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この記事の内容
最終更新日:2023年1月31日
各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルを招き、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。
今回のゲストは、株式会社コルク代表取締役社長CEOの佐渡島庸平さんです。
佐渡島さんは『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を始め、数多くのヒット作を手掛けた名編集者です。そんな同氏が立ち上げたコルク社は「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションとするクリエイターエージェンシーで、多くのマンガ家を世に輩出しています。
2022年12月15日、コルク社とホットリンクは「UGC創出マンガパッケージ」を共同で提供開始しました。SNSマンガ活用に関する戦略設計を弊社が、戦略に基づいたプランニングやコンテンツの制作をコルク社が担います。
この取り組みを始めた理由について、SNS×マンガの可能性について、さらには「プロフェッショナルとはなにか」について。多方面にわたり、佐渡島さんに語っていただきました。
インタビュアー:いいたかゆうた(GiftX代表/元ホットリンクCMO)、石渡広一郎(ホットリンクCEO特別補佐) 撮影:ヒサノモトヒロ 執筆:サトートモロー 編集:澤山モッツァレラ(ホットリンク)
いいたか: まずは佐渡島さんが、今回の「UGC創出マンガパッケージ」に興味を持ったきっかけを教えてください。
佐渡島: 大きな理由は、現代のマンガ家に「自分はプロだ」と自認できる環境整備が必要と考えていることです。
コルクは、「マンガ家のなめらかなキャリアをつくるには、どうすればいいか」を考えてきました。そのための方法として、SNSやファンコミュニティを主戦場としたプロのマンガ家を育成する講座「コルクラボマンガ専科」を運営しています。
しかし、ここを卒業してプロのマンガ家としてデビューするまでには、非常に大きな谷があるんです。
石渡: それは、どういうものなのでしょうか?
佐渡島: プロのマンガ家は最低でも1巻200ページ、数十巻続けば1万ページ以上におよぶ物語を構想するチカラが求められます。こうしたチカラを養い、限られた椅子に多くの人が挑戦し、生き残ったマンガ家だけが有名になれるのが従来の仕組みでした。
一方、現代はTikTokやYouTubeなど、SNSにおいてショートコンテンツが多数発信されています。いわゆるTikTokerやYouTuberを「プロではない」とする向きも、少なくなってきました。
この傾向は、マンガ家も同じ。Twitterなどで4ページマンガなどを掲載し、反応がよければ続きを描くスタイルの作家が増えています。こうしたマンガ家も、十分に「プロ」と言って差し支えないはずです。
しかし、出版業界や電子書籍におけるマネタイズの仕組みによって、そう感じさせてもらえない状況があると思います。
いいたか: 多くのマンガ家が、「自分はプロではない」と考えていると。
佐渡島: そうです。「オールドメディアの基準で自分を測る必要はない」ことを伝えるべきだと考えました。
佐渡島: 描く人を増やす上で重要なのは、稼げること。マンガはこれまで、書籍やデータ所有でマネタイズしてきました。SNS上の発信だけでは、(マネタイズは)難しいのが現状です。
とはいえ、YouTuberもTikTokerもフォロワーを集めることでマネタイズに成功しています。マンガでも、同じ状況は作れるはず。そこで考えたのが、SNS上でブランド形成したい企業にマンガを提供し、フィーを受け取るBtoBtoCモデルでした。
マンガがどれほどエンゲージメントを高めるかを知れば、SNSマーケティングに真剣に取り組む企業ほど喜んでくれるはず。そうした反応は、マンガ家にとってのやりがいにもつながります。
石渡: 確かに、マンガのエンゲージメントの高さは他案件でも日々感じています。そんな中、SNSマーケティング支援会社との連携を考えた理由はどこにありましたか?
