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この記事の内容
各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルと、SNSやマーケティング、ビジネスのあり方について考える対談シリーズ「ザ・プロフェッショナル」。
今回は番外編として、ホットリンクのマーケティング本部長・ムロヤを編集者・澤山モッツァレラがインタビューする形でお届けします。
2022年10月27日、米国の連続起業家イーロン・マスク氏がTwitterを買収。以降、マスク氏は全世界7,500人の約半数に当たる同社の人材をレイオフしたり、認証バッジの有料化など機能改修をトライアンドエラーしたり、Twitter上で全世界のユーザーから広く意見を求めたりするなど、さまざまな動きを起こしています。
こうした大胆な変化はポジティブな面もある一方、SNSマーケティングを行なう企業担当者様の中には不安を持つ方もいるのではないでしょうか。今回の記事では、長年SNSマーケティングに携わるホットリンクとして情報の整理を試みます。皆様の考えを助ける材料のひとつになれば幸いです。(取材・文・編集 澤山モッツァレラ)
※本記事の内容は、2022年11月18日時点の情報に基づきます
―イーロン・マスク氏によるTwitter買収が成立した後、さまざまな変化が起きています。この原稿を執筆する2022年11月18日現在でも状況が変わっていくなか、まずは現状の整理からお願いできますでしょうか。
ムロヤ: 改めて、Twitterの立ち位置を確認しましょう。こちらのスライドは、マスク氏がTwitterを買収するかしないかという頃に行なったセミナーで使用したものです。
Twitterは、グローバルで見ると小さいSNSです。Facebookのユーザー数が30億、YouTubeは25億、Instagramが14億、TikTokが10億と言われる中、Twitterは約4億です。
―4億のユーザーがいるとはいえ、確かに少なく感じます。
ムロヤ: マスク氏は、「Twitterの売上を現在の50億ドルから5倍に成長させたい」と言っています。ですが、Metaは半期でその10倍を売り上げている。他のSNSとは全然規模が違うわけですね、日本では4,500万人のユーザーがいるとはいえ。
とはいえ、DAU(Daily Active Users、1日の利用者数)はコツコツ増えています(参照)。日本においても、引き続き重要なプラットフォームであることに変わりはありません。それを踏まえ、マスク氏がTwitterをどう変えるのか、変わらないものはどこかを選別したいと思います。
まず「変わらない」と思うのが、Twitterの存在意義です。
―具体的には、どういう部分でしょうか。
ムロヤ: 「会話中心であること」ですね。Twitterは、Conversation(会話)をすごく大事にしています。ここは、他のSNSと違う独特な部分だと思います。
Twitterの大きな特徴は、「NOW」であること。地震があった、ウクライナで戦争が起きた、選挙がどうだ、今日のスポーツはこうだ、岐阜にキムタクが現れた……などなど、リアルタイム性の高いニュースを通じて会話が起きています。
ほかにも年末の「#NHK紅白歌合戦」で実況し合ったり、「#おかあさんといっしょ」でお母さん同士の交流があったり。基本的に、会話が中心にあるSNSです。
いうなれば、「世界市民の言論空間」として機能している。このポジションは独特ですし、2007年のサービス開始からずっと残っています。今後とも変わらないポイントとして、あり続けるだろうと思います。
―逆に、変わる部分はどういうものでしょうか。
ムロヤ: これまでの機能的な制約は、取っ払っていくでしょう。Twitterには140文字というテキスト制限がありますが、実際のユーザー行動はそこから逸脱する行為が多く見られます。
例えば芸能人が結婚を表明した際にはメモ帳やプレスリリースがスクリーンショットされ、ツイートに貼り付けて投稿されることがよくあります。
普通のユーザーでも、長文を書いたメモ帳のスクリーンショットを投稿するケースは頻繁に見られます。そうなると、Twitterでも長文投稿できる機能をつけていいはず。
あるいは、動画の仕様変更。現在の仕様ではTwitter用のエンコードをしないとアップできなかったり、2分20秒という長さ制限もあるなど不便な点が存在します。
―最近インタビューしたあるインフルエンサーさんも、そのことを嘆いていました。
ムロヤ: この制限があるためYouTubeやInstagram動画に同時投稿することはできても、Twitterへ同時アップはできないんですね。これは、Twitter内で動画コンテンツが増えない原因になっていると思います。こうした機能制限を取り払うことで、マーケットとしての活用余地が増えていく可能性はあると思います。
あとは、クリエイターへの還元ですね。SNSは良いコンテンツクリエイターがいないと過疎化してしまうので、例えばYouTubeでは売上の55%を還元しています。Twitterもインセンティブを設計し、良いコンテンツを投稿することを促したいのではと思います。
―確かに、クリエイターへの還元は以前から議論されていたものの、これまで実現していません。
ムロヤ: TikTokも、クリエイターへの収益還元を始める(参照)と言っています。このままでは、Twitterへ投稿するインセンティブが薄れてしまわないか? と私は危惧しています。
―その他には、どんなことが変わっていくと思いますか?
