ダブルジョパディの法則とは
ダブルジョパディ(Double Jeopardy)の法則とは、市場シェアの小さなブランドは「購買者数(市場浸透率)が少ない」だけでなく、「購買頻度(ロイヤルティ)も低い」という、二重の不利を被るという現象を指します。
この法則は、1969年にマーケティング研究者アンドリュー・エーレンバーグが発見し、その後バイロン・シャープが著書『How Brands Grow(ブランディングの科学)』で広く知らしめました。エーレンバーグは消費財カテゴリーの購買データを大規模に分析し、「ブランドの規模に関わらず、購買行動には一定の規則性がある」という経験則を導き出しました。
「ダブルジョパディ(二重の危険)」という名称が示すように、小さいブランドは2つの面で苦境に立たされています。
1つ目は、購買者数(市場浸透率)の低さです。大きなブランドと比べて、そもそもそのブランドを知り、購入したことがある人の数が少ない点です。
2つ目は、購買頻度(ロイヤルティ)の低さです。そのブランドを知っている少ない顧客でさえ、購入頻度が低い傾向があります。
これは市場全体のデータで繰り返し観察されており、例外はほとんどありません。小さいブランドが「少ない顧客に深く愛される」という理想は、データが示す現実とは相容れないのです。
なぜ小さいブランドは二重に不利なのか
市場浸透率とロイヤルティの関係性
ダブルジョパディが示す重要な事実の一つが、「ロイヤルティは市場浸透率の結果である」という因果関係です。
従来の常識では「熱狂的なファンを増やせば、ファンが口コミで新顧客を連れてきてくれる」という考え方が支持されてきました。しかしエーレンバーグらの研究が明らかにしたのは、逆の順序です。ブランドの市場浸透率が高まることによって、結果としてロイヤルティも高まるのです。
言い換えると、まずブランドを知り、購入する人の絶対数を増やすことが先決です。ロイヤルティを直接高めようとするアプローチは、因果関係を逆にしており、効果が限定的になります。

カテゴリー内のブランドを市場浸透率とロイヤルティでプロットしたときに現れる直線のことをDJライン(ダブルジョパディライン)と呼びます。ブランドが成長するためには、このラインを右上に向かって移動する、つまり市場浸透率を高めることが求められます。
ヘビーユーザーの正体は「属性」ではなく「状態」
ダブルジョパディと関連して重要なのが、「ヘビーユーザー」の捉え方です。
多くの企業は、ヘビーユーザーを「特定の属性を持つ層」として分析しようとします。しかし実際のデータが示すのは、ヘビーユーザーとはある時点での「購買状態」であり、特定の消費者が常にヘビーユーザーとして留まるわけではありません。
あるカテゴリーをよく購入している時期(ヘビーユーザー状態)が終われば、その人はライトユーザーや非購買者に戻ります。つまり、ヘビーユーザーへの集中投資は、対象が流動的であるため、長期的には効率的ではないのです。
ダブルジョパディが覆すマーケティングの常識
ロイヤルティプログラムへの過信
「顧客を囲い込み、リピートを促す 」、これはマーケティングの王道戦略として長年信じられてきました。ポイントプログラム、会員ランク制度、パーソナライズされたリターゲティング広告など、ロイヤルティを高める施策は数多く存在します。
しかしダブルジョパディの観点では、こうした施策だけに注力することは危険です。ロイヤルティを高めようとする施策は、すでに購入している少数の顧客を維持するだけで、ブランドの規模拡大には寄与しません。
既存顧客のリピートを促すことの重要性を否定するわけではありません。ただ、それだけに注力し、新規顧客の獲得(市場浸透率の向上)をおろそかにすれば、ブランドは成長しないというのがダブルジョパディの示す真実です。
市場浸透率を高める観点でのコミュニティマーケティングについては下記記事で詳細に解説しているのであわせてご覧ください。
関連:コミュニティマーケティングとは?相性のいい企業の見極め方や成功ポイントを解説
ニッチ戦略の危険性
「大手と正面衝突を避けてニッチ市場を深掘りすれば、確実に勝てる」という考え方があります。しかし、ダブルジョパディの視点から見ると、ニッチに留まることは二重苦に甘んじることを意味します。
特定の小さなセグメントだけにターゲットを絞ると、市場浸透率を高めるための規模が制限され、ロイヤルティも自然と低水準に留まります。ニッチ戦略は、その市場自体が成長するか、やがてメインストリームに展開するための足がかりとして機能するときのみに意味を持ちます。
ターゲティングのデメリット
「刺さる人だけに刺さればいい」「より反応率が高い人だけにアプローチする」という発想で、マーケティングメッセージをターゲットに合わせて最適し、アプローチする顧客層を限定する手法です。しかしダブルジョパディが示す通り、ブランドを成長させるためにはより広い市場に対してアプローチし、幅広い顧客層にリーチすることが不可欠です。