佐渡島: 端的に言えば、「餅は餅屋」と考えたからですね。
弊社は「マンガ家が幸せになること」を第一に考えています。「企業の幸せ」を一番に置いている支援会社さんと組めば、独力で取り組むよりずっと良い成果が出ると考えました。
今回の座組でいうと僕らは作家を向いて、ホットリンクさんはクライアントを見る。それによってマンガ家―コルク―ホットリンクさん―クライアント―読者 という「五方よし」が生まれると思います。
いいたか: お互い限りなく近い距離にいて、目配せしながら最善を尽くす。すごく良い座組だと思います。「このコンテンツなら、この人に依頼しよう」といった、提案の解像度も上がっていきそうですね。
佐渡島: そうですね。そしてどの会社と協力しようかと考えたとき、ホットリンクさんが浮上したんです。
内山さん(ホットリンク代表取締役グループCEO)もいいたかさんもTwitterでフォローしていましたし、弊社の高林勇秀からも「御社に友人がいる」と訊いていました。そこでお声がけさせていただきました。
石渡: ありがとうございます、そうした経緯があったんですね。
いいたか: コルク社とホットリンクの提携は、「マンガ家のなめらかなキャリア形成」にもつながっているわけですね。SNSを活用することで、これまでのアプローチとは違った形でプロになれると。
佐渡島: そうです。これまでのように「一気に売れる」「急にスターになる」という形とは違ったルートですね。
急に上がるものは、急に下がります。一度ヒット作を出せば、「次も」という思考に陥りがち。人生にはゆるやかな変化のほうが望ましいですし、「創作の楽しみは、創作そのものにある」ことを思い出してほしいと考えています。
エージェントと作家さんとの関わりは、数十年単位に及ぶこともあります。夫婦関係と同じで、良いときも悪いときもあります。世間の反応も、浮き沈みがあるわけです。
そんなとき「世間の反応は悪かったけど、一緒に創作できて楽しかったね」と笑い合えるかどうか。僕らの仕事の醍醐味は、そこにあると考えています。
笑い合うためには、いつお客様がいなくなるかわからない状態では難しい。マーケティングとは企業がやり続けなければいけない行為ですし、そこに関わっていけば安定的な収入を実現できるのではと考えました。
いいたか: 私はマンガ家ではないですが、「創作そのものの楽しみを忘れてはいけない」というお話にはとても共感できます。
佐渡島: これまでのマンガ家は、限られたパイを争う必要がありました。今はSNSという、自由に表現できるプラットフォームがあります。そこを活用することで、一定の収入を担保できる時代が来たと思っています。
そうなると、SNSでどう生きるかが大切になってきます。例えば僕は、マンガ家がSNS上でフォロワーを増やすのには「編成表」が大事だと考えています。
石渡: 安定的に、質の高いコンテンツを供給できる体制ということですね。
佐渡島: コンテンツが安定的にアップされ、その先の予定もフォロワーが把握できる。そのうえで、予想を上回る面白さがあったときにヒットが生まれる。そういう仕組みになっていると思います。
企業がオウンドメディアを持つように、個人もSNSをオウンドメディアとして運用する時代といえるでしょう。そしてSNS上で存在感を発揮すれば、マーケティングとしてマンガ制作を依頼する企業が現れるはず。
そうやって「企業マンガ」「自分の作品」という2本柱で生活できるマンガ家を増やせたら、と思います。
いいたか: 御社が運営している「コルクラボマンガ専科」は、傾向としてどんな方が受講されているんですか?
佐渡島: 出版社での連載を目指すマンガ家さんもいれば、SNSにもマンガを出したことのない方もいます。
「コルクラボマンガ専科」は6ヶ月を一期として講義を行なっており、フォロワー数が5,000〜10,000まで伸びるケースが多いですね。中には50,000フォロワーまで伸びたケースもあります。マンガのバズりやすさ、読者への伝わりやすさが伝わる数字だと思います。
石渡: すごい変化ですね。
佐渡島: ただ、成長したマンガ家でも、雑誌連載などの本格的な仕事につながるまでは3〜5年かかってしまいます。いざ新連載となっても1〜2年は準備をして、プロモーションを仕掛け、お金になるのはさらに1年後……と我慢の期間が非常に長かったんですね。
時間をかけても全員が成功するわけではなく、複雑な気持ちを抱えたままチームが解散することもありました。それが、最近ではフォロワー数が増えたマンガ家に企業マンガの依頼が来る状況が増えています。
石渡: 従来ではプロを諦めざるを得なかった方でも、マンガ家として食べていく道ができたのですね。
佐渡島: コルクラボマンガ専科は、2023年1月時点で6期生が卒業しました。累計の卒業生は300名を超え、企業とのマッチングもしやすくなりました。現在は社員がマンガ家にヒアリングし、それぞれの個性をまとめたシートを作成しています。
経営サイドとしては、こうした短期間で完結するプロジェクトをいかに増やせるか試行錯誤しています。1~2ヶ月単位の案件がたくさんあり、いくつものプロジェクトでチームが結成・解散する。これを何度も繰り返すことで、コルクというチームが強くなると考えています。
いいたか: ホットリンク側は、今回の提携をどう捉えていますか?
