認知施策にどれだけ投資しても、認知が積み上がらない――
多くの企業が抱えるこの課題の背景には、プロモーション型の短期思考と、変化するメディア環境への対応不足があります。
テレビCMをはじめとする大規模な認知施策を展開する企業が、いま見直すべき認知戦略とは何か。ホットリンク コンサルティング営業本部長の増岡が、中長期で成果を積み上げる認知施策の考え方を解説します。
(撮影:市村円香)
【プロフィール】

増岡 宏紀
株式会社ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長
2016年にホットリンクへ入社後、企業のSNS戦略の立案や運用支援、プロモーション設計に携わる。食品・外食・消費財・コスメ・エンタメなど、幅広い業界でSNSを起点としたブランドコミュニケーションを支援。現在はコンサルティング営業本部長として、新規顧客の戦略設計から実行支援までを統括。2025年12月には、日経BP社より著書『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ ~UGCと指名検索が増え続けるSNS活用の新常識~』を発売。

継続的な認知接点が作れていない企業の実態
――企業の認知施策について、どのような相談を受けることが多いですか?
増岡:「ブランドの認知度を上げたい」というご相談が多いですね。
その場合、新商品のローンチなど、瞬発的なタイミングでのプロモーションを想定される企業様が多いんです。つまり、「そのタイミングでSNSを使って認知を取りたい」という相談が中心になります。
もう一つよくあるのが、単純な商品認知というよりも、USP(自社独自の強み)をちゃんと認知してもらいたいとか、「こういうことを生活者に知ってほしい」という理解促進的なご相談です。
――そうした相談の背景には、どんな課題があると感じていますか。
増岡:本質的な課題は、継続的な認知接点を作れていないということなんです。もちろん、短期的な施策自体が悪いわけではありません。ただ、多くの企業はそこに気づいていない。たとえ気づいていたとしても、継続的な接点に投資していない。これが一番大きな問題だと感じています。
――継続的な認知接点とは、具体的にどういうことでしょうか。
増岡:継続的な認知接点とは、コンテンツなどを通じて顧客と定常的に接点を持ち続けることです。ブランドの売上を伸ばすには、多くの顧客から想起してもらえる状態を作ることが重要で、そのためには継続的な接点が欠かせません。ところが、多くの企業は「プロモーションの瞬間のために」広告を配信しており、継続的に認知を積み上げる施策になっていないんです。
たとえば、大手企業の多くがやっている認知施策を見てみると、テレビCMもそうですし、デジタルではメディアプランニングやフルファネルマーケティングが中心です。
メディアプランニングというのは、どこのメディアに対してどういう配分でプロモーションを展開するか、という話。フルファネルは、マーケティングファネルの上部から下部までの流れを作るというもので、タレントを使ったヒーロー動画で認知を獲得し、インフルエンサーを使って理解を促進、最後はダイレクトマーケティングも掛け合わせる、というような設計です。
これらは認知施策で売上を上げるという文脈でよく語られる施策なんですが、結局それらは全部単発なんです。メディアプランニングも、プロモーションのその瞬間のために広告をどう配信するかという話。フルファネルでの設計も、新商品を売る時にどうするか、という話に終始しがちです。
もちろん、上で挙げた施策は当然ながら重要です。一方で、情報が溢れかえったこの世の中では、瞬間的な認知だけでは効果が続かず、記憶は上書きされ続けていきます。
つまり、短期的な施策だけでなく継続的な接点を積み上げることにも投資しなければならない。この構造的な問題に気付かなければ、ブランド想起を高め続けることは難しいのです。でも、多くの企業はこの構造的な問題に気づいていないんです。

――定常的に配信し続けている広告は存在しないのでしょうか。
増岡:デジタルで定常的に配信し続けている広告って、ほとんどがダイレクトレスポンス広告なんですよ。それはCPAが合う合わないで判断されるもので、継続的に接点を取り続けることを目的とした広告ではないことが多いんです。
なぜこうなるかというと、継続的に接点を取り続けても成果を測りづらいからだと思います。ダイレクトレスポンス広告は、獲得単価が合えば続けられるという明確な基準がありますよね。でも、認知を目的とした広告で、定常的にずっと接点を取り続けるための広告という概念は、あまり持たれていないんじゃないかと感じています。
デジタルを抜け出すと、例えば看板広告のように一定期間ずっとそこにある広告はあります。駅にずっと看板を出し続けるとか、そういう長期間の認知施策はオフラインには存在する。でも、デジタルになると、なぜかあまりないですよね。
――デジタルにおける継続的な認知接点は、以前から無かったのでしょうか?
