「投稿をバズらせたい」
――そんな相談が、今も絶えることなく寄せられています。大量のインプレッション、メディア掲載、そして社内での達成感。確かに短期的には成果が出ているように見えますが、果たしてそれらは本当に事業成長につながっているのでしょうか。
Twitter(現X)が日本に上陸した2008年頃と比較すると、SNSを取り巻く環境は劇的に変化しました。レコメンドメディア化が進み、コンテンツの大渋滞が起こる中、企業の投稿は以前にも増して届きにくくなっています。それでもなお「バズ」に固執し続ける企業は少なくありません。
本記事では、ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長の増岡が、短期成果に囚われず、中長期で事業成長を実現するSNS戦略について語ります。
(撮影:市村円香)
【プロフィール】

増岡 宏紀
株式会社ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長
2016年にホットリンクへ入社後、企業のSNS戦略の立案や運用支援、プロモーション設計に携わる。食品・外食・消費財・コスメ・エンタメなど、幅広い業界でSNSを起点としたブランドコミュニケーションを支援。現在はコンサルティング営業本部長として、新規顧客の戦略設計から実行支援までを統括。2025年12月には、日経BP社より著書『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ ~UGCと指名検索が増え続けるSNS活用の新常識~』を発売。
「バズらせたい」相談が増えている本当の理由
――最近、自社のSNSアカウントを「バズらせたい」という相談が増えているそうですね。
増岡:増えている、というよりは「変わらずある」というのが正確かもしれません。ただ、相談が来る背景には意味があります。これまでずっとバズ頼みだった企業が、最近それができなくなってきて、新たな代理店やパートナーに打ち手がないか聞き始めているんです。
以前はバズる投稿をコンスタントに作ることができ、結果としてメディアにも取り上げられ、PR効果も出ていた。ところが最近、全然バズらなくなってきている企業が多いんです。
――企業側は、バズらなくなった原因をどう捉えているのでしょうか?
増岡:ブランドのご担当者からは様々な課題が挙げられます。代表的なものは「投稿数が増加した結果として質が低下している」といった内容ですね。
つまり、企業側は「バズがダメなんじゃなくて、バズのやり方がダメだ」という認識になっているんです。運用の問題、クリエイティブの問題、代理店の問題として捉えているんですね。
でも、本質はそこじゃないんです。そもそも、企業の投稿がバズること自体が構造的に難しくなっているんです。やり方の問題ではなく、環境そのものが変わってしまったんです。
――バズが構造的に難しいとは、どういうことですか?
増岡:大きく2つの要因があります。1つは「コンテンツの大渋滞」。もう1つは「媒体のレコメンドメディア化」です。
SNS上のコンテンツは爆発的に増え続けています。その中で、企業の投稿が届く確率はどんどん下がっているんです。さらに、SNSのプラットフォームはレコメンドメディア化を進めています。それにより、ユーザーの興味関心に合うコンテンツしか表示されなくなり、結果として企業の投稿が表示されにくくなっているんです。
考えてみてください。普段SNSを使っていて、企業の投稿が頻繁に流れてきますか? 基本的には個人の投稿の方が圧倒的に多いですよね。それがまさに、今のSNSの現実なんです。
さらに深刻なのは、仮にインプレッションが取れたとしても、エンゲージメントが落ち続けていることです。以前と同じインプレッション数を獲得できても、今はいいね等の数が大幅に減っている。情報が多すぎて、ユーザーはわざわざいいねせずにスルーしてしまうんです。これは不可逆的な変化です。今後、以前のような構図に戻ることはないでしょう。
バズを目標にする企業の落とし穴
――それでも企業がバズを求めるのは、なぜでしょうか?
増岡:理由は大きく2つあります。
1つは、過去の成功体験です。実際に、バズることでメディアに取り上げられ、PR効果が出た実績がある企業は多いです。先程話したように、以前は投稿がバズればメディアが注目してくれました。そのような過去の成功体験が、今も企業の意思決定に影響を与えています。
もう1つは、上層部への報告がしやすいという点です。SNSに詳しくない上層部に対して、「投稿がバズりました!」「メディアに取り上げられました!」と報告すれば、数字や実績として伝わりやすい。社内での評価につながりやすいんです。
――確かに、定量的な成果は魅力的に見えます。
増岡:でも、ここに大きな問題があります。「バズって何がいいの?」という問いに、ちゃんと答えられている企業は少ないんです。結局、バズること自体が目的化してしまい、事業成長との紐付けができていないんです。
確かに、バズることでPR効果が得られるのは事実です。それを狙って戦略的に取り組んでいる企業もあります。ただ、本来は「それが持続的な事業成長につながるのか」を事前に明確にして取り組むべきだと考えています。

バズの4つの致命的な問題点
――バズを追い求める問題点を、改めて整理していただけますか?
