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月刊アイ・エム・プレス ソーシャルメディアは選挙キャンペーンをどう変えるのか? 第1回(寄稿)

2013年06月25日
パブリシティ

月刊アイ・エム・プレス 2013年06月25日

月刊アイ・エム・プレス 2013年06月25日

ソーシャルメディアは選挙キャンペーンをどう変えるのか? 第1回「ネット選挙解禁が意味するもの」を寄稿いたしました。

選挙は究極のマーケテイングキャンペーン

2013年4月19日、国会でネット選挙活動解禁法案が可決されました。インターネットが日本に導入されてから20年近くたち、やっと公職選挙法がその時代の変化を受け入れたのです。日本の政治の歴史に残る大きな一歩が刻まれました。

この法律改正によって、実際に何ができるようになったのかを簡単に説明しておきます。

立候補した議員は、選挙期間中に、eメールの送信、Webサイトの更新、プログやTwitter/Facebook/Youtubeなどのソーシャルメディアでの情報発信、(政党に限り)インターネット上での広告が行えるようになります。また、有権者も、ソーシャルメディアを通じて自分が支持する政党や議員への投票を呼び掛けることができるようになりました(参考:総務省「インターネット選挙運動解禁(公職選挙法の一部を改正する法律)のあらまし」 http://www.soumu.go.jp/main_content/000220082.pdf

すなわち、西暦2000年以降、一般企業のマーケティング活動の中では、急激に重要性を増してきたインターネット・マーケティングの手法が、やっと選挙キャンペーンの中で活用できるようになったのです。

この歴史的な法律改正によって、選挙キャンペーンはどのように変わるのでしょうか?

選挙をマーケティング・キャンペーンとして見てみると、わずか数週間という短期間のキャンペーン活動によって、その後の数年間、政党として政権を担えるのかどうか、議員として活躍できるのか/無職になるのかが決まるという、短期間で勝敗が明確になり、それによつて天国と地獄のような差が生まれる究極のマーケティング活動です。

ここに、企業のマーケティング活動で蓄積・発展してきたインターネット・マーケティングの先端技術やノウハウが一気に注入されるのです。企業のインターネット・マーケティングよりも一歩先んじた取り組みが展開される可能性も大いにあります。

この連載では、この歴史的な転換点において選挙キャンペーンがどのように変わるのかを、特にソーシャルメデイアの活用という切り口から予想します。そして、実際に7月に行われる参議院選挙での政党の選挙対策本部の中の現実をお見せし、さらに、理想と現実から見えてくる今後の課題を明らかにし、今後の企業のマーケティングヘの示崚を得たいと考えています。

新規支持者の獲得には不向き

今回の法律改正でできるようになったことの中で最も注目されているのは、ソーシャルメデイアの活用です。

ソーシャルメディアの活用形態は、大きく①情報発信、②リスニング、③対話の3つに分けられます。これらの中で、政党や議員、およびテレビ局・新聞社などのメディアから筆者に問い合わせが寄せられているのが、①情報発信や③対話における活用方法です。すなわち、プログやTwitter/Facebook/Youtubeをどう活用したらよいのかということです。

しかし、新規に支持者を得るという目的でブログ/Twitter/Facebook/Youtubeなどを活用し、①情報発信や③対話をすることによる効果は、短期間のキャンペーン内では非常に限定されたものにしかならないと考えられます。

なぜならば、ブログやTwitterの読者やフォロワーは、読者やフォロワーになった時点ですでに支持者なのであって、本来獲得したい新規の支持者ではないのです。自分に照らして考えてみてください。自分の選挙区の候補議員の中で、自分が支持していない、ましてや興味のない候補議員のTwitterやFacebookを、投票前にわざわざフォローするでしょうか? 従って、ブログやTwitterでの発信は、新規に獲得したい支持者候補には、直接には届かないのです。

仮に、発信情報に対してのリツイート(RT)や「いいね!」による2次拡散を期待した場合でも、そもそも、読者やフォロワーやファンの数が一定以上いないと、そのボリュームは非常に小さいものになってしまいます。例えば政党の中で最もFacebookページの「いいね!」数が多い自民党でも、執筆時点の「いいね!」は3万7,000ですから、その先にいる支持者候補への情報の2次拡散の量は、マスメディアでの露出による情報伝達の量と比べて、比較にならないほど小さいと言わざるを得ません。