ターゲット絞り込みすぎることで、自ら市場のパイを狭め、機会損失をしていると言えます。
市場浸透率を高めるための2つの観点
では、ダブルジョパディの法則に基づいて市場浸透率を高めるには、具体的にどうすればいいのでしょうか。大きく「メンタルアベイラビリティ」と「フィジカルアベイラビリティ」の2つのポイントがあります。
メンタルアベイラビリティの強化
メンタルアベイラビリティとは、消費者が購買につながる場面でそのブランドを思い浮かべる能力のことです。どれだけ優れた商品であっても、購買の瞬間に思い出されなければ選ばれません。
市場浸透率を高めるためには、消費者が「このカテゴリーといえば○○」と思い出してもらえる力「メンタルアベイラビリティ」が重要になります。消費者が購買に至る文脈を示す「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」を設計し、様々なCEPでブランドが想起されるよう働きかけることが重要です。
関連:メンタルアベイラビリティとは?意味や想起される資産の重要性を解説
関連:CEP(カテゴリーエントリーポイント)とは?顧客に想起される文脈の重要性を解説
フィジカルアベイラビリティの強化
フィジカルアベイラビリティとは、消費者がブランドを見つけて購入しやすい状態を指します。オフラインでは店頭での陳列面積・棚の位置、オンラインでは検索結果の上位表示や各ECプラットフォームへの出品が該当します。
どれだけ認知されていても、購買したいときに手が届かなければ機会損失になります。配荷率(店舗・チャネルへの流通浸透率)を高めることは、市場浸透率向上の重要な前提です。
関連:フィジカルアベイラビリティとは?意味や店舗/EC別の具体施策を解説
SNS時代に市場浸透率を高める鍵はUGC
かつて、認知度や市場浸透率を高めるためにはテレビCMをはじめとした大規模なマス広告が必要でした。しかしSNSが普及した現在、ユーザーが自発的に投稿するUGC(User Generated Content:クチコミ投稿)がその役割を担うようになっています。
ホットリンクのデータ分析では、UGC数(口コミ数)と指名検索数、購買数は強い相関性があることが明らかになっています。UGCを増やすことで、新規顧客の認知獲得から検索行動、購買までインパクトを与えることができます。
「ULSSAS(ウルサス)」はホットリンクが提唱するSNS時代のマーケティングフレームワークです。UGC → Like(興味・関心)→ SNS検索 → Google検索 → Action(購買)→ Spread(拡散)というサイクルを通じて、UGCが次のUGCを生み出し続ける状態を目指します。

ULSSASをダブルジョパディに照らしあわせて考えると、UGCが増えることでブランド認知が形成され、新規のライトユーザーの獲得につながり、顧客が体験をUGCとしてシェアすることでさらに未顧客へブランド認知が広がる、と捉えることができます。この好循環によって、UGCによる自律的な市場浸透率の向上をもたらし、結果として購買頻度の上昇をもたらすのです。
また、UGCは消費者がそれぞれの切り口でブランドについて言及するため、企業の広告ではカバーしきれない多様なCEPにおけるブランド想起を形成してくれる、という重要なメリットも存在します。
ダブルジョパディを理解してブランドを成長させよう
ダブルジョパディの法則が示す核心は、「ブランド成長の鍵は市場浸透率にある」という一点に尽きます。
ロイヤルティを高める施策を否定するわけではありませんが、それだけに集中するのは本末転倒です。まずより多くの人にブランドを知ってもらい、ライトユーザーを増やすことが先決です。
市場浸透率を高めるためには、メンタルアベイラビリティの向上(認知・想起)とフィジカルアベイラビリティの整備(購買しやすい環境)の観点が重要になります。
さらに、SNS時代においてはメンタルアベイラビリティを構築する手段としてUGCの拡大が有効であることに言及しました。ダブルジョパディの法則を理解し、正しいアプローチでブランドを成長させましょう。
ホットリンクは十数年にわたるSNSデータ分析の知見をもとに、ダブルジョパディの法則に基づいたブランド成長支援を行っています。市場浸透率を高めるUGC施策の設計など、貴社の状況に合わせた戦略をご提案いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。
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