お知らせ

月刊アイ・エム・プレス ソーシャルメディアは選挙キャンペーンをどう変えるのか? 第3回(寄稿)

2013年08月25日
パブリシティ

月刊アイ・エム・プレス 2013年08月25日

月刊アイ・エム・プレス 2013年08月25日

本稿を執筆段階の今は、まさに参議院選挙の中盤を過ぎたところですが、猛暑に負けないくらい、各党の最後の追い込みが熱さを増してきています。
実は、今回の参議院議員選挙において、私が代表を務める(株)ホットリンクは、ソーシャルメディア分析ツール「クチコミ@係長」、またはリスクモニタリングツール「e-mining」、または「世論のリアルタイム見える化ダッシュボード」やソーシャルメディア・データを含む各種データを、政党や議員に提供しています。ホットリンクでは、2008年頃から選挙とソーシャルメディアは密接に関係してくると予見し、研究を積み重ね、2009年の衆議院議員総選挙では、投票日前にソーシャルメディアからの得票率の予測結果を発表したりしていました。そのような長年の地道な積み重ねが花開き、とても感慨深いです。

さて、今回は、実際に今回の参院選でソーシャルメディアがどのように活用されているのかを見てみます。党・議員・メディア・有権者の4つの切り口がありますが、本稿では、党の活用状況をレポートします。

Twitter/Facebookの活用

本連載ではこれまで、「ネット選挙解禁によって“最も”力を発揮するのは、ソーシャルメディアを利用した情報発信ではなく、ソーシャルリスニングによって国民の民意を把握し、それをマスメディアも含めたコミュニケーション(オープン・ダイアログ)に役立てる場合である」と述べてきました。とはいえ、情報発信のためのソーシャルメディアの活用は、ベースとして各党が抑えておくべき手段です。各党はどのように情報発信に活用しているのでしょうか?

まず今回の選挙では、すべての党において、Twitter/Facebookの公式アカウントを開設・運用しています。それ以外にも、党や議員によってはLINE、ニコニコ動画、ニコニコ生放送、YouTube、Ustream、Google+を活用しています。

各党とも、街頭演説の情報、TV番組への党幹部の出演情報、政策などを織り交ぜながら、バランス良く情報発信しています。

より具体的に、Twitter/Facebookの活用状況を見ると、図表1、2のようになっており、Twitterにおいては、自民党・みんなの党・公明党がフォロワー数で一歩抜きん出ています。ただし、一番多い自民党でも6万4,000フォロワーであり、日本維新の会の橋下氏個人のTwitterフォロワー数110万人には遠く及びません。Twitterは、個人としての活用の方が個性が出るため、有権者の興味を引きやすいのかもしれません。

Facebookに関しては、自民党・公明党による活用が目立ちます。記事に対する「いいね!」数およびシェアの数が多いのは、党のFacebookページ自体に「いいね!」をしているユーザーが多いことが影響していると考えられます。記事に対する「いいね!」数およびシェアの数が多いということは、Facebook上での情報拡散が多いことを意味します。そういう意味でも、投稿記事に対する累計「いいね!」数およびシェアの数が多い自民党・公明党は、Facebook上でうまく情報発信を行っていると言えます。

また、Facebookでの各党の投稿内容を、リンク・写真・動画・近況に分類してみると、自民党・みんなの党・公明党は写真をうまく活用しており、民主党は、Webや動画中継への誘導窓口として利用している様子がわかります。社会民主党は、Facebook上での動画を多く活用しています。

図表1~3

LINEの活用

目新しく、かつ非常にうまく機能している情報発信方法として、LINEの活用があります。今回の選挙では、すべての党がLINEの公式アカウントを設置しています。筆者は、全政党のLINEアカウントをフォローしているので、各党のLINE戦略の違いが明確に見えてきます。

LINEのアカウントでは、各党、街頭演説の予定、テレビやインターネット生放送の予定、政策に関する軽い主張とより詳細を説明するHPへのリンクなどを発信しています。ここで、LINEならではの活用方法としては、LINEの「ON AIR」というユーザーからの投稿を受け付ける機能を利用したものがユニークです。民主党は「地域から日本をよくするアイデア」「あなたのふるさと。暮らしている地域について」など、毎回テーマを設定し、ユーザーに意見を公式アカウント宛につぶやいてもらい、それらの声からユニークなものをピックアップし、LINEの公式アカウントや党のホームページで紹介し、有権者との対話を演出しています。公明党は「(山口代表に対して)政治家になってつらかったこと、良かったことは?」などの質問を投げかけ、ユーザーから集まった質問に、翌日のニコニコ生放送の中で答えるというように、声を集めるためにLINEを、発信するためにニコニコ生放送をと、メディアを使い分けているところに工夫が見られます。共産党は、政治に関する川柳を募集して、集まったものをLINEで紹介したり、Facebookページやニコニコ生中継で紹介したりもしていて、難しい政策というよりも、政治を身近に感じてもらうための工夫や、有権者との距離感のつかみ方がかなり絶妙です。

