お知らせ

月刊アイ・エム・プレス ソーシャルメディアは選挙キャンペーンをどう変えるのか? 第6回(寄稿)

2013年11月25日
パブリシティ

月刊アイ・エム・プレス
 ソーシャルメディアは選挙キャンペーンをどう変えるのか?
第6回(最終回)「ネット選挙に見るマーケティングの未来」 を寄稿いたしました

月刊アイ・エム・プレス 2013年11月25日

月刊アイ・エム・プレス 2013年11月25日

選挙も終わり、すでに新聞などでネット選挙のことが報道されることはほとんどなくなった。しかし、今回のネット選挙で得られた知見は多く、マーケティングの未来を創造する非常に良い機会だった。 連載の最終回となる本稿では、それらの知見を踏まえ、今後、選挙キャンペーンのみならず、企業のマーケティングがどう変わっていくかについて、筆者の考えを述べたい。

さて、マーケティングの未来を語るに当たっては、まずは、外部環境がどのように変化していくのかを理解しておく必要があるだろう。

ジャーナリズムの変化によってネット世論の重要性が増す

この連載を通して述べてきたように、どんなにネットが発達したとしても、日本の選挙においてはマスメディアの影響力が非常に大きい。

今回の選挙報道では、ソーシャルメディアのデータを元にした記事や番組コンテンツがいくつも登場した。ソーシャルメディア上でどの政党・政策がどれくらい話題になっているのかを、ソーシャルメディア上での言及数、各政党のフォロワー数や「いいね!」数の比較をベースにして報道する番組や記事、Webコンテンツだ。これは紛れもなく、データ・ジャーナリズムと呼ばれる新しいうねりが日本で始まる兆しだ。今後、この流れは止まらない。そして、ますます加速するだろう。

最近は、政党や企業のFacebookページの「いいね!」数、Twitterのフォロワー数、または、ソーシャルメディア上での生活者による発言数などが格好の比較のネタになっている。

報道各社の立場からすると、いかに良質でかつ網羅的なデータを、いかに早く収集し、それをいかに魅力的な切り口で、いかにわかりやすく・面白くビジュアライズするのかという観点で報道手法を進化させる必要がある。これを別の視点からとらえると、現実世界の報道各社が、他社の持っていない情報を利用した報道をするためにネットの情報を利用し、結果的にネットの重要性が上がってくるということだ。

そして結果的に、告知力の強いマスメディアによって比較報道されるとなれば、党や企業も、ソーシャルメディアにおいて他党や競合企業よりデータ上、優位に立ち、優勢であるという報道をされたいと考える。必然的に、ソーシャルメディアにおける活動に重きを置かざるを得ない状況に追い込まれるだろう。

さらなる ソーシャルメディアの普及によってオープン・ダイアログが当たり前に

国民間でのソーシャルメディアの利用度合いは、ますます高まる。これまで以上に、現実世界の世論は、ネット世界に反映される。もしくは、ネット世界の世論が先行し、その後にそれが現実世界に反映されるようになる可能性もなくはない。

どちらにせよ、今回の選挙で行われたようなソーシャルリスニングによって、世論をリアルタイムに把握し、それをさまざまなコミュニケーション活動に利用する「オープン・ダイアログ」の概念は、より普及し、進化するだろう。

世論を、[政党・政策・議員の3つ]×[世論・公式アカウントの2つ]の組み合わせ(企業の場合は[企業・製品カテゴリー・製品の3つ]× [世論・公式アカウントの2つ])の計6つの軸で、かつ、ソーシャルメディアのみならず、TV・ネットニュース・検索・ソーシャルメディアと、メディアを串刺しにしてダッシュボードでリアルタイムに把握する。現状では、世論の分析と公式アカウントの分析は別々のツールに分かれているが、それらは融合していくだろう。

さらに、これらのデータを元にした得票率予測の仕組みも発達し、また、従来の世論調査データや、ネットのデータ、グループ・インタビューのデータなどを組み合わせ、総合的に分析・戦略立案・実行するかたちになっていく。

実行の方法は、中長期的サイクルで、ソーシャルリスニングによる気づきを今後の政策・コミュニケーション戦略の立案に役立てていく場合と、選挙期間のように、日々の発信内容とその反応から、翌日の発信内容をチューニングするという短期的なサイクルに活用される場合の両方がある。

図表1 ダッシュボード 選挙の場合

ネット規制の さらなる緩和によってネット・ソリューションの活用が広がる

今回のネット選挙運動解禁の流れはさらに加速するだろう。政党のみならず候補者個人でのネット広告、有権者同士での候補者への支援呼び掛けなど、さまざまなネット・プロモーションの手法が導入される。

そのため、多くのネット企業が参入する。また、より政治領域に特化した分析・コンサルティング会社も生まれてくるだろう。

有権者個人に焦点を当てた分析手法も発達し、ネット上の行動ログや、ソーシャルメディア上での発言内容や影響力によって、有権者をセグメントできるようになる。さらに、有権者個人のソーシャルメディアのIDと、ネット上のそのほかのIDが結合できるようになり、セグメントごとに、ネット広告やソーシャ ル広告、およびeメールを配信することも可能になる。

そして、さまざまなネット企業を束ねるために、大手広告代理店に業務委託する政党が増加する一方、企業と同様、組織内にCIO(Chief Information Officer: 最高情報責任者)やCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)のような役割を持つ常勤の人間が配置されるようになるだろう。