石渡: 弊社ではここ3〜4年、SNSマーケティングにおけるマンガ活用に取り組んできました。その中で、無形商材におけるマンガのお客様への貢献度が高いという知見も蓄積されています。
ただ、マンガ起点でユーザーからのクチコミをどう誘発するかは課題ですね。特に、Twitterユーザーが求める面白いコンテンツづくりは簡単ではありません。コンテンツに接触したユーザーを、UGC生成(クチコミ、ユーザー投稿)などのネクストアクションにどうつなげるか。この知見を深めるためにも、コルクさんとの提携は大きいと考えています。
佐渡島: ありがとうございます。UGC創出をうながすやり方としては、ユーザーからの「お便りコーナー」などは面白いかもしれません。
例えばしろやぎ秋吾さんは、SNSユーザーからの怖い話の体験談を集め、マンガにして発信しています。
「ちょっと怖い話」その66-② pic.twitter.com/LCWonjZlSi — しろやぎ秋吾 (@siroyagishugo) January 7, 2023
「ちょっと怖い話」その66-② pic.twitter.com/LCWonjZlSi
また佐伯ポインティさんはユーザーからの猥談を集め、一言おもしろコメントを追加して話題につなげています。余談ですが、彼は弊社の元社員でもあります。
お二人に共通するのは、「レンガ方式」です。ユーザーからのリクエストというレンガの上に、TikTokやYouTubeでマンガというレンガを乗せる。それを見たユーザーは、さらにリクエストというレンガを積む……というものです。
企業が自社で発信する内容は、綺麗事になりがち。綺麗事で、人の心は動きません。重要なのは、どう伝えるか。キャラクターがプロダクトの長所を紹介したり、短所を笑いに変えたりするマンガは、心を動かす起点になり得ます。
石渡: 確かに、マンガ広告をディレクションする際にはつい「どこかで見たことのある」コンテンツになりがちですね。既視感自体は悪いものではなくとも、どうスパイスを効かせるかは苦労しているところです。
佐渡島: コルクラボマンガ専科では、「マンガは情報を伝えるのではなく、感情を伝えるもの」と教えています。
商品紹介マンガにありがちなのは、単語の羅列による機能説明です。僕らはそうではなく、主人公の感情や葛藤を描き、プロダクトやサービスがその解消に関係したというストーリーを描きます。
例えば「10センチの棚」という商品のPRをするとしましょう。「10センチ幅の棚は珍しい」と言いたくなるところですが、僕らは例えば「主人公がものすごく狭いすき間に悩まされている」という葛藤を描きます。
すき間はゴミが入り、掃除が大変。それを解消できる存在として、10センチ幅の棚を紹介するわけです。しかも、マンガであればすき間への葛藤は何パターンも描けます。
いいたか: 確かに、企業側はプロダクトの「機能」を訴えがちですよね。マンガが介入することで感情にも訴求でき、最終的に「これで良かった」というオチもつけられるわけですね。
佐渡島: 人は、モヤモヤを解消できる商品に出会ったとき、購入を決めるわけですよね。企業であっても意思決定者がいる以上、感情は大きな要素になります。
にもかかわらず、個人の感情を排した抽象度の高い説明のようなPRをやってしまいがち。企業が本来言いたいことがハマる状況や設定、感情の動きなどを緻密に設計して提案できるのがマンガ家のすごさなんです。
佐渡島: マンガ家は、感情の変化や葛藤をずっと描き続けている職業です。ときには、「月面にいて、もう助からないとき、人の感情はどう変化するのか」といったことを考え抜き、描く必要があります。
いいたか: すごく深刻な局面で、なかなか想像できないですね。
佐渡島: マンガ家は、葛藤のスケールが極めて大きい局面でも、リアリティを失わずに描くことが求められます。
大切なのは、「日常サイズの感情の変化」をたくさん描くこと。企業が抱える課題や葛藤は、まさしくそれに該当します。企業マンガをどんどん描くことで、マンガ家のウデは確実に向上すると思っています。
マンガ家の中には「企業マンガを描くと、創作のチカラが落ちる」という懸念を持つ人もいます。それは杞憂だと伝えたいですね。
石渡: 一歩踏み込んだお話を聞けた気がします。コンテンツをつくるとき、「実際に商品を体験してほしい」というお客様は多いんです。体験してもらうことで商品のよさが伝わり、感情を乗せやすくなる。そこは同じ意見だったのですが、さらに深いお話でした。
佐渡島: ちなみに僕は、「自分が詳しくないジャンルを深掘りするマンガ家は、成功しやすい」という考えを持っています。
いいたか: それはどういうことでしょうか?