ムロヤ: トピック機能の緩和でしょうか。一時期はフォローしているアカウントよりもトピックのほうがタイムラインに表示されていましたが、最近やや緩和された気がします。
トピック機能はいろいろな制約がある中、今のプロダクト構造の中でどうにか収益改善しようとした結果生まれた機能だと思います。しかし、例えば「Webマーケティング」のトピックは「頑張ると月30万稼げます~~」勢にハックされたり、あまりうまくいっていないように思います。
スパゲティーコード(参照)のままというか、大胆な変革に至らないまま、いったん今の延長線上で広告のマッチング精度を高めようとした結果だったのではないでしょうか。
―マスク氏はエンジニアの数も一定減らし、テスラのエンジニアたちが駆り出されたと報道されています。これは「抜本的に作り直す」という意思表示なのでしょうか。
ムロヤ: その可能性もありますよね。例えばマスク氏は「Twitterの検索はひどい、優先的に立て直す」(参照)と言っていました。実際、アカウント名を正しく入力しないと検索に引っ掛からなかったり、検索結果にはbotが多く精度が高い状態とはいえないように思います。
他のSNSでは当たり前の機能が、Twitterには必ずしも備わっていない。それでも愛されてきたSNSではあるのですが。
―私もヘビーユーザーですが、「まあいいか」みたいになってる部分は確かにあります。
ムロヤ: さらに、Twitterは他サイトへの送客機能が優れており、それゆえ稼げていない。例えばYouTuberは「動画をアップしました」という告知をTwitter上に出すことが多いですが、Twitter側から見ればURLを通じてユーザーが外部に流出しているわけですよね。
最近はアルゴリズムでURLつき投稿の表示回数を絞っていますが、それらの投稿もタイムラインを「最新の投稿順」にすれば流れてきます。現状、ユーザーはURLを踏むとTwitter内に留まらず、飛んだ先で動画を視聴します。ユーザーをTwitter内に留めて動画を観られるようにすれば、CM枠を差し込めますし、収益を生み出せるわけです。
これまで、Twitterはある種「無料の送客ツール」として使われてきました。「直接動画を流せるようにしたい」という思惑はあるのでは、と思います。
―「Twitterは今後内向きになる」という見方がありますが、要はそういうことですよね。これまで外部に流出したユーザーを、サービス内に留めるようにする。
ムロヤ: そうですね。広告事業として考えると、これまでのTwitterはユーザーが外に出ていきすぎました。
Twitterで集客し、noteに送ってマネタイズする方は多いと思います。しかしTwitter側から見ると、フォロワーが多いアカウントがいくら増えても儲からない。儲からないと、持続的な経営が難しくなるわけです。
Twitterがちゃんと稼げるようになれば、長い目で見れば良いことは多いと思います。
また、長文を好まない層の取りこぼしも解消できるかもしれません。Twitterはテキスト主体ですが、現実問題として140文字のテキストすべてを理解できるユーザーばかりではありません。認知の特性として、動画や画像のほうが頭に入りやすいという方も多いわけです。
―そこでこぼれた層を、YouTubeやTikTokが取り込んでいたと。
ムロヤ: そうですね。今後は動画の対応を強化し、ノンバーバル・コミュニケーションがより強い場にする可能性もあります。テキストを読むのが得意でない層でも楽しめる場になり、リアルタイムの情報が動画としてバンバン出てくる。こうなれば、YouTubeやTikTokとは違った価値を出す場所になる可能性があると思います。
―企業のマーケティング担当者の立場でいうと、どのような準備が必要になるでしょうか。
ムロヤ: 長文投稿や動画機能の強化など、できることが増えていく可能性があります。「効果がないから運用を止めた」という方も、もう一度Twitterの可能性を見直していく価値はあると思います。
他のSNSよりインタラクティブな場所で、ユーザーと会話が成り立ちやすい。しかも、拡散性はピカイチ。再評価する余地は、十分にあると思います。
―とはいえ、上記の機能が仮に実装されるとしても日本語圏は後回しになりそうですね。Twitter Blue(参照)も現段階では実装されていませんし。
ムロヤ: 恐らくそうでしょうね、メインが活字・テキストであることに変わりはないし、ユーザーが多いのは英語圏です。広告市場としてみれば日本も小さくはないのですが、まずは英語圏の改修を優先していくのでしょう。
イーロン・マスク氏が変えていこうとしている部分も、基本的には「これまで収益化がうまくいっていなかった」「本来やるべき儲けを出せていなかった」というところなんですよね。儲けの仕組みを生み出し、長文や動画、Twitter Blueやサーチ機能など機能改善を進めていくものと思われます。
ほかにもbot対策、なりすましやヘイトスピーチ等のブランドセーフティ問題の対応、コンテンツ品質管理の体制、インフラ強化、相次ぐTwitter社員の離職による組織面の一時的な混乱などはあると思いますが、これらはTwitterに限らず他のプラットフォームも抱える問題です。よって、連発される機能改善の動きからも、マーケティングの観点からいうとTwitterでできることは増える気がします。
―企業のマーケティング担当としては、ポジティブに考えられる部分が多そうだというのは勇気づけられると思います。マスク氏の動きが早く大胆なので、大きな変化が一段落したあたりでまた情報を整理いただければ幸いです。
今回の「ザ・プロフェッショナル」もお楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルをお招きして対談を行ないます。過去の記事はこちらからご覧ください。
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