では、新規に支持者を得るためというよりも、すでに支持者であり、読者・フォロワー/ファンになってくれている有権者に、より自らや自らの政策を理解してもらい、さらに深く信頼してもらうための手段としては、どうでしょうか? ソーシャルメディアの場合、チラシや演説やマスメディアでの露出と異なり、普段の姿を、生の声で、より細かく、そして時にはインタラクティブにコミュニケーションできるので、理解・信頼の醸成という面では効果が高いと言えます。そして、その既存の支持者による理解・信頼の深まりは、ゆくゆくはその周りの人に影響を及ぼすと考えられます。

こう考えると、「短期的に」「新規の支持者を」獲得するという目的の選挙キャンペーンの中では、ソーシャルメディアを活用する効果は非常に限定的に見えます。

リアルタイムで世論を把握する

最後に、ソーシャルリスニングの「走」の手段としての活用を考えてみます。

実は私が、今回の選挙で大きな力を発揮すると考えているのは、ソーシャルメディアの活用形態のうちの、②リスニングです。

例えば、テレビの党首討論に対する番組視聴者の反応、公約の中の複数政策対する国民の興味関心のポイント、それに対する国民の意見、政党や議員に対する支持や不支持といった情報は、TwitterやFacebookを通じてネット世界に映り込み、ほぼリアルタイムに収集・分析できるようになりました。ソーシャルメディアを通じたリスニングによって、ある意味で、リアルタイムに世論調査ができるようになったのです。

それらのリスニング結果に基づき、政策において国民に正確に伝わっていない部分や誤解されている部分について翌日の記者会見で補足説明する。あるいは、翌日の国会演説やテレビの討論番組での発言を国民の関心の高い政策に関することに変更するなど、マスメディアでの情報戦略を1日単位、極端に言えば分単位でチューニングすることも可能になります。

このようにソーシャルリスニングは、単に「聴く」にとどまらず、聴いた上で次のアクションをタイムリーに変更することで、大きな効果を生み出せるのです。

選挙キャンペーンにおいてはさまざまなアクションが行われますが、その中でも、短期間に広範囲に情報を伝達できるマスメディアの活用は非常に重要です。マスメディアで情報を発信し、それに対する顧客の反応をソーシャルリスニングを活用してほぼリアルタイムで把握し、タイムリーにマスメディアで発信する情報の内容を変えていけば、それはすなわち、「 マスメディアを通して、国民とインタラクティブに対話を行っている 」ことだと考えられないでしょうか? 私はこれを、「 オープンダイアログ 」と呼びたいと思います。

今回の選挙では、実際に、ソーシャルリスニングを活用したオープンダイアログを重要な戦略として活用する党が現れてくると思われます。また、それに限らず、ソーシャルリスニングをさまざまな戦略アクションにつなげる事例が出てくるでしょう。

次回は、実際にどのような活用方法が考えられるのか、具体的な例を挙げて、ソーシャルメディアを活用した選挙キャンペーンの未来の姿を描いてみたいと思います。

【内山幸樹氏プロフィール】Koki Uchiyama

1995年、東京大学大学院在学中に日本最初期の検索エンジン「NIPPON SEARCH ENGINE」の開発に携わる。1997年、東京大学大学院博士課程を中退し、在学中に創業にかかわった検索エンジンのベンチャー企業に専念。数々の先端的Webシステム開発を担う。2000年6月(株)ホットリンクを設立し、代表取締役社長に就任。検索エンジン、ソーシャルブックマークサービス、ブックマーク共有型検索エンジン、レコメンデーションエンジン、ブログ分析サービスなどのWeb2.0的先端サービスの開発を先導する。著書に『仮想世界で暮らす法(ブルーバックス)』『1時間でわかる図解WEB2.0』。デジタルハリウッド大学院客員教授も務める。

株式会社ホットリンクについて(コード番号:3680 東証グロース)
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日米で事業を展開するホットリンクグループのコア企業。SNSへの投稿など、生活者の声の投影であるソーシャル・ビッグデータを分析し、企業のマーケティング活動や報道、災害対策などでの活用支援を行っています。Web3においても、データ分析・活用力を活かしてインフラを担い、世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界の実現を目指しています。
設立日:2000年06月26日
資本金:2,359百万円(2019年12月末時点)
代表者:代表取締役グループCEO 内山 幸樹