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生成AIの普及によって、「ヒト」発信の価値が見直される? 榊剛史(ホットリンク開発本部 本部長)

2024年06月17日
AI・WEB3

最終更新日:2024年6月20日

ChatGPTを始めとする生成AIツールの普及が急速に進み、様々な企業での活用が期待されています。一方、ツールである以上プラス面だけでなくマイナス面も存在するはず。企業活動に生成AIを取り入れていく中で、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
 
中国・清華大学による世界的なAI研究者2000人に選出されたデータサイエンティストであり、現在はホットリンク開発本部・本部長を務める榊剛史に解説を依頼しました。(取材・文 澤山モッツァレラ

生成AI普及のプラス/マイナスについて

――生成AIの普及が急速に進んでいますが、企業にとってはプラスの側面とマイナスの側面があるように思います。まず、プラスの側面について解説いただけますでしょうか。

榊:生成AIの普及によって、自社サービスの機能を拡充できる企業には大きなチャンスが訪れていると言えます。サービス内にChatGPTなどの生成AIを組み入れることで、新しい機能を簡単に追加できるようになりました。

 例えば弊社の「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」では、従来からの機械学習の手法を用いて投稿データがポジティブか/ネガティブかを判定する感情分析やアカウントの投稿内容から男女を推定する性別判定といった機能を実装しています。従来であればかなり専門的な知識が必要で、実装のためには、多量の学習データを要する機能です。しかし生成AIを用いることで、比較的短期間で実装できるようになっています。

 また、これまでの技術では実現が難しかった要約機能も生成AIを使って実現できると考えられます。このように、生成AIを活用することで、これまでよりも容易にサービスの付加価値を高められることが予想されます。

――逆に、マイナスの側面としてはどのようなことが挙げられるでしょうか?

榊:WEBに関して言えば、全体的な情報の希薄化が危惧されます。弊社では、「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」に使用するため様々なデータを収集して分析しています。その内容を見ていると、生成AIで出したデータをそのまま貼り付けたような情報量の少ない記事が目立つようになってきました。

 質の低いブログ記事はこれまでも存在していましたが、生成AIによってそうした記事が量産されるようになったと感じます。表面的な情報の羅列に留まり、洞察や独自の視点の少ない記事が増えたように思います。

 この傾向はSNSでも同様に見られます。いわゆる「インプレゾンビ」ですね。アテンション獲得が収益化につながるため、インプレッション稼ぎのコンテンツが増加した結果、価値のある情報が埋もれてしまう恐れがあります。

――確かに、SNSを閲覧していて似たような感想を覚えることは増えました。

榊:現時点で、生成AIで作られたコンテンツを見分ける技術は確立されていません。生成AIは大量のデータを学習して作られており、人間が書いたものと遜色ない文章を生成できます。人間が読むと「あれ、ちょっと不自然だな」と思っても、それを定量的に判定することは容易ではないんですよね。

――わかります。ライターの友人から聞いた話ですが、一生懸命書いたテキストが「AIっぽい」と言われてショックを受けたそうです。

榊:そういうことは起きうるでしょうね。本来は評価されるべき良質なコンテンツが「AIで生成したものでは?」と疑われてしまうのは、クリエイターにとっても脅威です。AIが生成したコンテンツと人間が作ったコンテンツの区別がつかなくなり、誤認によるネガティブ評価を受けるリスクが生じているわけですから。

 読者の側も、真偽の判断に迷います。「この記事は本当に信頼できるのか」「著者の主張は独自のものか、AIが生成した内容か」といった疑念を抱えながらウェブを閲覧することになれば、情報の信頼性が大きく損なわれることになります。

 現時点では、こうした生成AIの負の側面に対する具体的な対策は講じられていません。まずは、生成AIがもたらす影響について、正しく理解することが重要だと考えています。

優位にあるのはビッグテック企業

――生成AIに関する企業活動を概観すると、どのような特徴がありますか?

榊:やはり、いわゆるビッグテック企業が主導で進めていることですね。現状、生成AIの開発はOpenAI(Microsoftが支援)、Googleなどの大手IT企業が先行して進めています。ChatGPT、Gemini、Claude3(Amazonの出資を受ける)などのツールがその代表格です。

 APIを活用することで、生成AIの機能を比較的容易に自社サービスへ組み込むことができます。自社で大規模なAIモデルを開発しなくても、ある程度の機能実装は可能です。

 とはいえ生成AIを活用する上では、データの蓄積が重要な鍵を握ります。自社で十分なデータを保有している企業は生成AIを活用できる一方、不足している企業はAIの性能を十分に引き出せません。膨大なリソースを投じてAIの開発を進めているビッグテック企業に、中小企業が太刀打ちするのは難しいでしょう。

