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この記事の内容
最終更新日:2022年10月25日
ホットリンクCMO・いいたかゆうたが現場のスペシャリストとともに、激変する社会におけるメディアの未来を語り合う新連載『ザ・メディアエイジ』。第1回のゲストはABEMA(アベマ)の夜のニュース番組『ABEMA Prime』チーフプロデューサー郭晃彰さん、ABEMAの番組を中心とした情報ニュースメディア『ABEMA TIMES』編集の大谷広太さんです。
2021年4月11日に開局5周年を迎えた“新しい未来のテレビ”「ABEMA(アベマ)」(開局当時のサービス名称はAbemaTV)は、インターネットテレビ型動画サービスとしてドラマ、アニメ、バラエティ、スポーツ、報道など多彩な番組を放送し続けています。開局から参画する郭さん、半年後にジョインした大谷さんは、黎明期から同局を支えるキーパーソンといえるでしょう。
ソーシャルメディアの成長が著しいなか、マスメディアのあり方はどのように変化していくのか? ABEMAは、そうした流れにどう寄与していくのか? 映像の「ABEMA Prime」、テキスト主体の「ABEMA TIMES」、それぞれの立場からたっぷりと語っていただきました。(インタビュー:いいたかゆうた 編集:澤山モッツァレラ)
※編集部注:被写体には、写真撮影時のみマスクを外してもらっています。インタビューはマスク着用のほか、感染症対策を施してから行なっています。
郭晃彰(かく・てるあき、写真中央):2010年、テレビ朝日入社。AD&ディレクターを経験した後、2016年のABEMA開局に携わる。現在「ABEMA Prime」チーフプロデューサーや、ABEMA NEWSの全体戦略・宣伝分野などを担当。
大谷広太(おおたに・こうた、写真右):2005年、livedoor入社。「livedoor ニュース」を中心に、ポータルサイト「livedoor」の各種サービスのディレクションを行なう。2009年10月、「BLOGOS」を立ち上げて編集長に就任。2016年に退任し、「ABEMA TIMES」編集部にジョイン。
いいたか: まずは、おふたりの仕事内容を教えてください。
郭: 僕は「ABEMA Prime」(以下、アベプラ)のチーフプロデューサーで、開局以来まる5年関わっています。それまではテレビ朝日で、記者や番組ADなどを務めていました。ABEMAに参画するまでは、デジタルとは無縁でしたね。
アベプラではキャスティングや企画提案をしたり、取り上げるニュースを選定しています。『ABEMA NEWS』は24時間全体の編成をし、どのように話題を作っていくかを考えています。2021年3月1日には『どうする?withコロナの就活&働き方』という、12時間ぶっ通しで就活生の不安やギモンに答える特番を組みました。
大谷: 僕は開局から半年後にジョインしました。メイン業務は、メディア『ABEMA TIMES』の運用です。郭さんと相談しつつ、どうすればよりアベプラが見てもらえるか試行錯誤しています。
アベプラはオンエアしっぱなしでなく、その後どう拡散していくかを両輪で考えるのが地上波テレビとの大きな違いですね。僕の仕事はむしろ、番組のオンエア後から始まる側面もあります。
郭: アベプラでは放送後に番組内容を記事にしたり、YouTubeで番組を半分くらい視聴できるようにしたり、『ABEMAビデオ』でフル視聴できるようにしたり、見逃し視聴の機会も積極的に提供しています。
ABEMAを経験したテレビ朝日社員は、テレビ朝日に戻ったあとにここで培った知見を還元しています。テレビ朝日は、そういう活動が他局より少しだけ先んじていると思いますね。
いいたか: アベプラでテストし、うまくいった施策を地上波に反映しているんですね。そういう補完関係は興味深いですね。