増岡:これまではSNSアカウント運用がその役割を担っていたと言えます。フォロワーを増やして、継続的に情報を届ける。ファンを増やす。そういう考え方が主流でした。しかし、これは今もう崩壊しています。
――なぜフォロワーを増やす施策が崩壊したのでしょうか。
増岡:端的に言うと、フォロワーに情報が届かなくなったからです。私の体感では、Xでフォロワーに対する表示率は10%もあればいい方で、キャンペーンでフォロワーを集めている企業だと1%を切ることもあります。数年前と比べて、リーチ率は3分の1程度に下がっている印象です。
Instagramも同様で、フォロワーに対する表示率は20%あればいい方だと思います。つまり、フォロワー獲得に投資をしても、情報を届けたり、その先の態度変容につなげたり、といった結果を得にくくなっているんです。
――フォロワー数は増えても、リーチしないということですね。
増岡:そうです。フォロワー数が本当に売上につながるのであれば、フォロワー数をずっと追い続けることが認知施策として成り立つはずです。でも、そこが形骸化してしまった時に、コントローラブルで、かつ意味のあるKPIを多くの企業が見失っているのだと思います。
――フォロワー数が意味を持たなくなった今、継続的な認知接点をどう作るかが見えなくなっているわけですね。
増岡:そうなんです。従来の方法では継続的な接点を作ることができない。だからこそ、別のアプローチをとらないとブランドの認知は下がってしまい、売上も徐々に落ちてしまう可能性があります。
メディア環境の変化が認知施策を難しくしている
――認知施策を難しくしているマクロ環境の変化について、どのように捉えていますか。
増岡:メディア分散、コンテンツ分散、そしてメディアのレコメンド化。この3つに尽きると思います。
かつてはテレビという一つのメディアに広告を出せば、多くの人にリーチできました。マスメディアの力が強かった時代ですね。でも今は人々の接触するメディアが分散し、コンテンツも膨大に増えている。
YouTubeもあれば、Xもあれば、InstagramもTikTokもある。人々が情報に接触するタッチポイントが分散してしまっているんです。そして、それぞれのプラットフォームで生成されるコンテンツの量も膨大になっている。その中で、各SNSはアルゴリズムによるレコメンド型に移行しています。
フォローしている人の投稿だけが流れてくるのではなく、アルゴリズムが「あなたにおすすめ」という形で、フォローしていない人のコンテンツもどんどん表示されるようになった。レコメンドメディア化したと言えます。
――レコメンド化によって、企業の投稿が届きにくくなっているということですか。
増岡:そうです。考えてみてください。普段SNSを使っていて、企業の投稿が頻繁に流れてくる人はどれくらいいるでしょうか。基本的には個人の投稿の方が圧倒的に多いですよね。それがまさに、今のSNSの現実なんです。
企業の投稿は、アルゴリズムに評価されにくい。なかなかバズらないし、フォロワーも思うように増えない。メディアとコンテンツが分散して、さらにレコメンド化によって企業の投稿が埋もれてしまう。この三重苦の中で、多くの企業はどう対応しているかというと、「Xでキャンペーンをやっておけばいいんでしょ」「インフルエンサーを使えばいいんでしょ」という思考に陥ってしまっているんです。
実際、そういう考え方が根強く残っているのが現状です。「キャンペーンをやれば何とかなる」という認識が一般的になってしまっているんです。
――長期的に認知が積み上がる施策のイメージが持てていないと、瞬発的に成果を出す思考に陥ってしまうということですね。
増岡:そうなんです。バズらせようって言ってる人と一緒で、長期で積み上がる施策のイメージが持てていないから、結局「短期で大きな成果を出そう」という発想になってしまう。
特にSNSでは、認知というのは一気に拡散して、多くの人に広がることだと思われている。ホームランを打つ場所だと思われているんですよ。
