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AI導入を「期待外れ」で終わらせない。世界的AI研究者に聞く、失敗回避2つのポイント

2025年01月29日
AI・WEB3

最終更新日:2025年1月29日

2024年4月より、ホットリンクでは社内業務における生成AIツールの活用を本格化させています。

既存業務のAI化を進めるにあたり、当社のAI活用を技術面で支える開発本部・本部長の榊 剛史は「技術そのものに過度な期待を抱き、業務改善に結びつけられないケースも多くある」と話します。榊は、ホットリンクが2005年頃から行なってきた機械学習を活用したスパム判定・属性判定や、深層学習を使った言語解析などにも携わってきた人物です。

そこで今回は、「テクノロジーをマーケティングに活かすにはどうしたらよいか?」をテーマに、榊と、ホットリンクのAI活用を推進するアドテクノロジー部・部長の美川貴彦で対談を実施。業務フローの可視化の重要性や、開発部門と事業部門の連携など、ホットリンクの実例も交えて解説します。

(執筆・編集:倉内夏海、髙橋真穂)

この記事に登場するメンバー

株式会社ホットリンク 開発本部 本部長
榊 剛史
中国・清華大学による世界的なAI研究者2000人に選出。2006年電力会社にて情報通信業務に従事した後、東京大学博士課程に入学。2013年松尾研究室にて博士号取得。2015年、株式会社ホットリンクに入社。言語理解とコミュニケーション研究会委員長。計算社会科学研究会 幹事。ホットリンクでは、ソーシャルメディア分析機能・X(旧Twitter)マーケティング支援技術の研究開発に従事している。

株式会社ホットリンク アドテクノロジー本部 アドテクノロジー部 部長
美川 貴彦
2020年5月、ホットリンク入社。アドテクノロジー部の部長として、SNS広告運用業務に従事。2023年からは社内のAI活用プロジェクトを牽引し、部署を横断した業務の効率化に取り組む。

コストと効果から見るAI活用の落とし穴

美川:ホットリンクでも2024年4月からAI推進をしていますが、AIの活用方法は多岐にわたりますね。榊さんから見て、実務でよく見られるAI活用にはどのようなものがありますか?

榊:大きく分けると3つのパターンがあります。

 1つ目は業務の自動化によるコストダウンです。例えば検品作業を自動化することで、人的ミスを減らしたり、作業時間を短縮したりできます。これにより、メンバーが付加価値の高い業務に集中しやすくなります。

 2つ目はビジネスモデルの強化です。GoogleやAmazonのように、AIがビジネスの中核として機能するパターンですね。オンラインショップでのレコメンド機能なども、こちらに該当します。AIの性能が向上すれば、そのまま売上や顧客体験の向上につながります。

 3つ目が仮説の定量的な検証です。経験や直感ではなく、データに基づいて仮説を立て、検証するアプローチですね。ここにAIを活用することで意思決定の精度が高まり、無駄なコストや時間も削減できます。

美川:ホットリンクでも、AI活用を進めていく中で業務への適用範囲や費用対効果などを吟味してきました。現在も試行錯誤を続けていますが、企業がAI活用を成功させるポイントは、あるのでしょうか。

榊:2つあります。まずは、導入する前に効果検証をすることが重要です。最近は企業でのAI活用が活発化する中で、「とにかくAIで自動化しよう!」という傾向が強まり、効果検証が不十分なままスタートしてしまうケースが増えています。

 特に適用分野の選択は、慎重に行う必要があります。例えば、検品作業の自動化を検討する際は、その作業の頻度や重要性、現状のコストと導入後の効果を比較検討することが大切です。

 また、AI技術を活用する際は、「その技術が本当に必要か、既存の手法で十分ではないか」という観点での検討も必要です。単にAIという言葉に惹かれて導入を決めてしまうと、結果的に非効率な投資になってしまう可能性があります。

美川:確かにそうですね。具体的なコストと効果の比較例を教えていただけますか?

榊:検品作業の自動化を検討するケースを例に挙げます。開発費用の見積もりが2,000万円となった一方、手作業だと1日2万円(年間約500万円)で済むとします。単純計算で投資回収に4年かかり、さらにシステムの保守運用コストもかかります。このように、コストを十分に検討せずに自動化だけを念頭に進めてしまうと、「自動化が効果的」とは言いきれない場合があります。

 AI技術を利用してデータを分析し、仮説を立てた場合、誰もが知っているような当たり前の結論しか導き出せないケースも少なくありません。身近な例を挙げると、コンビニの商品分析にAIを導入してみたものの、結果的に「気温が下がると温かい食べ物の需要が増える」といった経験則レベルの分析に留まってしまい、高額な投資に見合う効果が得られなかったケースもあります。