この場合、Twitterのように、党への意見がすべて公開されるわけではなく、党側で「これは!」と思う情報のみを公開できるので、ソーシャルメディアを利用した対話でありつつも、対話の公開範囲を制御できるという面で非常に使いやすく、対象ユーザー層も多いと思われます。また、どの党も、ひとつの企画で30分~1時間程度の時間内に万を超えるような声が集まってきたりと、TwitterやFacebookに比べて、比較的反響が大きいと言えます。

スマートフォン・アプリの活用

スマートフォン・アプリを活用する党も出てきました。自民党、民主党、公明党、共産党、社民党が、それぞれスマートフォン・アプリを配布しています。党から発信される情報を一元的に見られるものや、ポスターにスマートフォンをかざすと動画が流れるもの、政党のパンフレットや雑誌がデジタルで見られるもの、政党の政策をシンプルに見られるものなどがあります。ただし、政党の情報を得るためにアプリをダウンロードするのは、その政党に対して相当強い支持と応援心を持った有権者のみです。そんな中、自民党の「あべぴょん」というゲームアプリと、民主党のポスター政策アプリはソーシャルの機能をうまく利用したアプリになっていました。特に「あべぴょん」は、安倍首相のキャラクターを空高く登らせるゲームですが、登った高さに応じて、「青年局長級」「国会対策委員長級」「大臣級」「総理大臣級」などとランク付けされ、その結果を、Twitter・Facebook・LINEに投稿できるようになっています。自分がここまで行ったぞと自慢したいモチベーションを刺激してソーシャルメディアに投稿させ、ゲームが面白そうということで、もともと自民党に興味がない層にもリーチし、ダウンロードさせ、ゲームで遊ぶ中で、安倍首相に対して親近感をもたせる仕掛けになっています。

このように、情報発信という意味では、さまざまな党が、企業がソーシャルメディア・キャンペーンで行うような基本的な施策はほぼ実施し、かつ、LINEやスマートフォン・アプリなど、より一歩進んだ取り組みにトライしているようです。

リスニングの実施

次に、情報発信ではなく、リスニング目的の活用について見てみます。

自民党・民主党・みんなの党・公明党は、ソーシャルリスニングを実施する体制を整えていると発表しています。自民党は、ソーシャル上での反応の分析結果をダッシュボードで見られるようにし、議員や候補者がiPad mini上で閲覧できるようしています。民主党は、前回の衆議院選の大敗後、その反省を生かし、すでに地方議員選挙にてソーシャルリスニングを実施し、その結果を基にキャンペーンの戦略を立案するなどしてノウハウを蓄積してきましたが、今回は独自のシステムを開発して取り組んでいます。また、みんなの党は、ソーシャルリスニングによって政策課題に対する有権者の興味関心の内容を分析し、党が推進する戦略と有権者の興味関心度合いや内容がうまく合致した政策をポスターや配布パンフレットの前面に出すなど、さまざまな局面において積極的に攻めの用途に活用しています。唯一、公明党は、主に誹謗中傷対策のための「守」の用途に活用しているようです。

こうして見ると、前稿で予測したソーシャルリスニングの活用方法の「走」「攻」「守」のすべてが、各党の施策の中で実際に活用されていると言えるでしょう。

今回は党の立場からのソーシャルメディア活用の実際の状況を見てみました。次稿では、議員・メディア・有権者の立場でのソーシャルメディアの活用実態を見ていきます。お楽しみに。

【内山幸樹氏プロフィール】Koki Uchiyama

1995年、東京大学大学院在学中に日本最初期の検索エンジン「NIPPON SEARCH ENGINE」の開発に携わる。1997年、東京大学大学院博士課程を中退し、在学中に創業にかかわった検索エンジンのベンチャー企業に専念。数々の先端的Webシステム開発を担う。2000年6月(株)ホットリンクを設立し、代表取締役社長に就任。検索エンジン、ソーシャルブックマークサービス、ブックマーク共有型検索エンジン、レコメンデーションエンジン、ブログ分析サービスなどのWeb2.0的先端サービスの開発を先導する。著書に『仮想世界で暮らす法(ブルーバックス)』『1時間でわかる図解WEB2.0』。デジタルハリウッド大学院客員教授も務める。

株式会社ホットリンクについて(コード番号:3680 東証グロース)
ホットリンクのロゴ
日米で事業を展開するホットリンクグループのコア企業。SNSへの投稿など、生活者の声の投影であるソーシャル・ビッグデータを分析し、企業のマーケティング活動や報道、災害対策などでの活用支援を行っています。Web3においても、データ分析・活用力を活かしてインフラを担い、世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界の実現を目指しています。
設立日:2000年06月26日
資本金:2,359百万円(2019年12月末時点)
代表者:代表取締役グループCEO 内山 幸樹