佐渡島: 例えば『宇宙兄弟』作者の小山宙哉さんは、宇宙について詳しくありませんでした。『GIANT KILLING』作者のツジトモさんも、サッカーは未経験だったようです。
しかしジャンルを知らない人は、素人を置いてけぼりにしないんですね。徐々に宇宙やサッカーのことを勉強していき、詳しくなり、玄人をもうならせるマンガへ成長していくんです。
石渡: 大多数が素人である読者と、一緒に成長していくんですね。
佐渡島: ゆえに、マンガ家にとって取材は非常に重要です。新人マンガ家さんはよく「マンガ家についてのマンガ」を描きますが、それはマンガ以外のことに詳しくないから。プロデビューもしていないのに、いきなり葬儀屋さんに電話して取材を申し込める人はごく少数でしょう。
取材は、日常生活における感情の変化を知り、やりたいジャンルを描くために必須です。企業マンガのために20件、30件と取材をこなせば、ものすごく取材が得意なマンガ家になれるでしょう。
いいたか: 今日お会いするまで、佐渡島さんは「ヒットメーカーと共にキャリアを作った人」という先入観を持っていました。実際は、ヒットメーカーに限らずマンガ家の人生にぴったりと寄り添い、彼らが生きていく仕組みづくりをしていると理解できました。
佐渡島: ヒットメーカーは、たくさんの分母によって作られます。一人のヒットメーカーの影には、さまざまな事情でマンガ家を諦めた人たちがたくさんいます。
彼らの何が悪かったのか? 「才能がなかった」「根性がなかった」と結論づけることは可能でしょう。しかし僕は「環境が整っていれば違ったかもしれない」と考えています。
僕は、インターネットがなめらかな社会を作り、ファンと直接つながった作家が長く描き続けられる時代が来ると思っていました。晩年のピカソの作品が今でも美術館に所蔵されていますし、80代になった小説家の作品も手にとることができます。
しかし70代・80代になったマンガ家の作品で、気軽に読めるものは限られます。僕は、好きになった作家の作品は過去作から最新作まで、細かいエッセイなどを含めて網羅します。「このときに考え方が変わったんだな」という感情の変化を含め、味わい尽くしたいタイプなんですね。
マンガでは、まだそうした体制ができていません。だからこそエージェントという立場で、作家が一生ファンとつながれる仕組みを作りたいと思います。
石渡: ありがとうございます、そうした思いがコルクさんの活動につながっていることをよく理解できました。
最後に、弊社との共同プロジェクトを通じて取り組みたいことについて教えてください。
佐渡島: 企業の皆さんに、マンガによるSNSマーケティングがいかにユーザーに届きやすく、費用対効果が高く、有益なストックコンテンツになるかを伝えていきたいですね。
マンガがアカウントに残り続ければ、ストックとして自然と流入を獲得できます。まさに、資産となる広告です。この価値を理解いただき、継続的にコンテンツ発信いただける企業様を、ホットリンクさんと一緒に増やしていきたいですね。
石渡: 非常に勉強になりました。お話を伺うまで、マンガ家さんにどうしても気を使ってしまうところがあって。
報酬はお渡しできるものの、作家としてのキャリア形成にどのように貢献できているかわからない部分があったんです。今日のお話で、迷いを払拭できました。
「マンガは感情を伝えるもの」という点をSNSマーケティングのコンテンツとしてどう成立させるか、われわれの仕事になると思います。ここをクリアし、コルクさんやマンガ家さんと一緒に良い仕事をしていきたいですね。
佐渡島: 両社が「マンガ家にもクライアントにも、すごくいい提案ができている」と自信を持って言える状態を作れたら最高ですね。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました!
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