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月刊アイ・エム・プレス ソーシャルメディアは選挙キャンペーンをどう変えるのか? 第2回(寄稿)

2013年07月25日
パブリシティ
月刊アイ・エム・プレス 2013年07月25日

月刊アイ・エム・プレス 2013年07月25日

前回は、ネット選挙解禁に伴い、選挙キャンペーンにはソーシャルリスニングの活用、特に、マスメディアとの連動が重要になるだろうと予想しました。今回は、ソーシャルリスニングの活用について、より具体的に、かつ、網羅的に考えてみます。

その際の前提として、ソーシャルメディア上に書かれている内容の分析は、「ネット上の書き込み」の分析という意味合いではなく、「(ネット上に反映された)現実世界の世論」の分析であると認識しておくことが重要です。

ネット選挙におけるソーシャルリスニングの「守」

今回の選挙で、各政党や議員が最も恐れているのは、インターネット上で、デマ情報や誹謗中傷の類いの情報が拡散されることです。これは、ネット選挙運動解禁法案が国会で承認される際に、一番懸念されたことでした。

ですので、ソーシャルメディア上で発信されるデマ情報や誹謗中傷情報を監視することは、各党が最低限、実施するソーシャルリスニング活動になります。これは、ソーシャルリスニングの「守」の手段としての活用と言えます。

ネット上の炎上は、一般の火事と同様に、早期の発見・早期の消火活動によって、被害を小さくすることができます。“議員になりすましてデマを流しているアカウントを瞬時に発見”し、ニュースや新聞沙汰になる前に、公式に「違う」という声明を出して被害や炎上を最小限に食い止めるなど、誹謗中傷情報を早期に検知・共有し、素早く正しい情報を告知したり、謝罪文を出したりする仕組み・体制が敷かれます。

この際に、実際には人間が目で見て判断しないと、その書き込みのリスク度合いは判断がつかないので、リスク度の判定基準、リスク度ごとの報告ルート・対応方法などが、事前にマニュアル化されることになるでしょう。

ネット選挙におけるソーシャルリスニングの「攻」

次に、ソーシャルリスニングの「攻」の手段としての活用を考えてみます。
企業のマーケティング活動と同様に、選挙キャンペーンは、いわゆる「コミュニケーション」活動です。有権者と政党・議員とのコミュニケーションなのです。従来のコミュニケーションには、顔を合わせての双方向のコミュニケーション(対話)と、(マス)メディアを利用した一方通行のコミュニケーション(発信)しかありませんでした。選挙でいうと、対話は小集会や個別訪問や面談。発信は、街頭演説、TV・新聞・雑誌・チラシ・ポスターによる露出です。

しかし前回、述べたように、ソーシャルリスニングを活用することで、対話という概念が拡張され、「(マス)メディアを利用した対話」が可能になります。これまで一方的な情報発信であった党の政策、TV露出、ポスター、街頭演説、チラシなどのあらゆる情報発信活動に対する有権者の反応をソーシャルメディアで聴き、それに反応するという繰り返しによって、これまで実現できなかった規模で有権者と「対話」ができるようになります。

特に、短期間で勝負が決まってしまう選挙キャンペーンの場合、マスメディアの影響は非常に大きいです。従って、例えば“朝”のTVの討論番組や記者会見などで露出した後の有権者の反応を基に、“夕方”の露出の際に、うまく伝わっていないところをより重点的に説明したり、非難に対する反論をするなどの「マスメディアを利用した対話」は、「攻」の重要な手段になるでしょう。

そのほか、以下のような場面においても、ソーシャルリスニングの結果を活用することができます。

a. 打ち出すべき政策・ターゲット層の優先順位決め(選挙の争点の選定)
b. 自党の政策を訴える際のポイントの把握
c. 他党の政策に反論する際のポイントの把握
d. TV・記者会見などマスメディア露出の際の露出先・発信テーマ・論理構築
e. TV・記者会見などマスメディア露出時の対応修正(露出先、発信テーマ、論理、服装、発声、態度)
f. 街頭演説でのネタ収集・発信テーマ設定
g. 街頭演説時の対応修正(露出先、発信テーマ、論理、服装、発声、態度)
h. CMやポスターの配役選定・クリエイティブの作成
i. Twitter・Facebookでの発信ネタ収集・発信テーマ・論理構築
j. Twitter・Facebookでの対応修正(発信テーマ、論理、態度)
k. 得票率予測に基づく公認候補者の選定
l. 得票率予測に基づく予算の最適配分
m.得票率予測に基づく応援演説先の最適化
n. 各種イベントへのインフルエンサーの招待
o. 他党・他議員の誹謗中傷ネタの収集