おふたりが仕事で心がけていることは、どういう部分ですか? 郭さんは番組作り、大谷さんはメディア運営、それぞれ視点が違うと思うんですよね。
郭: 私は地上波出身なので、「テレビが何をどう報道するか」というある種のテンプレは頭にあります。その上でABEMAでは、地上波テレビとは違う視点での番組作りを心がけています。
3月19日に放送したオンラインサロンの特集も、「サロンの利点はなんとなく分かってきたけど、欠点も含めてフラットに考えることを促す報道があまりない。一度整理したい」という思いで企画しました。
一方、いくらテレビの逆をいったところで、面白くないと観てもらえません。番組内ではユーモアや笑いも挟めるよう、意識して作っています。インターネットの利点は、思想・信条に関係なく多様な意見に触れられること。「この視点は、議論されていないのでは?」という論点を発見し、企画に落とし込みたいですね。
いいたか: なるほど、一方に大きく偏りが出ないよう企画しておられるんですね。SNS登場以前、マスメディアとユーザーの関係性はほぼ一方通行でした。SNS登場後は、関係性が大きく変わりましたよね。もはや、ユーザーの声がないと面白くないと思われる時代になった気がします。
大谷: それでいうと、僕は「視聴者代表」的な立場で郭さんにフィードバックしていますね。 「ネットの反応はこうだから、〇〇じゃないですか?」と。番組プロデューサーではないので、ある意味番組に対して責任を負っていませんから。
郭: そういう気持ちでいてくれたんですね(笑)。
大谷: ウザがられていないか、ちょっと心配(笑)。
ABEMA TIMESはニュースメディアなので、広報・PRの考え方をもった立ち位置の媒体です。一方、扱う素材はニュースチャンネルですから、ニュース性とも両立させる必要があります。このバランスは、難しいですね。
映像を見てもらうというゴールを達成する一方、記事は単独で完成している必要もあります。速さ、情報量、密度のバランスは常に試行錯誤していますね。
いいたか: ABEMA TIMESでは、新規顧客に対するコンテンツと、既存顧客で視聴しそこねた人に対するコンテンツなどは区分けして発信しておられますか?
大谷: そうですね……さっきの「両立させる」という話をひっくり返しちゃうかもしれないんですが、「映像まで観てもらわないと」という理想はある一方、テキストだけ独立して存在してもまったく問題ないとも思っているんですね。
郭: ひっくり返しましたね(笑)。制作側のリアルですよね。正直、僕はABEMA TIMESをニュースメディアと思っていなくて、「オンエアの一部」とさえ思っています。
大谷: 二律背反というか、矛盾があると感じつつやっているところがありますね。
郭: ABEMA TIMESは、業界関係者にはよく読まれているんですよ。ある記事が出た翌日、地上波で同じ企画が放映されたこともあります。
これは僕にとって、嬉しいサイクルですね。ネットに近い僕らが「こういうオピニオンがある」とまとめた記事を、地上波で広げてくれるわけですから。ここ2年くらい、その傾向が強くなったと思います。
いいたか: ある意味、時代に逆行している部分はありますよね。「5G時代に映像はどうなるのか」という時期に、テキストの意味を見直しているわけですから。
大谷: そうですね。とはいえ、整理して発信すれば映像よりテキストのほうが広がる側面もあると思うんです。 もちろん「これはテキスト化できないな」っていう瞬間もあります。バチバチな議論とか、独特の空気感とか。映像メディアがテキストを使いこなすというのは、そのバランスを考えることだと思います。
いいたか: コロナ禍で、報道の仕方も大きく変わったと思います。この1年の仕事を振り返って、おふたりはどんなことが印象に残っていますか?