コツコツとヒットを積み上げて、右肩上がりに成果を出していく場所だとは思われていない。でも、現実的に考えてみると、ホームランってそんなに打てないじゃないですか。それよりも、ヒットを積み重ねて、塁に出続けて、気づいたら大量得点している、という方が再現性は高いはずなんです。

認知施策で成果を出すために必要な要素とは
――では、認知施策で成果を出すために、どのような要素が重要になるのでしょうか。
増岡:よく使う言葉で言うと、「量」と「質」の両方が必要です。
量というのは、見込み顧客に対して十分な量の接点を取れているか。ここには接触頻度も含まれます。商品を購買してもらうためには、一度の接点で終わってはダメで、継続的に接点を持つことが重要です。ただし、接触頻度を増やすといっても、同じ情報ばかりだと飽きられてしまう。だからこそ、切り口の多さが重要になってきます。
質は、その接点が態度変容を促すものになっているか、想起につながるかどうかです。
ただ知っただけでは、今の情報過多の社会では当然忘れられてしまいます。購買行動につなげていくには、記憶に残る、想起のきっかけを作っていくことが重要なんです。
――量と質を満たせば成果が出るということですか。
増岡:理論上はそうです。適切なターゲットに接点を取れていて、質も担保されていれば、何らかの形で売上につながっていくはずです。
ただ、ここに大きな落とし穴があります。企業側からすると、投資した金額に見合うだけの売上アップ・利益創出につながらないと継続できないじゃないですか。リターンがなければ、結局終わってしまう。これが認知施策の一番難しいポイントなんです。
――投資対効果が見えないから、継続できないということですね。
増岡:そうです。プロモーションって、当然時間もかかるし、お金もかかる。それをずっとやるのも大変だし、クリエイティブも1個や2個だと枯れていってしまう。そうなると、必然的に短期になってしまうんです。
プロモーションの数がものすごく多い会社であれば、十分な認知が取れています。毎月大きなプロモーションをやっていたら、継続的に施策をやっている“雰囲気”は出ますよね。でも、1年に1回しかやれないような会社は、継続的に認知を獲得することができていない。そこをSNSに頼っている、という構図になっているわけです。
もちろん、予算が潤沢にあれば、プロモーションをとんでもない数、ずっと継続してやり続けることも理論上は可能です。でも現実には無理なわけで、予算もリソースも限られている。だからこそ、投資対効果の良い手法を選択していく必要があります。
――中長期で成果が積み上がっていく施策が必要だと。
増岡:まさにそうです。継続的に取り組むことで、成果がどんどん積み上がっていく。そういう認知施策は、世の中的にほとんどないと思うんですよ。
投資してリターンが返ってくることを明確にイメージできる認知施策自体が、そもそも少ない。ある程度の再現性を持って、投資対効果を想定できる認知施策が少ないから、多くの企業が迷っているんだと思います。
また、テレビCMは流さなくなったら終わりですよね。もちろん、頭にずっと残るCMもあると思いますが、それも相当作り込まないといけないし、一発見て終わりではない。
一方で、積み上がる施策であれば、投資した以上のリターンが期待できます。効果が持続し、資産として残り続ける。これは本当に大きな違いだと思います。

SNSへの「投資」という概念を持てているか
――これまでのお話を総合すると、SNSに対する認識そのものを変える必要があるということでしょうか。
増岡:そうですね。SNSはキャンペーンやインフルエンサーを使ってバズを狙う場所だと思われがちですが、実際は中長期で投資するものとして捉え直すべきなんです。
多くの企業においては、インフルエンサーやキャンペーンの積み重ねでSNS内の成果を作っていくという認識が一般的になっていると思います。でも、そうではないやり方をしっかり知った上で意思決定すべきだと思うんです。
キャンペーンだけでもいいと思うんです、それが成り立つのであれば。ただ、UGCを増やすこと、さらに広告を活用することで成果を積層させていくマーケティング手法があるということを知った上で、どちらを選ぶか判断してほしいんです。
