SNSコラム

売上60%減からの超回復。トレンドExpressは、2020年をどう生き抜いたのか #ザ・プロフェッショナル

2021年05月19日
SNSコラム | ザ・プロフェッショナル

最終更新日:2021年6月2日

各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルとホットリンクCMO・いいたかゆうたが、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」

今回のゲストは、ホットリンクのグループ企業であり、中国市場を対象としたクロスボーダー事業を展開する株式会社トレンドExpress代表・濱野智成さんです。

新型コロナウイルスの流行により、2020年の国内市場は大きな変化に見舞われました。中国がメインの市場であるトレンドExpressも例外ではなく、売上の60%を占めるインバウンド事業がほぼゼロになるという危機的な事態に。

同社は、コロナ禍の難局をどう乗り越えたのでしょうか? そして、コロナ禍を経た中国の最新ビジネストレンドは? ホットリンクCMOいいたか、インハウスエディター・澤山モッツァレラ私がエレンの3名が詳しく伺いました。

濱野智成(はまの・ともなり)。株式会社トレンドExpress代表取締役社長。Deloitte Japanで経営コンサルティングに従事後、ホットリンクに参画。グローバル事業や経営戦略、事業開発、戦略人事をCOOとして統括。その後、トレンドExpressを分社化させ、代表取締役に。

中国はすでに「ポストコロナ」

山:
まずは、2021年4月現在の中国市場について伺わせてください。劇的な2020年を経て、中国の需要はどのように変化したのでしょうか?

濱野:
新型コロナウイルスの感染状況でいうと、この図を見てください。ここがちょうど去年の今頃、まさに感染のピークですね。そして第2波が7月に来てるんですが、トータルでも感染者数が300人位なので、東京未満です。これ、香港も含む数字なんですよ。

データ元:百度新型冠状病毒肺炎 疫情实时大数据报告

澤山:
え、そんなものなんですか!?

濱野:
昨年5月に労働節というGWみたいな休日があったんですが、その頃にはもうかなり抑制されていて、普通に人が出歩いていました。2021年に入ってから春節を前に第3波が来ていますが、絶対数は少なく、すぐに沈静化されています。

中国は、国民全員が「健康コード」というアプリで行動データが取られています。コロナになった人と接触したら、その人も含めて強制隔離されるんです。

さらに、緊急事態宣言は日本でいうと東京ではなく「新宿」とか「丸の内」といった町単位で発令されました。該当エリアは完全に封鎖され、一帯の住民は外に出ないよう指示されます。こうした局所的な対策で、コロナを抑え込んでいます。

私は昨年9月と10月に中国へ行きました。入国には水際対策としてPCR検査が2回あり、2週間部屋に隔離されます。その後ようやく外出を許可されましたが、そこはもう安全を確保されているので、マスクをしている人もいなければ、アルコール消毒する人もいなかったですね

経済活動も元に戻っていて、2020年10〜12月の経済成長率は6%超、2021年1月~3月は前年比30%超で推移しています。上半期には大きな落ち込みがありましたが、下半期には回復し大きな伸びを見せました。

そのため、2021年の経済成長率の目標は8〜10%まで出されるんじゃないかと予測されたんですね。3月上旬に全人代(※)で発表された6%という数字を見て、多くの人が「すごく控えめだね」と口にしたくらいです。

全国人民代表大会。中国の立法機関で、日本の国会に相当する。国家の最高権力機関と定められている。

澤山:
日本とはまるで状況が違いますね…。コロナ禍で、特徴的な需要の伸びもあったと思います。それも今は落ち着いていますか?