郭: そうですね。「メディア=正義 ではない」ということは、改めて意識しました。例えばウイルスやワクチンに関するテレビ報道は、毎日のように行なわれています。でも、より詳細な情報はSNS上のほうが先に広がっていますよね。Twitterでは、街のお医者さんや、しっかり勉強している一般の方が精力的に発信しているわけです。
「伝える側が上」「一般よりも情報を持っている」という驕りは捨てるべきだと、改めて痛感しました。
アベプラでは、ワクチンを不安視する根源になったHPVワクチンについて40分ほどの時間をかけて特集しました。報道は毎日行なわれるものであり、修正の必要があるならバシッと方向性を変える勇気が必要だと思います。
そこに向き合わないと、どんどんズレていく。「情報は常に変化する」とこれほど感じたのは、入社以来初めてのことかもしれません。
いいたか: なるほど。新型コロナウイルスのような長期に渡る事象を取り扱うなかで、これまでの報道のあり方を見直す必要性に迫られたということなんですね。
大谷: そうですね。ただ、アベプラに関していえば「こう考えることもできるのでは?」という情報提供を、少なくともこの1年は丁寧に続けられたと思っています。もちろん、後から振り返って「ちょっと違ったかな」というケースもあるかもしれませんが。
時代のニーズに応えたサービス、今はたくさんありますよね。先日、スマートニュースさんを見ていたら、ワクチンの接種目安を教えてくれるサービスが入ってることに気づきました。自分の年齢や既往歴など5つ程度の質問に答えるだけの、簡単なものです。
見ていて、「マスメディアは、こうしたニーズにどこまで応えられたんだろう」という思いがあって。実際、テレビは個々にカスタマイズした情報を提示できません。マスメディアが発信する情報は瞬間的に広がっていくものですが、本当に皆さんが求めている視点は、実は少し引いた視点なんじゃないかと思います。
郭: そうですね。例えば、新規感染者数の速報を毎日流すことに意味はあるのか? とか。最初から最適解を出せればいいですが、僕たちも気づくと狭い井戸のなかで暮らしてしまっていることがあり、気づけないんですよね。井戸の外の情報をとるにはSNSが一番速く、そして的確です。
大谷: テレビは、どうしても「瞬間」の話になってしまうんですよね。そのなかで、どれくらい賞味期限を長くできるか。タイムシフトやアーカイブで見てもらうことを想定し、中長期で考えられる素材を提供すべきだと思います。
いいたか: マスメディアの立場からみて、ソーシャルメディアの活用についてどう考えていますか?
大谷: ふたつあります。ひとつは、「情報を知ってもらう」「拡散させる」ための切り口です。もうひとつは、番組作りに活かすツールです。
郭: 前者はまだまだ試行錯誤中というか、成功事例を探してる感じですね(笑)。
大谷: 切り出し方って、いろいろあるじゃないですか。コロナに関しては、街のお医者さんも含め多くの方が情報発信しています。
ただ、ネット上では玉石混交になりがちですよね。情報収集して、整理して、分析して「こう考えたらいいのでは?」と提示する。これこそが、マスメディアの役割だと思っています。
郭: SNS活用でいうと、YouTubeには手応えを感じています。昔の報道番組やドキュメンタリーってネットでは見られないんですよね。「**年の事象を取り上げた報道番組を見たい」と思っても、たどり着けない。アベプラは、そこにハマった感覚があります。
ただ、若い社員から「報道番組だとは認識されていないんじゃないですか?」という意見もあって。
いいたか: それは、どういう観点からですか?
郭: YouTube動画の視聴者層を見ると、若年層ばかりなんです。弊社の若い社員たち曰く、『月曜から夜ふかし』のノリじゃないかと。つまり「素人がたくさん出ていて面白い番組」としての消費であり、「この人たち面白いね」ってノリで見られている。この意見は、納得感がありましたね。
それまでオウンドメディアやTwitter、YouTubeを活用するにせよ「最終的にはリアルタイムの視聴に戻したい」という思いが強かったんです。でも、今はそれぞれの場所でおいしく食べてもらえればそれでいい。見逃し視聴も大歓迎。まずは、おいしい料理を提供することだと思います。
いいたか: わかります。ホットリンクにも、「ここに人を集めたい」というご依頼を結構いただきます。
でも、現在の状況を考えると一箇所「だけ」に人を集めるのは限りなく厳しいんですよね。プラットフォームが多様化する一方、ユーザーの可処分時間はほとんど変わっていません。そして、コンテンツや媒体は次々ザッピングされますから。
オウンドメディアとしてもテレビとしても、様々な場所にコンテンツを出して「どこかでユーザーにタッチすればいい」という考え方が正しいと思います。