――そのビッグテック企業の間でも、競争も激化しそうですね。

榊:そうですね。例えばAdobeは生成AIを活用してFireflyというツールを開発したり、Photoshopなど従来のアプリケーションの機能を大幅に強化しています。MicrosoftはCopilotを開発し、様々なアプリにChatGPTを組み込むことで、ユーザーの利便性を高めようとしています。

 一方、ビッグテック企業でない中小~スタートアップ企業が生成AIを使った新しいサービスを開発しても、最終的にはプラットフォーム側が似たようなサービスを出して競争優位がなくなるケースも散見されます。

――確かに、最近も「質の高い音声AIサービスが出たな」と思ったら、その数ヶ月後にChatGPTに似たような機能が実装されたというケースがありました。

榊:そうです。ChatGPTのAPIを使用した様々なサービスが開発されていますが、OpenAI自身が同様のサービスを開発し、サードパーティ製サービスが淘汰されるケースは今後も起きるでしょう。こうした環境において、生成AIをメインに据えたプロダクトを長く存続させるのは大変だと思います。

今後は「ヒト」への揺り戻しが起こる?

――情報発信という観点に戻りますと、生成AIの普及による情報量の増加・質の希薄化、という傾向を踏まえると、「有用な情報を発信する人」と「そうでない人」の見分け方がより重要になりそうですね。

榊:その通りだと思います。質の高い投稿であれば、それが生成AIを使っていようと問題ないでしょう。面白くて価値のある投稿は、生成AIであろうとなかろうと人気を集めるはずです。

 情報の価値は、「濃いか薄いか」で判断すべきだと考えています。そして現状、AIが生成したものをそのままコピペしたような薄い情報より、一次情報を加工した情報のほうに価値があると考える人が多いでしょう。そして、そのようにChatGPTを使いこなす人は限られると思います。

 結果、「濃い一次情報を持つ発信者」に再び注目が集まるのではないでしょうか。

――なるほど。アルゴリズム優位の現状から、質の高い投稿を発信する「ヒト」優位の揺り戻しが起こりうるわけですね。

榊:その通りです。現状、SNSの投稿はノイズが多くなっています。投稿だけでなく「誰の発信なのか」はより注意を払われるようになる可能性は結構あると思っています。

 結果、投稿者のスコアリングが重要になります。例えば、一定のスコア以上の人の投稿だけを表示したり、スコアに応じて投稿を並べ替えたりする機能が求められるようになるかもしれません。

 現在は、プラットフォーマーによるおすすめ投稿が主流ですが、ユーザーが「自分で情報を選別したい」というニーズが再び高まる可能性はあります。そうなれば、現状では意味が薄れてきたフォロワー数が再び見直されるかもしれません。

――「多くの人から支持されている」というシグナルとして、フォロワー数が「質の高さ」を担保するシグナルの一つとして見直されるのは面白い流れですね。レコメンデーション全盛から、ユーザー主導の情報選別へ比重が高まっていく可能性があると。

榊:あくまで可能性ですが、ありうると思います。プラットフォーマーが見せたい投稿と、ユーザーが見たい投稿は異なりますから。

 結果、情報を絞り込むためのツールはより重要になってくるでしょう。例えばブックマークやリスト機能など、ユーザー自身が情報を整理・選別するための機能の価値も見直される可能性があります。すでにブックマーク数は「おすすめ」欄に乗るためのシグナルになっていますが、プラットフォーマーのおすすめ頼りではなく、ユーザー自身が能動的に情報を選別する必要性が高まるでしょう。

 こうした流れは、ある意味で必然とも言えます。情報が増えれば増えるほど、ノイズも増えていくからです。生成AIの普及は、この流れを加速させる一因になるかもしれません。

――面白い指摘ですね。生成AIという人間ではない存在が情報を発信することで、逆に人間同士のつながりが見直される可能性があるのですね。

榊:そして情報を整理し、フィルタリングするツールの価値は、今後ますます高まっていくでしょう。「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」も、そうした機能の開発に注力していく必要があると思っています。

 技術的には、ChatGPTを活用して、自社サービスの機能を拡充することは可能です。フィルタリング機能を開発・提供することで、「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」ユーザーつまりSNSを活用する企業のニーズに応えていくことができるはずです。情報のフィルタリングは、生成AIの時代において不可欠な機能です。SNSを活用する企業が求める情報を的確に提供できるかどうかが、サービスの競争力を左右することになるでしょう。

 我々としては、可能な範囲で、フィルタリング機能の開発に取り組んでいく必要があります。SNSを活用する企業の声に耳を傾け、ニーズを的確に捉えながら、サービスの改善を図っていきたいと考えています。

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