」という点だと思います。コンテンツ以上にネットワークが重要であり、いかに情報が伝わるネットワークを構築できるかが大切です。

・発信する一般ユーザーとのつながりの基盤を作る

・UGCが発生して、ULSSASの循環が生まれる施策を打っていく

こうした取り組みにこだわれるかが、ソーシャルメディアの勝敗を分けるポイントかなと思います。

一方レコメンドメディアは、友人のつながりよりもコンテンツの質が勝負になります

とはいえ、企業にとって「誰がそのコンテンツを作るのか」は、大きな課題になると思います。そもそも、企業アカウントでコンテンツを発信し続けるのは、多大なコストがかかります。

Twitterであればテキストだけで十分ですが、継続的に動画を作り続けるのは大変です。しかも、クリエイターでもない社員やチームが、見ず知らずの人たちに「面白い」と思われるコンテンツを作れるのかという問題も残ります。

いかに質の高いコンテンツを作れるクリエイターとコラボレーションできるかが、企業のレコメンドメディア成功のカギを握るでしょう

クロスメディアによる相乗効果

石渡:
また、ソーシャルメディアとレコメントメディアを組み合わせてアテンションを取ることで、相乗効果を得ることができます。

――どういうことでしょうか?

石渡:
企業にとって永遠の課題は、「アテンションをいかに増やし、売上を伸ばすか」です。かつてはテレビCMを出せばバルク(大量)でアンテンションを獲得できました。

今はテレビを観ない人も増えているし、可処分時間の使い方もソーシャルメディアやレコメンドメディア、ゲーム、エンタメと細分化されています。企業は単一のメディアだけを活用するのではなく、クロスメディアでアテンションを獲得すべきです

ムロヤ:
クロスメディアで重要なのが、AIに学習させるための「濃いシグナル」を集めることです

レコメンドメディアは、高評価のコンテンツがフォロワー以外にも流れます。つまり、ファンが多ければレコメンドされやすいのです。

フォロワーに「新しい動画を投稿しました!」と告知して視聴してもらえれば、初期の学習データが蓄積されやすくなります。このアクションは、TikTok以外でも有効です。Instagramでコンテンツを宣伝してもいいし、メールで宣伝してもいいでしょう。

初期拡散時にソーシャルネットワークのつながりを活用できれば、AIは「この動画は、多くのファンから喜ばれている良質なコンテンツだ」と評価します。ある種の「巨人の肩に乗った状態」を演出できるんです。

――企業を信用している人、好きな人が多いほどレコメンドもされやすいんですね。

ムロヤ:
もちろん、発信するコンテンツの質が高いというのが前提です。いいコンテンツが広がるのは、検索でもレコメンデーションでも変わりません

その上で、デジタルにおける情報拡散はレコメンドが主力です。レコメンドコンテンツの評価はほぼAIが決定しているので、そこに配慮した発信が必要というわけです。

石渡:
Instagramは、2023年末までにパブリックなフィードにおいて、レコメンドの量を倍にすると発表しています。FacebookもInstagramも、パブリックな場所でレコメンドコンテンツを表示させ、DMやストーリーズでシェアし、クローズドな会話を生むメディアを目指しています。

――どちらのメディアも、レコメンドメディアとソーシャルメディアが両方存在する場所になるわけですね。

石渡:
実は、Twitter上でのTikTokの言及は、日に日に増えています。ざっと計算しただけでも、1日15万件はTikTok関連のつぶやきが生まれています。

――すごい量ですね。

石渡:
現在、TikTokのショート動画をシェアする場合、LINEで友達に共有したり、Twitterでつぶやいたり、Instagramのストーリーでシェアしたりすることになります。

TikTokのコンテンツに対する「これ面白かった!」「かわいい」「ウケる」という会話が、他のソーシャルメディア上で生まれることになるわけです

TikTokで作られたコンテンツが、他のソーシャルメディアでシェアされて、はじめてブランドやクリエイターのことを知る人もいます。

①クチコミされやすいソーシャルメディアで、UGCを拡散しやすいネットワークを構築する。

②リツイートでUGCを広げ、リンクや検索でTikTokやYouTubeアカウントにアクセスしやすい状況を作る。

③TikTokやYouTubeで増えた、ビュー数やコメント、エンゲージメントといったシグナルをもとに、レコメンドメディア上でのレコメンド量も増える。

⑤一定確率で、TwitterなどのソーシャルメディアでUGCが生まれる。

クロスメディアによって、こうした循環が起きやすくなります。そのため、企業はクロスメディアでのメディアプランニングや、全体を考えてアテンションを最大化させていくかについて、本来考えていくべきでしょう。

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