郭: プラットフォームに縛られすぎず、シームレスにコンテンツを出さないと、誰にも観てもらえなくなるんじゃないかという危機感を覚えています。
大谷: うちでも子どもと一緒にテレビを見ますが、今はEテレもNetflixもYouTubeもシームレスに横移動できます。プラットフォームを意識しない、純粋に「どれが面白いか」という世界なんですよね。
いいたか: 例えばある社会問題に対して、ティーン層はYouTubeを観ているけれど、ABEMAは観ていない。でもYouTubeでタッチし続ければ、何割かは番組にも来てくれるはず。ここを辛抱強く続けられるかですよね。
郭: その辺は、藤田晋社長が開局当初から忍耐強くニュースの成長を見守ってくれているのが心強いです。5年間で一度も、「今すぐ成果を」と言われていないですから。
僕は33歳ですが、「郭さんの同年代の人が見られる・見たい報道番組を」としか言われていません。去年からやっとYouTubeが機能しはじめ、今年はABEMA TIMESが伸びています。健全な環境で、チャレンジできていると思いますね。「半年後、1年後に成果を出せ」だったら、とてもできませんでした。
大谷: アーカイブが残って、長い時間軸で見られるのもネットならではの利点だと思います。一度オンエアしたら消えるわけじゃない。その積み重ねが、成果として出てきているのかなと。
実際に、過去の動画が何かの折に検索され、YouTubeで観られることが起きています。中長期的に観られるものを作ることを念頭に置いた上で、1回1回のオンエアを大事にすべきだと思います。
いいたか: SNSでは、今後どんなことをやっていきたいですか?
大谷: SNS上の声を、もっとうまく拾っていきたいですね。
郭: 今はTwitterトレンドにランクインしないとなかなか注目されません。そこにランクインしてこない可視化されていないところをどう見るか、ここが課題です。
いいたか: トレンドが全てではないですからね。可視化されていないけど、話題になっていることはあると思います。
いいたか: ソーシャルメディアが盛り上がるなか、マスメディアだからこそできることはありますか?
大谷: 情報の質を見極め、適切に意見を拾い、専門家に解説してもらうことでしょうか。点と点をつなげて分析し、情報を提示するのは、マスメディアじゃないとできないことだと思います。
郭: 最近のTwitterって、お互いの本名も顔も見えない状態で、子どもに見せられないひどい言葉も飛び交いますよね。僕たちは、スタジオというリアルの場に人を連れてきます。直に会って、話している様子を視聴者に見せたいとすごく思っているんです。
意見が違うのは当たり前。会って話すことで、「ここは一緒だね」「ここは違うね」とハッキリ分かる。その上で手を握り合える。こういう側面は、Twitterではなかなかできないことかなと。
大谷: ちゃんと場を用意したいってことですよね。インターネットだけだと、やっぱりいい議論にはなりづらい。リアルでも難しいんですけど。
郭: いやぁ、難しいですね。こういうキャスティングをしていると、「ひろゆきさんにエサをまく番組」ってよく言われます。
一同:(笑)
郭: でも議論の場は用意するべきだと思っています。Twitterはフィルタリングされて、好きな情報としか出会えなくなっています。好きじゃなくても大事な情報を届けることは、マスの仕事だと思っています。
大谷: 決着をつけたいわけではないので。どちらも一理あるよね、と気づいてもらうことが一番いいと思っています。
郭: ひろゆきさんが論破している方が盛り上がるし、皆さんも喜ぶ。でも作ってる側からすると、普段論破するひろゆきさんが「あ、そうなんですか。わかりました」と納得するほうが興奮します。けど、そこはテレビ的ではない(笑)。
いいたか: 本当はそういうのを発信したいんだけれど、難しいですよね(笑)。テレビ朝日さんやABEMAさんは今後、どんな社会を作っていきたいのでしょうか?
大谷: 僕は元livedoor社員なんですが、過去にはlivedoorは「夕方番組」みたいな動画ニュースを毎日配信していたんですね。藤田社長も、そういう「ネットとテレビの融合」をやりたかったのかなと。インターネットのインフラはもちろん、スマホやYouTubeが出てようやく環境が整いましたからね。
いいたか: そのあたりの真意は、ぜひ藤田さんに聞きたいですね。
郭: 機会があればぜひ。
いいたか: なるほど! じゃあ今度、企画書を持っていきますね(笑)。今回はお忙しい中、ありがとうございました!
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