これらのうち、どれに分析結果を活用するかは、各党のスタンスによりますし、ソーシャルリスニングによるデータ分析のみを基にして結論を出すわけではありません。しかし、進んだ党は、さまざまな意思決定の際に、必要に応じてすぐにデータを活用できるように、常に世論を俯瞰できるダッシュボード、および、アドホックな分析依頼に対応できる分析ツール・人員体制の整備を行うことになるでしょう。

「攻」のパートの最後に、「ソーシャルリスニングを活用することで政党や議員は有権者に迎合していくのか?」という問いに対して、「そうではない」とお答えしておきます。

例えば、原子力政策を例にとって考えてみます。党の方針が原発推進であり、ソーシャルリスニングを行った結果、世論は原発反対の方向に流れていたとします。その場合、党の方針をねじ曲げて原発反対の姿勢をとるという舵取りの仕方もあるでしょう。しかし、賛成の姿勢を貫いたままで、どうやって賛成意見の世論を作るのかを考えるために、分析結果を活用することもできます。例えば、反対論者が基盤にしている根拠をソーシャルリスニングで把握し、「皆さんは○○を根拠にして反対されているけれども、実は、××なので、原発を推進した方が良いのです」というようなコミュニケーション戦略を立てるために使えるのです。

ソーシャルリスニングは、車でいうと「メーター」です。「メーター」の数値を基に、さらにアクセルを踏むのか、緩めるのかは、あくまでドライバーの判断次第なのです。

ネット選挙におけるソーシャルリスニングの「走」

最後に、ソーシャルリスニングの「走」の手段としての活用を考えてみます。

「攻」の項で述べた活用は、選挙対策本部の一部の分析官が分析し、それを基に選対本部の一部の党幹部や議員が決断すれば、党として実行することができます。しかし、各選挙区で戦っている地元の議員には、そのような専門の分析を担ってくれる分析官はいません。また、選対本部の党幹部や議員が、実際に有権者の「生の声」を聴く(見る)ことなく、分析結果だけを見ていては、判断を誤ってしまう危険性が高いことも事実です。

本来は、議員全員が有権者の「生の声」に日々、耳を傾け、肌身でそれを実感しているべきなのです。

そこで必要となるのは、分析結果やその結果を裏付ける代表的な「生の声」を、毎日、議員と共有する仕組みです。選挙期間中、議員は常に移動していますから、前日の世論の反応を翌日の朝には分析結果としてまとめ、迅速に対策アクションに落とし、午前中に分析結果に基づく指示、およびその根拠となる分析結果や代表的な「生の声」をA4判1枚程度にまとめて、各議員の選挙事務所にFAXするなり、スマートフォンやタブレットで閲覧できるようにする情報共有の仕組みが重要になるでしょう。

こうした仕組みによって、党の所属議員全員が、毎日、有権者の動向を把握し、有権者の「生の声」を聴き、それによって、肌で民意を感じることが可能になります。そしてこのような基礎的な土壌があって初めて、「攻」の活動が大きく生きてくるのです。

今回は、ネット選挙解禁に伴って大きく動き始めると考えられるソーシャルリスニングの活用に関して、さまざまな活用方法の可能性を考えてみました。次回は、各党のソーシャルメディアの活用状況を見てみたいと思います。

【内山幸樹氏プロフィール】Koki Uchiyama

1995年、東京大学大学院在学中に日本最初期の検索エンジン「NIPPON SEARCH ENGINE」の開発に携わる。1997年、東京大学大学院博士課程を中退し、在学中に創業にかかわった検索エンジンのベンチャー企業に専念。数々の先端的Webシステム開発を担う。2000年6月(株)ホットリンクを設立し、代表取締役社長に就任。検索エンジン、ソーシャルブックマークサービス、ブックマーク共有型検索エンジン、レコメンデーションエンジン、ブログ分析サービスなどのWeb2.0的先端サービスの開発を先導する。著書に『仮想世界で暮らす法(ブルーバックス)』『1時間でわかる図解WEB2.0』。デジタルハリウッド大学院客員教授も務める。

株式会社ホットリンクについて(コード番号:3680 東証グロース)
ホットリンクのロゴ
日米で事業を展開するホットリンクグループのコア企業。SNSへの投稿など、生活者の声の投影であるソーシャル・ビッグデータを分析し、企業のマーケティング活動や報道、災害対策などでの活用支援を行っています。Web3においても、データ分析・活用力を活かしてインフラを担い、世界中の人々が“HOTTO(ほっと)”できる世界の実現を目指しています。
設立日:2000年06月26日
資本金:2,359百万円(2019年12月末時点)
代表者:代表取締役グループCEO 内山 幸樹