濱野:
コロナ禍では、衛生面や免疫関連の商品、健康食品、教育用品、スマートテレビ、フィットネスなどのデバイス類が伸びました。調理器具やDIYも成長しています。このあたりは、今も伸びているんじゃないでしょうか。

一方で生活の様子は、コロナ前に戻りつつあります。

最近では社員から、「今日(新型コロナウイルスの)ワクチン打ってきます」という出勤連絡が毎日のように来ていて。ワクチンも相当普及していて、コロナに対する攻略法を自分たちで持っている状態ですね。

制限されていることと言えば、国外への行き来でしょうか。それ以外は、意外と自由に過ごせています。

澤山:
すでにアフターコロナどころか、ポストコロナに入っているんですね。

濱野:
昨年の秋先までは、旅行も含めてへこんでいました。最近は、むしろオフラインイベント需要がすごく増えていますね。「海南島免税」という言葉を知っていますか?

澤山:
海南島免税?

濱野:
「中国のハワイ」と呼ばれるリゾート地・海南島は、中国人が免税を受けられます。そこへ旅行しての買い物需要が、めちゃくちゃ増えているんです。

海南島では「中国国際消費品博覧会」という、かなり大規模な博覧会が開催されます。それに応じて、「海南島免税を盛り上げよう」というオフラインイベントや展示会も、加速の一途をたどっているんです

いいたか:
まさにスーパーリゾートですね。すごいなあ。

私がエレン:
うちの叔母も数年前に海南島に行って、「すごくいいところ!」と言っていました。買い物も楽しいし、ご飯も美味しいしって。

濱野:
海南島は個人税、法人税も非常に安く、リゾートなので「ここに移住したい」という人も年々増えています。最近では男性アイドルグループのUNIQに所属する王一博が、ここに事務所を立ち上げて話題になりました。

澤山:
完全に別世界ですね……。

濱野
『シン・ニホン』『イシューからはじめよ』の安宅和人さん(ホットリンク社外取締役)も口にしていますが、実質消費経済に関して、2020年の時点で中国が世界一になっているんですよね

ビジネスにおいて放っておくことのできない国ですし、経済覇権国となる確率は高く見積もっていい気がします。中国が孤立して世界経済との対立構造が起きているということも、同時に発生していますが。

安心安全から自己実現へ。中国市場のニーズの変化

いいたか:
新型コロナウイルスが落ち着いた中国では、経済活動は元通りになったんですか? それとも、よりEC化率が高まりましたか?

濱野:
DXは進みました。特に40代以降のEC購入者が急増するなど、面白いデータもあります。あとは地方都市の商取引でもEC化が進んでいますね。もともとDXが進んでいる国でしたが、遠隔医療や遠隔教育など、さらに加速しています。

いいたか:
こうした中国企業が勢力を増していく流れに押され、中国市場における日本企業のブランド価値が低下している印象を受けます。実際のところは、どうでしょう?

濱野:
相対的に弱まっていますね。例えば電化製品は、HuaweiやXiaomiなどの中国製品が日本製品を圧倒しています。化粧品でも中国企業の台頭が目立ちます。

化粧品や健康食品といったカテゴリーについて、これまでメイドインジャパンは安全安心という訴求で戦ってきました。実際に2015〜2017年頃まで、消費者の間でも安心安全に対する高いニーズが存在していたんです。

しかし、現在の中国は「承認欲求」や「自己実現欲」に基づく消費行動に変化しています。自分のキャラクターに合うもの、自分の願いを叶えてくれるもの。「マズローの欲求5段階説」のように、中国市場のニーズが移行しています。

こうした市場の変化のなかで、コスメブランド「完美日記(PERFECT DIARY)」を運営するYATSEN(逸仙控股)のように、時価総額1兆円を超える上場企業が登場してきました。

YATSENは実際に、現在の中国消費者の"自己実現ニーズ"に沿ったアイシャドウなどの商品開発をバンバンします。さらには、OEM工場で日本企業と組んで、商品の安全性も担保しています。

こうした戦略のブランドがたくさん世に出てきているので、中国では国産ブランドがすごく強いです。にもかかわらず、日本ブランドは、特にマスステージにおいていまだに安全安心のニーズで戦っているケースも多く、競争が激化しています。今後、日本ブランドや他の外資系はハイブランドで戦わないといけない。中国企業と同じ価格帯では、勝つのは難しいでしょうから。

アウトバウンド100%への戦略転換。企業の越境ECを支える新サービス「意中盒」

澤山:
2020年の1〜2月頃から、インバウンド需要は大きく減少しました。極めて厳しい状況下、トレンドExpressはどのような施策を打たれましたか?