増岡:大きく4つあります。
まず1つ目は、再現性の低さです。バズは狙ってできるものではありません。仮に全力でやるとしたら、企業にしか作れないリッチなコンテンツを週に1〜2本出し続ける。同時に、トレンドに即座に反応できるようSNS運用者が常にモニタリングする。それくらいのリソースを投下してもバズるかどうかはギャンブルですし、企業の投稿がレコメンドされにくい以上、バズる確率は低いと言えます。
2つ目、これが最も重要な問題ですが、認知が積層しないということです。バズは瞬間風速でしかありません。今月バズっても、来月にはゼロに戻る。何も積み上がりません。
グラフをイメージしていただくと分かりやすいんですが、バズは上がって下がって、また上がって下がっての繰り返しです。しかも、1年後、2年後には、その上下動の振れ幅すら小さくなっていく。右肩下がりなんです。
3つ目は、ブランド想起につながりづらいという問題です。バズらせようとするあまり、話題性を重視した投稿にしがちですが、それではブランドとして伝えたいことが後回しになってしまう。仮にバズったとしても、エンタメ性で一時的な注目は集められますが、ブランド想起にはつながりにくいんです。
そして4つ目が、投資対効果の悪化です。莫大な予算と人員をかけても、得られるリターンはどんどん減っています。それなのにバズ施策を「事業成長への投資」として正当化できるかというと、非常に難しいですよね。
――まるで「沈みゆく船に投資し続けている」ような状態ですね。
増岡:まさにその通りで、「下りエスカレーターを登り続けている」状態とも言えます。進んでいるつもりでも、実際には同じ場所にいるか、むしろ後退しているんです。
事業成長につながるSNS戦略とは
――では、ホットリンクが考える「理想のSNS運用」とは何でしょうか?
増岡:「持続的かつ投資対効果の高い運用」をすることです。今やSNSは事業成長に欠かせない媒体なので、中長期でしっかり投資する必要があります。バズのように瞬間風速で終わるのではなく、成果が積み上がっていくことが重要です。そのために、UGCは重要な要素だと考えています。
――中長期で投資するとして、具体的にどのような方法があるのでしょうか?
増岡:大事なのは「ユーザーとの継続的な接点をどう作り続けるか」です。よく「日々たくさん投稿することですか?」と聞かれます。それは重要なことではありますが、企業の投稿はそもそもインプレッションが出づらいので、それだけでは不十分です。
継続的に接点を作る方法はいくつかあります。例えば、UGCです。企業の投稿に比べ、個人の投稿はレコメンドされやすいので、ユーザーに語ってもらう方が届きやすい。また、広告を継続的に使うことも有効です。少額であったとしても広告を活用することでユーザーに確実にリーチすることができます。
大規模なプロモーションを継続的に展開することも理論上は可能です。とはいえ、予算とリソースは限られているわけなので、投資対効果の良い手法を選択していく必要があります。その観点でいくと、オーガニック投稿だけでバズを狙うのは再現性が低い。一方、UGCは一度投稿されればじわじわ増えていき、クチコミがクチコミを生む。つまり、持続性があるのです。
そして、そのUGCを生み出すために重要なのが、広告の継続的な活用です。広告を使ってターゲットに継続的に接点を持つことでUGCが増え、UGCが増えることでSNS上での言及数も増えていく。数千円からでも広告費をかけてUGCと組み合わせることで、認知効果が最大化され、積層されていきます。

――実際、UGCを増やすのも簡単ではないですよね。
増岡:確かに難しさはあります。ただ、バズとUGCの「難しさ」は、質が全く違うんです。
再現性の観点でいえば、バズらせる方が圧倒的に難しい。アルゴリズムは複雑になっていますし、今後はもっと難しくなる。持続的な成果という観点でも、バズは瞬発的で積み上がらない。一度バズっても、次につながらないんです。
一方、UGCの難しさは、すぐには成果が出ないという点です。でも、弊社にはUGCを増加させるナレッジと経験があります。腰を据えて施策に取り組めば、将来的にUGCは出るんです。オーガニック投稿やSNS広告など、色々な施策を「最終的にUGCを出す」という思想で積み上げていけば、確実に成果につながります。
企業が中長期投資に踏み切れない理由
――中長期での投資が重要だと、多くのマーケターは理解しているはずです。それなのに、なぜバズから離れられないのでしょうか?
増岡:これは非常に難しい問題です。ただ、直接話をすると、みなさん「UGC大事だよね」「中長期で考えることは大事だよね」と言って納得してくださいます。概念としては理解してくれるんです。それにもかかわらず、やっぱりバズから離れられないんです。
さらに、多くの企業が“ブランド戦略では”中長期を重視しているという点です。ブランドパーパスを定め、長期戦略を練っています。ブランドとして中長期に成長していくために、様々な施策をやっているし、広告戦略もしっかり立てているんです。
でも、SNSの話になると、その思考が適用されないんです。SNSだけが別ものかのように、もっと小さなもの、マーケティング施策の中で補完的なものとして取り扱われているんです。
――なぜSNSだけが例外になるのでしょう?