選挙に対する 考え方の変化によって比較サービスが普及しデータベース・マーケティングの活用が進む

小泉純一郎氏が総理だった時代の郵政民営化の是非を問う選挙のころから、日本の国政選挙は、争点となる政策を掲げ、「政策で選ぶ」選挙という方向に向かっている。これがこのまま続くのか、あるいは、信頼する○○先生または○○党に投票し、政策判断はその党・人に任せるというように「人や党で選ぶ」方向に向かうのかは、私にはわからない。

「政策で選ぶ」「人や党で選ぶ」のどちらであっても、前回、述べたような、政策・人・党を比較検討するためのコンテンツが用意されることになるだろう。家電業界におけるカカクコムや、飲食業界における食べログのような、政治領域における比較サイトだ。

比較サイトでは、候補者のプロフィールはもちろんのこと、人柄・実行力・政策立案能力など、政治家に要求される能力に対する有権者の評価、過去の国会答弁の内容、議案に対する賛否の履歴、その他の政治活動の履歴などがデータベース化され、一覧で比較され、ランキングされる。当然、その人がブログなどを通して発信してきた内容も評価対象とされ、選挙期間中にだけソーシャルメディアを利用しているようでは評価は下がる。

また、ある政策を選ぶ際のメリットやデメリットも、政策ごとの評価軸で表示される。ただし政策に関しては、専門家によっても判断が分かれるので、議論を喧々がくがくと行い、やがて収束させる仕組みを備えたネット・サービスができてくるはずだ。

一方、「人や党で選ぶ」選挙の方向に行く場合には、特に候補者個人の選挙活動において、データベース・マーケティングの手法が導入されるだろう。なぜならば、候補者側からすると、政策ではなく、「自分自身」を深く理解してもらうことが、支持してもらうことにつながるわけだから、有権者に自分の支持者になってもらうためには、接触機会を増やし、関係性を深めていく必要があるのだ。企業が見込客を購入客に、そして、購入客をロイヤル・カスタマーに育てていく手法と同じだ。

有権者のメールアドレスを集め、ソーシャルメディアのアカウントを集め、そのほかの個人情報を集め、地域におけるキーパーソンを特定し、ITを活用したコミュニケーション手段を整備し、組織化する。

戸別訪問した記録は、同行するスタッフが、その場でスマホやタブレットにより逐一入力。支持の度合い、興味のある政策課題、家族構成などの情報を蓄積していく。候補者に対する支持の度合いは、後々票読みや訪問すべき有権者の優先順位付け、訪問ルートの自動推薦に利用される。いったん有権者のメールアドレスを獲得すると、蓄積されているコンテンツの中から、政治信条や訴えたい政策、人となりを表す過去のストーリーなどが順に、定期的に送信される。支持者のeメールのクリック履歴から、支持者の興味・関心や支持の度合いの変化を読み取り、それに基づいて、次回の配信の最適なコンテンツやタイミングが自動的に選択される。ソーシャルメディア上での接触でも、同様のことが実施される。

そして、eメール、ソーシャルメディア、Webサイトを有機的に組み合わせることによって、有権者を自分のファンにしていく。マーケティング・オートメーションの手法が、選挙キャンペーンにおいても、一連の育成プロセスとして適用されていくだろう。

また、資金集めの手段として、メルマガが活用されるだろう。支持者を有料メルマガの会員として組織し、購読料として少額の寄付をもらいながら、情報を提供する仕組みだ。

これまで述べてきたように、選挙キャンペーンの未来は、まさにマーケティング手法の見本市のようになっていく。その根底には、互いに理解し合い、ファンになってもらい、一緒により良い商品・サービスを作っていく“共創社会”に向かう世の中の大きなうねりがある。

すべての企業・生活者が共創してより良い社会を創っていく。本連載が、少しでもそういう未来を実現するための羅針盤になれれば幸いに思う。

【内山幸樹氏プロフィール】Koki Uchiyama

1995年、東京大学大学院在学中に日本最初期の検索エンジン「NIPPON SEARCH ENGINE」の開発に携わる。1997年、東京大学大学院博士課程を中退し、在学中に創業にかかわった検索エンジンのベンチャー企業に専念。数々の先端的Webシステム開発を担う。2000年6月(株)ホットリンクを設立し、代表取締役社長に就任。検索エンジン、ソーシャルブックマークサービス、ブックマーク共有型検索エンジン、レコメンデーションエンジン、ブログ分析サービスなどのWeb2.0的先端サービスの開発を先導する。著書に『仮想世界で暮らす法(ブルーバックス)』『1時間でわかる図解WEB2.0』。デジタルハリウッド大学院客員教授も務める。

株式会社ホットリンクについて(コード番号:3680 東証グロース)
ホットリンクのロゴ
日米で事業を展開するホットリンクグループのコア企業。SNSへの投稿など、生活者の声の投影であるソーシャル・ビッグデータを分析し、企業のマーケティング活動や報道、災害対策などでの活用支援を行っています。Web3においても、データ分析・活用力を活かしてインフラを担い、世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界の実現を目指しています。
設立日:2000年06月26日
資本金:2,359百万円(2019年12月末時点)
代表者:代表取締役グループCEO 内山 幸樹