 技術ありきではなく、まず解決すべき課題を明確にし、それに対してAIが本当に最適な手段かを見極めることが重要です。

美川:実際、生成AIツールのプロンプトだけで業務改善できる範囲は3割程度(※)と言われていますよね。残りの業務は、これまで使ってきたExcelなどのツールや、人の経験・判断との組み合わせが必須なのだろうと考えています。

※株式会社Lightblueが2023年9月から2024年5月に実施した「生成AIに代替・効率化可能な業務割合に関する実態調査」によれば、生成AIのプロンプトだけで対応できる業務は全体の約34%にとどまることが報告されています(出典:Lightblue社調査)

 料理で例えると、最新の調理器具を揃えても、食材の選び方や火加減を知らないと、おいしい料理は作れません。AIは確かに強力なツールですが、それだけに頼るのではなく、他のツールや人の判断とうまく組み合わせていくことが大切ですね。

榊:はい。どんなツールを使うかより、まずは業務の中身をよく理解することが重要ですね。

AI導入の前に業務フローを可視化する

美川:ホットリンクでも、さまざまな業務でAI導入を進めています。私と榊さんが携わったプロジェクトの一つに、広告運用業務のAI化がありますね。業務フローの可視化から始めた覚えがあります。

榊:そうです。受注から入稿、レポート作成、最適化、請求処理まで、全工程を細かく書き出し、その中から効果が期待できる箇所を具体的に絞り込んでいきました。

広告運用業務の全体像を可視化したもの

榊:業務の流れを書き起こそうとすると、普段当たり前のように行っている業務だけに、抜けが発生することもありました。より正確な業務フローを把握するため、アドテクノロジー部に書き出してもらうだけでなく、第三者であるR&D部の視点を取り入れ、インタビュー形式で業務内容を引き出していきました。この過程で、各担当メンバーの経験や知見として蓄積されていた部分も含めて整理できましたね。

 業務フローの書き出しが完了した後、広告運用業務では具体的な実験と検証を重ねていきました。認知系や獲得系などさまざまな広告のパターンで実験を行い、再現性の確認や設定の見直しを繰り返し、本格的な導入へとつなげていきました。

美川:AI以外でも業務効率化の整備をいただいたことで、アドテクノロジー部の工数削減につながりました。ご協力いただき、ありがとうございました! 榊さんから見て、ホットリンクのなかで特にAI導入の効果があった事例を教えてください。

榊:広告ターゲティングの完全自動化は、成功事例の1つです。以前は人が手作業で調整していた部分を自動化することで、業務効率が大幅に向上しました。

美川:実装されたことで、多くのメンバーが他の業務に注力できるようになりました。

榊:一方で、予算の最適化については、まだ課題が残っています。AIがミスをすると大きな損失につながるため、慎重な運用が必要です。例えば、広告運用における予算の最適化では、AIの判断ミスが広告費の無駄遣いや機会損失を招く可能性があります。

榊:そのため、現時点ではAIに完全に任せるのではなく、「AIに任せる部分」と「人が介入すべき部分」を明確に区分けし、一定の品質を保つための検証プロセスを各段階に設けています。

 例えば、ターゲティングの自動最適化では、さまざまな条件下でのテストを繰り返し、安定した結果が得られることを確認しています。また、実務で得られるデータを定期的に見直し、システムの改善を続けることで、結果のバラつきを最小限に抑える工夫をしています。

現場と専門知識の融合による再現性の追求

美川:AI活用が進む中で、開発部門と事業部門の関係も変化してきましたね。

榊:そうですね。以前は開発部門が主導して技術の適用を考えていましたが、随分と状況が変わりました。生成AIなどの登場で、技術を使うこと自体のハードルは下がり、むしろ事業部門が主体的に活用方法を考え、開発部門はアドバイザー的な役割を担うようになってきましたね。

 実は、これは自然な流れだと思います。業務を最もよく理解しているのは現場の方々なので、技術の活用方法も現場発で考えた方が、より実践的な解決策が生まれやすいんです。

美川:その半面、技術に詳しくないメンバーが活用方法を考えたり、システムを作ったりする弊害もあるのではないかと気になります。システムの品質を保つために、どのような工夫ができるでしょうか。

榊:どちらか一方が責任をもつのではなく、現場と開発部門が協力して品質管理を行うことです特に重要なのが再現性の確保です。理想は、同じ条件で実行すれば同じ結果が得られることです。

美川:現場のフィードバックと開発部門の専門知識、両方が重要なわけですね。

榊:その通りです。システムの改善には、実際に使用している現場からのフィードバックが不可欠です。例えば、広告運用では、クライアントの意図に沿わないターゲティングが行われていないかなど、現場目線のチェックも大切です。

 AI導入の成功は、技術そのものよりも、現場の業務課題の適切な理解と、それに基づく実装方法の選択にかかっていると思います。現場と、私たちのようにAI導入を進める開発部門が密接に連携しながら、一歩一歩着実に進めていくことが重要ですね。

美川:榊さん、ありがとうございました!

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