増岡:いくつか理由があります。まず、SNSを「無料でできるもの」と捉えている企業が多い。コストをかけていないから、中長期的に大きなリターンを期待するものではないと解釈してしまうんです。
でも実際には、SNSはテレビと同じくらい重要な媒体です。総務省の調査データ「令和7年版情報通信白書」からも分かる通り、XやInstagramといった主要SNSの利用率は年々増加しています。2020年以降はインターネットに接触する時間そのものが増加し、現在もその水準が維持されています。その結果、情報接触の中心はテレビのリアルタイム視聴から、インターネットやSNSへと明確にシフトしつつあります。
このようなデータを踏まえると、テレビと同じくらい注力をしなきゃいけないものなのに、「コストをかけない」という思考のままでいることが問題なんです。
さらに言えば、マーケティング責任者や経営層から見ると「ブランド戦略はこういうことをやる、広告戦略はこういうことをやる。でもSNSは担当レイヤーがやっているもの」という位置づけになっているんです。もちろん例外もありますが、他のマーケティング施策に比べて優先度が低いものとして扱われてしまっている企業が多いんです。
――優先度が下がることによって、情報のキャッチアップも遅れがちだと。
増岡:そうなんです。「バズらせよう」と思い込んでいるから、新しい情報をそもそも仕入れていないんです。アルゴリズムがどう変わっているのか、レコメンドメディア化が進んでいることの意味、企業と個人の投稿の届き方の違い。そういった情報をキャッチアップできていないケースが多いんです。
さらに、もう1つの壁があります。情報を仕入れたとしても、バズ以外のやり方、つまり中長期でUGCを増やしていく手法は、簡単ではありません。当然投資は必要だし、お金もかかるし、時間もかかるため、そこに注力する意思決定が難しいんです。
もちろん、意思決定が簡単にできないことは理解しています。ただ、ここで意思決定して中長期に注力する企業と、しない企業では、数年後には売上に大きな差が生まれると思いますし、実際に生まれています。
その判断を鈍らせる要因の一つに、世の中にあふれる「事例」があると思っています。SNSの成功事例として取り上げられている記事は、瞬発的な成果について言及されたものがほとんどです。

増岡:最近は「バズりました」だけで記事になるものは少ないかもしれません。でも、「UGCが〜」という記事はたくさん出ています。ただ、それもかなり瞬発的な成果なんですよ。「新商品を出して、この期間でこんなにUGCが出ました」といった、瞬間的に成果が出たものばかり。これもある意味、バズ的な考え方です。
本当の意味で中長期で成果を出した事例、年単位でUGCを積層させて売上との相関が見られた事例、例えば弊社のご支援事例であるシャトレーゼ様のような事例は圧倒的に少ないんです。
結果として、企業は瞬発的に成果が出た事例ばかりを仕入れてしまうんです。そうすると思考がアップデートされません。「やっぱり短期で成果を出すバズに注力すべきだ」という考えから抜け出せなくなります。
経営層・マーケティング責任者が意思決定を変えるべき
――とはいえ、現場の担当者は中長期の取り組みを決断しにくいのでは?
増岡:そうですね。現場の担当者では、中長期の取り組みに踏み切るインセンティブがありません。短期で成果を求められる中で、「1年後、2年後のために今から仕込みます」とは言いにくい。
だからこそ、マーケティング責任者や経営層が意思決定しないといけないんです。
――マーケティング責任者や経営層は、どう意思決定すべきなのでしょうか?
増岡:まず、メディアの環境変化を理解する必要があります。これからの時代、企業の投稿は伸びません。個人の投稿は伸びます。この構図は、もう不可逆的なものです。
一方で、SNSのユーザーは減っていないし、使用時間はむしろ伸び続けています。つまり、SNSには投資しないと企業としてはまずい。どう取り組むかが問題なんです。
その中で、今後ますます難しくなるバズに投資し続けますか? それとも、中長期で成果が積み上がるUGCに投資しますか?
答えは明らかだと思います。成果が積み上がる認知施策に投資していきましょう。それが、これからのSNSマーケティングで成功するための鍵です。
――最後に、メッセージをお願いします。
増岡:「まだバズで消耗してるんですか?」と問いたいです。これは、挑発的な言い方かもしれませんが、本質を突いていると思っています。
もちろん、バズらせられるならバズに特化してもいいのです。できるなら、バズ施策もUGC活用もSNS広告も、全部やるのが理想です。でも、再現性のない施策に莫大なリソースをかけて、積み上がらない成果を追い続けるのは、もうやめませんか。そんなところにリソースをかけますか、という話です。
もし今回のお話に少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ気軽にご相談ください。一緒に、成果が積み上がるSNSマーケティングを考えていきましょう。