濱野:
強い危機感を持ちながら、経営の舵取りをしました。トレンドExpressは、前年度までずっと200%近くの成長を続けてきました。そのうち約60%がインバウンド需要で、残りの40%がアウトバウンド、すなわち中国の現地法人と越境ECという構成です。

コロナ禍により、この60%の売上がゼロになってしまいました

新型コロナウイルスの感染拡大当初から、「これはまずいぞ」と思っていたんです。そして2020年2月の時点で「インバウンドは、もう戻らない」と腹をくくりました。そこからアウトバウンドの企業をすべてリストアップし、彼らだけに営業をかけると決めました

あとは商品開発や事業開発を進めて、その過程で生まれたのが中国消費者へのお試し品配布サービス「意中盒 -SURPRISE BOX-(イーヂョンフー)」です。営業体制もクライアント構成もすべてアウトバウンドに移行し、なんとか前年比約110%の成長ができました。ここは、結構しびれましたね。

実際、2020年の売り上げ構成比は1:9です。2021年に関しては、100%アウトバウンドで売り上げ構成を見込んでいます。

いいたか:
すごいですね。アウトバウンドだけの成長比に絞ると、もっと伸びていますよね。

濱野:
225%くらいでしょうか。2020年2月にはセミナーイベントを全てウェビナーに切り替え、ウェビナーでの集客と「越境ECセミナー」というイベントを全4シリーズで開催しました。テーマはすべて越境ECと国外貿易に関するもので、「インバウンド需要が戻らないなか、どうするべきか」をテーマに開催しました。

なんだかんだオンラインイベントだと、会場に来るより集客率が高まってるんですよね。マッピング上、相当数の企業様にアテンションできたなと感じています。

いいたか:
ホットリンクも2月頃から完全オンラインに切り替えたので、(オンライン移行の)タイミングは同じくらいだったんですね。

澤山:
アウトバウンドでいける、という手応えを感じたのは、いつ頃ですか?

濱野:
問い合わせ自体は、すぐに増えましたね。私たちは以前から越境ECの事業を行なっていた関係で、関連の問い合わせが急増しました。越境ECニーズを確かめるために行なったセミナーも、反響がかなりありました。改めて、「この領域は求められている」と実感しました

いいたか:
うまくいった事例や施策はありますか?

濱野:
うまくいった複数の施策では、共通して「ソーシャルバイヤーの活用」が加速しました。例えば化粧品会社さんの場合でも、今までインバウンドで購入していたお客様が、ソーシャルバイヤーを通じて買うようになったという文脈が増えています。

トレンドExpressは、2021年1月に抖音(中国版TikTok。読みは「ドゥイン」)を運営するByteDanceさんから、“ダイヤモンドパートナー”の称号をいただきました。これは、2020年の実績がNo.1だったという証明でもあります

小林製薬さんの事例では、アウトバウンド需要に対してどう発信することが最適かを考えていて。当時から旬だった抖音の活用に力を入れたことで、ブランディングの加速に成功したという背景があります。

「意中盒 -SURPRISE BOX-」に関していうと、すでに20事例ほどケーススタディが生まれています。越境ECの最大の課題は、顧客との接点が持てないことです。従来はインバウンドで商品を購入してもらい、またECで発注をしてもらうという流れでした。

越境EC単独の場合は、購入までお客様との接点がありません。そこで、トレンドExpressは「意中盒 -SURPRISE BOX-」を通して、越境ECでもサンプルを送ることで接点を持てるしかけを作りました。お客様に対して、「実際に使ってみていいと思ったらリピート購入してくださいね」というものです。