――SNSをどう捉えるかという認識の話ですね。
増岡:そうです。さっき話した認知の量と質が満たせれば、基本的に成果は返ってきます。そして、中長期で投資に対するリターンが得られることが一番重要なんです。しかし、SNSはそういう中長期で投資するものとして見られていない。
でも実際は、UGCを積み重ねることで、中長期的に投資に対してリターンが返ってくる可能性がある媒体なんです。この点がまだ認識されていないので、しっかり認識して取り組めば、今は想定していないようなリターンが1年後、2年後に得られる可能性があります。
SNSへの認識を改めてくださいね、というメッセージは本当に大事だと思っています。
――重要なのは、UGCを積層させていくという考え方ですね。
増岡:はい。これが「ULSSAS(ウルサス)」という考え方です。ここまで話してきた認知施策の問題点を踏まえると、SNSで重要なのはUGCを生み出し、ULSSASを回していくことなんです。

増岡:これによって継続的に認知を獲得でき、成果が積み上がっていきます。従来のよくある広告施策では、これは実現できません。テレビCMなどにかけている広告予算の一部をここに移すだけでも、中長期で効果が出てきます。
――その具体的な手法が「ULSSAS AD(ウルサスアド)」ということですか。
増岡:そうです。ULSSASを回すための広告施策がULSSAS ADです。詳細な手法については企業秘密の部分もありますが、基本的な考え方としては、コミュニティと接触頻度を重視した広告施策です。
狙いたいコミュニティをターゲットにして、そこに入り込んで継続的に接点を作っていく。そして、そこで生まれたUGCがさらに広がっていく。この好循環を広告で作り出すというアプローチです。
――従来の広告とは発想が違いますね。
増岡:全く違います。そして、莫大な金額を投じる必要もありません。他の広告施策からの予算配分を変えるだけで済みます。コストパフォーマンスが非常に良いので、既存の広告予算の一部をこちらに当てるだけでも、十分な成果を期待できます。
――なぜコストパフォーマンスが良いのでしょうか。
増岡:例えば、広告だけだと配信している間しか成果が出ない。でもUGCと広告を活用することで、広告がUGCを生み出し、そのUGCがまた新たなリーチを生み出す。認知効果が最大化され、積層されていくんです。
「積み上げ型」の認知施策へ移行を
――認知施策に課題を感じている企業へメッセージをお願いします。
増岡:認知施策って、多くの企業が「やらなきゃいけない」と思っているけど、その取り組み方が短期的なプロモーションの積み重ねになってしまっている。それでは、成果は積み上がっていきません。
売上アップから逆算した認知施策になっていない可能性があります。また、瞬発的な成果だけを求めて、中長期の視点が欠けている可能性もあるんです。
SNSは中長期でリターンが返ってくる施策、成果が積層していく施策に取り組んでいただきたいです。それができている企業は、まだまだ少ないんです。
――認知施策をやっている企業は多いのに、積み上げ型でやれている企業は少ないということですね。
増岡:そうです。テレビCMなど大規模な認知施策をやっている企業は多いですが、その認知の取り方に変化を加えていった方がいいと思うんです。今のやり方を全部やめるということではなくて、一部でもいいから、積み上がる施策に予算を配分していく。
認知施策はやっている。でも、本当に成果につながっているのか。現状のSNS施策は事業成長につながっているのか。こうした問いかけが必要だと思います。
そして、認知施策を「積み上げ型」に変える。その考え方と手法を知った上で、意思決定をしていただきたいですね。
これは決して、今やっている施策を全部否定するものではありません。ただ、選択肢として、積み上がる認知施策があるということを知ってほしい。その上で、どう予算配分するか、どう取り組んでいくかを考えていただきたいんです。
少しでも興味を持っていただけたら、ぜひお気軽にご相談ください。