これが見事にハマって。越境ECだけでは最初の使用機会が作れないメーカーさんの利用が一気に加速しました。現在では、サンプリングだけに留まらず、ブランド企業が自社の顧客を囲い込み、ダイレクトマーケティングを実現するプラットフォーム事業に昇華させています。それ以外にも、越境EC関連の事業を次々に開発しています。

データ分析・活用で「意中盒」が与えるインパクト

濱野:
コロナ禍で市場環境が変化したことで、改めて消費者行動をデータ分析する需要が高まっています。自社はもちろん、他社の変化も含めてです。

例えば、最近の消費者のクリーンビューティへの意識変化は? とか、強くなる中国ブランドとの相対的ポジションは? とか、変化の早い中国市場のトレンドを捉えること、消費者の購買実態を明確にすることは常に求められています。

そこからさらに、自分たちのブランドポジションを改めて伝える戦略を練ります。その発信ツールは何がいい?と なると、やっぱり抖音がすごく伸びていて。なにせDAU(Daily Active Users)が6億人を突破するSNSですから

いいたか、澤山、私がエレン:
DAUが6億人!?

濱野:
圧倒的ですよね。だからこそ、「抖音の活用を通じてブランドポジションを築きましょう」というニーズは拡大しており、分析×プロモーションをつなげる動きはより一層重要性を増しています。

澤山:
スケールが大きすぎますね…。ビジネス面で、中国市場に進出しない理由はないですね、もちろん、簡単な話ではないと思いますが。

濱野:
そうですね。規模が大きい分、リスクも比例して高くなります。よく聞く話としては、「CPAが非常に高い」などが有名です。

実は「意中盒 -SURPRISE BOX-」だと、CPAを下げることもできます。なぜなら、中国で蓄積した約1,500万人のユーザーデータベースからターゲティングできるからです。

「意中盒 -SURPRISE BOX-」を使うことで、特定の悩みを抱えている人をサンプリングし、その情報をCRMに活かす。それによって、CPAを下げることができるんですね。

仮にKOLやインフルエンサーマーケティングで大々的に広告を打ち、ひとりあたりの顧客獲得コストが10万円かかるとします。このコストを、1万円にまで下げられるような施策を展開しています。このサービスは、今後大きく成長すると期待しているんですよね。

今だからこそできる「仮想インバウンド」施策

澤山:
2021年度の第1Q以降の中国市場は、どうなると予想しますか?

濱野:
今後、インバウンドの回復はないという前提を置いています。ワクチンの浸透度合いにもよりますが、インバウンドの回復は、2022年以降になるのかなと。

日本にいながらできることは、やはりアウトバウンドであり越境ECだと思います。トレンドExpressもアウトバウンドで200%以上伸ばしているので、そこを捕まえに行くことが重要ですよね。

「仮想インバウンド」という考え方もあります。インバウンドが回復したとき、第一の選択肢として選ばれる状態を作る。これもマーケティングとして非常に重要だし、需要があると思います。

例えばSNSの公式アカウントからの情報発信だったり、仮想空間でのインバウンド提供だったり。実は中国人に「海外旅行できるようになったらどこに行きたい?」と聞くと、まっさきに日本の名前が挙がるんですよ。

これは過去の資産があるからこそ、と私は思っています。とはいえ情報は、徐々に劣化します。私がもっともやるべきだと思っているのは、「今こそ情報発信する」です

公式アカウントからの情報、ブランディングとなる情報を常に発信し、「海外旅行できるようになったら日本へ行きたい」という状態を維持しておくべきだと思いますね。

これをやらない企業は、インバウンドが戻ってから何かをやろうとします。厳しい言い方ですが、後発は選ばれません。こういうときに、逆張りで情報の鮮度を上げておくこと。現在、インバウンドの市場は大きな競争が起きていないからこそ、できることを早めにはじめることが重要だと思うんですよね。

いいたか:
今回はお忙しい中、貴重なお話をいただきありがとうございました!

 

今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。

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